リレー企画・コンバットビーカー第4話『機械の女神』  投稿者:Sage
 ある日の風見家。
「ひなたさん、早く洗濯物出しちゃってくださいね。」
「ん?ああ・・・。」
「ああ、じゃありませんよ。私だって、早く、家事終わらせて、TV見たいんですから。
ほらほら・・・」
「ぷわっ!おわっ!!こらっ!!着ている服まで無理矢理剥くなっ!!」
「・・・・ひなたさん、パンツ裏返しにはいてる・・・」
「やぁん(爆)」

(気が付くと、本編より、ホームドラマの方が長くなったりして(笑))

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      【勇者ゲーマー コンバットビーカー第四話『機械の女神』】


 うららかな日差しが、木々の間からオープンカフェのテーブルに座る一組のカップルに
注いでいた。
 男の向かいに座った、たおやかな髪の女性は、ウェイターが注いだ紅茶のカップにほん
の少しミルクを垂らすと、その桜色の唇を琥珀色をした液体へと近づけた。
 男もそんな女性の仕草を気にしつつ、カップ・・・ではなく、湯飲みからお茶をすすっ
た。
「それで、私に話ってなに?」
「ああ・・・。」
「なによ。忙しいって言っているのに無理矢理引っ張りだしてきたんだから、早く言いな
さいよ。」
「ああ・・・・。なあ、綾香・・・・・。」
「なに?」
「俺と一緒に・・・」
「いやっ!」
「まだ何も言ってないぞっ!!」
「どうせ、また、『世界を破滅に』とか『人々に恐怖を』とか言うんでしょ。いやよ。」
「なぜだっ!!なぜ俺の理想がわからん!!」
「ハイド・・・あんたもいいかげん、そんな子供じみたこと言うのやめなさいよ。そんな
だから、いっしょに遊んでくれるの、あの葛田くんみたいなのだけになっちゃうのよ。」
「こ、子供だとぉっ!!ちがわいっ!おれだってちゃんとかんがえてるんだいっ!」
「はいはい。とにかく、人に迷惑かけるようなことだけはやめなさいね。」
「うぇぇぇぇん、ぐれてやるぅぅぅぅ!!!」

 ・・・・幼児化が進んだか?ハイドラント・・・(爆)




「ということで、来栖川を叩きつぶすっ!!」
 秘密結社ダーク13使徒の本部に戻ったハイドラントは、赤くなった目をこすりながら、
葛田を前に拳を握りしめた。(泣いてたのか?(爆))
「…導師……それって…」
「ち、違うぞ!!決して逆恨みとか、そういう事ではないぞっ!えっと・・・そうだ、
『高い技術力、生産力を保つ来栖川グループは将来間違いなく我々の前に敵となって立ち
ふさがるにちがいないから、いまのうちに叩きつぶしてしまえ。』っというのが理由だっ!」
「…導師……今、決めましたね…」
「ええい、そんなことより、攻撃だっ!!」
「…お任せを……今日は面白い物が手に入りましたので…(にやり)」
 ズビュウゥゥゥン・・・・・
 葛田の背後、闇の中に深紅の瞳がゆっくりと開く。
 一つ、二つ・・・やがては壁を埋め尽くすばかりの目、目、目・・・
「こ、これは・・・」
 ハイドラントの頬に、一筋の汗がつたった・・・




 beakerは、坂下好恵をつれ、来栖川電工中央研究所を訪れていた。
 自らの武器「クリムゾン」とはいったいなんなのか、そして「クソゲーハンター」の力
とはなんなのかを調べにであった。
「ふわぁ、これがくりむぞんですかぁ。」
「ふむふむ。」
「やはり、構造、材質、エネルギー源など全ては不明ですね。」
 この日は、試立Leaf学園に通うメイドロボたちの一斉整備点検日にあたっており、
マルチや、セリオをはじめとするメイドロボ達が来栖川エレクトロニクスに集まっていた。
「そうですか・・・。結局なにもわからずか・・・」
 セリオが読み上げた結果を聞いて、beakerは、予想は出来ていたものの落胆は押さえら
れなかった。
「まあ、気を落とすな。まだ結果は出ていないんだ。今日集めたデータをもとにもう少し
細かく調べてみるから。」
 今回の調査を担当した長瀬源五郎主任が、beakerの肩を叩きながら言った。
「はい。おねがいします。」
「さ、マルチちゃんたちも点検終わったらしいし、みんなで、ぱぁっと遊びに行こう。
beakerも行くでしょ?」
「ん、ああ。そうだな。みんなでカラオケでも行きますか。」
 元気づけようとしてくれる坂下の気持ちはbeakerにもよくわかった。
「わぁい、カラオケですかぁ?」
「ええ。みんなで行きましょう。」
「わたしも行ってよろしいのですか?」
「もちろんですよ。セリオさん。こういうのは、人数が多い方が・・・」

