学園祭Lメモ「楓祭’98/工作部出典:リーフ・フォーミュラ 序章:”集う鋼鉄の騎士達”」 投稿者:Sage
序章:「集う鋼鉄の騎士達」
−−−2週間前、朝、マンション前にて−−−

(がちゃっ)
眠い目をこすりながら、マンションのドアを閉め、鍵を閉じる。
「ふわぁぁ・・・」
 大きなあくびと共にのびをする。
 階段を下り、マンションの外に出たところで、後ろから声がした。
「あ、誠治さん、おはようございます。」
「や、おはよう。琴音ちゃん。ビデオちゃんと動いたかい?」
「はい。すみませんでした。母も私も機械音痴なもので。」
「ビデオの修理くらい、おやすいご用さ。こっちこそ、晩飯ごちそうになっちゃって悪
かったね。」
 通学経路が同じせいか、近頃、登下校で彼女とよく会う。
 昨日は、帰り道に一緒になり、なぜか壊れたビデオ(といってもテープが巻き込んで
いただけだが)を修理し、晩御飯までごちそうになってしまった。
「いいえ。母も作りがあるって、喜んでましたし。また遊びに来てくださいね。」
「琴音ちゃんさえよければ。」
「私も歓迎しますよ。」
「ありがと。ところで学園祭どうするんだい?」
「うーん、いつもお世話になっている所のお手伝いはしようとおもっているんですが、
それ以外は特に。誠治さんのところは、大がかりですね。」
「あれ?もう知ってるの?」
「ええ。昨日、学園祭のパンフレットが配られましたから。」
「俺のクラスじゃ、まだ配られてないぞ?」
「それは私の担任の先生が、偶然、パンフレットの印刷担当だったからだと思います。
たぶん今朝のホームルームで配られるんじゃないですか?」
「ふーん。今、持ってる?」
「あ、はい。ちょっと待ってくださいね。」
 かわいらしいマスコットのついた鞄を胸にだき、ふたを開けた琴音ちゃんは、中から
一冊の本を取りだした。
「はい。どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
 パラパラとページをめくる。
 結構分厚く、各クラスの出物の紹介がブース名とともに小さなコマの中にイラスト付
きで紹介されていた。
 けっこう個人や、小グループでの出典もあるようで、ブース数は結構な数があった。
「・・・・なんだか、コミケのパンフレットみたいだな。」
「・・・・私もそう思いました。」
 (二人ともコミケを知ってるのか?(笑))
「お、結構でっかく出てるなぁ。」
「誠治さんは原稿チェックとか、なさらなかったんですか?」
「うん。機材の調達なんかが忙しかったんで、人にまかせっきり。」
「そうなんですか。」
「しっかし、ぶち抜き1面、センターのカラー広告ページなんて、よくとれたなぁ。」

 『なあ、なあ、ここらへんにがーんとたのむわ。ええやろ?』

 ・・・なぜか脳裏に、パンフレット編集委員に詰め寄る智子が浮かぶ・・・

 『一応、どのブースも同じページ数という事に決まって・・・』
 『うちらは、校舎いっぱいつかうんや。それだけお客はんにも迷惑がかかるし、注意
してもらわなあかん。だからそのぶん、のせてもらわんと。な?な?』

 ・・・なんか、そのときの情景がリアルに・・・

 『こまりますぅ・・・・』
 『んなら、広告は他のブースと同じく1ページ。実行委員会からのお知らせと言う事
で、となりに1ページつこうて。原稿はうちらで用意するさかい。それでき・ま・りや。
ええな?よっしゃ。ほな、またな〜』
 『えぇ!?あぁっ!!保科さんっ!!ちょ、ちょっと!!』

 ・・・・事実だと怖いから、確かめるのはやめておこう。

「どうしたんですか?」
「え?あ、いや、なんでもないよ。あははは・・・」
「くすっ。へんな誠治さん。それで、誠治さんもドライバーで参加ですか?」
「いや、いろいろ仕切らなきゃならないから、参加は無理だね。」
「あ、そうなんですか。じゃ、工作部からはだれが?」
「うーん、最初は、電芹にでもやらせようかと思ったんだけど、カフェテリアの方でも
イベントあるらしいし・・・」
「ドライバーがいないんですか?」
「うん。誰かいい人いないかねぇ。」
「うーん・・・・・あ。」
「誰かいる?」
「え、ええ・・・1人。」



−−−2週間前、朝、教室にて−−−

「・・・・・・・はぁ。」
「どうしたの?ため息なんてついて。」
「え、あ・・・」
 学園祭のパンフレットを見ながらため息をついていた東雲忍の背後に、いつのまにか
立っていたのは柏木千鶴であった。
「どれどれ。」
「あ、ちょ・・・」
 千鶴が忍の見ていたパンフレットを取り上げる。
「ふーん、工作部主催カートレースね。男の子ってこう言うの好きよね。忍君も出たい
の?」
「あ・・い、いえ・・・・」
 忍は車好きだ。
 そのことは、彼が鶴木屋で車を使ったバイトをしていることからも、千鶴にはわかっ
ていた。
 彼が『いいえ』といった理由は、パンフレットを読み進んでいくうちに理解できた。
『参加費は無料。車両等は工作部が用意します。ただし、レース前に講義の受講と、練
習走行があります。その費用は実費です。』
 だれでもレースに参加することはできるだろう。
 だが、費用を払って、練習をした連中に、練習なしで挑むのはいささか無謀である。
 クラブに属していれば、部費から参加費を捻出する事もできるのだが、忍は苦学生で
ある。
 バイトで生活費を稼いでいる身分で、自分の趣味のために費用を使うことはできない
のだろう。
「・・・・・・いいわ。」
 パンフレットをぱたんと閉じながら、千鶴は忍の前に回ると、言った。
「忍君、一つバイトを引き受けてくれないかしら。このレースに出てちょうだい。」
「え?」
「このレースに出てちょうだい。練習等に掛かる費用は鶴木屋で出してもらいます。
そのかわり、ウエアや、ボディーには、鶴木屋のロゴを入れさせてもらうけどね。」
「千鶴さん・・・」
「レースのスポンサーってわけ。もし上位に入賞できればボーナスも出すわ。どう?」
「は、はい。ぜひやらさせてください!!」
「うん。じゃ、あとで広報の人から連絡させるから。がんばってよ。」
「は、はいっ。ありがとうございますっ。」
 教室を出て行く千鶴の背中に向かって、忍は深々と頭を垂れた。



