Lメモ「試立Leaf学園工作部奮戦記 序章:緑の節」 投稿者:Sage
「ぶちょー。なにをつくってるんですかぁ?」
 興味深げにちびまるが、なにやら回路を組み立てている誠治の手元をのぞき込む。
 ちびまるは、工作部のお手伝いとして常駐するSDマルチタイプのサポートロボだ。
「ん〜?言語解析&思考回路。」
「すいはんきににそんなのをつけてどうするんですかぁ?」
 机の上にはたしかに炊飯器がおいてあった。
「カフェテリアが人手不足で忙しいらしいんでな。ちょうど料理研究会の忍君から壊れた
炊飯器をもらったんで、全自動炊飯器を作ってやろうと思って。ただの炊飯器じゃつまら
んからな。ちょっと遊んでみた。」
 机の上の炊飯器は普通の炊飯器と違い、手足がついていた。
 そして、スイッチパネルは顔を模してあり、ご丁寧にサングラスまでかけられていた。
「へぇ。そうなんですかぁ。」
「そうだ。ちびまるにやってもらいたいことがあるんだが。」
「はい。なんでしょう。」
「おにぎりの作り方を勉強してきてくれ。」
「はい?わたしがですか?」
「この炊飯器は、工作部のサポートロボ用のホストコンピュータを使って制御するんだ。
だから、ちびまるがおにぎりの握り方を学習してくれば、そのデータをこの炊飯器ロボに
転送できる。」
「む〜、せきにんじゅうだいですねっ!わかりました。がんばっておぼえてきますっ!」
ちびまるはドアを勢いよく開くと駆け出していった。
「・・・・・あいつ、どこへ行く気だ?」
誠治はちょっと嫌な予感がしていた。

「ふにゅう。どこへいけばいいんでしょう?」
 案の定、ちびまるは工作部から出て、しばらく進むと立ち往生した。
「あら、ちびまるちゃん?」
 後ろから声がした。食べ物の話題のときに、通りかかる人と言えば、この人しかいない
であろう。
「あ、千鶴先生」

・・・数時間が経過した。

「ぶちょー!べんきょうしてきましたぁ!」
「ほう。早かったな。ふむ。ちょうどお昼だし、ちょっと作ってみてもらおうか。」
「はいっ。まかせてくださいっ。」
 部室には、誠治の趣味で、簡単な調理が可能なよう、小さな台所が備え付けられている。
「るんるんるりら〜♪」
 鼻歌混じりでちびまるが準備を始める。
「えっと、おこめをママレモンといっしょにせんたくきにいれて・・・・」
「まてぃ!!」
「はひ?」
「・・・・・千鶴さんに教わったろう。」
「えぇ!なんでわかったんですかぁ!?」
「わからいでかっ!そんな情報は、すべてリセットだっ!料理に関する質問は料理研究会に
行って聞いてこいっ!」
「はわわっ。はいぃぃ。」

「コンコン」
「はーい。どうぞ〜」
 調理室のドアをたたくと、なかから女性の声がした。
「しつれいしまぁす。」
 ちびまるがドアをあけ、中に入ると、そこには数人の女性がいた。
「あら、ちびまるちゃん。どうしたの?」
 エプロン姿の美加香がちびまるの目に留まる。
「あ、みかねえちゃん。ぶちょーが、おにぎりのつくりかたをおしえてもらってこいって。」
「ふ〜ん。おにぎりって、あの人、今度は何をする気なのかしら。」
「えっと、”ぜんじどうじりつほこうがたすいはんき”を作るんだそうですぅ。」
「全自動自立歩行型炊飯器ぃ?・・・また怪しい物を頼まれたわねぇ。」
「ねぇ、美加香ちゃん?」
 肩をつんつんとつつかれ、美加香が後ろを振り向くとあかりがちびまるのほうを見つめ
ながら立っていた。
「はい?なんですか?あかり先輩。」
「この子は?」
「あ、工作部のお手伝いサポートロボの、ちびまるちゃんです。」
「ちょっと、こっちにいらっしゃい。」
 あかりが、スカートの裾をおりながらしゃがみ、ちびまるに手招きする。
「はい。」
 ちびまるがてとてととあかりの元へと歩み寄る。
「ちびまるちゃんって言うの?」
「はいっちびまるですっ。よろしくおねがいしますっ。」
 ぺこりとおじぎをする。
「まぁ、ちゃんとご挨拶できるのね。いいこいいこ。」
 手をのばし、ちびまるのあたまをなでてやる。
「はうぅ。」
 頭をなでられて、ちびまるの顔がみるみる赤くなる。
「今日はおにぎりの作り方をお勉強にきたの?(なでなで)」
「は、はいぃ・・・・」
「えらいわねぇ。(なでなで)」
「い、いえ。そんなことないですぅ・・・」
「ん〜、もう、かわいっ!」
 まるで動くぬいぐるみのようなちびまるを見て、あかりはがまんできなくなったのか、
ぎゅっと抱きしめた。
「むぎゅ〜。はう〜。」
「あ、神岸さん、ずるいですぅ。」
「あぁ、私にもなでなでさせてよ。」
 理緒や、梓、M.K、ひづきたちがよってたかってちびまるをもみくちゃにする。
 美加香はそれを苦笑しながら眺めていた。

・・・さらに数時間が経過した。

「はうぅぅ・・・ただいまもどりましたぁぁぁ」
「ど、どうしたちびまる。大丈夫か?」
「はいぃぃ。いろいろたいへんでしたぁ。」
「そ、そうか。で、おにぎりの作り方のこつは覚えてきたのか?」
「なんとかおぼえてきましたぁ。」
「とりあえず、お米の研ぎ方を説明してみな。」
「はいぃ。えっと、ざるなどにお米をいれて、よく洗います。本当は研げば研ぐほどおい
しくなるのですが、おこめは外側の部分の方が栄養価が高いので、とぎ汁の濁りがすこし
薄くなる程度でとどめます。それから・・・」
「うん。そこまででいいよ。正しい方法を教わってきたみたいだな。」
「あのぉ、さっそくためしてみていいですかぁ?」
「いいけど、疲れてるんじゃないのか?」
「だいじょうぶですっ。せっかくおしえていただきましたから、ぶちょーに、おいしい
おにぎりをたべていただきたいですっ。」
「うん。じゃあ、お願いするか。」
「はい。がんばりますっ。」
 元気を取り戻したのか、ちびまるは、はりきって台所のほうへと向かった。

「ど、どうですか?」
「・・・・うん。うまいよ。」
「わーい。」
「・・・・でもなぁ。」
「はい?」
「・・・・なんで、おにぎりがピンク色で、ハート型なんだ?」
「えっとぉ、『かれしにつくる、あいじょーたっぷりのおてせいおべんとう』がテーマ
だからだそうです。あれ?ぶちょー、頭かかえてどうかしました?頭痛ですか?」
「・・・・うん。ちょっとな。」

 結局、ちびまるは、次の日、電芹とたけるのバイトの空き時間に、おにぎりの作り方を
レクチャーしてもらうのであった。

【つづく】

補足:「サポートロボとは」
 サポートロボとは、メイドロボでは内蔵CPUですべて処理される情報を、
外部のホストコンピュータを利用することで小型化をはかった、ローコスト
タイプのお手伝いロボットである。工場やオフィスなど、1カ所に、複数の
メイドロボを配置しなければならない場合に利用されている。
 なお、ホストコンピュータと、常に通信する必要があるため、圏外に出る
と、極端に性能が落ちる。外見はSDマルチタイプ、SDセリオタイプ等、
多種のモデルが存在する。

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