Lメモ「GO!GO!ウェイトレス 第4話:りとるえんじぇる☆」 投稿者:Sage
 午前10時。
 学生はまだ、授業の真っ最中。
 図書館はオープンしているものの、カフェテリアはお昼前まで、しばし休憩となる。
(すっ。きょろきょろ。さささ・・・・・)
 厨房に忍び込む影が一つ。
(ごそごそ、かちゃ。がさがさ。)
 静かなカフェテリアの中に、物音が静かに響いた。


「ふぅ、疲れたぁ。」
 もう日もとっぷり暮れた午後8時、カフェテリアのテーブルに付いたOLHは疲労困憊
していた。
 Dシリーズが、定期検査で不在の為、警備部は人手が足りない状態が数日続いていた。
「おつかれさまっ。今日はなににしますか?」
 ウェイトレス服に身を包んだたけるが水とおしぼりを持って現れる。
「ハンバーグ定食、ライス大盛り、コーヒー付きで。」
 顔をおしぼりで拭きながら答える。
「はい。ハンバーグ定食1つ、おねがいしまーすっ☆」
「はーい。」
 厨房から電芹の声が返る。
 ごくっごくっと、冷たい水をのどに流し込む。
「・・・ぷはぁ。水がうまいっ。」
「大変みたいですねぇ。今日も遅くまでお仕事ですか?」
「うん。今週いっぱいは大忙しだよ。まったく、こういうときに限って、悪さする奴らが
多いし。」
 空いたコップに水を注ぎながらたけるが尋ねると、OLHは苦笑を浮かべながら答えた。
「おうちには帰ってらっしゃるんですか?」
「うん。一応ね。でも帰る頃にはもうみんな寝ちゃってるんだけど。」
「笛音さんやちびティーナさんの面倒はだれが?」
「だれも。できた子供たちで助かってるよ。」
「そうですか。でもさびしいですねっ。」
「うん・・・でもまあ、今週がんばればいいだけだし。バイト代でどっかつれてってやれ
るしね。」
「くすくす。おにーさん、大変ですねっ。」
「は、ははは・・・」
「あの、たけるさん、お話中、申し訳ありません。」
「ん?どうしたの電芹。」
「保冷庫に、こんなものが入っていたのですが・・・」
 電芹の手には、大きめの皿。
 ラップがかけてあるが、その下にはサンドイッチが並べられていた。
 ちょっとパンも歪み、カツもはみ出しているが、手のこんだサンドイッチであることは
 間違いなかった。
「それと、このメモが一緒に。」

 『おにいさやんにちしいれてください。』

 ”ち”と”さ”が逆になっている、たどたどしい文字で書かれたメモ。
 それを誰が書いたのか、OLHにはすぐに判った。
「・・・・笛音。」
「くすくす。よかったですねOLHさん。電芹、それOLHさんのだよっ。」
「そうですか。それではこちらにおいていきます。」
「いま、コーヒーいれるねっ☆」
「・・・・うん・・・ありがとう。・・・・笛音。すまん。・・・ありがとな。」
 OLHが口に運ぶサンドイッチに、ぽとりと少しだけ塩分が加わった。


