Lメモ「試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章 : 茜の節(後編)」 投稿者:Sage


 ・・・それはたしか午前4時をまわった頃だった。

「ピンポーン」

 熟睡を通り越して爆睡していた俺を、無粋にも目覚めさせるチャイムの音がした。

「ピンポーン」

(ったく、だれだよこんな時間に・・・)
 眠気に押され、居留守を決め込もうと布団を頭からかぶる。

「ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・」

(うるせえなぁ・・・・)

 どんどんどん!!!
「おらぁぁぁ!!耕一ぃぃぃ!!いるのは判ってるんだっ!とっとと出て来やがれえぇ!!!」

 俺はがばっと飛び起きた。
「この声・・・初音ちゃん!?」
 それは、目が覚めても終わらない悪夢の始まりだった。
 耕一は、昨日見た雑誌の星占いで、今月の運勢が最悪だった事を思い出した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

試立Leaf学園工作部奮戦記 第1章 : 茜の節(後編)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 深夜、突然柏木耕一のアパートに乱入してきた初音と楓。
 バンバンと、ドアを叩く音に大慌てで鍵を開けた耕一。
「おう!耕一!ドライブしようぜっ!ベイベー」
 という初音の言葉にもびっくりしたが、どうやってここまで来たのか、鶴木屋のロゴ
が入った車がアパートの前の電柱につっこんでいるのを見て、更に驚いた。
 家へ送ろうとなだめすかしながら車に乗せたが、反転した初音が言うことを聞くはず
もなく、どこへ向かうともなく爆走するはめとなった。
「おるあぁぁ!!そこの車じゃまだあああ!!」
「いぇぇいっ!!」
「初音ちゃん!!そんな乗り出したら危ないって!!楓ちゃんも喜んでないで初音ちゃん
を止めてくれぇぇぇ!!」
「うるせぇっ!耕一、もっとスピードだせっ!」
「うわあああああ!!!アクセルから足をどけてくれぇぇぇ!!死ぬぅぅぅぅ!!」
 セイカクハンテンダケの作用により、性格が反転した楓と初音。
 ヤンキーモードとなった初音は運転席にすわる耕一をけとばしながら、車から身を
乗り出し、まるで暴走族箱乗り状態。
 今日もウキウキサンシャインな楓は右往左往する耕一の車の中で、キャッキャと大
喜びしていた。
「おらあっ!今度は右だぁぁぁぁ!!!」
「うわあああ!!反対車線だってばっ!!ハンドルから手を離してくれぇぇぇぇ!!!」
 そのとき、耕一は死を予感した。



 暴走する鶴木屋のマークの入ったワゴンが工作部の張った情報網にかかったのは、お昼
をまわったころであった。
「FENNEKさん、ターゲットを確認しました。海岸線を南に向け走行中。現在C地区
を通過したもよう。誠治さんも既に向かっています。」
 昨夜、暴走する車が確認されたのは、山の手方面の峠と、海岸線。
 そのうち、峠を探索していたFENNEKに、工作部で情報収集に当たっていた美加香
から連絡が入る。
「了解!つかまっててください、梓さん。」
 そう言うが早いか、車形態のFENNEKはハンドルを思いっきり切るとサイドブレー
キを引いた。
 ドキャキャキャキャキャ!!!
 後輪がグリップを失い、車は軽いスピン状態に入る。
「きゃあああああ!!」
 思わずFENNEKに乗る梓が悲鳴をあげるが、FENNEKはそんなことにはかま
わずカウンターを当てると、車が180度回転したところでアクセル全開にした。
 テールを流しながらも猛ダッシュで加速してゆくFENNEK。
 海岸線に向けて峠を駆け下りてゆく。

 そんなFENNEK達をを馬上から見下ろす男がいた。
「・・・・海・・・行く先は例の岬か・・・。ふん。」
 男はそうつぶやくと、またがる馬の轡を引き、崖の上から姿を消した。