 ずずずずずずぅぅん・・・・・・・・・・・

「な、なんだ!?」
 地響きとともに建物が揺らいだ。
「地震・・・じゃない・・・これは・・・爆発!?」



 ビーッ! ビーッ! ビーッ!
 警報が研究所内に鳴り響く。
「緊急事態発生。緊急事態発生。不法侵入者あり。一部に火災発生の模様。HM12タイプ
は最寄りの端末より防災用データをロードせよ。HM13タイプは各自サテライトサービス
を使用し、状況に応じ、対応に当たれ。武器使用自由。くりかえす。武器使用自由。」
 赤ランプが研究棟内部にともり、休止状態だったメイドロボ達が一斉に目覚める。
 HM13は、チタンナックルや警棒を装備すると、現場へと向かった。
 HM12はロッカーからバケツやモップを取り出し、火災現場や、まだ人が残っている部
署へと、救助のために向かった。

 そしてその現場には、葛田玖頭夜の姿があった。
「……ふふふふふふふ……メイドロボなぞ烏合の衆。ゆけ、岩石妖魔……」
 ごごごごごごごごご・・・・
 それは、意志をもった『岩』であった。
 人の背丈ほどの巨大な岩がごろごろと自ら転がり、建物を壊して行く。
 中には小さい岩もあり、目があるかのように、コンピュータや、配管など、重要な設備を
見つけると、はじけ飛ぶように、自ら飛び込んで破壊する。
 ガス管からは火が噴き、来栖川の重要なデータを納めていたコンピュータは粉々に壊され、
火花を散らしていた。

「こ、これは・・・」
 坂下たちを、マルチとともに安全な場所に避難させたビーカーは、クリムゾンを手に現場
へと向かった。
 さっきまで所員達が慌ただしく働いていた施設は、すでにぼろぼろになっていた。
「……ほほう……こんな所で会えるとは……。もはや、偶然などではなく運命……。」
「言っておきますが、僕に、男色の趣味はありませんよ。」
「……残念。ならばここで死んでください……」
「1つ聞いていいかな?」
「……なんです?」
「僕にそっちの趣味があったらどうするつもりだったんだ?」
「……それは、もう、すぐにでもベッドに……」
「・・・・・いきなりだがクリムゾンショットォォォォォォォ!!!!!!!!!」
「……なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 どごおおおおおおん!!!!!

 爆煙とともに、葛田の姿が見えなくなる。
「ふう、手強い敵だった・・・」
「…………ふっ。ずいぶんとなめられたものですね…………」
「なに!?」
 この至近距離で撃ったのだ。
 いかにパワーを持て余してコントロールの定まりにくいクリムゾンショットでも、はず
れる訳がない。
 土埃が次第に収まって行く。
 そこに立っていたのは・・・岩石妖魔・・・岩に身を包んだ葛田であった。



