>5月21日。 午前3時23分。 隆山町内佐藤家。 隆雨 ひづき。 (う〜……喉かわいたぁ〜……) いつもならば、一度眠ると目覚まし時計が鳴るまでは、ぐっすりと眠っている筈だが、 隆雨(たかさめ)ひづきは、喉の乾きに目を覚ました。 (水でも、飲んでこよっと) そう思い、傍にある電気スタンドの灯りを点け、春用の掛け布団を外し、ベットから降 りる。 と、普段三つ編みにしているせいか、少しウェーブの掛かった髪が、肩口に触れた。 (やっぱり、癖ついてるな〜。……そう言えば、結構伸びたよね?) もう、小学校からずっと伸ばしている髪を見やり、ふと思う。 (何で、伸ばそうと思ったんだっけ?) 少し考えるが、理由は思い浮かんでは来なかった。 ひづきは、それ以上は考えるのを止め、そして、部屋に置かれた姿見に自分の今の姿を 映して見た。 お尻の少し下くらいまで伸びた、少しウェーブの掛かった黒髪。 そして、タンクトップとショートパンツと言う軽装に包まれた、低くはないが、高いと 言う程でもない背丈に、均整のとれた――と、思う――肢体。 すらっとは見えると思う。 そして、女性らしい起伏もきちんとあると思う。 胸は、もう少し欲しいところか? 脚も、もう少し細いと良いかもしれない。 ウェストも……もう一声。 (こうして見ると……私も、そう捨てたものじゃあない……よね?) 凄い美人、と言う顔ではない。 だが、人によっては綺麗と言ってくれる、澄んだ紫色の瞳と、意志の強そうな眉に、薄 桃色の小さ目の唇。 お世辞でも、絶世の美女、とは言っては貰えないだろうが、それでも可愛いとなら言っ て貰えると思う。 (鼻がもう少し高ければな〜……) だが、やはり溜息が出てしまう。 脳裏に浮かぶ、想う男性(ひと)の周りにいる女性達。 「なんで、あの姉妹は全員が全員、美人さんなのかなぁ〜……はぁ」 脳裏に浮かぶ、四人の女性達。 その誰もが、ひづきから見ても、他の人間から見ても、全員が美人と答える容姿を持っ ている。 (まぁ下の二人は、どっちかと言うと可愛い、の方だろうけど、それでもなぁ〜……はぁ) そして、もう二人。 「やっぱり、血縁関係があるからかしら? EDGEちゃんも、M・Kちゃんも……」 更には、他の恋敵(ライバル)達の姿も浮かんで来て、ついつい自分と比べてしまう。 「あぁ〜もぉ! 止め止め。水飲んで、もう一度寝よっと」 そう声に出し考えを切りかえるとひづきは、自室を出て階下の台所に向かった。 緩やかなカーブを描く階段をリズム良く降りていると、ふと洗面所の方から、何やらバ シャバシャと水を使う音が聞こえて来た。 (何? もしかして……昌兄(まさにい)? まさか――やだ!? まさか……あっ、ア レなの??) 不意にひづきの脳裏に、昨日クラスの女友達としていた会話が甦って来た。 「夜中にさぁ〜家の洗面所で、バシャバシャ音がすんの。んで、あたし、なんだろうな? って、見てみたら……弟が自分のトランクス洗ってんのよ! いやぁ〜アイツも、もうそ んな歳なんだなぁ〜って、なんか考えちゃった」 (確か、男の子がHな夢とか見ちゃって、それでそ、その、で、出ちゃうのよね。無意識 に……) ひづきはそこまで思い出し、頬がかあっと熱くなるのを感じた。 そして、恐る恐る洗面所へと近付いて行く。 すると、そこには昌斗がおり、そして――顔を洗っているところだった。 (な、何よ……紛らわしい……) ひづきは、拍子抜けしたような、何処か安心したような、不思議な気持ちで昌斗に文句 を言おうと、口を開いた。 「昌兄ッ! こんな時間に何で顔なんか洗ってんのよ! 私はてっきり……って、どうし たの?」 ひづきの言葉に、慌てたように振り返った昌斗の顔には、何か黒い染みのようなものが 両眼を覆っており、嫌な雰囲気を発していた。 「あっ、いや、眼が痛くてさ。何か入ったみたいで。洗ってるんだけど、痛いままなんだ よ」 そう答える昌斗の顔は、両眼をぎゅっと閉じ、確かに辛そうであった。 