Lメモ「試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章:紅の節」 投稿者:Sage
「う〜ん・・・・」

 ここ数日、耕一先生は悩んでいた。
 女子生徒の間では、いろいろな噂が流れていた。

  『とうとう、千鶴さんにプロポーズするらしいわよ・・・』

  『だれかを孕ませたんだって!?』

  『1年に、可愛い男の子が入ったから、その子のことが・・・』

「耕一さんっ!!」
「耕一っ!」
「耕一さん!!」
「耕一おにいちゃんっ!!」
「「「「柳川先生と結婚するってほんと!?」」」」

 ずっでーん!!

 椅子に座っていた耕一は、豪快に転倒した。
「な、何を言い出す!!突然。珍しく姉妹そろって職員室に来たかと思えば。」
 腰を押さえながら椅子に座り直す。
「だ、だって・・・」
「だってじゃありませんよ、千鶴さんまで。そんなことあるわけないじゃありませんか。」
「(ちっ)」
「・・・・今、だれか舌打ちしなかった?」
 ふるふるふる・・・。
 柏木4姉妹はあわせたように首を横に振った。
 耕一は辺りを見回した。
 職員室には、耕一、柏木4姉妹。そして・・・柳川先生の姿しかなかった(汗)

「そ、それはさておき、なんでそんな噂が?」
「耕一おにいちゃん、ここ数日、なんだか元気なかったでしょ?」
 初音が心配そうに言う。
「そうですよ。耕一さん。なにか悩みがあるのでしたら、相談してください。」
 千鶴も耕一の足下にしゃがみ込むと、心配そうに、椅子に腰掛ける耕一の顔を見上げ
ながら言った。
「悩み?・・・・いや、別に・・・・・。あ、あれかな? いやあ、大したことじゃないん
だよ。ちょっと、どれにしようか考えてただけで・・・」
 そう言うと、耕一は鞄からファイルにはさまれた紙の束を取り出した。
「パンフレット?」
「うん。そろそろ欲しいなと思ってね。」
「これ・・・・車?」
「うん。今まであんまり興味がなかったから、どれにしたらいいかわからなくって。」
「なぁんだ、そんなことで悩んでたのかよ。つまんねぇなぁ。心配して損した。」
「なんだよ梓、つまんねぇって事はないだろう。でも、お前が心配してくれるとはな。」
 にやっとわらう耕一。
「ふ、ふんっ。」
 梓は照れ隠しにふくれて見せた。
 その見え見えの仕草が耕一にはおかしかった。
「で・・・どういうのがいいんですか?」
 一番上に乗っていたパンフレットを手に取りながら、楓が耕一に尋ねた。
「う〜ん、二人乗りのオープンのスポーツカーもいいけど、みんなでのれるでっかい車も
いいなぁって・・・」
「「「「(ぽわ〜)」」」」
 4人の女性は、それぞれ耕一と車でドライブする姿を想像し、ぽぉっと天井を見上げた。
 そして、一斉に耕一に詰め寄ると、口をあわせてこう言った。

