Lメモ「GO!GO!ウェイトレス 第3話:にゅーふれんど☆」 投稿者:Sage
「はぁ・・・」
 両肘をテーブルにつき、天神貴姫は大きなため息をついた。
「どうしたんですか?」
 グラスをみがいていた川越たけるが、たずねる。
「愛用のモップを壊しちゃったんです。修理に結構な値段がかかりそうなんですよ。」
「モップを修理ですか?添え木をして、釘でとんとんっと・・・」
「あ、ごめんなさい。モップといっても普通の掃除用のモップじゃないんです。」
 貴姫が所属する掃除委員会の標準装備”ビームモップ”。
 清掃用具と言うより武器に近い代物である。
『ビームモップのご用命は第2購買部へどうぞ〜☆(第2購買部CMより)』
「誠治さんに相談してみたらどうですか?」
「う〜ん。誠治様ねぇ。」
 苦笑しながら貴姫は考えこんだ。
 たしかに工作部に行って彼に頼めば、ただで直してくれるだろう。
 でも、借りを作るようで、なんとなく貴姫はためらってしまうのであった。
「いつも、あの人に甘えてるわけにもいかないわ。今回は、なんとか修理費稼いで、
ちゃんと自分で直すことにします。」
「どうするんですか?アルバイトとか?」
「ええ。そのつもりです。たける様、なにか良いバイトごぞんじ?」
「えっと・・・・・・・・・・ウェイトレスなんてどうですか?」


「いらっしゃいませぇ〜☆」
 その声と、目の前に立つ少女の姿を見た瞬間、誠治は、金縛りにあったように動けなく
なった。
「た、た、た・・・・」
「おひとりですね?こちらへどうぞ〜☆」
 誠治の前には、まるでゲームに出てくるようなウェイトレス服に身を包む、貴姫の姿が
あった。
「くすくす。どうされました?誠治様。さ、どうぞ。」
二の腕を引かれ、カウンターへと座らさせられる。
「た、貴姫さん、いったいどうしたっていうの?ま、まさかハイド君に弱みをにぎられて
無理矢理・・・・」
 ぺしっと、貴姫が誠治の頭を手にしたメニューでたたく。
「そんなわけないでしょ。しばらくここでアルバイトすることにしただけですよ。」
「は、はぁ。」
 まだ誠治は自体が飲み込めていないようであった。
「お客様、ご注文は?」
「あ、えっと・・・・」
 あわてて誠治がメニューを開く。あれこれ悩むが、結局いつものミルクティーを注文
した。
「ホットミルクティー、一つです。」
「はぁい。ふふふ。誠治さん、あわててましたね。」
 厨房の入り口から二人の様子を眺めていたのだろう。
 たけるは笑いをこらえながらミルクティーの準備を始める。
「ほとんど毎日顔を合わせているのに、なんであんなにあわてるのかしらね。」
「ですよねぇ。ふふふふ。」
「姉様!姉様はいずこに!?」
 突然、カフェテリアに大きな声が響きわたる。
「・・・・・はあ、今度はうるさいのが来たようね。」
「はい。お仕事お仕事。」
 貴姫はたけるから冷水とおしぼりを受け取ると、メニューを片手にテーブルへと向かう。
 そこにはアフロヘアーの男子生徒が一人。
「いらっしゃいませTaS様。」
 営業スマイルで応対する。
「おお!姉様、ウェイトレス服がすごくお似合いデス。」
「はいはい。で、ご注文はなにになさいますか?」
「姉様ひとつ!」
 べしっ!
「・・・・じゃあ、姉様の今来ている服を!」
 どがしっ!
「・・・・せめて下着だけでも」
 どかばすぼかっ!!
「はっはっはっ冗談デス。姉様の作る物でしたら何でもオッケーデス!」
 ぼろぼろになりながらTaSが答える。
「ほんとに?」
「本当デス!!!」
「ほんとうね?(にやり)」
「・・・う・・・メニューに乗ってる物なら・・・・」
「・・・少々お待ち下さいね。(にっこり)」
「姉様、なんか怖いデス。」
10分後、TaSの目の前には、貴姫とたけるが二人がかりで運んできた、カフェテリア
特製、『30分以内に食べられたら無料!』の、超特大チョコレートパフェが、どすんと
置かれた。

