テニス大会特訓Lメモ「それは、思いでのために・・・」 投稿者:Sage
 高いフェンスに囲まれた2面のテニスコート。
 その中央に、数人の男女が集まっていた。
「え〜、ということで、第1回合同テニス練習会をひらきま〜す。OLHくん、ごめんね、
夫婦水入らずの練習してるところに割り込んじゃって。」
「あら、やだ、梓ちゃん、まだ夫婦じゃないわよ。」
「だれが夫婦だぁぁぁぁぁ!!勇希も『まだ』ってなんだぁぁぁ!!(血涙)」
 テニスコートには、OLHと勇希が先に来て、練習していた。
 その後に梓にさそわれた誠治、そしてたまたま通りがかった橋本や芹香など3年の面々
が、練習に参加することになったのである。
「・・・・それはいいとして、誠治、なんでそんなにぼろぼろなんだ?」
「いや、ちょっとな。(汗笑)」
 なぜか練習前から擦り傷やら切り傷やらが出来ている菅生誠治の姿に、柏木梓の冷静な
つっこみが入る。
 『梓テニスの練習をする。』という情報が流れたとたんに、梓萌えの面々から妨害が
入ったのだ。
 誠治は逃げる際に、女子更衣室の前を通り過ぎる時に『梓なら、ここで着替えてるぞっ』
と言って(当然、嘘。中にはセ(自主規制(笑))とかエ(自己犠牲(爆))がいた。)
なんとか、追っ手をまいたらしいが。
「さて、練習を始めましょうか。」
 梓が声をかける。
 総勢6人はコートの左右に分かれて、サーブ&ラリーの練習を始めた。

 すぽーん

  すぱーん

 すぽーん

  すぱーん

 すぽーん

 しばらく単調な肩慣らしのラリーが続く。

 一番端は、OLH&勇希ペア。
 妙に息があっているのか、ミスもなく、ラリーが続く。

 真ん中には橋本と芹香のペア。
 芹香の方が、一見、運動神経が鈍そうに見えたが、橋本の下手なレシーブを、一生懸命
走って拾っていた。
 芹香もそこそこのテニス経験はあったようだ。

 そして反対側は梓と誠治のペア。
 決して運動が苦手なわけではない二人は、そこそこのスピードで打ち合っていた。


「さて、この辺で、練習試合と行きますか。」
 20分ほどラリーや、サーブの練習を続けたあとで、誠治が声をかけた。
「組み合わせは?」
 橋本がたずねる。
「じゃんけんで決めよう。グーはグー、パーはパー、チョキはチョキと組むということで。
んじゃ、じゃーんけーんぽんっ!!」

 グー、グー、パー、チョキ、パー、パー。

「グーが二人。とりあえず、OLHさんと勇希先生のペア、決定ね。」
「あら、まぁ。」
「・・・・なんでこうなるんだぁぁぁぁぁぁ!!(血涙)」
 運命のいたずらか、まあ、お約束といえば、お約束なのか、この二人がペアとなった。
「んじゃ、残ったメンバーで、グーかパーで。じゃーんけんぽいっ。」

 グー、パー、パー、グー。

「お、誠治くんと、俺か。」
「よろしくな。」
「んじゃ、芹香はわたしとだね。」
(こくり)
「んじゃ、最初は、OLH&勇希先生ペアと、梓&芹香ペアで。俺が審判やるから、橋本、
ボールの投げ込みやってくれる?」
「オッケー。」

 そんなこんなで練習試合が始まった。
 誠治の合図で試合が始まる。
 だが、試合はワンサイドゲームになってしまい、あっという間に終わってしまった。
 梓が鋭いレシーブを繰り出そうが、芹香が意表をついたロブを上げようが、OLHと、
勇希を抜くことはできなかった。
 片方が動くと、もう片方がその隙を埋める。
 まさにベストパートナーと言うべき組み合わせだった。
 試合は3ゲームマッチだったが、2ゲームで終わった。

「いやあ、勝てない、勝てない。」
 コートサイドのベンチに戻り、タオルで顔を拭きながら梓が言った。
「(ぼそぼそ・・・・・)」
「芹香のせいじゃないよ。相手が強かったんだって。それにしても、芹香、結構動いてた
じゃない。テニスの経験あったんだね。」
「(こくり・・・・ぼそぼそ)」
「ふうん、家の庭にテニスコートがねぇ・・・。」
 そんな話を梓と芹香がしていると、なぜか意気消沈したOLHが、上機嫌な勇希にひきづ
られるようにベンチまで戻ってきた。
「よっ。OLHくん。強いねぇ。息もぴったりあって・・・・・って、どうしたの?」
 梓が心配げに沈み込んだOLHの顔をのぞき込む。
「いや、ちょっとね・・・」
 OLHの元気のない原因は、あまりに勇希とコンビネーションがあってしまう自分に対し
ての自己嫌悪だった。

