試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章 : 茜の節(前編) 投稿者:Sage
「お姉ちゃん、夕焼けって綺麗だね。」
「そうね。」
「でも、夕焼けってなんか悲しくなるね。」
「そうね。」
「なんでかなぁ。」
「うーん・・・なんででしょうね。」
「なんでだろうね・・・・。」

 西の空は、まるで山の紅葉が染み出したかのように真っ赤に染まっていた。
 夕日が山裾に沈むと空の赤みも急速に明るさを失い、ぽつん、ぽつんと星がまたたき
始める。
「そろそろご飯にするよぉ。手伝ってぇ。」
 台所から次女の柏木梓の声がする。
「はぁい。さ、行きましょう、初音。寒くなってきたわ。」
「うん。今日はお鍋だってさっ。」
 長女の柏木千鶴と共に縁側で夕日を見ていた末っ子の柏木初音は、姉を手伝って雨戸
を閉めると、梓を手伝うために台所へ向かった。

 ぐつぐつぐつ・・・

 コンロでは土鍋がいい音を立てていた。
「楓、もう具とか運んじゃって。」
「はい。」
 台所には、梓と三女の柏木楓がいた。
「あ、初音お鍋用の取り皿出してちょうだい。」
「はーい。」
 お鍋で使うお皿も、半年ぶりの登場である。
 秋が深まると共に気温も急に下がり、お鍋にはいいシーズンがやってきた。
 食器が運ばれ、カセットコンロがセットされる。
 両手に可愛らしいパンダのミトンを手にした梓が鍋を乗せる。
「さぁ、開けるぞ〜。」
「わくわくっ」
 まるで宝箱が開けられる瞬間を見るように、初音が嬉しそうにのぞき込む。

 ぱかっ。

 ほわあぁぁぁぁ〜

 湯気があふれ、一瞬視界を塞ぐ。
 味噌と昆布の臭いが鼻孔をくすぐる。
 それと同時にほんのり香る海の香り。
「今日は寒かったから、石狩鍋にしてみたよ。あと、足立さんが知り合いからカニをも
らってきてくれたんで、今日はカニづくしっ!!!」
 柏木家のコック長ともいえる梓がメニューを解説する。
「わーい!」
「美味しそうね。」
「じゃ、いただきましょうか。」
「うん。いただきまーす。」
「いただきます。」
 にぎやかな食卓が始まる。
 四姉妹だけで暮らすこの家。
 日中は全員が学校などに出かけてしまうため、この家が最も賑やかになる瞬間である。
「美味しいよっお姉ちゃん。」
 初音が素直な感想を述べる。
「火傷しないように気を付けなさいよ。楓、ご飯は?」
「(こくり)」
 既に二杯目の具を取るため鍋に箸を向けた楓が梓の問いにうなずく。
「ふう、やっぱり寒いときは鍋ねぇ。」
 暖かい汁が喉から食道を伝って胃に落ちてゆくのを感じながら、千鶴がしみじみと言
うと初音が、そうそう、と言いたげに、口にカニの足をくわえたままうなずいた。
「ほんと、美味しい・・・」
「えへへ。今日はわざわざ味噌を買いに隣町まで行ってきたからね。『国産大豆のみ、
職人が全て手作業で作った、長期熟成発酵無添加味噌』ってやつなんだ。」
「へ〜、でも味噌だけじゃなくて、具も美味しいよ。特にこのキノコなんてほんのり甘
くて、凄く美味しい。」
「(こくこく)」

 ぱくっと初音が口に放り込んだキノコ。

 うなづきながら楓がかみしめたキノコ。

 梓は、自分の血がさぁっと引く音を聞いた・・・
 具にはキノコなんてないはずだった・・・
「千鶴ねえさん・・・・・またやったね(汗)」
「はい?」
 千鶴は梓の問いに、にこやかに微笑みながら首を傾げた。



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試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章 : 茜の節(前編)

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 翌日、まだほとんどの生徒が登校していない時間。
 梓は工作部のドアを叩いた。
 中から「はーい」と返事がして、がらっと扉があく。
「あ、おはようございますっ。」
 ドアを開けたのは、工作部に常駐しているSDマルチ型サポートロボットのちびまる
であった。
「おはようちびまるちゃん。部長いる?」
「はい。どうぞ奥へ。」
 梓はちびまるに促され、誠治のいる部屋へと通された。

