私的Lメモ「氷と校舎」  投稿者:戦場拓壬
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「私的Lメモ氷と校舎」 投稿者:戦場拓壬
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 35度。
 それがその日の気温だった。
 今期最高の猛暑。
 しかもしばらく振り続いていた雨の所為で湿度も高く不快指数も120%までいってそうだった。 
 つまりそれだけ蒸し暑ければ当然皆だれきっていたのだ。
 そしてここにも一人。
 「暑い……」
 藤田浩之である。





            「私的L氷と校舎」



 


 その日藤田浩之は前のように一寸教室の空気が違う事に気が付いた。
 何処からか冷たい風……空気が流れてくるのだ。
 

  「とっと、ありゃ戦場か」
 冷たい空気が流れてくる先には文字通り涼しい顔をした戦場拓壬がいた。
 「あいつなんでこの暑さで汗ひとつかかないんだ?」
 近寄ってみる。
 
 「おい、戦場……」
 何気なく方に手を置いてみるとなんだか妙に冷たい……。
 「ああ藤田か、何のようだ?」
 肩に手を置かれ気がついたのか振りかえって尋ねてくる。
 何となく理由はわかったが聞いてみる。
 「お前なんで体がそんなに冷たいんだ?」
 「自分の力を使っているから」
 返事はやっぱり思ってた通りだった。
 「気温を下げる能力か?」
 「違う」
 「体温を下げる能力か?」
 「それも違う」
 「じゃあ何だよ」
 「まあこれを聞いてみろ」
 そう言って浩之にMDを手渡してくる。
 イヤホンを耳にはめ、とりあえず聞いてみる。
 「何だこりゃ?なんかよく解らんが色んな音が聞こえてくるぞ」
 「何か掴めたか?」
 イヤホンを外し、MDを返す。
 「全く持って何もわからん」
 「だろうな」
 「それなんだ?訳のわからない音が入ってるだけか?」
 「この中には色んな物をイメージした音が入ってる」
 音?と聞き返した。
 MDの中に様々な物をイメージした音を入れておき、それを聞くことによってイメージした物の力が使える。
 大体そんなところだ。
 「つまりそれの中に入っている水のイメージで空気中の水分を冷やし涼んでいたと」
 「大正解」
 「……俺にもそれやってくれ」
 「やってくれって……涼しくしてくれってこと?」
 「そう。出来るだろ?」
 「いやまあ、出来るけど……他人に向けてやるのは一寸……」
  そんな事言わずに。と手を会わせて頼まれ結局やることにした。
 
 「んじゃいくぞ」
 「いいから早くしてくれ」
 イヤホンを耳にはめ、水のイメージを読む。
 水の流れる音が聞こえ、力が集まる。
 「おっ、涼しくなってきた」
 「…………あっ!」
 しまった!と、思った瞬間にはもう既に浩之は凍り付いていた。 


