Lメモ/VSアフロ「工作部エンド NO.1」  〜頭髪に関する不毛な戦い〜 投稿者:Sage
「なにっ!!感染者が増えただとっ!!」
 その報告を受けた、工作部部長の菅生誠治は、思わず立ち上がった。
 椅子がガシャンと大きな音を工作部の室内に響かせながら倒れた。
 部員達の注目が集まる。
 が、誠治はそんなことは気にせず、情報を持ってきた保科智子に歩み寄った。
「間違いあらへん。最初は長岡さんのガセネタやと思っとったけど、複数の情報源から
の裏付けもとれたわ。」
「で、現在、犠牲者は?」
「二人。でも、問題は、この二人が教師っちゅうことや。」
「不味いな・・・」
「どうしてです?」
 誠治の倒した椅子を起こしながら、FENNEKがたずねる。
「生徒に対する影響力が大きく、また、複数のクラスを担当することから、接触する人数
も多い。よって、汚染が爆発的に広がる可能性がある・・・ということですね。」
 副部長、赤十字美加香が誠治の代わりに答える。
「・・・なにが起こったんですか?」
 八希がわけがわからないと言った顔でたずねた。
「・・・・アフロだよ・・・・アフロが・・・あふれようとしているんだ・・・」
「アフロがあふれる・・・それって・・・しゃれですか?」

  すぱぱぱぱぱぱん!!!!

「ひぃん(涙)」
 シリアスなシーンをぶちこわした八希望さんには、全員からハリセンのプレゼントが送
られた。




         工作部 VS アフロ 〜頭髪に関する不毛な戦い〜




「さて、生徒のみなさん、アフロはなぜ伝染するのでしょう?」
 なぜか教壇には、美加香が立っていた。手には教鞭、オールドミスがしそうな細長い眼
鏡までかけている。
「は〜い、せんせ〜、しつもんですぅ。」
「なんですか?ちびまるちゃん。」
「アフロって、髪型のことじゃないんですかぁ?そもそも伝染するんですか?」
「そうね。まずはアフロの定義から始めましょうか。」
 美加香はチョークを手にとると、黒板に図式を書き始めた。
「今、問題となっているのは、伝染するアフロです。これは、『伝染した症状の一つとし
て、頭髪がアフロヘアーになる』から、”アフロ”と呼ばれているのであって、学術的に
は『伝染性南米体質奇行癖症候群』と呼ばれる病気です。」
「そ、そうなんですか?」
「嘘よ。今付けた名前。」

  ずこっ。

「冗談はさておき、『アフロヘアーになってしまうのはあくまで症状の一つ。』と、言う
のは本当よ。他の症状として、『会話がカタカナ混じりになる。』、『性格がラテン系に
なる。』ってのもあるわね。」
「感染者に特徴はあるんですか?」
 FENNEKが挙手しながらたずねた。
「『特徴的な外見を持たなかった』、『目立ちたいという願望を持っていた』という人に
感染しているようね。」
「それって・・・アフロにならないと、キャラが立ってない人とか、食われちゃうような
人が感染しやす・・・・・」

  すぱぱぱぱぱぱん!!!!

「ふえぇん(涙)」
「八希くん・・・・それは禁句。」
「しくしく。はぁい(涙)」
「でも、その通りなのよね。だから、アフロに伝染されないためにはどうすればいいかと
いうと・・・」
「アフロなしでやっていけるキャラクターにしないとだめ・・・・ということですね。」
「そうです。」
 FENNEKの回答に美加香は真剣な表情でうなずいた。
「さて、既にアフロが定着してしまった人たちはおいといて、新たな感染者について考え
ましょう。」
 そういうと、美加香は感染者の概要が書かれた紙を、黒板に貼り付けた。
 そこには3方向から撮影された顔写真が添えられており、氏名から身体データ、各種履
歴データが添えられていた。

 『緒方理奈』 と 『森川由綺』

 学園内では・・・いや、学園の周囲でも知らない人はいない有名人である。
 だが、なぜかLメモでは出番が少ない。
 由綺のほうは、その性格上、特には気にしていないようであるが、問題は理奈である。
 塔の設定があっても、最近出番は少ない。
 登場しても兄の英二といっしょ。
 プレイステーション版のToHeartが発売され、ToHeartキャラの進出が予
想されることを考えると、彼女としては穏やかでいられないであろう。
 そして、目の上の瘤、「女優:広瀬ゆかり」の存在。
 プレイステーション版では、広瀬の名前がゲーム中から消え、かわりに理奈の名前が出
てきたことから、理奈にとっては攻勢をかけるチャンスと写ったであろう。
 焦りから来る心の隙間。
 その空白にアフロの魔の手が伸びたとしたら、理奈のアフロ化を防ぐ術は無かったであ
ろう。
 だが、なんとかせねばならぬ。
 知名度が高く、影響力も大きな理奈、そして彼女の影響を受けたであろう由綺。
 この二人が完全にアフロ化してしまったら、この学園全体がアフロに埋め尽くされてし
まうかもしれないのである。
 それだけは絶対避けねばならない。
 これは、工作部全員の総意であった。