 数時間後、美加香の指示に従い海を目指したFENNEKと梓は、とある岬の突端に
到着した。
「あ、あそこ!」
 車形態から人間形態に姿を変えたFENNEKが指さす先に、岩場の影に潜む工作部
部長、菅生誠治の姿があった。
 近づいてゆく梓とFENNEK。
 それに気が付いた誠治が手を振る。
「初音達は?」
 梓が誠治に詰め寄る。
「ほれ。」
 誠治が指し示した方向を見ると、人影があった。
 梓はその人影にじっと目を凝らした。
「・・・・なんで耕一、縛られてるんだ?(汗)」
「逃げだそうとして、ふんじばられた(苦笑)」
 梓の目に映ったのは、ぐるぐるに縛られている柏木耕一。
 なぜか耕一の上に正座で座り、お茶を飲んでいる柏木楓。
 岩の上に仁王立ちになり、腰に手をあて、海をにらみつけている柏木初音の後ろ姿で
あった。
「何してるんだ?」
「わからん。」
 疑問を口にした梓に、誠治が間もなく答える。
「まあ、なんにせよ、とっとと家に連れ帰ろう。」
 梓はそう言うと岩の影から出て、大股で初音たちの方へと踏み出した。

「おーい、初音、楓、もう帰ろうよ〜。」
「ちっ。余計なやつが来やがった。」
 毒づく反転初音。
「やっほ〜梓ねぇさん、お元気ぃ?」
 楓も反転状態のままのようである。
「ちょおおおっぷ!!」
 ごすっ!
 楓が梓の方を向いた瞬間、反転初音のチョップが彼女の首筋にヒットした。
 笑顔のまま崩れ落ちる楓。
 初音は手馴れた手つきで楓にさるぐつわを咥えさせると、耕一と同じように身動きで
きないように縛り上げた。
「は、初音、あんた・・・楓になんて事を!?」
「ふっ。気を失わせただけだ。隙を見せるのが悪いのさ。」
 ゆらりと立ち上がる初音。
 梓を見つめるその視線は、ほのかに殺気をはらんでいた。
「そう・・・・今日だったわね・・・・」
 突然、背後から声がした。
「やはり来たな・・・・千鶴ねぇさん・・・・」
「えっ?」
 梓が振り返ると、そこには千鶴の姿があった。
「『月を背負いて夕日に想い人の名を呼べ。その声が想い人に届いたなら、その恋、必
ずや成就するであろう。』だったわね。この岬に伝わる伝説・・・・」
 ゆらりと構える千鶴の周りの空気の温度が、彼女の目に浮かびつつある殺気に呼応し
て下がって行くように感じた。
「初音・・・あなたといえども、叫ばせる訳にはいきません・・・」
「ふっ。ババアは引っ込んでな。耕一はいただくぜっ。」
 ピキーン。
 年齢に関する言葉が初音の口から出た瞬間、千鶴の周囲の温度は一挙に下がった。
「ちょ、ちょっと、千鶴ねえさんも、初音も待ちなさいよ!ほらっ、誠治もFENNE
Kも止めるの手伝って!」
「じょ、冗談だろうっ!?巻き込まれたらそれこそ無事じゃすまんよ(汗)」
(こくこく)
 すでに誠治とFENNEKは逃げ腰だった。



 夕日が間もなく沈もうとしていた。
 立ち向かう千鶴と初音。
 二人とも微動だにせず、相手の出方をうかがっていた。
 その間でどうして良いかわからずおろおろする梓。
「・・・FENNEK・・・折り入って頼みがあるんだけど・・・。」
 その様子を見ていた誠治がささやくようにつぶやいた。
「・・・なんです?」
「耕一先生を連れて逃げてくれ。」
「へ?」
「二人が争っている対象である耕一先生がこの場にいなければ、戦う必要はなくなる。」
「あ、そうか!」
「だが、二人にもしつかまったらぼろぼろになる事は間違いないぞ・・・・。」
「う・・・・。でも、二人が争うのは見たくありません。やりますっ。」
「ん。俺は離しかけて注意をそらして・・・みるけど・・・期待しないでくれ。」
「(汗)・・・・・・ご武運を。」
「うん(涙)」
 誠治は意を決すると、じり、じりっと前に進みはじめた。
 それにあわせ、FENNEKも物音を立てないように耕一の方へと進み始めた。
 5m・・・4m・・・3m・・・
 もう、後数歩というところにFENNEKが近づいたところで、誠治は梓の脇から歩
み出た。
「まあまあ、千鶴先生も初音ちゃんも落ち着いて。仲がいい姉妹じゃないですか。どう
です?同時に叫んでみては。所詮伝説なんですから、こんな事で・・・・」

 じろっ。

 ぴきんっ!