「だめです!敵の進入を止めることができません!!」
「不法侵入者の侵攻速度、徐々に上がりつつありますっ!」
 来栖川電工中央研究所の中央監視室に悲痛な叫びが響く。
 岩石妖魔の数、およそ100体。
 量産型セリオがチタンナックルやスタンロッドを武器に防衛戦を張るが、いかんせん、
多勢に無勢。徐々に押されつつあった。
 そして、葛田と接触したbeakerも、攻撃は続けているものの、岩石妖魔自らが盾となる
ため、大して効果はあげられなかった。
「くそっ。岩を攻撃で壊しても、またすぐにもとの塊にもどっている。あれではいくら攻
撃してもだめだ!!」
「ああいうのは、どこかで制御しているコアや、発信装置があるはずなのだが・・・」
 長瀬主任や、とーる達、中央監視室に残った数名が悲痛な面もちでうめく。
「・・・・私がまいります。」
「セリオ?」
 長瀬主任が振り向くと、そこにはセリオがプロテクターなどの装備を調えながら立って
いた。
「サンダーを使います。」
 サンダー(SANDER)=シグナル・アナライザ・デリバリー・システム。
 来栖川電工が開発中の小型情報収集車両である。
「し、しかし、あの車はまだ試作段階だ・・・それに、運転手はどうする。セリオが情報
収集を行うなら、ドライバーは別に必要だぞ。」
「私が行きましょう。」
 すくっととーるが立ち上がる。
「・・・・わかった。頼んだぞ。そうだ、とーるくん、beakerくんにあったらこれを!」
 長瀬主任は、なにやら小さな包みをとーるめがけて放り投げた。
 とーるは片手でそれをキャッチする。
「わかりました。beakerさんにお渡しします。さ、急ぎましょう。セリオさん。」
「はい。こちらです。」
 二人はドアから飛び出すように出ていった。


「こ、これがサンダーですか?」
 車庫についたとーるの目の前には、オフロード車を改造した車があった。
 短いフロントボンネット、左半分がカバーされた運転席、強固に固められた中央部分の
制御室、後部に露出した折り畳みパラボラアンテナユニット、車の色がオリーブ色だった
ら、間違いなく軍用の情報収集車、といった感じである。
「はい。電気自動車ですので、シフトチェンジはありません。スピードが出るゴーカート
のつもりで操縦してください。」
 セリオは中央部のハッチを開けると、中へと乗り込み、奥に備え付けられたシートに腰
をおろした。
 そして、両耳のセンサーを外すと、ゴーグル一体型のヘッドセットを装備する。
「閉めます。」
 アームレストに装備されたタッチパネルの上をセリオの指が滑ると、プシュゥという音
がして、ハッチが閉まる。
 とーるも、あわてて運転席についた。
 キーを差し込み、ぐっと回すとウィィィィィンという音とともに、パネル類が点灯する。
『インカムを付けてください。』
 車内のスピーカーからセリオの声がした。
 とーるはダッシュボードの上のインカムを装着する。
『シャッターを開けます。敵の動きを見ながら進路をナビゲーションしますので、その通
りにお願いします。』
 インカムに取り付けられた、網膜直接投射型モニタに、地図情報が映し出される。
「わかりました。」
 とーるはレバーをドライブに入れると、アクセルを踏み込んだ。



「ぜぇ・・ぜぇ・・ぜぇ・・」
「……ふふふ……息があがってきたようですね。本来は広域破壊に適した妖魔だったので
すが、こんな所で役に立つとは……」
 膝をつき、肩で息をするbeakerを見下しながら、葛田は嘲笑を浮かべた。
 beakerの攻撃は、全て岩石妖魔が吸収した。
 岩石妖魔自体、攻撃を受けるとはじけ飛ぶのだが、しばらく時間をおくと、次第に集ま
り、また元の岩の塊へと復活してしまうのだ。
 beakerも、弱点を探そうと躍起になっていた。
 岩ににているとはいえ、妖魔である。
 どこかに目や耳、エネルギー源となるコアに相当するものがあるはずであった。
 だが、戦闘中に見つけることは出来なかった。
 どんなに細かく岩を砕こうとも、元に戻ってしまうのだ。
「……そろそろ楽にしてあげましょう……」
 葛田が指をぱちんと鳴らす。

 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

 周囲に散らばっていた岩が徐々に集まりだし、巨大な人型の岩石妖魔へと融合して行く。
「……踏みつぶして上げましょう……足で圧死……くっくっくっくっ………」
 ゆっくりと足を上げる巨大岩石妖魔。
 その影がゆっくりとbeakerを覆い尽くす。

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



    【【【【【【【ここでCM】】】】】】】

    「・・・・・・」
    「・・・・・・」
    「あぁぁ!!じれったいっ!!!どうしてこういう所でCMが入るっ!!」
    「ひなたさん、これTV放送なんですから、ビデオの早送りボタンを押しても
    進みませんよ。」
    「くぅぅぅ(涙)」
    「泣くほどの事ですか(苦笑)」

