Lメモ「GO!GO!ウェイトレス プロローグ」 投稿者:Sage
「ふう・・・・」
「あら、今度はどんな悪事を考えてるの?」
 図書館で資料の山に埋もれ、物書きをしていたハイドラントの背後から女性の声がした。
「ふっふっふっ。実は今度、綾香が別荘に泊まりに行くらしいから、なんとかその一行に
潜り込んで、綾香を・・・って綾香ぁ?」
「・・・・・がすっ!」
 綾香の正拳が、ハイドラントの顔面にヒットする。
「がふっ。相変わらず力強い愛情表現だな、綾香。ところで、そのセリオは綾香の?」
 ハイドラントは、綾香の後ろにいるセリオタイプに目をとめた。
「違うわ。こんど1年に入った子よ。グレース。あら?グレース?」
 グレースと呼ばれたセリオは、まるで隠れるように、綾香の真後ろに立っていた。
「あの、はじめまして。開発コード名、グレース・セリオ・プロトタイプと申します。
よ、よろしくおねがいいたします。」
 ぺこりとポニーテールのセリオタイプがお辞儀をする。
「やあ、よろしく。」
「わ、私、お茶でも入れてきます。」
 顔を赤らめ、図書館の事務室へ消えて行く。
「・・・ずいぶんウブな子だな。」
「なんでも、セリオでも、学習効果を高めたタイプらしいわ。感情機能もだいぶ改良した
バージョンらしいから、そこらへんが原因なのかもね。」
「ふむ。」

しばらくすると、事務室からセリオタイプが帰ってきた。
「お待たせしました。お口に合いますかどうか・・・」
 コトリ。ハイドラントと綾香の前に、お茶が置かれる。
「抹茶?」
 小さなお盆に乗せられていたのは
「はい。・・・あの、違う物の方がよろしかったでしょうか・・・」
「いや。だが私の好みを良く知っていたな。ふっ、どうやらメイドロボの間では私の情報
がやりとりされているらしいな。私も罪作りな男だ。」
 すぱ〜ん!
 綾香の容赦のないツッコミが入る。
「ぐはっ。うむ、今の突っ込みのタイミングは良かったぞ(笑)。ではいただくとするか。」
 器を手にし、一口お茶を飲んだハイドラントは、そこで動きを止めた。
「・・・・お気に召しませんでしたか?」
「・・・いや。・・・ふむ・・・・・・87点だ。」
「え?」
 綾香は耳を疑った。ハイドラントが60点以上をだすのは滅多にないことだ。
 ハイドラントのお茶に関する点数の付け方は厳密な物。体調や感情などによる誤差は
すごく少ない。
「すごいじゃない。お茶の入れ方なんて、いつの間に覚えたの?」
 以前、来栖川家に勤めるセリオに、サテライトサービスを使用した上で、お茶を入れ
させたことがあったが、それでさえ72点だった。つまり、どんなセリオがお茶を入れ
たとしても、経験を積んでいなければ、それ以上の点数が出ることはない。
「はい、先日、ハイドラント様が図書館にいらっしゃられたとき、お茶の入れ方について
お話されておりましたので、それを参考に・・・・」
「ん?あのときも図書館にいたのか?」
「はい。」
「ふむ、あのときは周りに誰もいなかったと記憶しているが。」
「あの・・・あそこにおりました。」
「柱?」
 こくん。とセリオがうなずく。
「この子、ちょっと変わってるのよね。人を観察するのにわざわざ柱や電柱の影にかくれ
たりして。」
「あの、主任より、『あまり人をじっと見つめるのは失礼に当たるから、人を観察する時
は、気づかれないようにしろ』と言われているもので。」
「・・・観察対象に気付かれなくっても、周りからはもろバレよ。だから電芹なんて呼ば
れてるんだし。」
「電芹?」
 苦笑しながら話す綾香に、ハイドラントが怪訝そうな顔でたずねる。
「誰が言い始めたか知らないけど、”セリオ@電柱”の略らしいわ。『いつも電柱のそば
にいるセリオ』ってことね。最初は”芹電”とかって略されて呼ばれてたらしいけど。」
「ふむ。電芹ねぇ。”グレース”というよりは、そっちの方が何となく似合うな。」
「あなたはどっちで呼ばれる方がいいの?」
 振り向きざまに綾香が尋ねる。
「よろしければ電芹とお呼びください。みなさん、そのお名前でお呼びになりますから。」
「ふ〜ん。でも、あなたがグレースの方が良いと思うなら、そうアピールしたほうがいい
わよ?」
「いえ、グレースは便宜上、コンピュータでランダムにつけられた名前だそうです。それ
より、みなさまに名付けていただいた名前の方がうれしいです。」
「ふ〜ん、そんなものかしらねぇ。」
「・・・・・」
 そんな二人の会話を耳にしつつ、ハイドラントは抹茶の残る器を眺めながら、考えを巡ら
せていた。
 そして、ふっと顔を上げ、電芹の方を見ると、にやりと怪しい笑みを浮かべた。
「・・・・また、なんか悪巧み考えてるでしょう。」
 ハイドラントの表情の変化を綾香は見逃さなかった。
「いや?なにも。」
 ほほえみを消し、残ったお茶をのどに流し込むハイドラントを眺めながら、綾香は、この
男が何をしようと考えているのか、気が気ではなかった。

【つづく】

(C)Sage1998