Lメモ・学園男女混合テニス大会外伝「精一杯のちからを・・・」  投稿者:Sage
 「セリオお姉さん・・・

  すごく楽しいです・・・

  人間のみなさんも同じように楽しいんでしょうか・・・・

  もしそうだったら、すごく嬉しいです・・・」





                      Lメモ・学園男女混合テニス大会外伝
                           『精一杯のちからを・・・』





 メイドロボの体を動かすアクチュエーターと呼ばれるパーツは、いわば人間の筋肉に
相当する物である。
 人それぞれに筋肉の付き方が異なるように、メイドロボもそれぞれにアクチュエーター
の付き方は異なっている。
 たとえば『腕を上げる』という行動一つをとっても、アクチュエーターのトルク、駆動
スピード、反応速度、挙動許容範囲、耐久負荷力、ショック吸収率などの計算を腕につい
た全てのアクチュエーターについて行い、同時に制御しなければならない。
 いや、細かく言うなら、腕を上げたことに対する重心移動を配慮し、体全体のバランス
制御も行わなければならないのである。
 人間の脳は、無意識下で、この処理をすべて行っている。
 人間は産まれてから長い年月をかけ、徐々に学習を行い、自分の体のコントロール方法
を覚えてゆく。
 メイドロボも、開発段階で非常に多くのテストを行い、最適なアクチュエーター制
御アルゴリズムを導き出してゆく。
 これは人間の学習と同じである。
 そして一度、導き出された制御アルゴリズムは、ボディーが同じなら共通で、問題なく
使えるはずである。
 ・・・ただしそれは『開発段階で予想された動きの範囲内』に限られる。



 テニス大会、標準のSD型サポートロボボディーのちびまるではまともな試合も不可
能だろうと見た誠治は、たまたまレミィが整備を依頼してきたガーネットタイプのボデ
ィーをちびまるに使用し、テニス大会に参加させることを考えた。
 ガーネットタイプは、来栖川エレクトロニクスが発売している、一世代前の家庭向け
メイドロボで、その主な業務は家事のサポートである。
 当然、過度な運動はその開発段階での配慮外であった。
 そして大会本番、ちびまるはガーネットタイプに出来うる最大能力で試合にのぞんだ。
 その結果は『オーバーヒートにより試合続行不可能』というものだった。

 試合終了後、工作部において、ちびまるを元のボディーに戻す作業が始められた。
「誠治さん・・・ちびまるがこうなる事を予想してたんとちゃう?」
「なんでだい?」
 作業を手伝いながら、保科智子が菅生誠治にたずねた。
「試合でちびまるが倒れたとき、誠治さん、妙に落ち着いてみたいやから・・・」
「うん・・・まぁね。」
「なんで!?倒れることがわかっとって、なんで試合に出したの!?」
「倒れるかどうかは判らなかったよ。倒れる可能性は考えていたけどね。」
「でも、倒れる可能性があったなら、なんらかの対策とか・・・」
「ん、まあ・・・ね。時間もなかったし。」
 言葉を濁しながら、逃げるように隣の部屋へと移動する誠治。
「誠治さんらしくあらへんなぁ・・・歯切れの悪い・・・」
 その誠治の背中を見ながら、智子は納得できないような顔でぶちぶちつぶやいていた。
「あとで、ちびまるちゃんと話せばわかりますよ。きっと・・・。」
 そんな二人のやりとりを聞いていた赤十字美加香は、智子にそうつぶやいた。
「ちびまると?」
「ええ。ちびまるちゃんと。」
「・・・・・」
 智子はまだ納得できない顔をしていた。



「大丈夫か?ちびまる・・・」
「はい。なんともありません。」
 以前のボディーに戻ったちびまるは、微調整を兼ねて智子といっしょに散歩にでた。
 しばらく散歩したあと、二人は木陰のベンチに腰掛け、少し休むことにした。
「あのなぁ、ちびまる・・・」
「はい?なんですか?」
「・・・・楽しかった?テニス。」
「はいっ!!」
 智子は美加香の台詞が気にかかっていたが、なんと尋ねたらよいか判らず、曖昧な質
問をした。
 ちびまるはその問いに、笑顔で答えた。
「でも、残念やったな。途中でダウンして。」
「そうですね。フェネックさんには申し訳ありませんでした。」
「誠治さんも誠治さんや。倒れる可能性がわかっとるなら、なんとかしとけばよかった
んや・・・」
「・・・それは違いますよ。」
「え?」
「ぶちょーは・・・たぶんですが、私にテニスを楽しませてくれるために、あのボディー
を選んだんだと思います。」
「楽しませるため?」
「はい。・・・たとえば、ともねえちゃんが、テニスに参加するとします。そのテニス
はルール無用で、ドーピングや機械のサポート、魔術、呪術、なんでもありだったとし
ます。機械や魔術を使えば、どんな球でも打ち返せることが出来ます。ともねえちゃん
は、どうしますか?」
「魔術やらなんやら使って勝っても面白くもなんともあらへん。実力で勝負してこその
試合や。私なら・・・・あ・・・・」
「はい。そういうことです。」
 ちびまるは智子の顔を見て、にっこり笑い、そう言った。
 誠治や美加香はちびまるを最強のテニスプレーヤーにする事も可能であったろう。
 だが、それは大会をつまらないものにしてしまうという以前に、なにより『ちびまる
が楽しくテニスをできない』ものにしてしまうのであった。
 だから、あえて今回は制限のあるガーネットのボディーを使用した。
 試合中倒れる可能性があったとしても、である。
「今回の試合では、私にやれる精一杯のことができました。結局負けてしまいましたけ
ど・・・。でも楽しかったです。すごく。」
「そっか。」
 人には当たり前の『精一杯やる』という事。
 メイドロボには『精一杯やる場所を選択する権利』はない。
 それは人に仕えるメイドロボの”業”である。
 だから誠治達は考えた。
 ちびまるに『精一杯やる』ということがどういうことかを教えてやる場所を与えるた
めに。
 精一杯やる、ということがどんなに楽しいことか、ちびまるに伝えるために。
「そっか。よかったな。」
 智子も笑みを浮かべると、ちびまるの頭を撫でた。
「えへへへぇ(ぽぽぽ)。でも、今度やったら負けませんっ。あのボディーの限界や、
アクチュエーターの癖も判りましたから。」
「お、自信ありげやなぁ。ってことは、今度はうちらのライバルにちびまるが出てくる
かも知れんっちゅうことやな?」
「あうっ、ともねえちゃんは強敵ですぅ・・・・。でも、試合してみたいですっ!」
「そうやな。次はうちらと当たるとええな。」
「はいっ!」
 ちびまるは楽しそうだった。
 事実、ちびまるは『楽しい』と感じていた・・・


  − END −

(C) Sage 1999