Lメモ「運命の4月28日(後編)」 投稿者:Sage
・・・この作品を、レザムヘイム時空と現世とをつないだ、風見ひなたさんにささぐ。


            (本SSは、「赤十字美加香過去編」をご覧になってから、
              お読みになると、いっそう美味しく召し上がれます。)


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

Lメモ「運命の4月28日(後編)」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



『私のせいで、人が死んで行く・・・

 女神よ、救いの手を・・・

 お願いです・・・はやく・・・

 私はどうなろうとかまいません・・・

 はやく・・・』



「くそぉ!!!」
 妖魔が少女の胸を貫いた手を引き抜いたのと、楠誠治が崩れ落ちる少女の姿を見つけ
たのはほとんど同時だった。
『ズバァン!!ズバァン!!』
「ぎぎゃぁぁぁ!!!」
 警備用にカスタマイズされた、黒い髪のセリオが、腰だめに構えて連射するショット
ガンの銃弾を顔面に受け、妖魔は悶え苦しんだ。
 弾の切れたショットガンを投げ捨てると、セリオは腰からオートマチックを引き抜き、
さらに妖魔の頭めがけて連射した。
 ハードコートされた銃弾が、妖魔の手を貫き、頭を直撃する。
 びくんと体をしならせると、妖魔はそのまま後ろに倒れた。
「くそっ!!大丈夫かっ!!」
 少女に駆け寄る楠。
「ぐふぅ!」
 少女の綺麗なピンクの唇を、鮮血が染める。
「しっかりしろ!今なんとかするからな!!」
「あ・・・い・・・・」
 なにか言いたげな表情を浮かべた少女だったが、楠の腕の中で、がくっと崩れ落ちた。
 まだ死んだ訳ではない。
 だが、胸には大きな穴が開いており、あと2〜3分で失血死することは間違いなかっ
た。
「セリオ!!そこのドアを開けろ!!」
「はいっ!」
 そのドアの向こうには、医療関係機材のテストルームがあるはずだった。
 そして、そこには動物実験や、人工臓器のテストに使用する手術室がある。
(もしかしたら・・・助かるか・・・)
 ここ数日、メンテナンスルームでは、人工血液を使った、人工筋肉の研究が行われて
いた。あの血液なら、人間にも使用できると、研究者の一人が言っていた。
 楠は少女を抱き上げるとセリオに先導させ、テストルームへと向かった。

『バァン!!』
 セリオがドアを開けると、楠誠治は少女を抱きかかえたまま飛び込むようにその中へ
と入った。
「入り口の警備をたのむっ!!」
「了解。」
 楠は入り口にセリオを残し、妖魔に心臓をえぐられ、すでに心停止状態になっている
少女を、血だらけになりながら、テストルームの手術室へと運んだ。
 準備室にこもっていた研究員達をかりだし、少女を手術台に乗せる。
 動物実験なども行うことのあるこのテストルームには、手術に必要な機材も、幸い、
一通りそろっていた。
「血液検査っ!!」
「・・・A型です!!」
「人工血液を、人工心肺に投入!!電源を入れろ!!」
「クランケに脳波モニターをつなげ!!急いで!!」
「瞳孔反応微弱!!チアノーゼも出ています!」
 一人の少女の廻りで、白衣を血に染めながら男達が動き回る。
 服をはさみで切り裂き、傷口をメスで開く。
 心臓の部分は何もなくなっていた。
「人工心肺を接続するっ!!急げっ!!」
 回転式ポンプを備えた大型の機械が少女の横に備え付けられ、そのタンクに真っ赤な
人工血液がそそがれる。
 少女の体を開く。
 切断された肺動脈を、クリップで閉塞。
 心臓から伸びていたはずの太い血管に、人工心肺のチューブを繋ぐ。
「いれろ!!」
『ういぃぃぃ・・・・・・』
 機械が動き出し、血液が少女へと流れて行く。
 血圧が上昇するのにあわせ、ふたたび少女の胸に開いた穴から血があふれ出す。
「吸引機!!傷口の縫合を行う!それと、人工心臓を早くっ!!」
 大手術が続く。
 心臓停止から、人工心肺が起動するまで、結構な時間があった。
 脳波計は低いレベルを行ったり来たりしている。
 このまま体が治っても、植物人間になってしまうかも知れない。
 だが、男達には、目の前で少女の命が失われて行くのを黙って見ていることはできな
かった。