     「……………………」
 

 失敗した。
 力を集める際に集めすぎて力が溢れ浩之を氷付けにしてしまった。
  凍り付いてしまった浩之はなんだか涼しさを誘うオブジェになった。
 
 「まあいいか」
 「いいわけないやろ」
 声と共にやたらと景気のいい乾いた音が聞こえ、顔が苦痛に歪む。
 「ぐぉぉぉ!?顔が痛い!?」 
 「当たり前やろ、顔に突っ込み入れたんやから」
 ヒリヒリと痛む顔を押さえ上を見上げるとハリセン片手に佇む保科智子がいた。
 「何するんだよ、保科さん」
 「人凍りつかせておいて何を言ってるんや」
 「涼しくしてくれといったのは藤田だぞ」
 「だれも氷つかせろとは言ってなかったやろ」 
 「そうだけど……これは不可抗力であってわざとじゃないよ」
 「天翔熊閃」
 「うぐふはぁ」
 物凄い斬撃が体に走り吹っ飛ぶ。
 「良いから元に戻そ?ね、戦場君」
 重い体に鞭を入れて顔を上げると、笑ってはいるがとても目が怖い神岸さんがいた。
 無論、手には愛用の包丁が握られている。
 「で、でもこのままにしておいた方が涼しげで……」
 「天翔熊閃」
 斬撃をまたもや食らい三途の川1歩前まで行く戦場。
 「無理だよう……溶けるまで待つのが一番効率が良い方法なんだから」
 「……破壊するってのは?」
 吹っ飛ばされた近くにいた生徒が聞いてくる。
 「そや、氷を壊すっちゅう手があった」
 「衝撃を与えたら中にいる藤田ごとバラバラになるよ」
 一同押し黙る。
 「だからこのまま溶けるまで待つのが一番良いんだ」
 「浩之を傷つけたね?」
 「あ、雅史ちゃん」
 「あかり様を困らせるとは不届き千万」
 いつの間に来たのか、其処には確かに佐藤雅史とギャラがいた。
 「僕の浩之を傷つけるなんて…許さないよ」
 僕の、と言う所を強調して言う雅史。
 「あかり様を困らせるような方には……うっ」
 いきなり呻くと、その場にしゃがみ込んでしまったギャラ。
 「魔法老女セバスゥナガセ愛を伝えるために参上です」
 やめてくださいお願いしますから。
 「博之の仇を取らせてもらうよ」 
 「真実の愛を説いて上げましょうぞ」
 仇を取られるつもりも真実の愛を説かれるつもりも毛頭無かった。
 「そうだっ!二人でこの氷を溶かすってのはどうかな」
 二人の攻撃を回避すべく意見を提案する。
 「今、藤田は氷付けになっていて、簡単には溶けない。だから二人の体温で氷を溶かす」
 やだな、なんか。
 「二人に対する藤田に好感度も上がると思うよ」
 「「!!!」」
 その言葉に反応したのか、二人は笑みを浮かべ、
 「浩之、今僕が凍えきった君を暖めてあげるよ!」
 「藤田殿、このセバスゥナガセ藤田殿への愛でこの氷を溶かしてみせますぞ!」
 互いに氷へ張りつく。
 二人は「ああ……こんなに冷たくなって……」とか、「この邪魔な氷を溶かして今藤田殿をお救いしますぞ」とか
言っている。
 凍り付いているはずの藤田の頬を涙が伝ったような気がしたが……気のせいだと思う。
 「酷いな、自分」
 「そうか?」
 その直後にまたハリセンを食らった。