「んじゃ、第2セット。どうする?梓たちがもう1本やる?」
 ベンチで真っ白に燃え尽きているOLHを横目に見ながら、誠治が問いかけた。
「芹香は大丈夫?」
(こくり)
「んじゃ、いいよ。」
「あ、それじゃ審判やるね。」
 勇希が審判台に登ると、コートの左右に誠治&橋本ペアと、梓&芹香ペアが別れた。
 今度の試合は五分五分だった。・・・・前半までは。
 後半、なぜか誠治&橋本ペアのうごきが徐々に鈍くなる。
 とくに梓が前衛の時。
 1セット目は誠治&橋本ペアが取ったが、2セット目、3セット目は、梓&芹香ペアが
連取した。
「よっしゃっ!!やったぁ!!」
(にっこり)
 最後のスマッシュを決め、梓はガッツポーズを決めながら、意気揚々とベンチに戻って
いった。
 芹香もほんのり頬を桜色にそめながら、軽い足取りでついてゆく。

「・・・・あれ、武器だよな・・・」
「・・・・ああ・・・」
 コートの真ん中に残った誠治と橋本は、ひそひそ声で話していた。
「・・・・あれを使わない手はないよな・・・・」
「・・・・ああ。梓には、やはり前衛に出て貰って・・・」
「・・・・芹香さんも、けっこうなもんだったぞ・・・・」
「・・・・逆に、レミィや、智子さん相手の時は注意と言うことか・・・」
「・・・・ああ。注意だな・・・」
 テニスにおいて、レシーブを受けるときは、足を肩幅に。
 ラケットは両手で軽く持ち、体の中心線上におく。
 左右、どちらに打ち込まれても素早く対応できるよう、軽くステップを踏む。
 膝を柔らかく保ち、やや前屈みの姿勢になる。
 以上の姿勢を、梓のような体型の人間がやるとどうなるか・・・・



 胸が揺れるのだ・・・(爆)



「こらぁ!いつまでコートに立ってるんだ!!」
 梓の声がかかる。
「お、おお。こっちは続けてオッケーだぞ。次の試合やろうぜ。」
 橋本があわててごまかす。
 その声を聞いて、審判台から降りた勇希がずるずるとOLHをコートに引っぱりだす。
 審判台に梓があがり、第3試合が始まった。
 最後の試合は接戦となった。
 志気のさがったOLHのサイドを誠治のスマッシュが抜く。
 橋本もがんばるのだが、勇希のコントロールのきいたサーブが決まる。
 最後は、OLHの力のないロブがラインを割り、誠治&橋本ペアの勝ちで終了した。


 3試合が終わる頃には、夕日が傾き始めていた。
 メンバーは、終了間際に笛音が持ってきた差し入れを摘みながら、

 『人を狙って撃ってくるやつがかならずいるだろうから、そのときはラインぎりぎりに
  立って避ければいい』

 とか、

 『魔法や超能力、科学的兵器など、アンフェアなものを使われないように、あらかじめ
工作部とオカ研で、対策をとっておこう。』

 などと、試合について、いろいろと話した。
 (OLHはなぜか『ちがうんだよ〜ちがうんだよ〜』と言いながら、笛音の胸でずっと
泣いていたが(笑))
 そして汗が引いた頃、それぞれ家路についた。



 その姿を校舎の屋上から見下ろす二つの影があった。
 夕闇が迫り、少し風が出てきた。
 その風に、フェンス際に立つ少女の髪と、フェンスの鉄柱の上に立つ男のマフラーが
揺れていた。
「ふっ。あのレベルなら楽勝だな。」
「よく言うわよ。私のサーブ、半分もまともに返せないくせに。」
「本番と練習では違うわい。」
「ふ〜ん。ま、『本番で梓先輩に見とれて、なにもできない。』なんてことにだけはなら
ないようにね。」
「お前じゃあるまいし。油断などせぬわ。」
「ま、私の見たところ、力は五分五分ね。こっちもうかうかしてられないわ。明日から、
練習量増やすわよ。」
「しょうがないな。お前が強くならねば勝負にならんから付きやってやるぞ。」
「それは私のせりふっ! まったく。さ、今日は私も帰ろ。」
「転んで怪我なんかするんじゃないぞ。」
「あら?心配してくれるの?」
「お前のつまらん失敗で俺と梓の愛の邪魔が増えてはこまるからな。」
「ふんっ。」
 つまらなさそうに、少女はきびすを返すと、非常階段の方に歩いていった。
「ふん。」
 鉄柱の上に立っていた男は、木の葉に紛れるようにかき消えた。
 秋山登と日吉かおり。
 その二人の会話を聞いていたのは屋上でうたた寝をしていた1匹の黒猫だけであった。


 続く

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