「「「「ぜひ、二人乗りにしましょう!!!!」」」」



「というわけで、やっぱり女性の意見は役にたたない事がわかったよ。」
「それはたいへんでしたねぇ。はい、お茶です。」
「あ、ありがと。」
 工作部を訪れた耕一は、ちびまるの差し出すお茶を受け取ると、菅生誠治、FENNEK、
東雲忍の前に車のパンフレットを広げた。
「で、結局どんな車が欲しいんですか?」
 パンフレットを広げながら忍が聞いた。
「さ〜っぱりわからん。」
「んじゃ、何に使うつもりですか?」
「う〜ん・・・。まあ、レジャーとか、買い物とかかなぁ・・・。」
「イメージ的には、ランドクルーザーとか、パジェロとか、ああいう四輪駆動車が似合い
そうだけど・・・。耕一先生って、アウトドアやりましたっけ?キャンプとか。」
「いや。別に。」
「それなら別にでっかい車じゃなくてもいいのかぁ・・・」
 忍はまた別のパンフレットを手に取ると、再び考えこんだ。
「たとえば、高速とかでは思いっきりスピードだしたいですか?」
 FENNEKが不意に口を開いた。
「いや、急いでいれば出すかもしれないけど、のんびり走る方が好きだなぁ。」
「車を買ったら、いろいろパーツを買いそろえたいですか?」
「う〜ん、べつに装飾にこだわる気はないな。」
「車には、工具とか、いざというときの為の荷物を積んで起きますか?」
「うん。まあ。何かあったときに困らないようにはするつもり。」
「う〜ん、だとすると、ワゴン系か、ワンボックス。じゃなきゃ、やっぱり四駆のオフロー
ド車かな。他に必須条件ってありますか?」
「まあ、5人くらいが余裕を持って座れる事。そこそこ燃費がいいこと。あと、俺が乗って
も、天井につっかえないことだな。」
「なるほど。なら、シティーユースのマルチパーパスカーですね。」
 そう言うと、FENNEKはパンフレットの山をかきわけ、該当する車種のものを耕一
の目の前に並べ始めた。
 2リッター以上のツーリングワゴンや、ミニバンのパンフレットが並んでゆく。
「・・・・耕一先生、一つ聞いていい?」
 しばらく黙って見ていた誠治が、ふと口を開いた。
「なんだい?」
「予算は?」
「100万。」
 耕一はきっぱりと答えた。
 忍とFENNEKの動きがぴたっと止まった。
「「「はぁぁぁ・・・」」」
 学生3人は、ため息をつくと、耕一が持ってきた”高級新車”のパンフレットを片づけ
始めた。
 そのパンフレットにのっている車は、全てが予算の倍以上の価格の物であった。



 その週末、耕一達は中古車のディーラーへと向かった。
「うおぉぉぉぉ!!!あぶねぇぇぇ!!!」
「うぎゃぁぁぁぁ!!!」
「も、もう少しスピードおとせえええええ!!!」
 行きは車形態となったFENNEKに乗っていったのだが、FENNEKが全力で峠を
飛ばしたため、車の中は阿鼻叫喚・・・・
 ディーラーに付いたときには4人はへろへろになっていた。

 すこし休憩を入れ、なんとか持ち直すと、4人はディーラーを巡り始めた。
 学校から少し離れた街道沿い。
 数件の中古車ショップが軒を連ねていた。
「いやあ、車って結構高いんだねぇ。大学の頃、友達が手に入れた車は、みんな数十万だ
とか言ってたから、もう少し安いと思ってたよ。」
「友人関係で、中古の売買するなら、そんなもんですけどね。新車や、こういうディーラー
で購入すると、もう少し値が張りますよ。新車だと、軽自動車でない限り、100万以上。
だいたい、200万円前後ですね。」
 中古車を値定めしながら誠治が答える。
「お?これなんてどうだ?」
 耕一が、1台のワンボックスの前に立ち止まる。
 30万円の値札。
 ぱっとみ、すごくお買い得だ。
「ちょっと待ってください。」
 FENNEKはそう言うと、車のフロントフェンダーに手を添え、目をつぶった。
「・・・・この車、事故車です。」
「え?そ、そうなのか?」
「はい。車の外傷は修理されてしまっていますが・・・・・前のオーナーはお亡くなりに
なっています。」
「そ、そんな車は勘弁だなぁ。次いこう、次。・・・これなんてどうだ?」
 耕一が指さしたのは、スポーティーなワゴンだった。
「あ、それはやめた方がいいですよ。」
 今度は忍が待ったをかける。
「なんで?」
 耕一が、わけがわからん、といった顔つきで尋ねる。
「ほら、ワイドタイヤが入っているでしょ?しかもサスペンションまで交換してあるし。
あきらかに走り屋仕様に改造してありますよ。峠をせめるんならこういう車もいいかも
しれませんが、耕一先生の用途からするとあわないと思いますよ。」
「むう・・・・。だぁ!ぜんぜんわからん!!頼むっ、いいのを選んでくれ!!」
 とうとう耕一は音を上げた。
「「「了解。」」」
 付き添いだったはずの学生3人は苦笑すると、耕一を従え、車の間を歩き始めた。