 その日は『あたらしい娘がカフェテリアにはいったらしい』という噂があっという間に
広がり、カフェテリアは開店以来の大盛況となった。

「はぁい、ミートソースできましたぁ。」
「プリンアラモードが2つに、チョコレートパフェが3つですっ!」
「バナナクレープできてます。3番テーブルまでおねがいしまーす!!」
 楽しく会話する客席とはうらはらに、カウンターの内側は戦場になっていた。
「すみませーん、コーヒーおかわり〜・・・って、聞こえてないようね。」
 カウンターに座っていた女性が声を上げるが、厨房の中はそれどころではないらしい。
「フフフ。まさに戦場ネ。」
「じゃあ、私、資料づくりがあるから。」
「ウン。姉さんがんばってネ。」
 手を振り女性を見送る宮内レミィ。ということは、先ほどの女性は姉のシンディだろう。
「あっ!」
 後ろで、幼い女の子の声が挙がる。
 振り返ると、テーブル一面に広がるオレンジジュース。
 女の子の手には、空になったグラスが握られていた。
 おそらく、はしゃいでいるうちに、手に引っかけて倒してしまったのだろう。
「あぁ、笛音!大丈夫か?」
 一緒にいた男子生徒が、ハンカチで、塗れてしまった女の子の袖を拭いている。
 レミィは、店員を呼ぼうと、厨房の方をのぞくが、中にいる二人とも手がいっぱいのよ
うだ。
 残る一人も、オーダーを取るのに走り回っている。
「しょうがないわネ。」
 カウンターの中に入り、ダスター(布巾)を数枚手に取り、先ほどの女の子がいたテー
ブルへと向かう。
「だいじょうぶデスカ?」
「あ、ええ。ありがとう。」
 手分けして、テーブルと、床にこぼれたジュースをふき取る。
「あ、俺、3年のOLHです。ありがとう。ほら、笛音も、お詫びしないと。」
「ごめんなさい。」
 笛音とよばれた少女が申し訳なさそうにお辞儀する。
「いいのヨ。飲み物があるときは気をつけてネ。」
 レミィは笛音の頭を優しく撫でてやりながら言った。
 笛音はこくんとうなずき、
「うん。こんどは気を付けます。」
 と、答える。
「じゃ、私はダスターを片づけてくるわね。」
「おねえちゃん、ありがとね。」
「気にしないでいいヨ」
 オレンジジュースで濡れたダスターを手にとり、にこやかに手を振りながらテーブルを
離れる。
 そのままカウンターに置いて行ってもよかったのだが、カウンターが汚れるのも忍びな
かった。
 横手から回り込み、カウンターに入る。
 トップテーブルに隠れるようにして備え付けてある流しに、ダスターを放り込む。
 ざーっと水をながし、軽く洗う。
 ぎゅっと絞り、水気を切った後、広げて流しにかけておく。
 ここら辺の手際は、昔ファミレスでバイトした経験のおかげであろう。
「すみませーん、コーヒーおかわりぃ。」
 カウンターにいた、見慣れぬ生徒から声がかかる。
 たしか、2年のひめ・・・ひろ・・・ほめ・・・名前は忘れた。
 きょろきょろ見回すが、周りに店員はいない。
「ワタシ?」
「うん。コーヒーおかわりおねがい。」
「エーット・・・・・・」
 ”店員ではないです。”そう答えようと思ったところに、注文を取りに行っていたたける
が戻って来た。手には空いた皿やらグラスやらがいっぱいである。
「あ、ウェイトレスさん、そちらの人がコーヒーおかわりだって行ってますヨ。」
「え?あ、は、はいってわたたたた。」
 たけるは思わずバランスを崩し、皿を落としそうになる。
「・・・手伝いましょうか?コーヒー入れるくらいでよければ。」
「え、あ、すごく助かります!!」
 誰のものかはわからなかったが、カウンターの端に、エプロンが畳んでおいてあった。
 手早くエプロンをつけると、コーヒーサーバーのところへゆき、コーヒーを手に取ると、
先ほどの生徒のところに戻る。
「お待たせしましたぁ。カップ、よろしいですか?」
「あ、はい。」
 生徒が差し出すカップにコーヒーを注ぐ。
 コーヒーと差し替えに今度は学生証を受け取り、レジスターに通し、”ホットコーヒー”
のボタンを押す。
 システムはファミレスとほとんど変わらない。
「すみませーん。こっちにもコーヒー2つ。」
「ハァーイ。」
 グラスラックから、コーヒーカップを2セット取り出す。
 手早くコーヒーを注ぐと、トレーに乗せ、ミルクピッチャーとスプーンを添える。
 充電器に刺さっていた、オーダー用の端末を、エプロンのポケットに放り込むと、注文
のあったテーブルへと向かう。
「お待たせしましたぁ。」
 営業スマイルとともに、コーヒーを差し出す。
 携帯端末で、精算をすると、カウンターへと戻る。
 ふと気がつくと、たけるがぼぉっと、レミィの方を見ていた。
「どうかした?」
「あ、いえ。すごいんですねぇ。わたし、コーヒーをもったまま、あんな速度で歩けませ
んよ。」
「フフフ。慣れれば大丈夫ヨ。すぐにできるようになるネ。」
「う〜ん・・・」
「大丈夫ネ。私がバイトしてたとき、もっとおっとりした子がいたけど、1ヶ月もバイト
してたら、きびきび動くようになってたネ。」
「そうですか。がんばってみます。」
 頭をかきながら、苦笑するたける。
「お話中、すみません。オムレツ3つできました。3番テーブルです。」
 厨房から電芹が顔をのぞかせる。
「あ、はいっ!」
 あわててたけるがオムレツを持って、テーブルへと向かう。
 そんなどたばたが夕方まで続いた。

