Lメモ「試立Leaf学園奮戦記 序章:水色の節」 投稿者:Sage
Lメモ「試立Leaf学園奮戦記 序章:水色の節」  Sage
「んしょ、んしょ」
 放課後、ゴミのいっぱい詰まったゴミ箱をかかえ、ちびまるは校舎裏の焼却炉へと向
かっていた。
「んしょ、んしょ・・・・ん?」

 『カタン、カタン、シャァァァァァァ・・・・』
 『カタン、カタン、シャァァァァァァ・・・・』

 どこからともなく、周期的な物音が聞こえてきた。
 軽い、おそらくプラスティックが擦れ合う音。
 ギヤがかみ合う駆動音。
「なんでしょう?」
 ちびまるはその物音に興味をもち、ゴミ箱を抱えなおすと、その物音がする方へと向
かった。

 『カタン、カタン、シャァァァァァァ・・・・』
 『カタン、カタン、シャァァァァァァ・・・・』

 校舎裏。体育用具置き場のわきからその物音は聞こえてきた。
 ひょいっと、用具室のかどからのぞき込むちびまる。
(あっ。)
 そこには人の姿があった。
 そして、その人の足下に敷かれたグレーの枠組み。

 『カタン、カタン、シャァァァァァァ・・・・』

 プラスティックでできたその枠組みの中を、10cm程のちいさな車がぐるぐると駆
けめぐっていた。
(ふわあ、はやいですぅ。)
 サーキットのコースの様な枠組みの中を、おもちゃの車が周回を重ねていた。
 右へ、左へ。
 あまりの早さにコースから飛び出すのではないかとちびまるは心配したが、おもちゃ
の車は、がたつくこともなく、ぐるぐるとまわっていた。
「だれ?」
 ふいに声がかかる。
「あ・・・・」
 車に意識が剥いていて気がつかなかったが、コースの脇に立っていた少年が、こちら
を向いていた。
「ご、ごめんなさい。何の音かと思って・・・」
 あわてて頭を下げるちびまる。
 その拍子にゴミ箱からごみがぽろぽろと落ちる。
「あ、おちたよ・・・」
 少年がかけより、落ちたゴミを拾う。
「す、すみませぇん」
 ちびまるもゴミ箱を置くと、あわてて一緒に拾った。
「ありがとうございますぅ・・・あの・・・あれ、なんですかぁ?」
「ん?あれ?ミニ四駆だよ。」
「みに・・・よんく?」
「うん。モーターをつんだおもちゃの車で、コースを走るスピードを争うんだ。」
「おもちゃ・・ですかぁ?」
「うん。おもちゃなんだけど、コースにあわせたギヤ比の調整やタイヤの選択。コーナー
にあわせたリングの装着や、重量調整のためのパーツの加工とか、いろいろやることが
あって、すごく奥の深い遊びなんだ。ミニ四駆の全国大会もあるんだよ。」
「へぇ、すごいですねぇ。」
「うん。ちょっと見せたげるね。」
 そういうと少年はコース脇に置いてあったケースを開いた。
「わぁぁぁぁ、綺麗ですぅぅ!!」
 ちびまるが感嘆の声を上げた。
 少年が開いたケースの中には色とりどりのミニ四駆が並んでいた。すべてが綺麗に色
づけされ、さながら小さな宝石箱のようであった。
「この子が僕の自信作なんだ。」
 少年がケースから、楽しそうに白に青いラインが入った車を取り出した。
 細かな加工を施したあとがうかがえるボディーには、稲妻を模したラインがひかれ、
いかにも速そうであった。
 『カチッ。』
 『キュイィィィィィィィィィ・・・・・・』
 少年がスイッチを入れると、モーターの音が響き、車の4つのタイヤが同時に回転を
始めた。
「いくよ。」
 少年はそういうと、手にした車をコースの上へともって行き、そっと手を離す。
 『キュッ。シャァァァァァ・・・・・・・・・』
 回転するタイヤがコースに触れた瞬間、車は枠の中を猛ダッシュで進み始める。
 直線部
分があっというまに終わり、コーナーにさしかかる。
「シャァァァァ!!!」
「あぶないっ!」
 あまりの早さに、ちびまるは間違いなくコースアウトすると思った。
 だが、車は何事もなかったように、コーナーを綺麗にまわる。
「ふわぁぁぁ・・・すごいですぅ!!」
「車の前、バンパーの左右に張り出すように、小さなわっかがついているでしょ? あの
ローラーが、コーナーの壁に当たって、車をスムースに旋回させるんだ。」
「へぇぇぇ。小さいのにすごいんですねぇ。」
「うん。すごいだろ。他にもコースにあわせて調整した車がいろいろあるんだ。見せた
げるよ。これが、直線の多いコース用で、タイヤが・・・・・」
 ケースから車を一台ずつ取り出し、説明を始める少年。
 ちびまるはすごいすごいを連発しながら、少年の説明に聞き入った。



