クラスメイトLメモ「サード・ジェネレーション シーン1」  投稿者:Sage
3年の教室。
土曜日の午後、今週最後の授業の終了を告げるチャイムが校舎に響いた。
教師が教科書をたたみ、教室から出ていくのを確認すると、橋本は長谷部彩の机にかけ
より、懐から2枚の紙切れをとりだした。
「あーやーちゃんっ! 今日封切りの映画行かない?前売りのチケットが手にはいった
んだけど。」
「・・・ごめんなさい。今日、早く帰って夕食の用意しないとならないから・・・。」
「夕食の準備って、まだお昼前だぜ?映画くらいいいだろぉ?」
「・・・いろいろ買い物もしないといけないし・・・こめんなさい・・・」
「そっかぁ・・・んじゃ明日は?」
「・・・ごめんなさい。明日はバイトなの・・・」
「む〜・・・・」
「男は諦めが肝心よ、橋本くん。ってことで、チケットは私がもらってあげよう。」
 にやにやしながら、柏木梓がよこから顔を出し、橋本の顔をのぞき込んだ。
「やかましいっ!なんでお前にやらにゃあいかんのだっ!あ、芹香さん、今日、午後、
暇?映画でも行かない?」
 橋本は、彩の斜め後ろの席で、もそもそとした動作で教科書を鞄に詰め込む芹香に駆
け寄った。
「・・・・・・ぼそぼそぼそ・・・・」
「え?『行っても良いですが、表に待っているセバスチャンの許可は取って下さい。』
って?うがあああ!!!そりゃ無理だぁぁぁぁ(涙)」
「あら、橋本にしては、諦めがいいのね。」
「しくしく・・・。そりゃ俺だって、芹香さんとつきあえるならと思って、あの執事の
おっさんと闘ったわ。だけど、あのおっさんにどうやって勝てばいいって言うんだい!」
「くすっ・・・」
 セバスチャンにあしらわれる橋本の姿を思い浮かべ、梓と彩は苦笑混じりの笑みを浮
かべた。
「しょーがねぇなぁ。橋本、俺がつき合ってやるから。」
 ぽんぽんと、涙を拭う橋本の肩を、帰り支度をすませた菅生誠治がたたいた。
「誠治〜、俺の相手してくれるのはお前だけだよぉ(涙)」
「よしよし。」
「・・・誠治まで、薔薇部入り?やっぱりあんたら、危ない関係だったのかぁ・・・」
「「んなわけあるかっ!!!」」
 お約束の梓のボケに、男二人は同時に突っ込みを入れた。



「と、いうことで、はい、荷物持ち。」
「なぜだぁっ!!!!!」
 梓は雑貨の入った買い物袋を橋本に押しつけると、彩とともに次の店の物色を始めた。
 梓、彩、誠治、橋本、芹香の5人は、放課後、商店街に繰り出した。
 梓も彩も、家の家事をこなしているし、誠治も一人暮らしで、買い物の必要があった。
 『ならば、みんなでショッピングに行こう。』と、いうことになったのである。
 芹香も、古本屋によりたいから、ということで、セバスの監視付きだが同行すること
になった。
「うーん、今晩なににするかに〜。彩んとこは、晩御飯、何にすんの?」
「・・・昨日はお肉だったから、今日はお魚をメインにしようかと・・・梓さんのお宅
は?」
「まだ決めてないのよ。うちの連中は結構食べるから、お魚だけだとボリューム不足か
なぁ・・・。誠治は今日の晩御飯は?」
「カレー。」
「誠治、カレー好きだねぇ。」
「おう。好きだぞ。それに作り置きがきくから、今晩作れば、週末はカレー三昧だ。」
「・・・・飽きませんか?」
「ああ。3食カレーライスなら飽きるけど、だしつゆで溶いてカレーうどんにしたり、
ミルクを多めに入れてパスタと絡めてスープスパゲティーにしたり。けっこうバリエー
ションできるもんだぜ?カレーも。」
「(ぼそぼそぼそ・・・)」
「え?『バリエーションを考えられるなんて凄いです』って?芹香さんだって、やろう
と思えばそれくらいの事、すぐ出来るようになるさ。『彼氏の為に、おいしい料理を作
りたいっ!』とかってな。」
「(ぽっ)」
 芹香の頬が、まるでなにかの試験薬のように言葉に反応し、赤く染まる。
 と、同時にセバスの怖ぁい視線が誠治を貫いた。
「芹香だって、好きな人くらいいるんでしょ?」
 ぴくっ。
 梓の台詞にセバスチャンのぶっとい眉毛が反応する。
「・・・・・・(ぽぽっ)」
 何も言わなくても、芹香のその頬の色が、梓の質問に答えていた。
「やっぱ、親しい男のうちのどいつかか?それともクラブの取り巻きのだれかかな?」
「(ぽぽぽっ)」
 ぴくぴくぴくっ。
「芹香じゃ、言い寄ってくる金持ちのボンボンや、いいとこのおぼっちゃまには興味な
さそうだからねぇ。しゃれっけのない、へたすりゃやぼったい奴のほうが好みだったり
して。」
「(ぽぽぽぽぽっ)」
 ぴきぴきぴきぴきっ。
「・・・・それってたとえば、2年の藤・・・」

「うがああぁぁぁぁ!!! いけませぬっ! あやつだけはいけませぬぞぉぉぉぉ!!!」

 セバス大暴走。
 彩の言いかけた一言がトリガーになったようである。
 とりあえず、手近にいた誠治が投げ飛ばされ、倒れたところにストリートファイト仕込
みのフライングエルボードロップ。
 あわてて逃げようとした橋本をふんづかまえて、上に放り投げ、落ちてきたところをパ
イルドライバー。

「ぷすぷすぷすぷす・・・・・・」
 事は、芹香がセバスチャンをなでなでして落ち着けることで収まったが、その頃には男
二人は二つの黒こげた肉塊に変わっていた。

「あ〜ぁ・・・」
「・・・・大丈夫ですか?」
 つんつん。
 返事が無い。
 死んでいるようだ。
「「殺すなあぁぁぁぁ!!(涙)」」

 誠治と橋本の空しい叫びが夕空にこだました。
 合掌。

(C)Sage 1999