テニス大会特訓Lメモ「俺は橋本。名前はまだない。」  投稿者:Sage
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 このLメモは、トリプルGさんの
 ”テニス魔球Lメモ「夕暮れの死闘」”
 の続きです。
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 バアン!!
 勢い良く、家庭科実習室のドアが開かれた。
「あ、梓・・・頼みがある・・・俺を鍛えてくれ。」
「ど、どうしたのよ、橋本、ぼろぼろじゃない。」
 クラブ活動が行われている放課後、お料理研究がこの部屋を占領しており、梓の姿も
その中にあった。
「テニス大会・・・負けられないんだ。頼む・・・俺を鍛えてくれっ」
 よろよろと、梓に歩み寄る橋本。
「『頼む』って、あんた、そんなことより手当しないと・・・」
 梓は、心配げに橋本に駆け寄ると、今にも倒れそうな橋本に手を貸した。
 他のお料理研究会のメンバーも心配げに駆け寄ってくる。
「負けられないんだっ!!」
「は、橋本・・・・」
「どうしても・・・勝つ・・んだ・・・」
 どさっ。
 言い終わらないうちに、橋本は倒れた。



「トリプルGくんと、芹香お嬢を賭けて戦ったったぁ!?」
「あのさぁ誠治・・・大きい声で言わないでくれよ・・・傷に響く・・・。」
 保健室に運ばれた橋本は、梓の応急処置をうけ、ベッドに腰掛けていた。
 あちこちに絆創膏やら包帯やらが見えていた。
「あんた、ばかぁ?」
「馬鹿はないだろう、梓ぁ・・・」
「馬鹿よ。馬鹿。それもとびっきりの。」
「だってよぉ、テニス大会、久々の出番なんだぜ?2年の藤田を見てみろよ。あれだけ
出番があっても、扱いは『一般生徒A』だぜ?俺なんかどうなるんだよぉ(うるうる)」
「まあ、それについては同情するけど・・・って、だからと言って、怪我して出場でき
なくなったらどうするのよっ!」
「しくしくしくしく・・・・」
「それはいいけど、この件が大会の実行委員に知られたら、出場停止だぞ。それは覚悟
しておけよ。」
「うっ・・・せ、せいじぃ・・・」
「そんな目で俺をみてもだめ。自業自得だ。」
「やっぱり、あんた、馬鹿。」
「あうぅぅ・・・・」
「ま、怪我も大したことなかったし、打ち身なら今日1日、ゆっくり寝てれば大丈夫で
しょ。明日、練習しましょ。どうせ誠治とあたしも練習するつもりだったし。」
「ん。そうだな。」
「すまんっ、恩にきるよ、梓っ。」
「・・・・・どさくさに紛れて、手をにぎってるんじゃないっ(ぼかっ)」
「いってぇぇぇぇ!!!」
 やっぱり馬鹿な橋本であった。



 翌日。
 学園のテニスコートにて。
「と、いうことで、『今日の練習は芹香さんには内緒に。』と橋本の馬鹿が言うので、
スペシャルゲストを呼んでみました。」
「梓ぁ、馬鹿っていうなよぉ。」
「うるさいっ。あんたの為にやってるんだからねっ!」
「うぐっ・・・」
「というわけで、今日のスペシャルゲストです。」
「どうも。柏木耕一です。」
「・・・・耕一先生、さっきからいたじゃん。」
「(しーっ!!読んでる人にはわからないんだから、誠治くんはだまってろっ!!)」
「・・・・なんか、耕一先生、今日はハイですねぇ。」
「おうっ。大会に参加できないのは残念だが、千鶴さんと一緒のペアになったり、千鶴
さんと戦ったり、千鶴さんの手伝いしたりしなくていいかと思うと、もう、嬉しくてな。
わははははははははははは。」
「・・・千鶴ねぇさんに言ってやろう・・・」
「・・・帰る・・・」
「あぁ!!耕一っ!!今日は大事なコーチ役なんだからっ!!わかった。だまってるか
らぁ。」
「・・・ま、しゃぁねぇなぁ。んで、誰を鍛えるんだって?」
「あそこの馬鹿。」
「しくしく・・・はぁい。馬鹿です。」
 弱々しく橋本が手を挙げる。
「よし。とりあえず俺と橋本くん、梓と誠治くんに分かれて試合形式で腕試しと行くか。」
「「「はぁい。」」」



「せぇのっ!!」
 梓のサーブ。
 高めに上げた球めがけて、梓は『両手で』ラケットを振り回した。

 ドッゴーン!!!