 次の日から工作部の情報戦がスタートした。
 理奈や由綺の目につく所に、筋骨隆々の、ちょっとお近づきにはなりたくないようなア
フロダンサーの写真がおかれるようになり、アフロに関するさまざまな噂が流布された。
 智子からは志保に対し、カウンターインフォメーションによる情報操作が行われ、美加
香、ちびまるはインターネットによる、情報攪乱。FENNEKや八希は、顧客や、取引
先に対する、草の根的な情報散布を行った。


そして、運命の日が近づいてきた・・・


「なぜ?目立てば勝ちじゃないの!?どうして兄さんまで反対するの?」
「そんな事も判らないのか・・・。まったく、お前もまだまだ子供だな。」
 つめよる理奈に、緒方英二は苦笑して見せた。
「どうしてよ。この姿でTVに出れば、注目間違いなしよ?流行語大賞は『アフロ』に決
定よ?DDRでもアフロが目立ってるこのご時世に、この姿にならなきゃ損じゃない!?」
「だから子供だっていうんだよ。目の前のお菓子がおいしそうだからと言って、貰ったば
かりの小遣いを使い切ってしまうようなものだ。まあ、お前は昔からそうだったけどな。」
「こ、子供のときのことはいいじゃないっ!」
 赤面して反論しようとする理奈。
 だが、英二はそんな理奈を無視して窓際へと向かった。
「ふう・・・お前には、お前を愛してくれている人たちの声が聞こえないんだな。」
「私を?」
「アフロになることで、たしかに新たなファンが増えるかもしれない。だが、今までのファ
ンはどうなる?今までのお前を愛してくれた人たちに対して、その姿を見せられるのか?」
「え?あっ・・・・・・・」
「見てごらん。」
 英二は窓をあけた。
 理奈は、言われるままに、その窓から外を眺めた。」
「あ・・・・」
 夕日の射し込む校庭。
 そこには、人、人、人・・・・。
 様々な横断幕がそこかしこに見える。

  『緒方理奈FC』

  『理奈ちゃんLove!!』

  『長髪愛好同盟アイドル支部』

  『全国なでなでの会。アフロヘアーはなでなでの邪魔!!』

「こ、これ・・・・」
「みんな、お前の事を心配して来てくれた人たちだよ。彼らと別れを捨ててでも、新しい
ファンが欲しいのか?なら、止めはしない。好きにしろ。」
「う・・・・・うぅ・・・・・」
 理奈はしゃがみ込んだ。
 一粒・・・一粒・・・・
 涙の粒が床へと堕ちる。
「理奈ちゃん・・・・」
 気が付くと、背後に森川由綺が立っていた。
 いつも通りの流れる黒髪の姿だった。
 アフロのづらを手に握りしめ、由綺はふるえる唇を開いた。
「やっぱり変だよ。アフロになって、人気が出ても、それは私たちの人気が上がったんじゃ
なくて、アフロが目立っただけだよ。アイドルを目指すなら、自分自身が輝かなきゃ意味無
いよ・・・。」
「うん・・・。うん。そうだよね・・・。アフロがアイドルになるんじゃなくて、私がアイ
ドルなんだよね。そうだよね・・・・。」
「いっしょにがんばろう?」
「うん・・・うん!!」
 由綺の差し出す手を理奈は強く握りしめた。
 その姿を見て、英二は、『まったくしょうがないやつらだな。』と言った表情を浮かべた。
 やがて落ち着くと、理奈と由綺はベランダに出た。
 わぁぁぁ!!!と、割れんばかりの声援が飛ぶ。

「「私たち!!これからもこの姿でがんばります!!!」」

 そういうと、二人はアフロを天高くなげ飛ばした。

「「わぁぁぁ!!!理奈ちゃぁぁん!!!由綺ちゃぁぁぁん!!!」」

 ひときわ大きな声援が校庭に響いた。
 その声を聞きながら、英二はデスクの電話を取ると、ダイヤルを回した。
 そして一言。
「作戦完了だ。ご苦労だった。」
 その直後、工作部顧問の緒方英二から電話を受けた菅生誠治工作部部長は、副部長の
赤十字美加香にアフロ対策本部の看板を下ろすよう、指示を出した。


                                 − 完 −