 誠治は千鶴と初音の凍るような視線を受け、一瞬で凍りついた。
 陽動の誠治が役に立たなかったため、FENNEKは動くことができなかった。
(無理かっ(汗))
 FENNEKがあきらめかけた瞬間だった。
「かえでえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!
  無事かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
 馬・・・いや、JJにまたがった西山が、岩場から飛び出した。
 独自に楓探索にでた二人(一人と一匹?)はやっとのことで岬の情報を得てたどり
着いたのであった。
 が、

「「邪魔だあぁぁぁっ!!」」
 千鶴と初音の鬼の力発動。

 どがっっっっ!
 ばきっ!

 鬼の爪、二閃。

 ひゅるるるるるる・・・・・・・・・どっぼーん!!

 冬の海に巨体が舞い、大きな水飛沫を上げた。
(いまだっ!)
 その騒ぎを見て、飛び出したFENNEKは耕一を背負うと全力でダッシュした。
 元が車のFENNEKである。
 人間形態でも時速80km/hで走行可能なパワーを生かし、一気に加速する。
「「あっ!!」」
 千鶴と初音が反応するが、一歩及ばず、FENNEKは速度をあげ、逃げにかかる。
「「まてぇぇぇ!!」」
「待てませぇぇぇんっ!」
 それでも追いかけて行く千鶴と初音。
 その姿を梓はぽかぁんと見ているだけだった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 しばらくして・・・
 工作部は初音が途中で正気に戻ったとの報告を受けると撤収に入った。
 一番苦労したのは凍ってしまった誠治の解凍だったそうだ。
『ああ、この二人はやっぱり血のつながった姉妹なんだな、と思ったよ。』と誠治は語っ
たという。

 梓は眠ってしまった楓を背負い、家路についた。
 梓が立ち去ったほんの数分後に、秋山の「あずさぁぁぁぁ!!!」という声が岬に響
いたらしいが、梓本人は「聞いてないっ!」と、強く否定したとの事である。

 FENNEKは「姉妹の喧嘩を見たくなかった。」との懸命の説明が千鶴さんに通じ、
なんとか無事でいられたらしい。
 と、いうか、「迷惑をかけたから。」と、初音ちゃんにボディーを磨いてもらって、
一番良い思いをしたのは彼かもしれない。

 西山とJJは見事に風邪を引いたそうな。
 楓が差し入れた雑炊をうまそうに仲良く食べる西山とJJの姿は、見るものを驚かせた
との事。

 なお、その後、「岬の伝説」は以前に志保が流したデマだったということが発覚。
 その後、志保が差し入れられた、差出人不明のクッキーを食べて食中毒を起こす事件が
起きて、「楓&初音行方不明事件」は幕を閉じた。


 後日、工作部にて・・・
 耕一を囲んで誠治、FENNEK、ちびまるがお茶を飲みながら憩いのひとときを送っ
ていた。
「耕一先生、大変でしたねぇ。」
「ああ。みんなにも迷惑かけたなぁ。」
「本当ですよ。俺なんて、死を覚悟で耕一先生背負って逃げたんですから。」
「すまんすまん。」
「で、耕一先生は、誰が一番好きなんでしょう・・・」
 ちびまるがボソッとつぶやいた。
「・・・そうか!耕一先生がはっきりすればこんな事件は起きないんだっ!」
「うんうん。はっきりしましょう。誰が好きなんです!?」
「え!?えーっと・・いや、その・・・・(汗)」
「さあ、はっきりきめちゃいましょう!!」
 詰め寄る誠治とFENNEK。
「あ、いや、その・・・誰が好きとかそういう問題でなく、結婚手言うのはやはり慎重
にかんがえてだなぁ・・・(滝汗)」
「さあ!さあ!」
「はっきりしてくださいっ!!」
「・・・・・・あ、俺、用事思い出したっ。またなっ!!!」
 脱兎のごとく逃げ出す耕一。
「あっ!ずるいっ!!」
「それでも教師ですかっ!!」



 その後しばらく学園では耕一先生の花嫁はだれだ、という話題で盛りあがり、一部の
女性の間では地の雨が降ったらしい・・・・

 めでたしめでたし・・・・・




 「「「「「「「どこがめでたいっ!!」」」」」」 by柏木家一同