「それのせいじゃないの?」 ひづきはそう言うと、昌斗の両眼を覆う黒い染みのようなものに左手を伸ばし、触れて 見た。 すると。 バチッ。 「きゃッ!?」 「うわッ?!」 何かが反発するような感触と共に、すうっと、その黒いものが消える。 文字通りに消滅したような感じで。 「何よッ、もうッ。昌兄、変なもの着けて来ないでよねッ!」 ひづきは昌斗に文句を一つ言うと、洗面所を出て、台所へと向かって行った。 「えっ? あっ、あぁ。気を付けるよ……」 惚けたように答える昌斗の両眼は、何事も無かったかのように、きちんと開いていた。 >5月21日。 午前9時23分。 試立Leaf学園リズエル棟柏木千鶴の校長室。 柏木 千鶴。 「いやぁ〜……すみませんねぇ。お忙しいでしょうに」 そう言う男の口調は、何処か皮肉めいて聞こえた。 「それで、わざわざ警察の方がいらっしゃったのは、どう言う御用件なのですか?」 柏木千鶴は、努めて冷静に、普段は生き生きとした表情を見せる美貌を能面のように変 え、顔の長い、隆山県警の警部だと名乗る男――長瀬源三郎に言った。 「それにしても、広いですな〜ここは。まるで、別世界にでも建っているかのようだ。掃 除とかも、大変なのでしょうなぁ」 そう言いながら、源三郎は不躾(ぶしつけ)に校長室の中をジロジロと見廻した。 「……わざわざ、そんな事を言うために来られたのですか? 私、ドラマなどで、警察の 方はもっと忙しいものだと思っていたのですが」 「いやぁ〜ドラマなんかと一緒にされては困りますよ。勿論、忙しいですよ、ええ」 千鶴の明らかな嫌味も、何処吹く風と言わんばかりに、あくまでもマイペースに話す源 三郎。 「……ふぅ。でしたら、用件を言ってください。私も、これから授業がありますので」 溜息を一つ吐くと、机の上に用意していた授業用具に目線を降ろす。 「ほぅ……校長が自ら授業を?」 「変ですか?」 「いや、変と言うよりは珍しいと思いましてね」 いちいち絡むな、と言う風に千鶴には聞こえた。 「この学園では、あらゆる事を全てテストケースとして、扱っています。ですから――」 「校長自らが授業するのも、ケースの一環……と?」 「……そうです」 話に割り込まれた形になったが、千鶴は何も言わなかった。 「なるほど。だから、私立ではなく、”試立“ですか」 「はい。この学園は全てがテストケース。だからこそ、この学園内で起こる事は全て学園 内で処理する事になっています」 「なるほど、なるほど。――だから、銃刀法もここでは通用しない……と?」 その時、一瞬源三郎の双眸が鋭い光を放ったように、千鶴には感じられた。 「……何が、言いたいのですか?」 「いやぁ〜昨日の晩……深夜の事なんですがね。市内で傷害事件がありまして。それで、 その犯人なんですが……どうも、日本刀らしき刃物を凶器に使用していたらしいんですよ。 そこで、まずは市内中の日本刀所持者や盗難届けなどを今、徹底的に洗っているところで して」 「……それで、何故ここに?」 「いや、話によると、この学園にも数人ほど日本刀、またはそれに類似する刃物を持って いる人物がいるらしいじゃないですか。ですから――」 「その生徒、または職員を呼び出して欲しい……と?」 「ええ。御協力していただきたい、と言う事です。まぁ、この学園は関係ないと思います が、私共も立場と言うものが、ありまして」 白々しい。 と、千鶴は思った。 源三郎は、明らかに犯人はこの学園の関係者だと疑っている。 千鶴は源三郎の態度から、そう感じ取っていた。 「……解りました。では、一人ずつここに呼べば良いのですね?」 千鶴は僅かな沈黙の後、そう源三郎に答えた。 (この学園に犯人はいないと思う。でも……だからと言って、協力しないと言うわけにも いかない。この学園はあらゆる意味で注目されている。下手な対応は、それだけでこの学 園に悪く影響しかねない……。