    【【【【【【そしてCM開け】】】】】】



「……踏みつぶして上げましょう……足で圧死……くっくっくっくっ………」
 ゆっくりと足を上げる巨大岩石妖魔。
 その影がゆっくりとbeakerを覆い尽くす。

「うわあああああああああああああ!!!!って、2度も同じ、くだらないギャグを聞く
のはもっといやだぁぁぁぁぁ!!!」

「……それはTVのお約束って言うものです……ということで……やれっ……」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 巨大岩石妖魔の足が踏みおろされる!

 ビクッ!!

 と、どうしたことか、beakerの頭上、数mのところで巨大岩石妖魔の動きが止まってし
まった。
 そして、ぼろぼろと、もとの岩石妖魔へと分離を始めてしまう。
「くっ!?」
 beakerは、あわてて横に転がり、分離して落ちてくる岩石妖魔の下から逃げ出した。
「……む!?いったいなにが……」



「岩石妖魔の弱点・・・見切った!」
 立体駐車場の屋上にサンダーを止めたとーるは崩れ落ち行く岩石妖魔を睨み付けていた。
 現場を見下ろせるこの場所に到着すると、セリオはすぐにパラボラアンテナを開き、岩
石妖魔から発せられる、電波、音波、可視光線、電磁波など、全ての周波数を解析しはじ
めた。
 そして、とーるは、『岩石妖魔の1体が破壊されると、周辺の岩石妖魔から複雑な電波
が発せられている』ことに気が付いたのである。
 つまり、岩石妖魔は、仲間が砕かれると、周辺の岩石妖魔が砕かれた妖魔に指令を出し、
復活させていたのである。
 ただちに岩石同志の連絡に使われている電波がセリオの手によって解析され、妨害する
電波がパラボラアンテナから岩石妖魔に向かって送信された。
「岩石妖魔を倒すには、岩石妖魔同志の連絡を絶ち、一挙に叩きつぶすっ!さあ、いまが
チャンスです!勇者よ!!」
「……くっくっくっ……やってくれますね。しかし、そう簡単にいきますかな……」

 ズゴゴゴゴ・・・・

 もとの大きさに分割した妖魔が再び移動を始める。
 半数はbeakerを取り囲むように。
 そして残りの半数は、セリオ達がいる、立体駐車場へと向かって。

「まずいっ!セリオさん!どうします!?」
『一度引きましょう。合体できないようにしても、その間に破壊できなければ意味があり
ません。』
「わかりました。」
 とーるは車を出した。
 立体駐車場のスロープを駆け下り、セリオの誘導に従い、岩石妖魔達を迂回するように
beakerの元へと向かった。
「でも、このままではどうしようもありませんよ。どうします?」
『こうなったら、もう・・・奥の手を使うしかありませんね。』
「奥の手!?」
(マルチさん・・・マルチさん・・・・)
 セリオは無線とも、サテライトサービスとも違う回路で、マルチに呼びかけた。



 マルチは非戦闘員の所員達とともに安全な場所に避難していた。
 逃げる際に何人かは傷をおっており、ちょうど包帯を巻いていたときであった。
「え?」
「どうしたの?マルチ?」
 飲み物を配っていた坂下が、マルチに尋ねた。
「いえ、いま誰かに呼ばれたような・・・・」
「え?別になにも聞こえなかったけど。」
 首を傾げるマルチ。
 たしかにメモリーの中にも自分を呼ぶ声は記録されてはいなかった。
 だが、たしかにマルチは自分を呼ぶ声を感じていた。
「・・・・・やっぱり、誰かが・・・この声はセリオさん?」
「マルチ?」
 マルチは坂下の問いかけには答えず、静かに胸の前で手を組み、目を閉じた。
(セリオさん・・・セリオさんですか?)
 マルチは体の奥・・・、そう、メイドロボの「心」に聞こえてくる声に向かって、「心」
で語りかけた。



