バレンタインLメモ「チョコにかける青春」 投稿者:Sage
 今日はなぜか、みんなそわそわしていた。
『バレンタインデー』
 学園ではこの日を別の名で呼んでいた。
『血の2月14日』
 本来、恋を伝えるはずのこの日には、なぜか学園では血の雨が降った。
 主に意中の人を争奪する男どもの醜い争いが原因であったが。
 業を煮やした学校側は、一つの手を打った。
『チョコレートの受け渡しは放課後まで禁止する。それ以前に渡したものは没収。』
 授業が終わる前に、被害者がでるのを避けるため。
 そう言う名目であった。

「じゃあ、放課後になったら、カフェテリアで待ち合わせね。」
「うん。」

「伝説の木の下で待っていますっ。(ぽぽっ)」
「(そんな木あったっけ?(汗))」

「「「今日こそは先生のハートをげっとよっ!(ぐぐっ)」」」
「(ぞぞっ)・・・なんだ?今の悪寒は・・・早退しようかな・・・」

「ジン、楽しみに待っているぞ。」
「・・・なんで俺が男にチョコをやらねばならんのだっ!?」

 昼休みになり、恋人達(?)の間では、チョコを渡す待ち合わせ場所などの相談が行
われていた。

 てくてくてく・・・

 廊下を歩く二人ずれの姿があった。
 一人は藍色の長い髪。
 制服の上に黒マントという出で立ち。
 もう一人は緑の髪。
 耳のセンサーが彼女が人間でないことを示していた。
「まったく、どこに・・・・お、芹香先輩にマルチ。綾香見なかった?」
 通りすがりに、男子生徒から声をかけられた。
((ふるふる))
 二人同時に首をふる。
「そっか、ありがとう。」

 てくてくてく・・・・

「あ、来栖川先輩に、マルチ。どっかで葵ちゃん見かけなかったかい?
 また別の男子生徒から声がかかる。
((ふるふる))
 同じように首を横に振る。
「あ、そう。ありがと。またね〜」
 走り去る生徒と別れ、再び二人は歩き出す。

 てくてくてく・・・・

 やがて二人はクラブ棟にたどり着く。
 だが、二人が向かった部屋は、来栖川芹香のいるオカルト研の部屋ではなかった。
「ふう、うるさいのはうまくだませたようね。・・・・・しかし、ちょっと化粧しただ
けで、姉妹の見分けが付かないなんてね。」
「やっぱり、姉妹だからでしょうかね。よく見れば綾香さんだとわかるんでしょうけど、
その服装で、芹香先輩だと思いこんでしまうのかもしれませんね。」
「先入観ってやつね。しかし・・・・葵・・・・あんたは見分け付かないわ。」
「えぇ!? わたし緑のかつらかぶって、耳をつけただけですよ!?」
「うん・・・・つかない。」
「はうぅぅ、ひどいですぅぅ。」
「・・・・・口調までマルチに似てきたわね。」
 二人はうるさい連中をまくために、仮装して逃げていたのだった。
「ふう。」
 仮装を解き、ほっと一息つく二人。
「でも、綾香さん、こんなことする必要あったんですか?」
「甘いわよ、葵。ここ数日、まわりの男達が妙じゃなかった?」
「え?ええ。そういえば、みなさん凄く親切でした。」
「みんな、今日の為の布石よ。この学園の男子達は、チョコをもらう為には手段を選ば
ないわ。だからこっちも手を打たないと。去年なんて・・・・」
「去年・・・何かあったんですか?」
「・・・・色々とね。」
 明日のジョーのように、なぜか真っ白に燃え尽きてしまった綾香に、葵はそれ以上、
何が起こったのか聞くことは出来なかった。



 そして放課後。
 男子生徒は校庭に集められた。
「さて、男子生徒の諸君。元気かぁい!」
 柏木千鶴校長は、さっそうと壇上にあがると、マイクに向かって叫んだ。
「おぉぉぉぉ!!!!」
 男どもの雄叫びが校舎に響きわたった。
「さぁて、今日は待ちに待った、バレンタインっ! みんな、準備はいいかいっ!!」
「おぉぉぉぉ!!!!」
「で〜も、もしかすると、チョコをもらえない不幸な男の子もいるかもしれないから、
まずは私からぷ・れ・ぜ・ん・とっ。校舎に入るゲートの脇に、私からの愛のチョコが
置いてあるの。校舎に入るには、まず、それを食べてから入ってね。ではスタート!!」
 ぱぁん!!!
 ピストルの音が鳴り響いた。
 生徒達は一斉に走り・・・・・ださなかった。
 ざわざわざわざわ・・・・
「おい・・・どうする・・・」
「千鶴さんのチョコだろ・・・(汗)」
「食わなきゃ出られない・・・でも、食ったら・・・・」
「どうすんだよ・・・」
 ”千鶴のチョコ”という言葉に怖じけずいて、だれも行こうとしなかった。
 その中、一人だけつかつかっとチョコに近づく影があった。
 むんずとチョコを掴むと、手荒にラップを剥き、ぽいと口へ放り込んだ。
 もぐもぐ・・・ごくん。
「お、おい。大丈夫か?」
「ふっふっふっ。当然。」
 親指をたて、ジン・ジャザムはにやりと笑った。
「なら俺の分も食えぇぇ!!!」
「俺のもだぁぁぁ!!!」
「お、おまえらっ、ちょっがふっげごがごぼがぐががばばがげばげべれぼがぼ・・・」