「・・・・遅いな。」
 工作部の部室では、保科智子が心配げな表情を浮かべていた。
「そうだな。ゴミを捨てに行っただけなのに・・・もう30分か。」
 デスクの上の時計を眺め、誠治がつぶやく。
「わたし、ちょっと見てくるわ。」
「うん。頼むわ。」
 智子は活動日誌のノートを閉じると、ちびまるが行ったはずの校舎裏へと向かった。
 工作部のあるクラブ棟から、焼却炉のある場所までは、校舎をぐるりと迂回しなけれ
ばならない。
 ちびまるはいつも転ばないように、地面のでこぼこが少ない、時計回りの迂回路を通
るので、智子も同じ道を選択した。

 ひゅうぅぅぅ・・・・

「風がでてきおった・・・」
 まだ、日暮れには時間が合ったが、あたりは徐々に暗くなってきた。
 雨は降らないであろうが、風が徐々に強まってきたようだ。
「うっ。」
 風に舞ったほこりが智子の右目に入った。
 眼鏡をはずし、手の甲で目をこする。
「んもうっ!」
 ちょうど校舎と校舎の間で、ビル風のように風が舞っていた。
 智子はここにいても、ほこりをかぶるだけだと判断し、目をこすりながら校舎裏へと
向かった。
 眼鏡を外した智子は、あまりよくものが見えなかった。
 しかも右目に入ったほこりがとれず、涙でさらに視界が悪化していた。
 だが、校舎の裏手にまわると、ぼやっとだが、前方にうずくまる、緑色の頭が左目に
映った。
「あ、おった・・・まったく、心配させて・・・」
 目をこすりながらちびまる達の方に近づく智子。



「・・・・おぉい、ちびまるぅ」
 遠くから智子の声がした。
「あ、ともねえちゃんですぅ。ともねえちゃあん。」
 立ち上がり手を振るちびまる。
 少年もつられて立ち上がる。
 ちびまるに答えて、手を振る智子。
「あ・・あれ・・・あぶない・・・・かな?」
 ふいに、少年がつぶやくよう言った。
「ほえ?」
「あれ・・・校舎の上・・・」
 ちびまるが少年が指さした方をみると、そこには、TVのアンテナらしき鉄パイプが、
垂れ下がっていた。
 校舎裏にいたちびまるたちは風が強まっていたのに気がつかなかったが、先ほどから
の強風で、腐食していた根元から、TVアンテナがぽっきり折れたのである。
「と、ともこねぇちゃん!!すとっぷ!!!」
 ちびまるが精一杯の声で叫ぶ。
 しかし、智子には聞こえないらしく、そのまますたすたとこちらに向かってきた。
 ジェスチャーも交えて、止まるように智子に合図を送るのだが、目に入ったゴミを取
ろうと目をこすっている智子には見えなかった。
 TVアンテナは、すでに金属部分は完全にちぎれ、ケーブルだけでぶら下がっている、
いまにも落ちそうな状態だった。
「あぶない・・・よね・・・」
「あぶないですっ!!!」
 ちびまるは、とうとう智子の方にかけだした。
「まって!今行ったら君もあぶないよ!!」
 少年は、ケースから1台のミニ四駆を取り出す。
 素早くボディーを開くと、新品の電池を放り込み、スイッチを入れる。
 モーターがうなりをあげ、ホイールが高速で回転する。
「いけえっ!!お姉さんをとめるんだっ!!」
 念を込め、ミニ四駆を地面に置く。
「ギュルルルルルルルル!!!!!!!」
 タイヤが地面に触れるか触れないかのところで、少年は手を離す。
 ミニ四駆はおもちゃとは思えないダッシュを見せ、智子へと一直線に向かった。
 だが・・・

 ぶちん。

 ちびまるにはケーブルが切れる音が聞こえた気がした。
 支えを失ったTVアンテナが、スローモーションのように、上から落ちてくる。
「と、ともねえちゃん!!」
 智子の真上からTVアンテナが落ちてくる。
 ちびまるは、思わず目をふさいだ・・・・

 がしゃぁぁぁん!!!!!