はぁ……これなら、鶴来屋の経営の方がまだ楽かしら?) 千鶴は、そっと溜息を吐くと机に設置された内線で回線を開き、 「千鶴です。足立さん、すみませんが今直ぐ、これから言う生徒と教員を私の校長室に呼 んでください。それから、私の授業は休講と言う事でお願いします」 と教頭である足立に告げ、回線を閉じる。 そして、源三郎の方に向き直り、 「これで、宜しいですか? それと、私も同席させていただきますけど、構いませんよね?」 と、しっかりと源三郎の眼を見据えて言た。 「ええ、結構です。いやぁ〜御協力感謝します」 しかし、源三郎の態度は先程とまったく変わった様子は見受けられなかった。 少なくとも、千鶴にはそう見えた。 >5月21日。 午前11時26分。 試立Leaf学園リズエル棟柏木千鶴の校長室。 長瀬 源三郎。 「……さて、次で生徒は最後ですか?」 あれからもう、2時間程経っていた。 「ええ。そうです」 少々疲れた様子の源三郎に対し、2時間程前と同じままの千鶴が答える。 (やれやれ……。いかがわしい場所だと思っていたが、まさかここまでだとは……) 源三郎は、酷く帰りたい気分に襲われていた。 一癖や二癖はあるだろうとは、校長である千鶴の態度などから想像できたが、まさか、 三癖どころか六癖、七癖……外で時々出会う、扱い辛いと感じる連中が”可愛く見えてく る“ような連中が、大半だとは思いもしなかった。 歩く武器庫のような生徒もいれば、やたらと高圧的で偉そうな生徒もいた。 そして、黒ずくめで左手が義手の生徒や、果ては見事と言える模造刀にぶつぶつと話す、 気味の悪い生徒まで出てくる始末だ。 まともに見えたのは、手違いで呼ばれた木刀を持っていた生徒くらいだろうか? だが、収穫はあった。 あの、気味の悪い生徒。 彼は何か知っているような素振りを、少しだが見せた。 だが、あの刀でこの事件は起こせない。 事件は、傷害は傷害でも打撲ではなく、あくまでも斬り傷だ。 実際に刀を借りてわざと親指の腹を切ろうとしたが、指に掠り傷も負う事はなかったの は確かな事だ。 しかし、ここで一つの仮説が浮かんでくる。 もし、家にもう一本、模造刀でない刀を持っていたとしたら? と。 (……やっぱり、彼が一番怪しいってことになるのかねぇ? しかし……他の生徒も、何 故か気になるんだよなぁ) 一番怪しいと思われる生徒――確か、佐藤と言ったか? 確かに怪しいとは思う。 いや、多分こう言う事件ならば、周りから見ても、佐藤は真っ先に疑われそうだ。 ――だが、だがしかし。 (気になると言うかねぇ……俺には、彼以外の生徒の方が、何故か怪しいと思ってしまう んだよねぇ) 強いて言うのなら、それは刑事の勘とでも言うべきものなのかもしれない。 漠然と、しかし心の奥で間違いない、と刑事の勘がzxx叫ぶ。 (だが……今回の件とは、また少し違う気もするんだよな) だが、源三郎の勘は怪しいと思う反面、今回の件には関係ない、とも同時に告げている。 怪しいのに関係ない。 これまで、色々な場面で自分を助け導いて来た勘が、初めて曖昧(あいまい)に働いて いる。 (俺の勘も、ついに狂ったか?) そう思うと、思わず苦笑いが零れてしまう。 「どうかしましたか?」 「あっ、いえ。お構いなく」 訝しがる千鶴にそう答えると、源三郎は考えるのを一時中断し、気持ちを切り換える事 にした。 そして、 「失礼します」 ノックと共に声が聞こえ、最後の生徒が現れた。 >5月21日。 午前11時30分。 試立Leaf学園リネット棟一年生教室。 気弱な少年。 少年は、怯えていた。 昨日の事は、ほとんど覚えていない。 あの”赤“は、どうなったのだろうか? いや、そもそも赤とは、なんなのだろう? 少年が記憶している昨日の全ては、放課後になって、三人組に何時ものように呼び出さ れて虐められていた事……までだ。 その後、自分はどうした? 自分はどうなった? 