 
 一見すると果てしなく何処までも続いて行きそうな廊下。
 地平線まで続いてそうだ。
 「さて、これからどうするか」
 何するあても無いからさ迷うのは基本だと思う。っと思ってたら、後ろから誰かにぶつかられた。
 「あぅあぅあぅ〜〜〜〜〜〜」
 後ろを見ると誰かが顔を抑えてうずくまっている。
 「はぅはぅはぅ〜〜〜痛いです〜〜〜」
 マルチ……なわけない。
 マルチだったら即行で抹殺されてるだろう。
  「ああ、ごめん。よそ見してたから」
 「はぅはぅはぅ〜〜見かけない人です〜〜」
 ぶつかって来たのは女の子だった。
 「はぅはぅ〜〜〜男の子です〜」
 訂正。男の子だった。
 なんで考えている事が解ったのかはこの際気にしない。
 「ああごめん。俺は高等部2年の戦場拓壬。君は?」
 「高等部1年の水野響です〜よろしくです〜。この子はひび猫です〜」
 高校生と言う所に少々驚いた。
 そしてひび猫と言われた猫は、
 「にゃ」
 なんだか人間くさい猫だった。
 ・
 ・
 「ああ、お料理クラブ。そうすると響君は神岸さんの知り合い?」
 「はい〜優しい人です〜いつも頭をなでてくれます〜」
 優しい人がいきなり天翔熊閃なんか人に打って来るだろうかとか思ったが口には出さない。
 「ところでクラブは?なんだか急いでいるみたいだったけど」
 「はぅ!」
 目を「カッ」と見開き驚く。
 「そうでした〜〜氷が足りないので貰いに行く所でした〜」
 「氷?足りない?」 
 「はい〜今日は暑いので皆でかき氷でも作ろうって〜梓先輩が言ってました〜」
 「ふ〜ん、それで何処に貰いに行くの?氷?」
 「職員室です〜」
 そこでふと、思った。
 職員室には多分、先生達がいるだろう。千鶴先生もいるかもしれない。「かき氷なら簡単だから」等と
言って、自分も作ろうと思うかもしれない。
 氷を削り、シロップをかけるだけの単純な物でも千鶴先生ならきっと何かをしてくれるに違いない。 
 「かき氷を食べ過ぎて腹痛」で収まるだろうか?
 その結果は押して知るべし。
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 そう考えると、「はぅはぅはぅ〜〜〜」とか言いながら職員室へと向かう響君の肩を掴んだ。
 「はぅ?」
 「その氷は俺が何とかしよう」
 「ちなみに氷を入れる袋は何処に?」
 「これです〜!」
 やおら元気に言ってから見せたのは首から掛けたポシェットだった。
 ・
 ・
 所変わって屋上。
 「入るのか氷?そんな小さいポシェットに」
 「大丈夫です〜」
 やたら自身有り気に言ってくる。
 「ふ〜〜ん。じゃあ行くぞ」
 懐にあるMDを出し、イヤホンを耳にはめスイッチを入れる。
 スイッチを入れると、いろいろな音が聞こえてくる。
 激しくうねる雷の音、荒れ狂う大地の音、悲鳴、爆発音、その中から必要な音を探す。
 水の流れる音が聞こえる。
 凍てついた大地を走る風の音も聞こえてきた。
 水の音、凍てついた風の音、その二つをより強くイメージする。
 「はうぅ〜〜?なんだか涼しくなってきたです〜」
 「よし。ポシェットは?」
 響君がポシェットを首から外し、開ける。 
 「はいですぅ〜〜」  
 ポシェットの中に子供の頭ぐらいの大きさの氷の塊が入る。
 明かにポシェットより大きいが何故か入った。
 「はうぅ〜〜すごいです〜〜」
 「なんのなんのもっと持って行くか?」
 「はいです〜〜」
 そんなに持って行ってどうする。
 「よ〜〜しドンドン作るぞ〜〜」
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 あれから俺は少々調子に乗りすぎて屋上中を氷の世界に変えてしまった。
 ポシェットの中からスライムみたいな生き物が「寒いやんけ、兄ちゃん」てな感じで出てきたのには驚いたが
その他には変わった事は無かった。
 「はっくちゅんっ!」
 響君がくしゃみをする。
 「ああ、イカン。冷やしすぎた」
 「寒いです〜。でも凄いです〜〜」
 しきりに感動してくれる、此方としても悪い気はしない。
 「日も暮れてきたことだし、最後に一番大きな氷を作って最後にしようか」
 「はぅはぅ〜〜一番大きな氷ですぅ〜〜」
 もう一度MDのスイッチを入れ、今度は前よりもずっと強く氷のイメージを作る。
 ただひたすらに大きな氷をイメージする。
 「はぅはぅはぅ〜〜なんだかさっきよりも寒いですぅ〜〜」
 響君のそんな悲鳴など気にせずにただひたすらにイメージする。 
   