  ジン・ジャザム、口に大量のチョコレートを押し込まれ、中破。

 ぱくっ。もぐもぐ・・・。
「誠治さん、大丈夫なんですか?」
 東雲忍が、怪訝そうな顔をして、菅生誠治の顔を見た。
「ん?ああ。ラッピングを見ろよ。既製品のチョコだよ。」
「あ、ホントだ。賞味期限のシールが貼ってある。」
「まあ、いちいち全校生徒に手作りのチョコを作る暇なんて、千鶴先生にはないだろう。
それに、女性だったら手作りは特定の人にだけと考えるだろうしな。」
「それもそうですね。だとすると、ジンさん・・・」
「無駄死にだったな。(合掌)」
「ええ。(合掌)」

 (チョコごときで殺すなぁぁぁぁ!!!(滝涙 byジン))



 生徒達は普通のチョコレートであることが確認されると、皆一斉に口にほおばり、ゲート
をくぐっていった。
 そして、目当ての女性の元に、一目散に向かっていった。
 だが、中には動かない者もいた。
「ふっふっふっ・・・いつかこういうときが来ると思っていたぞ、悠。」
「そうだな・・・ハイドラント。」
 中庭のど真ん中で、二人は対峙していた。
「勝った方が先に綾香の所にゆく。それで異存はないな。」
「ああ。」
 じり・・・じり・・・
 間合いを詰める二人・・・
 そして・・・
「おいっ、聞いたかよ。綾香さん、今回は先着100名にチョコをくれるらしいぜ。」
「なに!? まだ間に合うかもしれん!! いくぞっ!!」
「おおっ!!」
 通りがかった男子生徒の声が聞こえた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「「おのれ綾香ぁぁぁぁ!!」」
 男心をもてあそばれた二人の叫びが校舎に響いた。
 その場にいた男子を締め上げ、場所を聞き出したハイドラントと悠は、全速力で会場
に向かった。
『来栖川綾香&松原葵 チョコレート配布場所』と書かれた横断幕が、小体育館に貼ら
れていた。
 そして、その門の前には屍の山が築かれていた。
 どうやら、入り口を守っている数名の男達がこの山を築いたらしい。
 佐藤昌斗、ディアルト、T-Star-Reverseら、松原シンパの者たちだった。
「チョコレートの為に、命を落とすか・・・哀れな者たちだ。」
「たしかにな。」
 横たわる躯を見下ろし、悠はハイドラントにあいずちを打った。
「むっ、貴様たちまで、松原さんのチョコ目当てか!?」
「そんなわけなかろう。必要なのは綾香のチョコだけだ。」
「といいつつ、松原さんからももらうつもりだろうがっ!」
「ふむ・・・冷静な判断も出来なくなっているようだな。」
「大人しく帰ればよし。さもなくば・・・」
「ほう。さもなくばどうだというのだ?」
「滅するのみっ!!」
 突然襲いかかる男達。
 ハイドと悠は、とっさに後ろに飛び去る。
 一撃をよけ、すぐに反撃。
 飛び散る火花。
 ぶつかり合う拳と拳。
「やるなっ」
「そっちこそ」
 学園を代表する猛者達の戦いは、長期戦の様相を呈してきた。
 途中からガンマルや葉岡斗織、TaSなども加わり、さらに混戦となった。

 そして1時間経過・・・・

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「や、やるな・・・」
「貴様も・・・な・・・」
「・・・・みなさん、なにやってるんです?」
 突然、小体育館の中から声がかかった。
「よっしー!!貴様、どうやって中に!?」
 そこに立っていたのはYOSSYFLAMEだった。
「どうやってって・・・校舎からの連絡通路を通ってですが。」
「な、なにぃ!?」
「ところでみなさん何やってるんです?綾香さんも葵さんも、とっくに帰りましたよ?」

「「「「「がが〜ん・・・・・」」」」」

   ひゅ〜

 真っ白に燃え尽きた男達の間を、冬の冷たい風が通りすぎた。
 彼らが、自分たちの下駄箱に、チョコレートが入っていることに気付くのは、翌日の
ことだった。



☆リザルト

 ハイドラント、悠朔
  綾香から、「義理」と書かれた特大のチョコレートをもらい、理解に苦しむ。

 ガンマル、葉岡斗織、他
  ハイド達と異なる、普通のチョコレートをもらい、もっと理解に苦しむ。

 佐藤昌斗、ディアルト、T-Star-Reverse、他
  葵ちゃんから手作りのトリュフをもらい、ほくほく顔で帰る。

 オカルト研とその関連メンバー
  芹香の特製チョコの為、浮遊霊に惚れられ、数日にわたってつきまとわれる。

 風見ひなた
  晩御飯にチョコレートのフルコースが出て、美加香を殴る。

 雪智波
  なぜかキャットフードが下駄箱に入っていたらしい。

 OLH
  もらったはずのチョコレートは、全部お子さまに奪われた。
  手元には勇希からもらったものだけが残る。

 柏木耕一&ジンジャザム
  全治一週間。

 藤田浩之
  周囲の男どもの予想を裏切り、紙袋2つにいっぱいのチョコをゲット。
  だが、その半数は爆発物&かみそり等の危険物入りだったらしい。

 YOSSYFRAME
  学年最多のチョコをゲット。日頃の成果を周囲に示す。

 Beaker
  チョコの販売に忙しく、自分が貰うのを忘れて帰宅。
  翌日、好恵さんにどつかれる。

 秋山登
  柏木梓から、「これあげるから、大人しく帰って。」と懇願され、麦チョコ一袋を
  手にしながら、笑い声と共に闇に消える。



 順不同