テニス大会外伝Lメモ「戦い済んで日が暮れて・・・」 投稿者:Sage
 テニス大会で、EDGE×ハイドラント組に負けた橋本×芹香組が、とぼとぼと控え
室に帰ってくる。
「お疲れ。」
「お疲れさま。」
「残念でしたね。」
 応援に来ていた長谷部彩や柏木梓、工作部の面々が声をかける。
「くっ。後少しだったのに・・・」
 心底悔しそうに橋本がうめく。
「まあ、良くやったほうよ。」
「そうそう。生きて帰ってきただけみっけもの。」
「というか、良く点数とれたよ。あの相手に。」
「まあ、試合開始、あれだけ余裕ぶっこいてたんだ。負けて当然。」
「所詮、フルネームもないキャラだもんねぇ。」

「・・・・・・・どちくしょぉぉぉぉ!!!」
 橋本号泣。



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 テニス大会外伝Lメモ「戦い済んで、日が暮れて・・・」

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 試合が終わった直後、EDGEがこういった。

「最初から本気でくれば、もしかして私達を倒せたかもしれないのに。
 私達がその機械の弱点に気づく前にね。」
「弱点だと…」
  聞きとがめて立ち上がる誠治。
「スタミナよ。」

 (・・・それは、機械じゃなくて、プレーヤーの弱点じゃん(汗笑))
 などと、揚げ足取りをしそうになるのをこらえつつ、誠治は、素直に頷いた。
 そう。橋本と芹香には、スタミナがない。
 かたや、ナンパに精を出す優男。
 かたや、深窓のご令嬢。
 結果は見えていたと言っても良い。
 勝機があるとすれば、経験差を活かし、戦略、戦術で勝つ。
 相手がボールに慣れる前に差を付ける。
 ストレートな球で勝負するのではなく、ロブとフェイントで翻弄する。
 それしかなかった。
 橋本にも芹香にもその技術はあったはずである。
 それが出来なかったも、それが二人の力量の限界だったのだろう。
 だから、誠治は結果について不満はなかった。
 不満があるとすれば・・・・
「いつまで彩の手を握って泣いてやがるっ!!!!」


  どげしっ!!!!!


 彩の手をとり号泣している橋本に、遠慮のない誠治のかかと落としが炸裂。
「いってぇぇぇぇ! 蹴ったな! 今、はげるかと思ったぞっ!!」
「いつまでうじうじしてやがるっ。いい加減、男ならしゃきっとしねぇかっ!」
「そうそう。姉さんから聞いてるわよ。試合前、『きっとボコボコにされるんだぁ。』
って泣いてたらしいじゃない。命があっただけみっけものよ。」
 綾香がにやにやしながら橋本に突っ込みを入れる。
「え? あ、いや、その・・・あれは、あれだ。芹香さんの気を引こうと、ナイーブ
な俺の一面をだしただけで・・・」
「・・・ナンパ目的かい。最低・・・」
「ほんと・・・」
「(こくこく)」
 女性達の冷たい視線が集まる。
「え?あ?えーと・・・」
 動揺の隠せない橋本。
「こんな最低男ほおっておいて、帰りましょ。姉さん。」
「(こくり)」
「どっかでご飯でも食べてこうか。」
「そうですね。」
 綾香に先導され、部屋を出ていく面々。

 ポッツーン・・・・

 椅子に茫然自失状態で置き去りにされる橋本。

 ポン。

 苦笑しながら橋本の肩を叩く誠治。

「・・・・・・誠治ぃぃぃぃぃぃ!!」
「俺にその趣味はねぇぇぇぇ!!(どがしっ!)」
 泣きつこうとした橋本の顔面に、誠治の拳がめり込んだ。





 橋本が気を失ってから、どれくらいたったろう。
 気が付いた時には、橋本は保健室のベッドに横たわっていた。
「ててっ。遠慮無しに殴りやがって・・・」
 もそっと起きあがる橋本。
 顔に当てられた塗れタオルがぽとりと落ちる。
「はぁ・・・・」
 溜息が漏れる。
「やっぱ、所詮俺なんて脇役なんだろうな・・・。
 カッコつけようとしてもだめ。
 女にもてようとしても駄目。
 男にもてようとしても駄目。
 はぁ・・・このまま藤(ぴー)達の様に生徒ABCになっちまうんだろうな・・・。」