何故、赤い色が鮮明に思い出されるのか? いつの間に、自宅の自室で寝たのだろう? そして、いつの間に自分は、この日本刀を持ち歩くようになったのだろうか? いや、そもそもこの日本刀はどうやって、何処で手に入れた物なのだろうか? そして、何故誰も自分がこんなものを持っている事を、気にも止めないのだろう? 解からない。 分からない。 判らない。 わからない。 だが、いくら考えても少年は、昨日の出来事を思い出す事はできそうになかった。 >5月21日。 午前11時34分。 試立Leaf学園アズエル棟三年生教室。 ディルクセン。 風紀委員の中でも、彼寄りの生徒がとある情報を伝えて来た。 「何ッ? それは本当なのか??」 彼はその情報を知り、僅かな驚きと共に悦ばしさも感じていた。 この学園に、警察が来ている。 この事が、彼にそう感じさせたのである。 (いいぞ。これでこの出鱈目な学園に、確固たる秩序が……いや、築く事は出来なくても、 切っ掛けとしては申し分ない筈だ。この事を足懸かりにすれば……) 彼は、常日頃感じていた。 この学園は、明らかに異常だと。 そして、この学園に整然たる秩序と安寧を設けるべきだと。 だが、彼の考えに賛同する者は、残念ながら今のところまだ僅かにしか満たない。 曰く、今のままで構わない。 曰く、今の状態こそが良いのだ。 曰く、曰く、曰く……。 しかし、彼はそうは思わない。 今の状態は、明らかに異常であり、そしてこの無秩序な現状は変えて然るべきだと。 そう。 だからこそ、 「よし、その刑事に会いに行くぞ。案内してくれ」 彼は、ディルクセンは、その足懸かりを確固たるものにすべく、行動を開始したのであ る。 >5月21日。 午後12時16分。 試立Leaf学園エディフェル棟ニ年生教室。 長岡 志保。 彼女にとって、些細な出来事も口を開けば事件と同じだった。 彼女にとっては、情報を皆に伝える事は使命だった。 無論、彼女に誰かがやれと言ったわけではない。 無論、彼女に誰かが強制的にやらせているのでもない。 彼女は、彼女の意思によって、情報を素早く皆に伝える事を使命としているのだ。 いや、少し違う。 彼女は、彼女が面白いと感じた事や、大事だと思う事を彼女の判断で決め、皆に伝える 事を使命としているのだ。 時には、聞いて直ぐに皆に知らせ。 時には、彼女なりのアレンジを加え。 「ねぇ! みんな、聞いて聞いて! 志保ちゃんニュ〜ス、最新版よぉ」 彼女、長岡志保は今日も、情報を皆へと伝えるのである。 「いらん」 「何よぉ〜ヒロ。志保ちゃんニュ〜スが、聞けないって言うの?」 が、全員が全員その情報に耳を傾けるかと言えばそうでもなく、この藤田浩之のように 一蹴してしまう者も中にはいるのだった。 「おおかた、長瀬のおっさんがビールの飲み過ぎで太鼓腹になった、とかどうでもいいニ ュースなんだろ? いらねーっての」 と、欠伸を噛み締め、中学からの日常事で、いい加減うんざり気味の浩之は、本当に詰 まらなさそうに志保に応える。 いつもならば、ここで浩之に文句を言うのが大方のパターンだが、しかし、今日の志保 は浩之の言葉に不敵な笑みを浮かべながら、 「ふふ〜ん……だったら、ヒロは聞かなくてもいいわよぉ〜。あんたはそうやって、情報 の最先端からどんどん遅れて、取り残されてればいいのよ」 と、何処か勝ち誇ったように言う。 「へいへい。んじゃ、オレは出ていくとしますかね。あんまりホラ吹いてっと、友達なく すぞ、志保」 浩之は、志保にそれだけ言うと、興味なさそうな顔で教室を出て行った。 「ふん、本当は聞きたいのに無理しちゃって。さぁ、志保ちゃんニュースの始まりよぉ〜♪ 実は今――」 志保は浩之が教室から出て行くのを見ると、集まった観客に笑顔で自分の入手した情報 を話し出した。 >5月21日。 午後1時7分。 試立Leaf学園リズエル棟喫煙所。 長瀬 源一郎。 (やれやれ。