 そして3時間ほどが経過した。
 手術室から、数名のモニタ要員を残し、研究員・・・いや、手術をした”医師”たち
が焦燥しきった表情で手術室から出てきた。
 その中に楠の姿もあった。
「どうでしたか?」
 手術室から出てきた楠をセリオが出迎えた。
「ああ・・・。手術は無事に終わったよ。手は尽くしたつもりだ。あとは意識が回復す
るかどうか・・・。表はどうなった?」
「はい。すでにすべて終息したようです。社外への公式発表は、実験中の事故による、
火災事故という事になるそうです。」
「・・・そうか。」
「お疲れのようですね。お茶でもお持ちしましょうか?」
「ああ、たのむ・・・」
 だが、セリオがお茶を持って戻ってきたときには、楠はソファーで眠りこけていた。



 少女の意識は暗闇の中をさまよっていた。
 ぼぉっと、まるで夢遊病者のように。

『ごめんなさい・・・』
 やさしい、そして悲しげな女性の声がした。
 少女は足をとめ、ゆっくりと顔を上げた。

『ごめんなさい・・・わたしのために・・・』
 そこには真っ白な薄衣に身を包んだ女性が立っていた。

「私・・・・死んじゃったの?」
 少女はその女性に問いかけた。

『いえ。まだ死んではいないわ。でも・・・』

「私・・・・死ぬの?」

『・・・・・このままなら。でも、私が死なせはしないわ。』

「・・・あなたはだれ?」

『私はラキ。レザムヘイムの民。』

「れざむへいむ?」

『レザムヘイム。あなた方が住むこの世界とは別の世界。
 本来は決して混じり合うことのない世界。
 ・・・なのに、なぜかこの二つの世界がつながってしまったの。
 そして、そのために、妖魔達があなたの世界にあふれ出してしまった・・・』

「妖魔って・・・あの化け物?」

『そう。魔の力がレザムヘイムの生き物に満ちることで生み出される怪物、妖魔。
 本来、レザムヘイムの生き物達には女神が司る神の力と、魔の力の両方が与えられ、
 2つの力が均衡することで、妖魔になることは無いはずだったの。
 でも、しばらく前から、なぜか女神のちからが急激に弱まった。
 どういう理由かはわからないけど、急激に、あなたの世界に、女神の力が流れていっ
てしまったの。
 私は急いで魔の力を集めたわ。
 レザムヘイム側のバランスは、なんとか戻ったのだけれど、こちらの世界のバランス
を戻すのに手間取ってしまって・・・そのせいで、あなた達が・・・。』

「・・・このあと、どうなるの?」

『わからない・・・。女神達の姿はレザムヘイムから見えなくなってしまった。
 どうやらこちらの世界のどこかにいるらしいんだけど。』

「女神がいないと・・・どうなるの?」

『女神の存在自体は、それほど問題にはならないの。問題は女神が司る力の行方。
 もし、神の力と、魔の力が分段されたら、また、妖魔があふれかえってしまうわ。』

「女神がこちらの世界にいるのなら、魔の力もこちらの世界に無いといけないってこ
と?」

『そう。いまは私が魔の力をまとめてここにいるから安定しているわ。
 でも、私も宿る肉体もなしには長くいられない・・・。
 わずかな時間で女神を捜し出し、レザムヘイムに戻らなければ、また妖魔が・・・』

