テニス大会特訓Lメモ2「それも、思いでのために・・・(中編:工作部にて)」 投稿者:Sage
 ジャージに身を包み、テニスラケットとバッグを肩から下げた柏木梓は、学校につく
と、そのまま工作部へと向かった。
『一緒にテニスの練習をしよう。』
 暗躍生徒会主催のテニス大会に、ペアで出場することになった菅生誠治に、テニスの
練習に誘われたのは週末のことだった。
 別に断る理由もなかった梓は、休日だというのにも関わらず学校に来たのである。
 工作部の部室についた梓は、コンコンと一応ノックしてからドアを開く。
「ちーっすっ。」
「ハーイ、梓先輩、グッドモーニンッ!!」
 梓が工作部に入ると、そこにいた女性は、赤十字美加香でも、保科智子でもなく、2
年生の宮内レミィだった。
「あら?どうしたの?」
「うん。ちょっとネ。」
 レミィはテニスルックに身を包んでいた。
 髪をアップ気味のポニーテールにまとめ、ヘアバンドを付けており、すでに準備万端
という感じだった。
「今日の練習に参加するの?誠治との。」
「ノーノー、違うヨ。私は別の人と練習があるけど、その前にちょっと誠治サンのお願
いを聞くためにここによっただけネ。」
「誠治のお願い?なに?」
「フフフッ。それは『開けてびっくり玉手箱』ネ。」
 梓は『開けてみてのお楽しみ』と言いたかったのではないかとおもったが、この場は
黙っておいた。
「それで、その誠治は?」
「今、隣の部屋で作業してるネ。覗いちゃダメよ。鶴になっちゃうから。」
(・・・・恩返しでもしてるの?)
 そんな言葉が梓の口から出ようとした瞬間、がちゃっと工作部の扉が開いた。
「おはようございます・・・。あれ?部長は?」
 入ってきたのはFENNEKだった。
「モーニンッ。誠治サンなら隣の部屋ネ。」
 レミィが答える。
「そうですか・・・・。ちびまるちゃんは?」
「ちびまるちゃんも隣の部屋ネ。あ、今は入っちゃダメヨ。」
「え?なんでです?」
「ド・ウ・シ・テ・モッ。」
 人差し指を立て、ちっちっちっと横に振りながら、レミィが言う。
 いかにも『悪巧みしてます』って感じであった。
 FENNEKは、『何かあったんですか?』と梓に視線でといかけるが、梓も訳がわ
からず、両手をあげ、『さぁね?』とジェスチャーで答えた。



 FENNEK、梓、レミィの3人は、数分ほどたわいのない話をして時間をつぶして
いた。
 主に、3人ともが参加するテニス大会についてだった。

 がちゃっ・・・

 すると、不意に工作部の作業部屋のドアが開いた。
「ふう、ごめんごめん。待たせちゃって。」
 中から作業着に身を包んだ誠治が出てきた。
「あんまりレディーを待たせたらだめネ。」
「何やってたの?」
「部長、なんか用事があるって聞いたんですが・・・」
 レミィ、梓、FENNEKが同時に誠治に声をかける。
「まあまあ。それよりも・・・・」
 誠治は一歩引くと、ドアを大きく開き、扉を押さえた。
 そして、誠治のどいた後から姿を現したのは・・・
「みなさん、おはようございます。」
 ぺこりと頭をさげる女性が一人。




「「・・・・でぃ、でぃ、でぃ、Dガーネットさんっ!?!?!?!?!」」




 茶色のたおやかな髪。
 均整のとれたボディーラインをつつむメイド服。
 耳についたセンサー。
 セリオタイプとは違う風貌。
 20台の女性を想定したそのボディーは、来栖川エレクトロニクスのベストセラーの
メイドロボ、ガーネットタイプそのものであった。
 試立Leaf学園に存在するガーネットタイプはただ1体。
 来栖川警備保障のDガーネット。
 無慈悲な鬼神。
 天下無双の剣聖。
 彼女に狙われたらあとはないとまで言われ、おそれられている警備専用メイドロボで
ある。
 そのDガーネットがメイド服に身を包み、しかもしずしずとお辞儀をする姿に、梓と
FENNEKは驚愕した。
 が。

「ふふふふっ。」
「アハハハハハ。」
 笑い声をあげる誠治とレミィ。
 梓とFENNEKは訳が分からず、きょとんとするだけだった。
「あの・・・ちびまるです。」
 ガーネットが口を開く。
「「へ?」」
 訳が分からない二人が、素っ頓狂な声をあげる。
「ちびまるです。レミィさんのお宅のガーネットさんの体をお借りしております。」
「「・・・・・えぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!」」
 またもや奇声をあげる二人。
「うちのガーネットさんが、そろそろメンテナンスの時期だったのヨ。それを誠治さん
に相談したら、『メンテは工作部で無料でやるから、テニス大会までガーネットを貸し
てくれないか?』って頼まれたノ。パパもオッケーだっていうから、テニス大会まで、
ちびまるちゃんのボディーと交代ネ。」
「あの・・・・やっぱりへんですか?」
 小首を傾げるガーネット・・・いや、ちびまる。
「いや、変じゃないよ、ちびまるちゃ・・・ん・・・というか、ガーネットさん?」
「ちびまるとお呼びください。AIはそのままなので・・・。」
「あ、ということは、部長、テニス大会は、この姿のちびまるちゃんと出るという事で
すか?」
「そうだよ。これで戦力的には他のチームと拮抗するだろう。あとはFENNEKの努
力次第だ。がんばれよ。」
「よろしくお願いします。FENNEKさん。」
 誠治の言葉にあわせ、FENNEKにぺこりと頭を下げるちびまる。
「こ、こちらこそよろしく。」
 どうもいつもと勝手が違うためか、FENNEKは、頬を赤らめながら手を差し伸べ
た。
 ちびまるはその手を掴むと、やさしく握手をかわした。
「こりゃあ、強敵が増えたわねぇ。」
「おう。俺達もがんばらないとな。」
「うん。それじゃ、さっそくコートに行きましょうかに。」
「ああ。そうだな。ちびまるの体の慣らしもあるし。」
「あ、私も行かなくちゃ。See you!!」
「レミィもがんばれよ〜。」
「サンキュー。みんなもネ。」
 慌ただしく出ていくレミィ。
「さて、行きますか。」
「はい。」
「がんばるぞっ!」
「おうっ。」
 誠治達も工作部を後にした。
 八希や智子が既に場所取りをしているであろう、テニスコートに向けて。


 続く