「セリオさん、追いつかれました!敵が来ます!」
『・・・とーるさん、シートベルトをしっかり締めてください。』
「は?・・はい。」
 とーるは運転しながら乗用車にしては、頑丈な6点支持のシートベルトを締めなおした。
 そうこうしている内に岩石妖魔がどんどん迫ってくる。
『長瀬主任、セリオサンダーモードの使用許可を願います。』
 セリオはタッチパネルの上で、指を慌ただしく動かしながら、中央監視室の長瀬主任に
無線で呼びかけた。
『・・・やむをえんだろう。わかった。使用を許可する。』
「了解。セキュリティーロック、セイフティーロック解除。」
 ガシャン!!
「おわっ!?」
 とーるは、突然、ハンドルが聞かなくなり、自分の真下から機械音が聞こえたことにびっ
くりした。
 続けてメーターパネルの表示が切り替わる。
 メーターパネルの中央、”SANDER”と書かれていた文字が”THUNDER”に
切り替わる。
『行きます。しっかり捕まっていてください。』
 インカムからセリオの声が聞こえたと思った瞬間、車が勝手に動き始めた。
「セリオサンダー、レジストリーセットアップ!!」

 岩石妖魔が、セリオ達の車の直前まで迫っていた。
 そして、まさに体当たりをしようとした、その瞬間、突然、車の下部からロケットが噴
射し、車がふわりと中に舞った。
 ガシャン、ガシンッ!!
 ボンネットの部分が2つにわれ、運転席を左肩、助手席を右肩とした腕となる。
 その助手席部分からは頭が現れる。
 セリオが乗っていた中央部分のユニットがくるりと90度回転、胴体になる。
 後部のパラボラアンテナは折り畳まれ、背中に収まる。
 そして、ボディー下部から、足があらわれ、人型へと変形した。

 ズシィィィン

 変形を終え、地響きをたてて着地したセリオサンダー。
 が、一呼吸もつかず、そのまま妖魔へとダッシュする。
『チタンナックル!!』
 飛びかかって来た妖魔を右腕のパンチで粉砕する。
『beakerさんと合流します。』
 セリオはとーるにそう告げると、背中のバーニアを噴かして跳躍した。



 beakerは、もう、腕も満足に上げられる状態ではなかった。
「……くくくくく……そろそろ力も尽きたようですね……」
 じわりじわりとbeakerをいたぶるように攻撃していた葛田が、サディスティックな笑い
を浮かべた。
「……これだけいたぶっておけば、逃げたり、よけたりはもう出来ないでしょう……」
 葛田がゆっくりと右手を上げる。
(ま、まずい・・・魔術で攻撃する気かっ!?)
 葛田が言うとおり、beakerにはもう動く体力が残っていなかった。
 クリムゾンを握る手も、握力を失っており、今にも銃を落としそうな感じだった。
(よ、好恵さん・・・すまん・・・)

「諦めたら、だめぇぇぇぇ!!!!!!!!」

 葛田の注意を引きつけるように、beakerとの間に割って入ってきたのは、1台のワゴン
だった。
 その側面には「移動レストラン『ファイヤーステーション』」の文字が踊っていた。
 運転席には坂下の姿があった。
「……ふん。たかが乗用車で邪魔しにくるとは……その度胸に免じて一瞬で消してあげま
しょう……プアヌークの邪剣よっ!」
 葛田の手のひらに魔力が集まり、球状の塊となって、ワゴンに飛んで行く。
「よ、好恵さあああああああああああああん!!!!!!!!!」
 beakerが叫ぶ。
 そして、ワゴンに葛田が放った光熱波が炸裂しようとする、その直前。
『マルチファイヤー!!レジストリーセェットアァップッ!!』
 マルチの凛とした声が響き、同時にワゴンが弾かれるように飛び上がる。
 葛田の放った光熱波は、ワゴンの下をくぐり、反対側にいた岩石妖魔の1匹を粉砕した。
 ワゴンはバーニアを噴かしながら宙を舞う。
 運転席のある部分が前にたおれ、車体全体がドライブシャフトを中心とし、観音開きの
ように開く。
 車両内部にあった調理台などがそのまま腕になり、シャーシの部分が足へと変わる。
 そして、車体上部のガルウイング状のカバーが折り畳まれ、さながら天使の羽根のよう
に、背中に広がった。