 その後、3軒ほどのディーラーをまわった。
 しかし、そこそこいい車はあるものの、耕一が気に入る車はなかった。
 そして4件目、ふと耕一が立ち止まった。
 真っ赤なミニクーパー。
 イギリス生まれのかわいらしい乗用車である。
 価格も予算以内で、いろいろオプションもついている。
 前のオーナーが丁寧に乗っていたらしく、走行距離の割に、ボディーの傷みも少い。
 中身についてもFENNEKが太鼓判を押した。
 眼鏡をかけ、髪を後ろでまとめた八重歯のチャーミングな店員が、『真っ赤という色の
せいで、買い手がなかなかつかず、値下げしたばかり』と、関西弁混じりに説明してくれた。
「ご試乗なさいます?」
 店員が尋ねる。
「ええ。是非。」
 耕一はそう言うと、店員と忍と、車に乗り込んだ。
 FENNEKは、店の影でこっそり車の状態に変身すると、運転席に誠治をのせ、表通
りで耕一達を待ち受けた。
 いままでペーパードライバーだった耕一を助手席に座らせ、最初はほぼ毎日ハンドルを
握っている忍が運転席についた。
 まずはニュートラルでエンジンをふかす。
 回転のふけ上がり、アクセルのレスポンス、ともに問題なし。
 ミッションのレバーを1速に入れ、サイドブレーキを落とす。
 サイドブレーキワイヤーが若干のび気味になっているようだ。
 忍は、これはあとで調整したほうがいいだろう、と思った。
 店から出て、大通りを流す。
 信号では少し急発進させてみたり、信号で止まるときもブレーキの利きを試したりした。
 特に異常はみられなかった。
 東雲は満足すると、交通量の少ないバイパス道路に車を回し、路肩に停車させた。
「さ、先生、ちょっと運転してみてくださいよ。」
「お、おう。」
 ドライバーシートに耕一が座る。
 いささか緊張しているようだ。
 忍はそのまま後部座席にまわる。
 今度は店員が助手席へと座った。
 ウインカーをだし、ゆっくりと発進する。
 発進はぎくしゃくしたものの、走り出すと順調だった。
 車体が軽いおかげで、動きや加速も機敏である。
「天気もいいですし、ちょっと遠回りしていきましょか。」
 店員が勧める。
「いいんですか?」
「いいですよ。ボーナスシーズンでもないですから、お店も暇で。」
 窓からここちよい風がふきこみ、にっこりと微笑む店員の前髪を揺らした。
「そうですか。それじゃあお言葉に甘えますか。」
 試乗できる距離が長いのはありがたい。
 耕一もすぐに同意した。
 忍のすすめで、学校のちょうど裏手にある山道へと向かった。
 峠のワインディングをゆったりと走る。
 木々の香りが風にのって車内にみちる。
 ラジオから流れる60年代のポップスが、車のエンジン音と妙にマッチしていた。



 峠をぐるりとまわり、1時間ほどのドライブを楽しんだ5人は、帰路へとついた。
 川沿いの道で、ちょっとスピードを出し、高速安定性を確かめる。
 そして市街地に戻ってきて、もうすぐ店、というところで信号に引っかかった。
 耕一はギアをニュートラルに戻すと、サイドブレーキを引いた。
「久々に気持ちいいドライブでしたよ。運転もお上手ですし。」
 店員が上機嫌で耕一に微笑みかける。
「あはははは。お世辞はよしてくださいよ。ずいぶん長い間運転してなかったんですから。」
 耕一も笑顔で答える。
 歩道の信号が赤になり、直交する道の信号が変わる。
 耕一はギアを1速に入れると、サイドブレーキに手をかけた。
 その瞬間、

 ギキャキャキャキャキャ!!!

 タイヤをきしませながら、1台の真っ白なワゴンが交差点に進入してきた。
「あぶないっ!!!!」
 後部座席で忍が声を上げる。
 ワゴンはタイヤのグリップを越えた速度で交差点に進入、スピン状態に陥り、まっすぐ
耕一達の乗るミニの方へと迫ってきた。
「きゃぁぁぁ!!!!」
 店員が悲鳴を上げる。
「くそっ!!!」
 耕一はサイドブレーキを外すと、ハンドルを思いっきり切り、車を発進させた。

 キキキキキ!!!

