テニス大会特訓Lメモ2「それも、思いでのために・・・(後編:コートにて)」  投稿者:Sage

 ・・・数日前。電芹エントリー後の話・・・

「誠治さん、私、TaSさんとテニス大会に出ることになりました。」
「そう。がんばれよ・・・」
「はい。」
「電芹・・・」
「はい?」
「アフロにだけはなるなよ・・・」
「はい。」
「それと・・・」
「はい?」
「ちゃんとテニスの公式ルールと良識は守れよ。テニスはラケットでするものだぞ。
テニスコートに電柱は持ち込むなよ。プロレス技も禁止だぞ。ビームもミサイルも
使っちゃだめだぞ。地雷も爆弾もだめだぞ。目潰しも金蹴りも禁止だぞ。色仕掛け
もだめだぞ。試合前に賄賂をおくったり、便宜を図ったり、選挙公約で有利な条件
をだしたり、株価を操作したりもだめだぞ。幼稚園のバスをバスジャックしたり、
貯水池に毒を入れると脅迫したりも禁止だぞ。千鶴さんの料理をみんなに配ったり、
カフェテリアでまさたさんの私物使ったりもだめだぞ。勝負が付いた後で、優勝者
を襲って、温泉旅行をゲットしてたけるさんと出かけようなんて考えるなよ。」
「・・・ええええええぇぇぇぇぇ!?」
「『えぇ!?』って、おまえ・・・」
「せめてどれか一つだけでも・・・(うるうる)」
「だめ。」
「(がっくし)」
「・・・・おまえ、本当に性格変わったな・・・・」
「そうですか?」



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テニス大会特訓Lメモ2「それも、思いでのために・・・(後編:コートにて)」

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「遅いで、誠治さん。どないしよう・・・」
 保科智子が、駆け寄ってきた。
 すぐ後には八希望が続いて書けてくる。
「みんな、大会前だからっちゅうて、朝もはよから練習してたわ。うちらが来た頃には
コートもいっぱいや・・・。」
「うーむ、そっかぁ・・・・・。」
 今日は、工作部を主体とした一部のメンバーで練習することになっていた。
 菅生誠治、柏木梓、八希望、保科智子、FENNEK、レミィの家のガーネットのボ
ディーに入ったちびまるの6人がそのメンバーであった。
 誠治がちびまるの調整をしているあいだ、保科と八希が先にコートに行って場所取り
をすることになっていたのだが、手遅れだったようである。
「とりあえず・・・・・聞いてみるか。」
 誠治はそういうと、バックから携帯電話を取り出した。
 メモリーの中から、一つの番号を選び出し、プッシュする。
「・・・・・もしもし?あ、誠治です。芹香さん?」



「ふわあ、さすが来栖川のお嬢様、家にテニスコートとはねぇ・・・・」
 場所は変わって来栖川邸別荘。
「ボールは、こちらに置いておきますので。」
 ぺこりと頭をさげ、メイド服に身をつつんだ量産マルチが、カゴにいっぱいのテニス
ボールをベンチ脇に置くと、コートを出ていった。
「あ、ありがと〜。」
「んで・・・、なんであんたがここにいるの?」
「なんでって・・・・俺、芹香さんとペアで出るんだけど・・・」
 誠治たちが到着するより前に、来栖川邸のテニスコートにいたのは橋本であった。
「そういう事だけは、気が利くのよねぇ・・・」
「そ、そういう事ってどういうことだよ。あずさぁ・・・」
「女性がらみ。」
 きっぱりと梓は言い切った。
 まわりからクスクスと押さえた笑いが聞こえる。
「なんか、すんげー傷つくなぁ・・・」
「はいはい。練習始めましょうね。ところで誠治、今回は工作部お得意のド●えもん的
アイテムは無いの?」
 思い出したように梓が問いかけたのは、今はガーネットのボディーに入ったちびまる
が、やたらと大きな荷物を持っていたからだった。
「あるよ。」
「あるんですか!?」
 八希の目がキラキラと輝く。
「ちびまる、バッグを。」
「はい。」
 ちびまるがどさっとバックをおろすと、誠治は中を漁り始めた。

「えっと、まず、自動追尾ラケット。」
 フレームが妙に分厚いラケットを、誠治はバックから取り出した。
「センサーでボールを自動追尾する。でも、通常のラケットの8倍の重量があるので、
ボツ。」
 がくっと、八希がうなだれる。

「続いて小型ブースター付きラケット。」
 ラケットの両端に、噴射口が付いている。
「こいつは、剛速球がうてるが、打った後、ラケットも飛んでいきそうになるのと、
ボールがすぐに場外ホームランになっちゃうのでボツ。」
「なんや、役立たずやなぁ。」
 保科がつっこむ。