「・・・私の体をつかって。」

『え?』

「私の体を使って。宿る体があれば、女神をレザムヘイムへと戻す時間も稼げるんで
しょ?だから、私の体をつかって。もう、犠牲者をださないで。」

『・・・ごめんなさい。』

「私、怖かった。すごく怖かった。だから、こんな思い、他の人にはもうさせないで。」

『わかったわ。私はラキ。ファナティック・ラキ。レザムヘイムに魔の力が溢れないよう
に監視するよう、女神より力を与えられた騎士。』

「ラキ・・・ファナティック・ラキ・・・」

『ありがとう、心強き少女。ありがとう・・・。さぁ、すこし、おやすみください。良い
 夢が見られるよう、おまじないをしてあげますから。』

 ラキと名乗った女性は、少女に近づくと、そっとおでこに口づけた。
 少女は温かいその女性の腕にだかれ、ゆっくりと眠りに落ちた。



 それから数日後、少女は目を覚ました。
 心停止の時間が短かったため、後遺症は残らずに済んだようだった。
 だが、少女の胸と背中には、大きな傷が残った。
 それはまた、少女の心臓が作り物である証しでもあった。
『コンコン。』
 少女が横たわる病室のドアがノックされる。
「はい。どうぞ。」
 少女の母親が声をかけると、ドアが開き、スーツ姿の楠が入ってきた。
「こんにちは。気分はどう?」
「うん・・・大分よくなった・・・」
 弱々しく少女が答える。
 腕に繋がった、体内の異物にたいする免疫反応を抑制する点滴。
 失われた胃が回復するまで、体内に栄養を送るためのチューブ。
 まだ完全には直っていない肺の呼吸を楽にするための酸素マスク。
 まだ顔の所々に残った擦り傷の痕。
 すべてが少女をすごくか弱い物に見せていた。
「これ、お見舞いです。」
「すみません。ちょっと生けてまいりますね。」
 少女の母は、楠が差し出した花束を受け取ると、部屋から出ていった。
 楠はそれを見送ると、少女が眠るベッドの端に腰をかけた。
「大丈夫?」
 少女の首筋にそっと手を添える。
 少女は本の少し冷たい手が気持ちいいのか、目をつぶると、小さくうなずいた。
 楠の手には、少女の脈がしっかりと感じられた。
 逆の手で少女の額にかかる髪を左右に払うと、額に添えた。
 まだ、若干発熱があった。
 傷と、免疫抑制剤によるものだろう。
 手を離すと、少女はゆっくりと目を開いた。
 そして、少女は手を口へともってゆこうとする。
「ん?マスクはずしたいの?」
 こくりと少女がうなずく。
 楠はそっと少女の頭を持ち上げると、酸素マスクをはずした。
 乱れた髪をそっとなおしてやる。
「ちゃんと・・・お礼がいいたかったの・・・。ありがとうございます。楠さんがいな
かったら、今ごろ・・・私・・・。」
「そう思ったら、早く元気になってくれよ。元気になったら、どっか遊びに行こう。君
の友達とかさそって。」
「・・・あの・・・。」
「ん?」
「・・・あの・・・よかったら、二人で・・・。」
 少女にすれば、精一杯の勇気を振り絞った台詞だっただろう。
「・・・わかった。二人きりで、どっか行こうな。」
 楠は少女の頬に手を添えると、顔を近づけ、額にやさしくキスをした。
 透き通るように白かった彼女の頬が、サクラ色にそまった。
「さ、少しお休み。しばらくそばにいてあげるから。」
「・・・はい。」
 少女は頬に添えられた楠の手に、自分の手を添えると、ゆっくり瞳を閉じた。
 そして、彼女の中のラキと共に、しばしの眠りに落ちていった。


                                 終わり

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

誠治「・・・・だぁぁぁぁ!!これじゃ楠がこのあとどうなったんだかわからん!!」
黒芹「書くしかないですね。」
誠治「あうぅぅ・・・(涙)。まあ、ラキちゃん登場の筋書きは書けたし、これで、
   学園で再会した少女と誠治が恋に落ちるという伏線もできたわけだ。」
黒芹「言ってしまったら伏線も何もないのでは?」
誠治「し、しまったぁぁぁ!!!」
黒芹「(おばか・・・)」
誠治「ということで、ラキちょん登場です。」
黒芹「一応、マルティーナとバランスを取るために登場したということですね?」
誠治「そうだね。だから、マルティーナの力が弱まるとラキの存在も薄くなる。
   また、魔の力がこの世界に溢れても、ラキの存在が薄くなるんだ。」
黒芹「と、いうことは、妖魔や魔法少女などがこの世界に溢れると、ラキの存在も危う
   い?」
誠治「そう。だからラキはマルティーナをサポートしようとするわけ。」
黒芹「それって、みなさんにおしらせしなくていいんですか?」
誠治「それは設定と、現代編でね。」
黒芹「誠治さん、がんばってくださいね。」
誠治「いや、それはとーるさんにまかせた。(きっぱり)」
黒芹「・・・そうですか。それで、楠さんの方は?」
誠治「うぐっ・・・。筋書きだけ教えると、少女が高校に入学する直前に、事故に
   あい、行方不明になってしまいます。一応、死亡したということに。」
黒芹「どのような事故なんですか?」
誠治「新型の・・・いや、やっぱりSSにしよう。ちょっと外伝っぽいけど。」
黒芹「・・・結局書くんですね。」
誠治「・・・はい。」
黒芹「それで、これは一番重要な質問なのですが・・・」
誠治「な、なんだよ。急に改まって。」
黒芹「私の出番は?」
誠治「終わり(0.005秒)」
黒芹「しくしくしく・・・・・(涙)」
誠治(でもないか・・・(にやり))


http://sage.system.to/