最近はタバコ吸うのも、いちいち移動しないと駄目とはね……) そんな事を思いながら、長い顔に眼鏡を掛けた長身の男――長瀬源一郎は、胸ポケット から煙草の箱を取り出し、その中から煙草を一本取り上げた。 そして、口に煙草を咥えると、慣れた動作でライターを――。 「あれ? ライター、何処だ?」 取り出そうとするが、そのライターがない。 違う場所に入れたかと思い、身体のあちこちを色々と探すが、やはりない。 (どうしたもんか……ん? あれは……源三郎?) 源一郎がふと窓の外を見ると、そこに彼の兄弟の一人である源三郎の姿が見えた。 (ふむ……あいつ、警部補だかだったよな? なんで、今頃こんなとこに?) 源一郎は訝しく思いながらも、窓を開け声を掛けようとして――止めた。 (あれは、三年のディルクセンじゃないか) 源三郎をよく見ると、源三郎は誰かと、いやディルクセンと何やら話しているようだっ た。 ディルクセンは、真剣に何かを訴えているようだったが、やがて源三郎が何かを言うと 納得していない様子だったが、一礼し去って行った。 源一郎は、それを見ると少しだけ間を置いてから、 「おぉ〜い、源三郎」 と、喫煙所の窓を開け、少々間延びした声で源三郎を呼ぶ。 急に声を掛けられてか、辺りを見回す源三郎に、 「こっち、こっちだ」 と、もう一度声を掛けた。 源三郎は、やがて源一郎の姿を見つけると、ゆっくりと近づいて来る。 「なんだ、兄さんか。誰かと思ったよ。そう言えば、ここで教師してるんだっけ?」 「あぁ。生徒にはビール腹って言われてるけど、それなりにな」 そう軽口を叩きながら、源一郎はやや真面目な顔になると、 「火、貸してくれないか?」 と、咥えたままになっていた煙草を見せながら、源三郎に言った。 >5月21日。 午後1時13分。 試立Leaf学園中庭。 来栖川 綾香。 昼休みの中庭。 そこは、多くの生徒が昼食を持ち合い語らったりと、昼休みの人気スポットの一つであ る。 但し、晴れの日限定だが。 そんな晴れ模様の中庭で、颯爽とした雰囲気を持つ黒く、長い髪の少女――来栖川綾香 も、昼食を友人達と楽しんでいた。 「あっ、そうだ。そう言えば、ハイドとゆーさく放送で呼ばれてたみたいだけど、あれな んだったのよ?」 何処か優雅さを感じる動作で、一見質素だが高価さを感じさせる弁当箱からおかずを箸 で口元に運び、租借し終わると思い出したように言う。 「ん? あぁ、あれか。何でもゆーさく君が粗相をしたらしくてな、俺様から直々に注意 して欲しいと涙ながらに頼まれたのでな、仕方なく――」 「誰が、何をしたって? えぇ、ハイドラント! それに、ゆーさくって、呼ぶな!」 傍らでいがみ合っている片や全身を黒衣で纏めた少年――ハイドラントと、こちらは何 故か白衣を纏った少年――悠朔(はるか はじめ)はお互いに睨み合ったままで答えた。 「はぁ……で、本当はどうだったのよ?」 ハイドの言葉を遮り、繰り出された朔の日本刀による斬撃を真剣白刃取りし、その後力 比べとなった、いつもの二人の光景に溜息を吐くと、綾香はやや疲れたように言う。 「確か……昨日だか街中で傷害事件が起きて、でその事件に使われたと思われる凶器が刀 剣類ではないかと思われるので、所持している刀を見せろ、と言う事だった」 「えっ? それじゃあ、警察が来たの??」 「あぁ、確かに刑事が来てたぞ。もっとも一人だったがな。長岡が言いまわってるらしく、 もう、かなりの噂みたいだが、知らなかったのか?」 綾香は二人の言葉に軽い衝撃を受けた。 (この学園に警察が? 家(うち)や鶴来屋……そして”塔“がこの学園に介入を許すと は思えないけど……。それとも、何かが動いてるとでも言うの??) 綾香は、空を見上げた。 見ると、そこには良く晴れた青空と、そろそろ初夏を感じさせる太陽が放つ日差しと、 そして静かに流れる白い雲があった。 だが、それを見る綾香の心は、広がる青空のように晴れやかとは行かなかった。