「?」
 翌日、教室移動のため、廊下を歩いていた電芹が急に立ち止まった。
「どうしたの?電芹。」
「たけるさん、今日、カフェテリアの方で、臨時営業の予定はありましたか?」
「ううん。ないけど?」
「いま・・・」
「ん?」
 電芹の指さした方向には図書館が見えた。
「図書館がどうしたの?」
「いま、カフェテリアに人影が見えました。」
「う〜ん、私には見えないよぉ。っていうか、人間にはみえないと思うよ?」
 電芹たちの位置から、図書館までは300m弱の距離があった。
「・・・私、ちょっと見てきます。」
「あ!電芹、わたしもいくよっ!ちょっとまってっ!!」
 小走りに駆け出した電芹の後を、たけるはあわてておいかけた。
 図書館の裏手に回り、職員用の通用門の鍵を開ける。
 そおっと、ドアをあけ、更衣室の脇を通り、店内へと入る。
 カフェテリアには、図書館側からの入り口を通ってもいけるが、そちらにはドアベルが
ついており、侵入者がいた場合、気付かれてしまうからだ。
「ね、ねぇ、どろぼうかなぁ・・・・」
 小声でたけるが電芹にささやく。
「いえ、物取りに盗まれるようなものは、あまりないと思います。それに現金などが目当
てでしたら、こんなに長い間、とどまる必要は無いと思われます。」
「う〜ん、そっかぁ。じゃあ、盗み食いとか?」
「ありえますね。カフェテリアにあるものといえば、調理器具や、食器の他には食料しか
ありませんから。」
「どーしよう!みんな食べられちゃったら営業できないじゃないっ!!」
「ええ。ですからこうして確認に来てるんです。」
「う〜、こわいよぉ電芹ぃ。わたしたちもたべられちゃったりしないかなぁ・・・・」
「くすくす。大丈夫ですよ。人に害をなすような存在なら、わざわざカフェテリアの食料
なんて必要としないでしょうから。でも、用心に越したことはありませんね。私より前に
出ないよう、注意して下さい。」
「う、うん。」
 たけるは背中に張り付くように、電芹の後ろに従った。
 店内に入り、カウンターを迂回すると厨房に入ることが出来る。
 背を引くくし、カウンターに隠れるように進む、たけると電芹。
「かちゃん!」
 厨房から突然響いた音に、びくっと、たけるの体が反応する。
「や、やっぱりだれかいるよぉ!!」
「そうですね。」
 パニックを起こしかけているたけるとは対照的に、電芹は冷静だった。
「ねえ、かえろうよ。怖い人がいたらどうしよぉ・・・」
「・・・・」
 しばらく気配をうかがう電芹。
「ねぇ・・・」
 たけるの心配そうな声に、電芹が振り向く。
 そして、にこっと笑い、小声でつぶやいた。
「大丈夫です。これから調理場に入りますから、こっそり付いてきて下さいね。」
「ん?なにかわかったの?」
「見てのお楽しみです。きっと妖精がいますよ。くすくすくす。」
 電芹は、足音をたてないように、厨房へと進んでいった。
 たけるがおそるおそる付いてゆく。
 厨房は、光取りの窓から差し込む光がある程度で、全体的に薄暗かった。
 忍び足で、テーブルの影に隠れ、そっとのぞき込む。
 そこには、確かに人の姿があった。
「ふ・・・」
 思わず声を上げそうになった、たけるの口を電芹がふさぐ。
 テーブルに届かないその小さい体をカバーするためイスの上に立ち、小さな手で大きな
包丁を器用に使う、その姿。
 電芹が言ったように、妖精のような姿がそこにあった。
「笛音ちゃん・・・」
 そこにはエプロンを身につけた笛音の姿があった。
「そっか・・・OLHさんの為に・・・」
「そうですね。きっと何かしてあげたくて。でも忙しいお兄さんに迷惑をかけないように、
こっそりと・・・」
 じいいんと、胸が熱くなる。
 一所懸命料理を作る笛音。
 材料を切り、盛りつける。
 ところが、調味料に手を伸ばしたその瞬間、
「きゃぁ!!」
 がたんっ!とイスが揺らぐ。
 バランスを崩す笛音。
「あっ!!」
 たけると電芹はテーブルの影を飛び出した。
 まるで野球の選手のダイビングキャッチのように、電芹が床に落ちそうになる笛音の体
を受け止める。
 宙を舞った調味料入れを、たけるがキャッチする。
「ふう、もう少しで怪我をするところでした。」
 電芹が安堵のため息をもらす。
 たけるは電芹の腕の中から、笛音を抱き起こしてやる。
 たけるは笛音を抱えたまま椅子に座り、膝の上に笛音を抱える。
「大丈夫?笛音ちゃん。」
「う・・うん。」
 こくん、とうなずく笛音。
「だめだよ、こんなくらいところで一人で。怪我したらどうするの。」
「・・・ぐすっ・・・・ひっく、ひっく・・・」
 じわわわ・・・。笛音の目が涙があふれてくる。
「大丈夫よ。ここに入ったことを怒っているわけじゃないんだから。でも、ここを使いた
ければ、おねーさんたちに言ってね。」
「うん・・・ごめんなさい。おねえちゃん・・・」
 涙を手で拭いながら、こくこくとうなずく笛音。
 そんな彼女をたけるはぎゅっと抱きしめた。