『いたずらはここまでですっ!』

 びしっとポーズを決め、人型へと変形したマルチファイヤーの姿がそこにあった。

「…………………………やれ。」
 ずごごごごごごご・・・
 葛田の一声で、ふたたび岩石妖魔が合体を始める。
『やぁぁん』
 思わず怖じけづき、後ずさるマルチファイヤー。
『引いてはだめです!マルチさん!戦うのです!!』
 セリオの声とともに、上空に巨大な影が舞う。
『ライトニングキィック!!!』
 巨大化した岩石妖魔にセリオサンダーのキックがヒット。
 岩石妖魔はそのまま後ろにぶっ倒れた。
『みなさん、ご無事ですか?』
「beaker!!!」
 マルチファイヤーの肩のドアが開き、中から坂下が飛び降りる。
 坂下はbeakerに駆け寄ると、彼の頭をそっと抱えた。
「大丈夫?怪我は?」
「え、ええ。今のところは大丈夫です・・・」
「その割りにはぼろぼろですね。」
 同じく敵の隙を見て、セリオサンダーから降りたとーるがbeakerの元へと駆け寄る。
「これ、セリオさんからいただいた、芹香さん特製体力回復剤だそうです。それと、長瀬
主任から、荷物を預かっています。」
 とーるは懐から小瓶と包みをとりだすと、beakerに差し出した。
 坂下は小瓶をとーるの手から取ると、蓋をあけ、beakerの口へと近づけた。
 こくっこくっ・・・
 無色透明の液体がbeakerの喉を通る。
「・・・!!げふっげふっ!!」
 突然、咳き込むbeaker。
「だ、大丈夫?」
 坂下はあわててbeakerの体を抱き起こすと、背中をさすってやった。
「大丈夫・・です。いやあ、なかなかオリジナリティーあふれる味ですね。しかし・・・」
 beakerはゆっくりと拳を握りしめた。
 ぐぐっ。
 次第に腕に力が通うのがbeakerにもわかった。
「なかなかすごい効き目ですね。こんど是非、第2購買部で販売させてもらいましょう。」
 坂下の肩をかり、ゆっくりと立ち上がるbeaker。
「さて、行きますか。好恵さん、安全なところに早く避難してください。」
「び、beaker、無理よ、そんな体じゃ!」
「大丈夫です。それより戦いは続いているんです。早く避難を。とーるさん、好恵さんを
頼みます。」
「わ、わかりました。」
「beaker・・・。無事で・・・戻ってきてよね。」
「当たり前です。帰ったら一緒にラーメンでも食べに行きましょう。」
「うん・・・。」
 とーるに付き添われ、小走りに立ち去って行く坂下。
 その後ろ姿が見えなくなると、beakerは巨大岩石妖魔のほうへと向き直った。
「さて、行きますか。」



『シンクロナス・ウェイブ!!』
『ツイン・バーナー!!』
 巨大な岩石妖魔に向かい、マルチファイヤーとセリオサンダーは、見事な連係プレーを
見せていた。
 破壊された岩石妖魔が再び元に戻ろうとするところに、セリオサンダーが妨害電波を放
出し、くっつく前にその破片をマルチファイヤーの超強力バーナーで焼き尽くすのだ。
 巨大妖魔を構成する岩石妖魔も、徐々にだがその数を減らして行った。
「……なかなかやりますね……。」
「やられっぱなしと言う訳にもいかないんでね。」
「……ふむ。私の相手は、やはりあなたというわけですか……」
「そういうこと。」
「……ちょっとは体力が回復したようですね。しかし、気力までは回復できていない……。
ここは一気に行かせてもらいますよ……。プアヌークの邪剣よ!!」
 葛田のかざした手から光熱波が放出される。
「エチゼンブレードッ!!!」
 とっさにクリムゾンを刀剣形状に変化させ、受け流すbeaker。
「……くっくっくっ。どこまでもちますかね…………邪剣よ!!」
 葛田は横に走り出しながら、続けざまにbeakerに向けて光熱波を放った。
 防戦一方になるbeaker。
 光熱波が、beakerの周囲にも着弾し、爆煙が舞い上がる。
「くっ・・・」
 一瞬、beakerは視界を失い、葛田の行方を見失ってしまう。
「……邪剣よ!!」
 突然、真横から光熱波が襲いかかる。
 あわてて飛び退き、間一髪でそれをよけるbeaker。
 続けざまに光熱波がbeakerをねらい、飛んでくる。
「くっ!なんであっちからはこっちの気配がわかるんだっ!!」
 beakerは残骸の一つに実を隠した。
「……なぜだかわかりませんが、あなたの気配はよくわかりますよ……ふしぎですね……
まぁ、死に行く者には関係のないことでしょう……」

 どがあぁぁん!!