「お疲れさまでしたぁ。」
 片づけの終わった厨房に、たける、電芹、貴姫、そしてレミィの姿があった。
 テーブルには余り物で作った、簡単なオードブルが並んでいる。
「レミィさん、今日はお手伝いしていただいて、本当にありがとうございました。」
「いいのヨ。困ったときはお互い様ネ。」
 たけるが深々とお辞儀をしながらそう言うと、ちょっと照れたようにレミィが答える。
「でも、トレーに飲み物を乗せたままテーブルの間をすり抜ける姿は、まるで武道の達人
みたいでしたよ。」
 くすくすと笑いながら貴姫。
「そうだ、レミィさんも、ウェイトレスのバイトやりませんか?」
「う〜ん・・・・」
 腕を組み、まじめな顔をして、レミィが考え込む。
 数秒の間・・・
 そして、顔を上げたレミィは、笑顔を浮かべて言った。
「いいワ。弓道部が休みの時だけだけど、オッケーヨ。」
「わーいっ。」
 おおよろこびするたける。
「くすくす。仲間が増えてよかったですね。いえ、部下が増えて大変になるのかしら?
たける様。」
「え〜!?部下って、私が一番後輩なんですよぉ?貴姫さんっ。」
「そんなこと関係ないネ。郷に入っては郷に従え。店のルールは店に一番長くいる人が決
めるものネ。たけるチーフ。がんばってネ。」
「あうあう、電芹〜」
 助けを求めるような視線でたけるは電芹を見た。
「ふふふ。たけるさん。わたしも応援しますからがんばってくださいね。」
「あう〜、電芹まで〜しくしく」
「嘘泣きしてもダメ。明日からよろしくネ。」
「てへっ。こちらこそよろしくお願いします。」
 レミィに見透かされて、たけるは舌を出す。
「では、乾杯しましょう。さ、グラスを持って。」
 貴姫に促され、全員がジュースが入ったグラスを持った。
「では、カフェテリアの商売繁盛と、」
 レミィがグラスを高く掲げる。
「新メンバーの参入と、」
 電芹が唱和する。
「たける様のリーダーぶりが遺憾なく発揮されることを願って、」
 貴姫が続く。
「あう・・・(汗)・・・かんぱーい!」
 クリスタルガラスの奏でる澄んだ音が、厨房に響きわたった。

 ・・・そして翌日、某所にて

「導師、例の店、ウェイトレス、二人も増えたんですね。」
「なに?俺はしらんぞ?」
「ああ、あなたが留守の時に電芹が来てたわ。私が許可しといたから。あ、そうそう、
彼女たちのユニフォーム代だけど、あなたの口座宛に請求書回しておいたからね。」
「綾香ぁ〜そんな殺生なぁ!」


【つづく】

(C)Sage1998


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コメント:開店以来大繁盛のカフェテリア、てんてこまいのたける&電芹に、力強い味方が・・・
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レギュラーメンバーがやっとそろったお話です。
うぅ・・・全部書き直したい衝動に駆られますが・・・(汗)