「いらっしゃいませ〜☆」
「ふう。まいどっ。」
「OLHさん、今日も大変みたいですね。さ、お席へどうぞっ。」
「たけるさんはいつも元気だねぇ。うらやましいよ。」
「えへへ。それがとりえですからっ。ちょっと待っててくださいね〜。」
「あ、注文を・・・・・」
 たけるはOLHの制止を聞かずに厨房へと下がっていってしまった。
 なにか変わったものにしようかと、メニューを開いてみる。
「おまたせしましたぁ☆」
 がちゃ。かちゃかちゃ。
 目の前に、料理が並べられる。
「まだ何も頼んでないけど・・・・」
「いつもがんばってるお兄さんの為の料理ですっ。さぁ、めしあがれっ☆」
「え?あ、う、うん・・・・」
「・・・どうですか?」
「うん。すごくおいしいよ!・・・でも、これ・・・」
「え?なんかへんでしたぁ?」
 心配そうな顔をするたける。
「・・・笛音の作る料理と同じ味がする・・・」
「ぷ、ぷふふふふふふふふ・・・・・」
「くすくすくす・・・・」
 気が付くと、電芹もいた。
 なぜか二人とも口を押さえて笑っている。
「なに?なんか、変なこと言った?」
「くすくすくす、いえ。OLHさんは、ちゃんと笛音さんのこと判ってらっしゃるんだな、
と思いまして。」
 電芹がすっと、横に移動する。
「あ、ふ、笛音・・・」
 電芹の影から、笛音の姿が現れる。
 小さなサイズのウェイトレス服に身を包んで。
「今日の料理は笛音ちゃんが作ったんですよっ。」
「私たちは飾り付けのお手伝いをしただけなんですよ。」
「そっか・・・。とってもおいしいよ。笛音。」
「・・・・・・・うん。」
 真っ赤な顔でうつむく笛音。
「でね、笛音ちゃんと相談したんだけど、OLHさんにお願いがあるの。」
 たけるは、笛音の後ろに立ち、両肩に手を携えながら、OLHに話しかけた。
「え?は、はい。何でしょう。」
「笛音ちゃんに、ここのお手伝いをしてほしいなって。」
「カフェテリアの?」
「うんっ。といってもOLHさんが、ここで晩御飯を食べる時だけの、すぺしゃるこっく
さん。」
「それって・・・・・」
「だめ?」
「え、いや、そりゃありがたいけど、そちらに迷惑が・・・」
 ぴとっ。OLHの口を、たけるの人差し指がふさぐ。
「お・ね・が・いっ☆」
 ・・・・こくこく。首を縦にふるOLH。
 ぱぁっと、笛音の顔が明るくなる。
「良かったですね。OLHさんの晩御飯、これからいつも用意して上げられますよ。」
「うんっ!」
 にぱっ。
 電芹に向けられた笛音の笑顔は太陽のように明るかった。
 こうしてカフェテリアにまた一人、かわいらしいメンバーが加わることにあいなった。

 ・・・数日後

「ふう、あつあつだよね〜。」
「ええ。あつあつですね。」
「夫婦みたいだよね〜。」
「夫婦みたいですね。
 テーブルで食事するOLHを、かいがいしく世話する笛音。
 頬に付いたご飯粒を取ってやったり、お茶を注いだり。
「いいねぇ。」
「いいですね。」
「あてられちゃうよね〜。」
「なんでしたら、私がたけるさんのお世話しましょうか?」
「え?」
「くすくすくす・・・」
「もうっ!電芹っ!!」
 真っ赤になっるのをごまかすため、怒ったふりをするたける。
「すみませーん、コーヒーおかわり〜。」
 客席から声がする。
『はーいっ』
 たけると電芹の声が重なる。
 今日もカフェテリアガールズは、元気いっぱいだった。

【つづく】

(C)Sage1998