「うぎゃぁぁぁ!!!」
「・・・すげぇサーブだなぁ。両手打ちのサーブなんて、初めてみたぞ。」
「えへへへ。耕一に教わったんだ。『必殺っ!ダブルハンドサーブ』なんちって。」
「・・・それはそれとして、梓、打った球、橋本に直撃して・・・なんか倒れて・・・
痙攣してるぞ、あいつ・・・」
「へ?」


 橋本、治療の為、15分中断。
 その後、試合を再開し、3セットほどをこなした。
「ふむ・・・。」
「うーん・・・。」
「いろいろわかったわね。」
「どうでしょうか?先生・・・」
「うむ。橋本くんは・・・」
「根性なし。」
「打たれ弱い。」
「すぐにあきらめる。」
「女ったらし。」
「馬鹿。」
「へなちょこ。」
「ナンパ。」
「かっこつけ。」
「長岡さんの蹴り一撃で落ちたらしいし。」
「やっぱ、M.Kちゃんの下僕?」
「矢島くんと出来てるって話も・・・」
「・・・・だまって聞いていれば、おまえらぁぁぁぁ!!!!」
「そうなの?」
「先生までっ!!違いますっ!!」
「ま、冗談はさておき、ボールに対する執着心がないのは事実だな。なまじ、判断力が
いいせいか、『これは無理だな』と思うと、すぐにあきらめてるだろう。君の反応速度
は、決して悪い物じゃない。自分の力を過小評価してるぞ。」
「はぁ。」
「と、言うことで、特訓だ。」
「は、はいっ!」


 第2ラウンド。
 ネットをはさみ、耕一と橋本が対峙していた。
「いくぞ。もし打ち返せなかったら、どうなるかわかってるな?」
「は、はい。」
 コート中央でラケットを構える橋本。
 そして、橋本の後ろには、誠治と梓がいた。
 特訓の内容はこうである。

『耕一がトスする球を橋本は返す。もし、橋本がとれるはずのボールをミスした場合、
後ろにいる誠治と梓が打ち返す。橋本を狙って。』

 まさに背水の陣である。
「よっ。」
 耕一がアンダーハンドで球をうつ。
 橋本の右、ちょっと離れた位置にである。
「とっ。」
 ダッシュした橋本は、球をうまくミートし、耕一側のコートに打ち返す。
「次っ。」
 耕一は、かごから次の球を取り出すと、今度は橋本の左側へとボールを飛ばした。
「わたたっ!!」
 あわてて逆サイドにかけだす橋本。
 ラケットを手が届く限りのばす。
 橋本は、ラケットの先端部分にひっかけるような形になりつつも、なんとかボールを
打ち返す。
「ほい、次。」
「あっ!!」
 またもや完全に逆を突かれた橋本は、次の球には手がだせなかった。
「あまぁぁぁいっ!!」
 スパァン!!
 後ろで構えていた梓が、容赦なく橋本めがけて打ち返す。
「いってぇぇ!!」
 梓の打った球を背中のちょうど真ん中にくらった橋本は、もんどりうって倒れた。
「ボールは、常に打ち返されることを考えろ。ボールを打ち返しても、そこで安心して
たらだめだ。すぐに相手をみて、次の挙動を起こすっ!!さぁ、次、行くぞ。」
「は、はいっ!」



「さて、次の特訓だ。」
 橋本が動けなくなるまで続けられた耕一の特訓は、2時間におよんだ。
 休憩を入れ、なんとか橋本が復活すると、今度は誠治が橋本と向かい合った。
「橋本は、そこそこテニスができる。うん。それは認めよう。でも、この学園で、
『普通にテニスができる』くらいじゃあ、初戦落ち決定だ。ということで第2弾。
魔球対策。まずは、俺のサーブを受けてみろ。」
「お、おう。」

 すぱぁん!!