 ミニはホイルスピンを起こしつつ、突っ込んでくるワゴンを回避しようとした。

 ガシャン!!

 ミニのテールランプにワゴンの頭がぶち当たる。
 ミニはちょっと揺らめいたものの、なんとか持ち直し、横断歩道の上で停止した。
 ぶつかってきたワゴンは、そのままガードレールに突っ込み、どかんと派手な音をたて、
電柱にぶつかったところで止まった。
「だ、大丈夫ですか!?」
 耕一は、シートベルトを外しながら、店員と、後部座席の忍を気遣った。
「え、ええ。」
「大丈夫です・・・先生こそ大丈夫ですか?」
「ああ。俺は平気だよ。しかし危なかったな。」
「先生、大丈夫ですか!?」
 誠治と、人間の姿に戻ったFENNEKが駆け寄ってくる。
「ああ、こっちは平気だ。それよりワゴンの方を・・・・」
 そう言った耕一がワゴンの方を見やると、ちょうどワゴンのドアが開き、中から人が出
てきたところだった。
「なんだ!?あいつら・・・」
 車から出てきた男達は、暖かい陽気だというのに毛糸のフェイスマスクをしていた。
 まるで・・・
「おいっ!! 動くんじゃねぇ!!!」
 男の一人が叫ぶ。
 車からおりてきたのは4人。そのうち2人は手に銃を持っていた。
「・・・強盗か?」
 覆面、銃、そして、銃を持っていない二人がワゴンのラゲッジルームから取り出した、
大きなアルミケースが、ただならぬ連中であることを物語っていた。
「おいっ、てめぇら!! その車いただくぞ! 車から離れろ!!」
 銃を持った二人の男が近づいてきた。
 誠治は冷静に銃を鑑定した。
 狩猟用の散弾銃。
 銃口が2つあり、2連射まで可能なタイプである。
「おい! 何をしている!! 早くどけっ!! 撃たれたいのか!?」
 男達がいきりたつ。
「わ、わかった。今降りるから、ちょっと待ってくれ。」
 耕一が大きな声で呼びかける。
 誠治とFENNEKは、男達を刺激しないよう、両手をあげたまま、ゆっくりと車の横
に移動した。
 耕一達も車から降りる。
 誠治達と反対側に耕一が、誠治側に店員と忍がやってくる。。
「FENNEK・・・。片方の男、押さえられるか?」
「・・・やってみましょう。」
 誠治の考えを読み、FENNEKが答える。
 続いて、誠治は耕一に目配せを送る。
 耕一もそれを察したのかうなづいて見せた。
 犯人が車に近づく進路を考え、FENNEKと耕一が間合いを取る。
 誠治は店員に手を貸している忍に近づく。
 そして、忍にFENNEKと耕一が、銃を持っている連中を取り押さえようとしている
事を伝えると、忍にかわって、店員に手をさしのべた。

 (どっくん)

 銃を持っていない男二人が、大きなトランクケースを事故ったワゴンからおろした。

 (どっくん)

「はやくしろ!!」
「わかってるっ!くそ重いんだよ、このトランク。」
 銃を持った男の一人がトランクを運ぶ男をせかす。

 (どっくん)

 「急げ!!」
 銃を持った男の一人が、車にたどり着き、他の3名に声をかける。
 そして・・・・

 うぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ・・・

 遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
 びくっ・・っと、全員が硬直した。
 次の瞬間、まず耕一が動いた。

 ズダン!!!

 鬼の力を解放し、人間の限界を超えた速度とパワーで耕一が飛ぶ。
 一瞬で、車の脇にいた犯人に近づき、左手で銃を上に持ち上げる。
 そして、右手を一閃。
「げふっ!!」
 耕一にしては、ごくわずかな力で繰り出したパンチだったが、耕一の右拳が男の脇腹に
深くえぐり混む。

 そして、同時にFENNEKも動いていた。
 最大パワーで加速。
 男の持つ銃の銃口が下に向いているのを幸いに、そのままタックルした。
 FENNEKは、見かけは人間であるが、それは車が姿を変えたもの。
 質量は実に1トンを越える。
 それがタックルを食らわすのである。
 男はひとたまりもなくはじけ飛んだ。