「それと、自己軌道制御ボール。」
 外見は普通のボールである。
「重心をコントロールし、自ら軌道をかえるボール。」
「あ、それよさそう。」
 梓が誠治の手からボールを取る。
「でも、試合では、審判側が提供したボールを使うはずだから使えないし、第一、必ず
コートに入るから、練習にも使えない。遊んだり、汗かくためにテニスやるならいいけ
どね。」
「あ、そっか。今回は用なしだね。」

「使えるとしたら、この2つかな。軌道解析ツールと、パワーアシストグローブ。まず
は、軌道解析ツール。」
 誠治はサンバイザーとサングラスが一体になったようなものを取り出した。
「サンバイザーの左右に取り付けられた小型CCDと、超音波センサーで、相手が打っ
た球のベクトルを瞬時に解析。軌道をサングラスの内側に投影する。変化球、魔球など
でも、どう球が飛んでくるか、瞬時に判る。」
「す、すごいですねぇ。」
「えぇ!?ってことは魔球を使っても無駄!?」
 魔球を考えていたのだろう。八希が驚いた声をあげる。
「いや、そうでもないんだよ。結局球を打ち返すのは人間だ。試合中だとほとんどの
場合、相手が球を打った瞬間に、軌道を予測して体が反射的に動かないと間に合わな
い。このツールを使って、軌道を見極めてから反応したんじゃ、時間的に遅すぎるん
だ。」
「なんや、これも役立たずかいな。」
 八希とペアを組む智子がほっとしたように言う。
「いや、そうでもないよ。初心者は、その反射的な判断が体にしみこんでいないから、
初期の練習でこれを使うと、相手の動きと、打ち返される球の相関関係が早く判るよ
うになるんだ。」
「へ〜。んじゃ、今日さっそく使わせて貰いますね〜。」
 八希やFENNEK、ちびまるなどの、比較的テニス初心者たちは誠治からツール
を受け取ると、さっそく装備した。

「それともう一つ、これは非力な人向けのツールだけど、パワーアシストグローブ。
超小型コンプレッサー装備で、このグローブを付けてラケットを握ると、球を打ち返
す瞬間に、サーボモーターで握力を増強し、圧搾空気を噴出することで、ラケットを
振る速度を少しだけ助けてくれる。フラットで、重い球が打てるようになるよ。ま、
梓には不要だな・・・」
「・・・なんか言った?」
「な、なにも。」
 梓がぎろりとにらみを利かせると、誠治はグローブを芹香に渡しながらとぼけた。
 芹香はぺこりと頭を下げると誠治からうけとったグローブを手にはめた。

「あと、衝撃吸収機能付きダッシュ力強化シューズとか、回転力の高い球が打てる高
摩擦ガットとか、いろいろあるけど、基本的に全てのツールは『ずる』だからね。」
「試合の時には使うなってことか?」
 バックの中をごそごそやっていた橋本がたずねる。
「まあ、普通の相手のときにはね。相手がジンさんとか、メイドロボとか、そういう
相手の時は、ハンデを埋める為に使うくらいかな。そうでないと、面白くないから。」
「はーい、わかりました〜。」
「了解〜。」
「やっぱり、実力勝負やな。」
「うー、でもジンさんと素手で戦うのは怖いですぅ。」
「確かに。」
 うなずきながら、装備を調えるメンバー。
「ところで、美加香ちゃんは?」
 不意に智子が思いだしたように聞いた。
「ひなたさんと・・・・一緒だと思うよ・・・」
 誠治がぼそっと言う。

「「「「「・・・・・・・はぁぁぁぁぁ。」」」」」

 全員が美加香がどうなっているかに思い当たり、深い溜息をついた。



 ぱこーん!

  すぱーん!!

 ぱこーん!!

  ぽこーん!!

「もらったぁぁ!!まきゅううう・・・」
「魔球は試合まで秘密だすなっちゅうたろうがっ!!」
 (げしっ!)
「ぐはっ!」
 時折、智子と八希の漫才を挟みつつ、練習は続いた。
 今は八希&智子ペアと、FENNEK&ちびまるペアが練習試合をやっている。
 審判は橋本である。

「んで、どうするの?芹香・・・」
「?」
 梓の問いかけに芹香がきょとんと答える。
「あの馬鹿と、トリプルGくんと、両方から誘われて、エントリーしちゃったんでしょ?」
 こくん。
 ちょっと困った様な顔をして、芹香がうなずく。
「あんたもはっきり言えない人だからねぇ。どうするの?両方出るには、ちょっと体力
的に無理があるんじゃないの?」
 ・・・こくん。
「ん〜。そうだ、妹の綾香ちゃんを変装させて、代わりにどっちか出てもらうとかは?」
「(ぼそぼそぼそ・・・)」
「ああ、そっか、悠くんとでるんだっけね。綾香ちゃんも。あとは・・・魔術でなんと
かならないかなぁ。誰かを化けさせるとか、偽の芹香を召還するとか。」
「・・・・・」
 芹香は頬に指を当てると、考え込んだ。
「(ぼそぼそぼそ・・・・)」
「え?化けさせるならできるかもしれませんって?そんなら、執事の・・・セバスチャン
さんだっけ?あの人あたりを化けさせれば強いかもね。あははははは・・・」
「・・・・・」
 梓は冗談で言ったつもりだったが、芹香はじっと考え込んでしまった。
 梓はちょっとだけ後悔した。