 光熱波がbeakerの隠れた残骸にあたる。
 さいわい残骸は砕け散ったもののbeakerには影響なかった。
「くそっ!・・・ん?」
 動いた拍子にbeakerの懐から、包みがぽろりと落ちた。
 とーるから渡された、あの包みである。
 beakerは、戦闘中なのにもかかわらず、中を開きたい衝動・・・いや、開かねばならな
い気がして、包みを引きちぎるように開けた。

 『クソゲーパワーが何かは謎だ。だが、君の役に立ってくれればと思い、これを送る。』

 無骨な長瀬主任のメモ書きが添えられていた。
 そして、包みの中には、いくつかのプラスティックのケースが入っていた。
「こ、これはっ!!秋葉原の街頭などでお目にかかることのできる、1つのカートリッジ
で100種類のゲームが楽しめるという『100in1』!!こっちは『ディ●ダ●』の
パチもんの『ジグザグ』!!それにこれはっ・・・」
 包みの中には、長瀬が若い頃に集めた、危なげなソフトが山ほど入っていた。
 beakerにはそれぞれがオーラにつつまれているように感じられた。

 どがぁぁぁん!!

 ふたたび光熱波が壁にヒットする。
「くっ!!」
 思わずbeakerはクリムゾンごと荷物を抱きかかえた。
 クリムゾンと、怪しいゲームが接触したその瞬間、ゲーム達が輝きだした。
「こ、これはいったい!?」
 光は次第に強さを増し、熱く感じるほどにまでなる。
 そしてゲーム達の形状に変化が起こる。
 四角いカートリッジだった物が、小さな円筒形状へと姿を変えたのだ。
「これは・・・弾?それに、力を感じる・・・『あの』力を・・・」
 そう、形を変えたカートリッジは、どうみても金色に輝くショットガンの弾であった。
 beakerは、カートリッジをクリムゾンへと装填する。

 ガシャコン!

 ポンプアクションで、最初の弾薬をシリンダーへと送り込む。
 燃えるような熱がクリムゾンから伝わってくる。

 どがぁぁぁん!!

 ふたたび光熱波がbeakerに襲いかかる。
 beakerは、瓦礫からさっと飛び出ると、光熱波が飛んできた方へ、クリムゾンを構えた。

 ちりちりちりちり・・・・

 頭の中に、言葉がひらめく。
 beakerは、その言葉を口にすると同時にトリガーを引いた。

「くらえっ!エンシエント・ブリッドォォォォォォ!!!!!!」

 キュゥゥゥゥゥゥ・・・・ドゴオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

「……な、なにぃぃぃぃ!!一撃でぇぇぇぇぇぇぇ…………」
 直撃はしなかったものの、ものすごい爆風で吹き飛ばされる葛田。
 その葛田の姿が空中でかき消える。
 おそらくテレポートのたぐいで逃げたのだろう。

「残るは岩石妖魔!!」
 beakerが振り返る。
 そこにはマルチファイヤーとセリオサンダーの連携攻撃により、片腕を失った巨大岩石
妖魔がいた。
「マルチ!セリオさん!一気に片を付ける!僕が粉砕する。一挙に消滅させることはでき
ますか!?」
『・・・あります。長瀬主任!『荷電粒子散布型広域浄化兵器』の使用許可を!!』
 セリオの声がセリオサンダーから響く。
 その声は無線を通して、中央監視室の長瀬主任にも届いていた。
「マルチ、セリオ・・・まさかあの強化パーツを使うつもりか!?」
『はい。それしかありません。』
「だが、まだテストしかしてないんだぞ!?」
『全ての機械はテストをかさね、いつかは本番にでなければなりません!今がそのときだ
と思います長瀬主任。大丈夫です。必ず成功します。』
「・・・わかった。承認する。頼んだぞ、セリオ、マルチ。」
『『はいっ!』』
 長瀬主任は懐からセキュリティーカードをとりだすと、コンソールに差し込み、声を上
げると同時に一気に読みとり装置を通した。
「超HM合体!クルスガワセイバー!!」