 ずぅぅぅん・・・・

 珍しくシリアスに暗くなる橋本。
 窓から差し込む夕日に染まった彼は、まるで老人の様にも見えた。

   がらがら・・・・

 保健室の戸が開く音がする。

   ぱたぱたぱた。
   かちゃん。
   ちゃぱちゃぱ。

 ついたての向こう。
 だれかがいるようだ。
 タライの水にタオルを付ける音、それを絞って畳み直す音がする。
(保険の先生だろうか。)
 橋本はベッドに戻り、目をつぶった。

   ぱたぱた。

 足音がする。
 すぐそばに人の気配が近づく。

   そっ・・・

 冷えたタオルが額に当てられる。
(気持いい・・・・)
 テニスで疲れた体と、落ち込んだ心が癒されるようだった。
 ふと気になり、ゆっくり目を開く。
「・・・・・芹香さん?」
 そこにいたのは、来栖川芹香だった。
「ぼそぼそぼそ・・・・」
 大丈夫ですか?と、蚊の鳴くような声が聞こえる。
「ああ。大丈夫・・・だけど、帰ったんじゃ無かったのかい?」
「(こくん)」
 芹香は首を縦に振る。
「どうして?」

  「だって、貴方は、私と一緒に闘ってくれたパートナーですから。
   なんにもできない私を誘ってくれた上、しかも一生懸命になって闘ってくれた
   大事なパートナーですから。
   私、嬉しかったんです。
   スポーツ大会なんて参加することなかったですし、テニスをあんなにおもいっきり
   出来たのも初めてでしたし。
   だから、お礼が言いたかったんです。

   ありがとうございました。

   さそってくださって。

   とっても嬉しかったです。

   本当にありがとうございました。」


 橋本は、芹香の口から、これほど長い台詞を聞くのは初めてだった。
 いつも無口な彼女。
 話をしても、小さな声で数語しか言わない彼女。
 そんな彼女が、真剣に、一生懸命話していた。
 彼女が今回の大会に対してどれだけ真剣に取り組んでいたか。
 参加できたことがどれほどの喜びだったか。
 それが橋本にも切々と伝わってきた。

  ぺこり。

 ありがとうの言葉とともに芹香が頭を下げた。
 黒いたおやかな髪が流れるようになびき、頭を上げると元の位置にさらりと戻る。
 夕日を浴び、輝く髪は、まるで金の糸のようであった。

   なんて情けないんだろう・・・・

 橋本のハートがズキッと痛んだ。

   自分は、目立つために参加した。

   可愛いことプレーし、その子に近づく事が目的でペアを組んだ。

   でも、芹香さんは・・・

 自分が矮小に見えた。
 彼女が真剣だったぶん、よけい不真面目だった自分が惨めに見えた。
 涙があふれてきた・・・
 情けない自分が嫌になった・・・
 額のタオルを手にして、目に当て、涙を拭った。

「・・・・ぼそぼそ」
 どこか痛いんですか?と、芹香の声がする。
 そのいたわりが逆に橋本にはつらかった。
「なんでもないよ・・・。」
 泣き声になりそうな声をこらえ、そうつぶやく。

   なんて情けないんだ、俺は・・・

 涙が次から次へとあふれてきた。
 泣き声だけは我慢していた。
 が、芹香がやさしく頭をなでた時、橋本はこらえきれず、枕に顔を押しつけ、嗚咽を
漏らした。
 夕日が沈むまで、芹香はやさしく橋本の頭をなでていた。
 その日の夕日は、いやに綺麗だった・・・



 −完−



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おまけ1

 保健室のドアの前にて

(ぬおおおおお!!!!お嬢さまをあんなナンパ男と二人にするなど、ゆるせんっ!!)

(まあ、まあ、まあ、まあ・・・(苦笑))

 誠治と梓はセバスを押さえるのに必死だった。


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おまけ2

「やっぱ私が姉さんと入れ替わって、ハイドをこてんぱんにしてやればよかったのよね。」

 次に大会があったら、綾香はそうしようかと思った。


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おまけ3

「いいっすよね、先輩は。こんな出番があって・・・(涙)」

 矢島は一人、放課後の屋上で泣いていた。



  (C)Sage 1999