 誠治の放ったサーブは何気ない、普通のサーブだった。
 球速もそれほどでもない。
 橋本は数歩サイドステップで横移動すると、ラケットを振りかぶった。
 が、

「おわっ!!」
 バウンドすると同時に急激に方向を変えた球は、球速をまし、橋本の顔面すれすれを
かすめて飛び去った。
「な、何だよ、今の!?」
「ちょっと特殊なボールを使っている。このラケットも特別製で、ガット面の摩擦抵抗
が極限まで高めてある。普通に打っても、通常の数倍のスピンがかかっているんだ。魔
球のたぐいをうち破るのは、結局は反射神経と、ボールに対する集中力だ。よく見て、
素早く反応できるようにする。この特訓は、それが目的だ。」
「・・・わかった。よしっ。こいっ!」
「いくぞっ!!」



「橋本、思ったよりもがんばるわね。」
「ああ、そうだな。筋はいいんだよ。運動神経も悪くない。彼に足りないのは、やる気
と努力かな。」
 コートサイドのベンチに腰掛けながら、梓は耕一とともに、橋本の特訓を眺めていた。
「はぁ。女性に関してはやる気も努力もあるんだけどねぇ。そのやる気をテニスに発揮
すれば、わざわざ事前に闇討ちなんてする必要は・・・、あっ。」
 ずべしゃっ。
 球を取り損ね、バランスを崩した橋本が、コートにはいつくばる。
「もう、ぼろぼろね・・・。」
「ああ。」
 ラケットを杖がわりにして、立ち上がる橋本。
 しばらく肩で息をしていたが、やがてラケットを構える。
「でも、がんばってるわね・・・。」
「そうだな。」
 誠治が打つ。
 橋本がよろけながらも打ち返す。
「馬鹿だけど・・・でも・・・」
「ちょっとは見直したか?」
「・・・ちょっとだけね。」
「ふふっ。」
「なによっ、気持ち悪い笑いねぇ。」
「なんでもない。」
「・・・あっそ。さて、ちょっと家庭科実習室でもいって、なんか作ってきますか。」
 梓はバッグを手に取ると立ち上がった。
「あら?芹香・・・」
 振り返ると、フェンスの鉄柱に隠れるように芹香の姿があった。
「どうしたの?中にはいればいいのに。」
 微笑しながら、ゆっくり芹香は首を振った。
「もしかして、橋本とトリプルGくんがやったこと、知ってるの?」
 こくん。
「ふうん・・・。そっか。知ってたか。」
「・・・・」
 芹香が、ちいさな声で橋本に渡すように言いながら、梓に薬瓶を差し出した。
「なに?これ。」
 傷を早く治すための飲み薬だと、芹香は告げた。
「わかった。晩御飯と一緒に飲ませておくよ。くすっ。あんたも大変だねぇ。もてる女
はつらいってやつかな?」
「・・・・・」
 そんなことはありませんと、かすれるように言う芹香の頬は、夕日に染まる彼女の肌
よりも、すこしだけ赤かった。

 その晩、芹香の薬を飲んだ橋本は、気絶するようにぶったおれたが、翌日には傷や痣
がすっかり消えていたという。


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トリプルGさんのお話で、闇討ちは仕掛けるわ、初戦でテニスマスター(ただし、本人
にやる気があれば(笑))のはるか先生とぶちあたるわで、さんざんの橋本君救済SS
です(笑)ま、主人公の意地、ならぬ、脇役の意地ということで、ちょっとはテニスで
がんばってくれる事を期待します(笑)

菅生誠治:橋本の練習で、スピン系のトリックショットのスキルアップ。
柏木梓 :耕一直伝、ダブルハンドサーブ習得。両手うちのヘビーショット。
橋本  :「脇役の意地」習得(笑) ボールの回転を見切る目を手に入れる。
     あとは、打たれ強さと、根性アップ。

てなところで〜。