「楓ちゃんと初音ちゃんが行方不明!?」

 梓の話を聞いて、思わず誠治の口から大声が出た。
「ああ。昨夜、セイカクハンテンダケを食べちゃって。私は食べる前に気が付いたし、
千鶴ねぇは偽善者だから反転しても同じだったんだけど、二人は見事に反転しちゃってね。
その場は大人しくなったんだけど、どうやら夜中に二人して家を抜け出したみたいで、
朝起きたらベッドはもぬけの殻だったんだ。」
 梓は頭痛がするかのように頭を押さえながらそう言った。
 セイカクハンテンダケ・・・
 柏木家の庭にそれを食べると、文字通り性格が反転するキノコである。
 前回間違って食べた柏木4姉妹。(Leafから好評発売中の「痕」をクリアしてね。)
 梓は泣き上戸となり、楓は陽気なウキウキサンシャイン、そして初音はヤンキーなワル
になった。
 そのキノコをまた初音と楓が食べたというのだ。
「で、どうして俺の所に?」
「いや、実は車が無くなっててさ。探そうにも耕一も見付からないし・・・。
初音あたりが無理矢理運転しているとしたら、無免許だから警察にも言えなくて・・・」
「ふむ・・・わかった。ちびまる、FENNEKを起こしてくれ。それと、セリオさん
を探して、来栖川のデータベースから、トラフィックインフォメーション(交通情報)
にアクセスしてもらってくれ。該当する暴走車が無いかどうかさがしてもらってくれ。」
「はいっ!」
 誠治は机から車のキーを取り出すと、ジャケットを羽織った。
 そして梓を従え、車庫へと向かう。
 そこには車形態のFENNEKと、誠治の愛車「赤のYZR−F1」が待っていた。



 数十分後、梓を乗せたFENNEKと、バイクにまたがった誠治は路上の人となって
いた。
『ピー ピー ピー ピー』
 誠治の携帯端末が音を立てる。
 バイクのグリップに備え付けられたボタンを押すと、ヘルメットのシールドに映像が
映し出された。
「誠治だ。何か判ったか?」
 2cm各程度の小さな領域に、インターネットを経由して送られてきた工作部の風景
が映し出される。正面にはちびまるが座っていた。
「セリオさんから情報が入りました。暴走車が確認されたのは、海岸線、山の手の峠、
工場街の3カ所です。」
「このうち工場街の連中は、暴走族だっちゅうことが確認できとるそうや。残るは
海岸と峠や。」
「智子さん!?」
 ちびまるの横から割り込んできたのは2年の保科智子であった。
 工作部員の彼女がそこにいる自体は問題ないが、この時間は授業中のはずである。
「千鶴校長から、数名に通達があったんや。東雲先輩や、ジン先輩も探しに出とる。
私は情報収集を手伝うっちゅうことで授業はキャンセルしてもろうたわ。美加香ちゃん
もきとるで。」
 誠治の疑問を察したのか、智子が答える。
「そっか、すまんな。」
「ええって。困ったときはお互い様や。そのかわり、今度梓先輩に料理でも教えてもら
うことにするわ。」
「了解。とりあえず、俺は海岸方面へ行ってみる。他の連中のコントロールを頼む。」
「きぃつけて。またなにかあったら連絡するわ。通信終わり。」
 端末の映像が切れる。
 ほっと溜息が漏れる。
 誠治やFENNEK達の実働部隊、智子や美加香の頭脳集団、それをサポートする
工作部員達。
 全員が動けばどんな問題でも解決できる。
 そんな自負が誠治にはあった。
「よし、いっちょうやりますか!」
 誠治はヘルメットの中でつぶやくと、海岸線へ向けてバイクのアクセルを開けた。



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 ひさびさ工作部の出番です。
 てなことで、第1章は柏木家の面々がメインで。
 しかし、気が付くと車に乗ってる・・・高校生には不向きですかな(汗笑)
 ちと長くなりそうなので、分割投稿になります。
 他のも一生懸命かきますですm(__)m


タイトル:Lメモ「試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章:茜の節(前編)」
コメント:悪夢再び。朝、梓が目を覚ますと、楓と初音の姿はなかった・・・