 トランクを持った二人は、それを見て固まった。
 一瞬にして・・・しかも目にもとまらぬスピードで、二人の仲間が倒されたのである。
「や、やべぇ・・・」
 あわてて逃げようとする二人。
 だが、その眼前には忍が立っていた。
 その手と、その瞳には炎が揺らめいていた。
 まるで、『一歩でも動けば、灰にする。』と言わんばかりに。

「さて、おとなしくした方がいいぞ。」
 耕一から銃を受け取り、中の弾薬を抜きながら誠治が言い放った。
 残った二人も忍の足下に、力が抜けたようにへたりこんだ。
 やがてサイレンが近づいてきた。
「ふうぅぅ。」
 耕一の口から、大きなため息が漏れた。



「んで、結局、車は買わなかったの?」
 柏木家の晩御飯。
 梓がご飯をよそいながら耕一に尋ねた。
「ああ。『傷物は売れません』って、店員がつっぱねてね。」
「ふうん・・・その車、結構気に入ってたみたいだね。」
「そうだな。でも、あの車、4人乗りでさぁ。みんなで乗れなかったからな。」
「そっか。でもあたしゃ買って欲しかったよ。買い物楽になるしさぁ。」
「そうだな・・・。あの車だったら買ってもよかったな・・・。」
「ま、もちっとがんばって、もっとでっかい車でも買ってくり。」
「そのためにはしっかり喰わないとな。いっただっきまーす。」
「・・・しかし、千鶴ねえさん、遅いなぁ。初音、楓、なんか聞いてる?」
「聞いてないよ。」
「私も聞いてない。」
「うーん、残業でも入った・・・」

 プップー

 表でクラクションの音がした。
「なんだ?こんな時間に・・・」
 耕一達は、箸を置くと表にでた。
「じゃじゃ〜ん☆」
「ち、千鶴さん、この車は?」
 そこには四駆のワンボックスが止まっていた。
「えへへへへ、買っちゃった。」
「買ったぁ!?」
「うん。鶴木屋旅館の営業用にね。」
 たしかに車の横には旅館のロゴが入っていた。
「この車があれば、あちこち行けるわよね。ね?」
「ああ・・・そうだね。」
 耕一は、車に手を添えながら、ぐるりと一回りした。
 新車の、それも耕一の予算ではとうてい買えない車が手に入ったのだが、耕一の表情は
浮かなかった。
「(千鶴ねえさんのばかっ!)」
 梓が小声で千鶴に文句を言う。
「(な、なんでよっ!?)」
「(耕一は、自分で買うつもりだったんだぞ?それを女性からただでもらうなんて、嬉し
いわけ、ないじゃないか。)」
「(あ・・・う・・・。)」
「・・・・耕一おにいちゃん?」
「ん? 何だい? 初音ちゃん。」
「この車は、うちのにすればいいから、耕一お兄ちゃん、ほしがってたそのミニって車、
買ったら?」
「え?」
「だって、4人乗りだからあきらめたんでしょ?でも、うちにこっちの大きい車があれば、
全員で出かけるときは困らないじゃない。だから、耕一お兄ちゃんは、好きな車を買えば
いいと思うよ。」
「あ、そっか・・・・。」
「そうだよ。それに、私もその車乗ってみたいな。ちっちゃくてかわいいんでしょ?」
「ああ。そうだよ。」
 耕一の表情に笑顔が戻った。
「ねえねえ、明日、私も車屋さんに連れてってよ。その車見てみたいな。」
「ああ、いいよ。一緒に行こう。」
「あ、わたしも!!」
「ずる〜い、私もいくぅ!!」
「わたしもいきたいです・・・」
「わかったわかった。それじゃあ、明日、この車でみんなで行こうか。」
「わぁい!!」
「さて、その前に飯だよ飯。千鶴ねえさんが変な時間に帰ってきたから、せっかくの料理
が冷めちゃうよ。」
「あ、ごめんごめん。さ、ご飯にしましょ。」
「はぁい。」
 その日の晩御飯は、車の話で盛り上がった。
 そしてその週末、綺麗に修理されたミニクーパーのキーが、耕一に手渡された。

【つづく】

  (C)Sage1998

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