さて、時は進んで昼休み、これ又生徒にとっては戦争タイムである。特に購買部と、 食堂は・・・。 そして、やはりというかなんというか、早くも轟音、叫び声等があちこちに響いて いる。一部を聞いてみると、 「ふふふ・・・。光よ、俺のために道を切り開け!てりゃーぁっ!!」 とか、 「マルチのためにどいてもらう!!」 とか、 「元祖鬼畜ストライク!!」 や、それに対する非難の声、 「ひなたさん!もうしないて言ったのにーーーーっ!!」 と、何故か遠のいていくようだが・・・。そして、 「石破!楓ラブラブ天驚拳!!」 や、 「我は呼ぶ、あかりの白刃!」 等や、 「ふはははは!行け、アーチー!!」 そして、それに答える鳴き声。それと、 「オレが主役じゃなかったのかーーーーーっ!!」 と、何故か哀愁が漂う声。さらにそれに答えるような、 「解ったよ、君の悲しみは僕が癒そう!!さあ、この胸に飛び込んでおいで!!」 と言う薔薇の声。 等々で、まさに混沌とした状態が、食堂と購買部に広がっていた。佐藤は、この中に 飛び込まなくてはならないことを少し嘆いていたが、やがて決意を固めると混沌のまっ ただ中へ突っ込んで行った。気合いを入れるために叫び声を上げながら・・・。 「うおおおおっ!パンをくれーっ!!」 強者たちに囲まれての、争奪戦が今、開始された!! その後、しばらくしてボロボロになりつつも、無事にパンを手に入れた佐藤の姿が、 校舎裏に見られた。佐藤は奥の方へと向かって行く。その先には一人の少女の姿が見え た。その少女は、向かってくる佐藤に気付いたらしく、丁寧に頭を下げた。どうやらこ の少女は、礼儀にはきちっとしているらしい。それを見て、佐藤は慌てて少女の元に駆 け寄り、 「葵ちゃん、そんなに頭を下げないでよ。別にそんなに丁寧にしなくてもいいんだよ」 と言ったが、松原葵は佐藤に笑顔で、 「いいえ、こういうことはきちんとしませんと。佐藤さんは先輩なんですから」 と、さわやかに笑いながら言うのだった。佐藤はちょっと複雑な表情をしていたが、 やがて気持ちを切り替えるように真剣な顔をしてから、 「では、今日もお願いします、師匠」 と言った。 松原葵は、かの有名な”塔”出身で、現在はこの学園の新入生である。かつてあった 生徒会主催の新入生歓迎の大会で好成績を納めたこともあるほどの、いわゆる”強者” である。佐藤はこの時の葵の活躍を見かけ、そして、葵の繰り出す蹴り技に魅せられ、 この前ついに、葵に声をかけて聞いてみたところ、いいと言うことだったので、こうし て昼休みのわずかな時間に蹴り技を習っているというわけだった。 「解りました。では、まず私が蹴りを見せますので、その後、佐藤先輩は私がやった 通りにやってみてください」 佐藤はゆっくりと頷くことで、答えた。葵も頷いて構える。その顔は先ほどとは違い、 これが本当に先ほどまで笑顔を見せていた少女なのか、と疑ってしまうほどの真剣な表 情をしていた。葵は、一、二度ほど呼吸を整えると、 「はっ!」 というかけ声を上げた、その瞬間、葵の足が凄い速さで伸び上がった。その時、一瞬 強い風がおこったように佐藤は感じた。 「・・・と、こんな感じです。では、佐藤先輩やってみてください」 蹴り上げた足を下ろしながら、葵は佐藤に言った。 「解りました。では、やってみます」 佐藤は葵にそう答えると、目をつぶり頭の中で先ほど見た蹴りを頭に思い浮かべる。 そして、目を開くと同時に、 「てりゃっ!」 気合いを入れて、先ほどのをまねて足を蹴り上げる。速さも、形もなかなかのもの・ ・・だったが、 「あれっ?」 佐藤はそのままバランスを崩して盛大に転んだのだった・・・。まったく・・・決ま らない奴である。 「いってぇ・・・」 等と言いつつ佐藤は服のほこりを払いながら起きあがった。すぐに葵が、 「大丈夫ですか?」 と聞いてくる。佐藤は苦笑いしつつ、大丈夫だと、葵に告げた。葵はほっとしつつも、 先ほどの蹴りでまずかったところを佐藤に伝えた。その後、しばらく蹴り技の練習が続 いた。ふと佐藤が腕時計を見ると、もうそろそろ時間のようであった。どうやら今日の 練習はここまでのようだ。 「師匠、今日もありがとうございました。では、いつものようにこのパンをどうぞ」 実は、佐藤は弁当持参であり、先ほどパンを買っていたのは、放課後の練習でお腹が 空く、と葵が言ったのを聞いたからである。佐藤は授業料の代わりとして、遠慮する葵 に差し入れしているのだった。 「あっ、すいません佐藤先輩。では、さっそく中身を見せてもらいますね」 そう言うと、葵は佐藤から手渡されたパンが入った袋をガサゴソと開けた。佐藤は勝 手にパンを買ってくるので、密かに葵はパンがなんなのかを楽しみにしているのだった。 しかし・・・今回はいつもと違った。佐藤がふと見ると、葵の様子がおかしい。しかも、 ぶるぶると震えているよう見える。 「葵ちゃん?どうしたの?葵ち−」 佐藤は最後まで言うことは出来なかった。それもそのはずで、いきなり葵に崩拳を決 められたからだ。実に見事な崩拳だった。 「ぐはっ」 と言う短い悲鳴を上げて吹っ飛ぶ佐藤の耳に、葵の、 「カツはいやーーーーーーっ!!」 と言う悲鳴に近い声と、走り去る足音が聞こえてきた。佐藤は校舎の壁にめり込みな がら、 「いい感じだったのに・・・。こういうオチなのね・・・」 と、呟いたのだった・・・。 「「後編に続く」」