『『クルスガワセイバー、アッセンブル・エグゼキュート!!』』

 ゴォォォォォォ・・・

 セリオとマルチの声に会わせ、セリオサンダー、マルチファイヤーが宙に舞う。
 二つのメカは、再び変形。
 セリオサンダーは、胸から足の部分へ、マルチファイヤーは頭から背の部分へと変形、
一つの巨大メカへと変形、そして合体する。
『『クルスガワセイバー、トランスフォーム・コンプリート!!』』
 地面に降り立つ巨大な機神。
『『プラズマモォォォップ!!』』
 クルスガワセイバーが天に手を差し伸べ、その名を呼ぶ。
 上空の1点がきらりと輝き、巨大な棒状の物体が飛来。
 どごぉぉん!という大きな音とともに地面へと突き刺さる。
 クルスガワセイバーが、その棒を手にする。
 柄の長いT字状の棒。
 ずぼっと地面から引き抜き、棒術の要領でくるくると回し、背後に斜に構える。
『『beakerさん、いつでもいけます!!』』
「おうっ!」
『『ハイパワー・シンクロナス・ウェイブ!!』』
 クルスガワセイバーの肩から伸びたアンテナより、岩石妖魔の合体を阻止する妨害電波
が発せられる。
「エンシエント・ブリッドッ!!!」
 ”いにしえの弾丸”と名付けられたエネルギーの塊が、再びクリムゾンから放たれる。
 それはまっすぐに巨大岩石妖魔に向かい、胸の中央で炸裂。
 岩石妖魔は粉々に飛び散る。
『『プラズマ・モップ!オーバーブーストォォォ!!!!』』
 クルスガワセイバーが、モップを横になぎ払う。
 その先端、Tの字になった先の部分から、青白い光の帯が流れ出て、飛び散る岩石妖魔
の破片をなぎ払う。
 帯にふれた岩石妖魔達は一瞬で蒸発。
 モップで凪払った後には、もう妖魔の姿はなかった。

『『お掃除完了!!』』

 決めのポーズを取るクルスガワセイバー。
 クリムゾンを肩に掲げるbeaker。
 一人と1台の背後には、夕日が沈もうとしていた。

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「こんなものが反応するとはな・・・」
 長瀬主任は、手元に残っていた古いゲームをbeakerに手渡しながらつぶやいた。
「クソゲーの力とは、クルスガワセイバーなど、現代科学とはまったく別次元の力のよう
だ。それはわれわれにとって制御えきない力かもしれない・・・」
「ですが、今、この力に頼らねば、平和を維持できないのも、また事実です。」
「たしかに。だが、危険性があることに代わりはない。ま、われわれはわれわれにできる
ことをするだけだ。セリオ、マルチ。今日は良くやった。クルスガワセイバーは、今後、
おまえたちの判断で自由に使っていい。beakerくんや、他の人に危機が迫ったのなら、躊
躇することなく使うように。」
「はいっ!」
「はい。」
「beakerくん、この子達を・・・いや、みんなを頼むよ。」
「わかりました。」
 beakerは長瀬主任と固い握手を交わした。

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      【第五話予告】
       突如として降山市に現れた巨大遺跡!調査に向かう柏木家一行とエルクゥ同盟、
      そこへ襲いかかるダーク十三使徒の刺客、神凪遼刃!

      初音「この船・・・動くの?」
      西山「SS不敗の名にかけて・・・な」
      神凪「妖術合体、双角鬼神・・・!」

       双角鬼神の放つ瘴気弾に、コンバットビーカーはどう立ち向かうのか?!そして
      動き出すエルクゥの遺産!

      耕一「鬼神戦艦エルクゥファイブ、発進だ!」

      次回、コンバットビーカー第五話『鬼の末裔』!お楽しみに!

      これが勝利の鍵だ!『ヨークミサイル』