体育祭Lメモ「大会前日」 投稿者:Sage
『どっくん、どっくん・・・』


「オン・ユア・マーク!」
 ガシャ。両手を地面につき、スタートプレートに足をあわせる。


『どっくん、どっくん・・・』


「レディ!」

 すっと腰を上げる。脚力が最大限に伝わる角度へと、体をあわせる。

『どくっ・・・・』

「GO!!!」
 ガシャッ。プレートを最大限のパワーを持ってけりつける。
 上体が起きあがろうとする。
 より前傾することで、起きあがろうとする力さえ、前に進む力へと変える。
『ざしゅっ』
 膝を蹴り上げる。
 青いブルマーからのびる太股の、露出した肌が空気を切り裂く。
『ざしゅっ』
 大気の壁をかき分けるように、手を振り上げる。
 手が風を切り、新たな風を産む。
『ざしゅっ』
 ジョギングシューズが地面を叩く。
 白いソックスを経由し、足の裏に抵抗が伝わる。
『ざしゅっ』
 足に加えた力が逆の経路をたどって、地面に伝わる。
 一歩踏み出すごとに体が加速する。
『ざしゅっ』
 より速く、より前に。


 あと100m・・・


 あと50m・・・


 あと少し・・・


 ピピッ。
 トラックのゴールラインを電芹が通過した瞬間、計測器が反応し、ディスプレーモニ
ターに、記録を表示する。
「30秒12。まだ誤差があるのかしら・・・」
『ザザッ・・こちら電芹です。集計所、どうぞ。』
 無線がなり、電芹の声が美加香のヘッドセットタイプのインカムに響く。
「はい。こちら美加香。」
「ザッ・・申し訳ありません。風の影響で、コンマ1秒遅れました。」
「了解。ってことは、計測誤差はほとんどなしね。次は信号ケーブルが切断された場合に
備えて、無線での計測チェックをするわ。もう一度お願い。」
「ザザッ・・了解しました。」

 別のトラックでは、智子が数体のチビセリオを従え、ゴールラインに陣取っていた。
「ホンじゃ、もっかい行くで〜。よーい、どんっ!」
 だだだだだ・・・
 智子の合図にあわせ、マルチ、ちびまる、せりあの3人がかけてくる。
 ゴール。
 せりあ、マルチ、ちびまるの順。
「ほれっ、出番やで。」
「はい。」
「はい。」
「はい。」
 1位、2位、3位と書かれた旗をもって、3人のチビセリオが飛び出す。
 ゴールした3人をそれぞれ定位置へとつれて行く。
 ゴールリボンを持っていたべつのチビセリオが、テープを回収し、次に備える。
「ん〜、ええ感じやね。でも、もっかい行こか。」
「え〜まだ走るんですかぁ?」
 もう何度も走らされているマルチたちから、非難の声が上がった。


「あーあーあー」
「あーあーあー」
 演台では、二人のチビセリオがマイクのテスト中。
「ただいまマイクのテスト中。」
「ただいまマイクのテスト中。」
「宣誓」
「宣誓」
「われわれ学生一同は」
「スポーツマンシップにのっとり」
「正々堂々と」
「・・・・・・」
「正々堂々と・・・」
「・・・・・・」
「正々堂々と・・・」
「・・・・・・」
 1人のチビセリオのネジが切れてしまい、もうひとりのチビセリオは、工作部の手伝い
にかり出された貴姫があわててネジを巻きにくるまで、ずっと同じ台詞を繰り返していた。

「アテンション。全員聞いてくれ。進捗状況の報告を頼む。」
 誠治がマイクのカフをあげ、全員に呼びかける。
「こちら美加香。集計ブース、チェックOK。」
「保科やけど。チビセリオさんも、準備おっけーや。」
「貴姫です。演台の準備よろしいようです。」
「よし、本番は明日だ。みんな、頼むぞ。」
「「「はいっ」」」


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