−−−2週間前、昼休み、中庭にて−−−

 学生の間での話題は、学園祭のイベントの話で持ちきりだった。
 校舎のそこかしこで集まっては、どこにいこうか、何がおもしろそうか、などという
話題でもりあがっていた。
 そしてここにも、じいっとパンフレットを見入る影が2つあった。
「学園祭なんて、芸術色が強くてつまらんと思っていたが・・・・」
「なかなか面白いイベントがあるようですね・・・・」
「テール・トゥー・ノーズのバトル・・・・」
「ライバルとの対決・・・」
「アスファルトに浮かぶ陽炎・・・」
「飛び散るタイヤの破片・・・」
「ガソリンの臭い・・・」
「エンジンの爆音・・・」
「爆発・・・・」
「炎上・・・・」
「ふっふっふっ・・・・」
「うふふふふ・・・・」
 中庭のちょうど反対側で、不気味な笑い声を上げるD芹とジンには、誰も近づこうと
しなかった。



−−−2週間前、昼休み、教室にて−−−

 昼休みも終わろうという時間、琴音につれられて誠治が教室を訪れたとき、浩之の周
りには、あかり、志保、雅史達の姿があった。
「へ?俺が?」
「うわあ、浩之ちゃん、スカウトなんてすごいじゃない。」
「でも、俺、カートなんて、遊園地で動かしたくらいしか経験ないぞ?」
「そうよね。ヒロにはむりよね。」
「なんだと!じゃあ、お前にならできるってのかよ。こら、志保。」
「ふふん、あんたよりうまいかもよ。」
「ほほう、ゲーセンのカーレースゲームでは、俺に勝ったことないくせに。」
「むきぃぃ!!!なんですってぇぇ!!!」
「まあまあ、二人ともおちついて。」
「雅史ちゃんは出ないの?」
「え?僕?うーん、部活があるから練習できないし。僕はやめておくよ。」
「ちぇっ。付き合い悪いなぁ。」
「それで、浩之ちゃん、どうするの?」
「うーん・・・琴音ちゃんの推薦じゃ、むげには断れないし・・・。ほんとに俺でいい
んですか?菅生先輩。」
「ああ。そのかわり、みっちり練習してもらうぞ。」
「うへっ。お手柔らかに頼みますよ。」
「藤田先輩、がんばってくださいね。」
「ああ。推薦してくれた琴音ちゃんに恥かかせるわけにはいかないからな。」
「浩之ちゃん、応援するからね。」
「ま、リタイヤだろうけどね。」
「志保っ!てめ〜!!」
「まあまあ、浩之も志保も落ち着いて・・・」
 こうして、工作部のメインドライバーは、藤田浩之に決定した。



−−−2週間前、放課後、正門前にて−−−

 浩之が学校から帰ろうと玄関を出ると、ちょうどそこには部活に行くところだろう、
綾香と葵の姿があった。
「あ、浩之、レースに出るんだって?」
「先輩、がんばってくださいね。」
「おお、綾香に葵ちゃん。二人とも耳が早いな。」
「で、どうなの?」
「どうなのって?」
「勝てる見込みはあるの?カートの経験とかは?」
「ないない。勝てるかどうかなんてわからんよ。まあ、3年の免許所持者にはかなわん
だろうしな。」
「なによ。やる前からよわきねぇ。1位とったらキスぐらいして上げるから、がんばん
なさいって。葵も応援するでしょ?」
「えっ!?私もキスですか!?」
 綾香の急な問いかけに、葵は大慌て。顔をぱっと赤らめた。
「・・・・誰もそんなこと言ってないけど。」
「はうっ!やだ、私ったら・・・・。も、もちろん応援します!!」
「うーん、いっちょがんばるか!!」
「キスのために?」
「そりゃあ、葵ちゃんがキスしてくれるっていうならがんばらないとな〜。」
 浩之は綾香のつっこみを軽く受け流すが、葵の方は真に受けたのか顔を真っ赤にする。
「くすくす。ま、期待してないけどがんばってね。」
「あ、あの、先輩、がんばってくださいね。」
「おうっ。」

 そんな会話をする3人を影から見ている姿があった。
「おい、悠・・・」
「おう。ハイドラント・・・」
「「絶対阻止だ。」」

 そして別の所にも・・・
「葵ちゃん・・・・」
「むむ、青い人が・・・・」
「”青い人”っていうなぁぁぁ!!!!」

 どごおおおおん!

 ・・・こちらでは犠牲者まで出ているようである。

 こうして、それぞれの思いを胸に、参加者達は工作部へと集うのであった。