       「瞬間凍結!!」
 
 掛け声と共に氷が作られていく
 悠に一辺が十数メートルはある正方形の氷の塊が頭上に。
 「はぅ〜大きいです〜〜凄いです〜〜」
 「は〜〜疲れた〜〜」
 疲れきった俺の肩に手が置かれる。
 振り向くと、
 「にゃ」
 ひび猫がリンゴを持って立っていた。
 ・
 ・
 ・
 「何だひび猫?」
 「にゃ」
 そう言うとひび猫はリンゴを持っていた手を放す。
 自然、リンゴは床に落ちる。
 「にゃ」
 「食べ物を粗末にするなよ、ひび猫」
 ひび猫が黙って爪を出し、一閃する。
 「ごぉぉぉぉ!?三本線がぁぁぁ!!」
 「にゃ」
 ひび猫はまるで「鈍い野郎だぜ、へッ」てな感じでため息を吐く。
 ハリセンにやられた顔の上に爪で引っかかれとても痛いが我慢して聞く。
 「にゃ」
 「皮を向いてくれと言うのか」
 「にゃ」
 「違うのか」
 「にゃ」
 「リンゴより魚が好きだと」
 「にゃ」
 「また違うのか」
 断っておくが、動物の言ってる事が解るような、そんなムツゴロウさん的な特技は持ち合わせていない。
 ただ思った事を適当に言ってるだけだ。
 「なんだかさっきより大きく見えるです〜〜」
 響君が放ったその言葉に俺は凍り付いた
 何故先ほどよりも大きく見えるのか?―→さっきよりも氷と校舎の距離が縮まった―→校舎が上昇した。
―→んなわけない―→氷が近づいた―→近づいたという事は氷が落下している―→落下を続ければいずれここに落ちてくる
―→氷を作ったのは自分達のいる真上の空―→落下すれば押し潰される―→死ぬ。
 ここまで来るのにやたらと時間がかかったが結論に至った。
 
 結論。
 今すぐ逃げろ。
 
 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 あまりにもセオリー通りな悲鳴だと我ながらにして思ったがそんな事言ってられない。
 考えている間にも、氷は落ちてきていた。
 響君とひび猫を脇に抱え、アクションゲームのキャラ真っ青なスピードで逃げる。
 「はぅはぅはぅ〜〜〜」
 「にゃ」
 ・
 ・
 ・
 圧倒的な質量を持っていた氷はたやすく校舎の一部を押し潰した。
 俺も逃げる際に氷の破片が体中に当たって痛かった。
 一部分が崩壊した校舎は、何処と無くアートな感じがした。 
 壊れた物は仕方ないから気にしないことにした。
 どうせ、明日になれば直ってるだろうし。
 そう言えばお料理クラブはどうなったんだろうとか思いながら足早にその場を去った。
 崩壊の際に頭に氷の塊を食らったであろう諸生徒をその場に残して……。
 









 「とまあこんな事があったんだ」
 「あれは君の所為だったんだ」
 次の日の放課後、俺は図書館にいる。
 「あの後何人かの生徒がジャッジとか先生達に連れて行かれていたよ」
 「てことはまだ誰かばれていなかったんだ」
 「そう言う問題じゃないと思うよ」
 「気にしない気にしない」
 そう言うと俺はまた懐からMDを出しイヤホンを耳にはめる
 「それじゃあ、ご馳走様」
 席を立ち出口へと向かい、倒れた。
 「まさたにゃん」
 「なんだいゆかた?」
 「この人なんでいつもお茶飲んでるのに薬に気付かないないにゃん?」
 「鈍いんだと思うよ」
 それだけ言うと、二人はまた元に戻った。
 痺れたままの戦場を放っておいたまま。
 




                            (私的Lメモ氷と校舎・終わり)



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 何とか書き上げました「私的Lメモ氷と校舎」

 考えてみれば、『校舎が破壊される』と言うネタ自体がもう既に使われまくっている事に気付きました。書いた後に。
 
  千鶴先生の料理ネタも使い古されている辺り悲しい。 

  今回出演許可をくれた方々ありがとうございました。
 
 あんまり酷い事にはなってないかと思います。
  
 それでは失礼。

  前に投稿した奴の不都合を発見したので直して新しく投稿させてもらいました。内容は変わってません。




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