  ・
  ・
  ・

 金属がひしゃげる音が響きわたり、やがて静寂が訪れた。
 ゆっくり目を開くちびまる。
 そこには、きょとんとした顔で立ちつくす、智子の無事な姿があった。
「ともねぇちゃぁぁぁぁん!!!!」
 智子の方にかけだすちびまる。
 その瞳からは大粒の涙がぼろぼろと流れ出していた。
 そして、智子に駆け寄ると、その胸へと飛び込んだ。
「ち、ちびまる・・・えっと・・・なにがおこったん?」
 智子は訳が分からなかった。
「えぐえぐ・・・怪我がなくてよかったですぅぅぅ。」
 智子の胸で泣きじゃくるちびまる。
「大丈夫?」
「え?」
 訳のわからないままちびまるをあやしていた智子が気がつくと、目の前に一人の少年
が立っていた。
「あんたは?」
「2年に転入した、八希望だよ。」
 八希と名乗った少年は、そういいながら、智子の足下にひざまずいた。
「あっ・・・・。」
 智子が足をどけると、そこにはひしゃげたミニ四駆があった。
 そう。TVアンテナが落ちてくる直前、智子は何かを踏んだ気がして、立ち止まった
のだ。
 それは八希が走らせたミニ四駆に他ならなかった。
「よくやったね。」
 愛おしそうにミニ四駆を抱え上げる八希。
「ご、ごめん・・・。」
「いいよ、いいよ、大怪我するよりよっぽどましだから。」
 八希は、にっこりと微笑んだ。
「わたし、保科智子。もしかして、わたしを助けるためにこれを?」
「うん。」
「そっか・・・ほんとにごめん!」
「大丈夫、この子は修理できるから。」
「でも・・・・・。そや、部室に来てぇな。わたしもちびまるも工作部って部におるん
よ。いろんな工作機械もあるし、部長に言えば、材料も融通してもらえると思うし。」
「工作部?」
「ぶちょーに言えば、この車もなおしてもらえますよね。」
 いつのまにか泣きやんだちびまるも相づちをうつ。
「うん、そや。ほら、いこ。」
「いきましょ!!」
 八希の両手を引っ張る智子とちびまる。
「あ・・・ちょっと・・・荷物が・・・・」
「あ、私が取ってきますぅ。ともねえちゃんは、八希さんをつれてってくださいねっ。」
「うん。ほな行こか。」
「あわ・・・ちょ・・・・そんなに引っ張らなくてもいいよお・・・」
 八希は智子に引きずられるように工作部に連れられていった。



「そっか、智子さんの命の恩人かぁ。」
「いや・・・そんな。」
 八希の頬は、照れているせいか、ほんのり赤くなっていた。
「そうや。だから、誠治さん、サービスしてぇな。」
「サービスって、水商売じゃあるまいし・・・。ま、ちびまるも世話になったみたいだ
し、俺に出来ることがあったら、何でも言ってくれ。NC旋盤からフライス板まで、一
通りの工作機械はそろっている。ABS樹脂のプレートもあるし、必要ならグラスファ
イバ−だって、用意するよ。」
「そこまでしてくれなくていいよぉ。でも、ドリルやリューターなんかを貸してくれる
と、すごく助かるけど。」
「いいよ。いつでもおいで。なんなら・・・・部員になるかい?」
「工作・・部員に?」
「うん。実は結構おもちゃの修理の依頼って、結構あるんだよ。もし手伝ってくれると助
かるな。そのかわり、ここにある機材は自由に使ってくれてかまわないから。」
「う〜ん・・・・」
「八希くん、そうしな!!」
「のぞむさん、そうしてください!!」
 智子とちびまるも、そう言って詰め寄った。
「うっ・・・・・うんわかった。工作部に入部する!!」
「わぁいわぁい!!」
 はしゃぐちびまる。
「八希くん、よろしくなぁ!!」
 智子は八希の手を強く握ると、ぶんぶんと振った。
「あ・・・えっと・・・こちらこそよろしく・・・。」
 智子に手を握られて、ほのかに赤かった八希の頬は、さらに真っ赤になった。

 風の強い日の夕方。
 こうして工作部に新たなメンバーが加わった。


【つづく】

著作:Sage
校正:八希 望


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