 練習を終えた8人は、クラブハウスでシャワーを浴び、テラスでお茶としゃれ込んだ。
「みんな、そこそこラリーは続けられるようになったねぇ。やればできるもんだ。」
 梓がちょっと感心したように言った。
「いやあ、芹香さん、テニスとかやる風には見えないのに、けっこううまいじゃん。」
「・・・・」
 橋本の言葉に照れたのか、ちょっと頬をそめてうつむく芹香。
「どうだい?ちびまる、その体は。」
「はい。コントロールには問題ありません。いつもと違って、CPUから駆動ユニット
を直接制御できるので、反応が早くて、動きやすいくらいです。」
「そっか、ちびまるはいつもホストコンピュータから無線制御してるんだもんな。確か
に今の方が、反応が早くなるか。」
「はい。」
 誠治とちびまるは、ちびまるの仮の体についての話に花が咲いていた。
 そんな誠治達を眺めながら、梓はFENNEKに話しかけた。
「FENNEKくん、どう?調子は。」
「調子はいいですよ。人の体でこんなに動いたのは初めてですが。」
「そっか。・・・楽しい?」
「はい。楽しいです。梓さんも楽しいですか?」
「うん。もちろん。」
「それはよかったです。」
「・・・・いい、大会になるといいね。」
「そうですね。勝ち負け関係なく、終わったあと、笑って握手できるような戦いができ
ればうれしいですね。」
「そうだね・・・。でも、負けないぞっ。」
「それはこっちの台詞です。」
「ふふ。」
「はは。」
「ふふふふふふ・・・」
「あははははは・・・」
「なになに?なにがあったの?」
「なんでもなーい。」
「え〜、なんだよ、気持ち悪いなぁ。あずさぁ、教えろよ〜。」
「橋本になんておしえてやらないよ〜。」
「あ、それじゃ、わたしに教えてくださいぃ。」
「ちびまるちゃんにもないしょっ。」
「え〜FENNEKさんまでいぢわるですぅ。」
「あはははははは。」
「えへへへへへへ。」
 穏やかな日曜、真っ白に塗られたテラスは、楽しそうな笑い声に包まれた。
 空に浮かぶ雲が、徐々に茜色にそまりつつあった。



 一方そのころ・・・・

「いい加減に球を体で受けるのはやめなさぁぁいっ!!」
「俺に快楽を捨てろというのかぁぁぁぁ!!!」

「HAHAHAHAHAHAHAHA!!笑い方はこうデース!!」
「HAHAHAHAHAHAHAHA・・・・・こうですか?」

「さあ、立ちなさい!四つん這いになっているなら、犬って呼びますよ。」
「(ぐわばっ)犬っていうなぁぁぁぁ!!!」

「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「あの・・・・いいかげん、テニスの練習始めませんか?」

「SS不敗流奥義いいいいいいい!!!」
「いやあああああ!!いいかげん普通のテニスをさせてえええええええ!!!」

「はい、長瀬先輩、makkeiさん、お茶がはいったよ。」
「あ、ありがとう、たけるさん・・・」
「すみません。いただきます・・・」

「芹香さぁぁぁん!!いったいどこにいったんだぁぁぁぁ!!!」

「ぶっはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「スカートがめくれる度に鼻血をふいてたら、試合にならないと思いますが・・・」

「さあ、次はこれよ。ハイドくん。」
「師匠おおおお!!テニスはテニスボールでやる物であって、ボーリングの球とか鉄球
とか、手榴弾はかんべんしてぇぇぇ!!!」

「・・・次、ミスしたら、すね蹴り10回ね。」
「しくしく、がんばりますぅぅぅ。」

「いい天気ですねぇ・・・・はるか先生・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・うん。そうだね。」

「・・・・・・・・」
「あぁ、瑠璃子さん、電波はだめですぅ。今、リモコン発火装置作ってるんですからぁ。」

「あのね、ジンくん、わたしおべんと・・・」
「さあ、戦士に休息をとってるひまなんかないぜっ!!練習、練習!!」

「ん?なに?急に黙って。」
「いや、なんでもない・・・・・・(『勇希もテニスルック着るとかわいいな』なんて事を
考えたなんていえるかぁぁぁ!!(滝涙))」



 各大会参加者もがんばっているようである・・・・いろいろと・・・・。



(本戦に続く)