リレー企画・勇者ゲーマーコンバットビーカー第六話『四天王の謎』Aパート  投稿者:セリス
【ある日の風見家】


「ひなたさん。そろそろコンバットビーカー六話が始まりますよ」
「そうか、やっとか! いやぁ間が空いたなぁ、今までは三日〜四日に一度のペース
だったのに」
「今回は一週間以上空きましたもんね。まぁこの時期のTV番組は、ナイター中継が
一番の天敵ですし、仕方ないですね」
「…まぁそーゆー事にしとこう。どうしても筆が進まないって事はSS書きなら誰しも
あることだ」
「あ、始まります」



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      【勇者ゲーマー コンバットビーカー第六話『四天王の謎』】



 漆黒の闇。
 それこそがダーク十三使徒のカラー。
 世界を破滅に導かんとする彼等にとって、黒は神聖な色であり、闇とは自らの身を覆い
隠し永遠の安息を与えてくれる優しい存在なのだ。
 だから、今彼等がいる場所…ダーク十三使徒本部が完全な闇に包まれた空間であるのは
至って当然であり、それ以上に相応しい空間もまたあろうはずがなかった。
「葛田よ…」
「は、なんでしょう、導師?」
 ダーク十三使徒長ハイドラントが、忠実なる下僕葛田に問いかけた。
 すぐ側にかしこまっていた葛田が一時と間を置かずに言葉を返す。
「”儀式”の進行具合はどうなっている?」
「心配するな、ハイドラント」
 葛田が答えるよりも早く、二人のすぐ近くから別の男の声が上がった。
 深遠の闇に閉ざされているため、お互いの姿を視認することはできない。
「T-starか…」
「こちらの方は滞りなく進んでいる。欲を言えば、もう少し時間が欲しいところだがな」
 T-starと呼ばれた男の言葉には、葛田が繰り返しているミスを責める色が暗に含まれていた。
 時間稼ぎすら出来ないのかと言いたいのだ。
「……………!」
 葛田にも葛田なりの考えはあったのだが、度重なる失態の上でそんな反論が出来るほど
厚顔な男ではない。
 T-starの嘲りの言葉も、黙って聞き流さねばならなかった。
 敬愛する導師の前で無様な姿を晒さねばならぬ事に、葛田は言い様のない憤りを感じていた。
「……彼女は、もう使えるのか?」
 そんな葛田の心境を知ってか知らずか、ハイドラントの口調に変化はない。
「ああ。”調製”は最終段階に達している…もう既に彼女の記憶に、クソゲーハンターと
しての過去はない。間違いなく、我々の忠実な手足となって働いてくれるだろう」
「そうか…では今回は彼女を使うとするか。コンバットビーカーに彼女を倒す事はできまい。
クソゲーハンター同士で潰し合ってくれれば、こちらとしても好都合。どのみち
コンバットビーカー達は同志であるクソゲーハンターの一人を失い、我々ダーク十三使徒は
勝機と、”儀式”のための時間を得ることができるというわけだ」
「フフフ…。戦いにルールなどない、勝てば官軍。勝つためならば、全ては正当化される…」
 ハイドラントとT-starの笑みはどこまでも冷たく、残酷さに溢れている。
 勝つためには全てを犠牲にしてもいい…ならば、勝つためならば導師を犠牲にすることすら
厭ってはいけないのか?
 葛谷には分からなかった。
 この問いに対する答えを葛田が見いだすことができるのは、もう少し先の話である。


   ☆


「いーい天気ですねぇ…」
 雲一つない青空を眺めながら、beakerはのんびりと呟いた。
 季節は初夏。
 一年のうちで最も過ごしやすい時節。
 すっきりと晴れ渡った空。
 平和な街並み。
 そして傍らには愛する少女。
 beakerにとって、これに勝る至福はなかった。
「あんたって…なんて言うか、時々もの凄い大物なんじゃないかって思わせられるわ」
 そんなbeakerの心中を察したのか、隣を歩く坂下好恵嬢はややうんざりしたように答えた。
 英語で言えばガールフレンド、GFだ。
 GFといってもガーディアンフォースではない。
「何がです?」
 さほど気分を害した様子もなく、beakerはのんびりと言葉を返す。
 好恵は別にもったいぶっているわけではなく、こういう物の言い方をする人間なのだ。
 それが分かっているから、beakerは今更何とも思わない。
「だって、そうでしょ? ダーク十三使徒とか、クソゲーハンターとか、何よりあなたの持つ
その銃…名前は、えっと…ク………クリ……クリキントン?」
「クリムゾン」
「そうそう、って名前なんかどうでもいいのよ。こんな不気味な銃をよくそんなに簡単に
受け容れられるわね」
「まぁ、今のところ特に危害を加えられたりはしてませんし」
「それにあのダーク十三使徒…葛田、とか言ったっけ? あいつにいつもいつも狙われるのも、
その銃があるからなんじゃないの?」
「ははっ…ま、そうかもしれませんけど…」
 beakerは見上げていた視線を下げ、好恵に顔を向けた。
「心配してくれてありがとうございます、好恵さん。でも、大丈夫です。心配いらない、きっと
なんとかなる…なんとなく、そんな気がするんです」
「ま、まぁ、あんたの勘は良く当たるけど…」
 好恵は決して怒っているわけではない。
 むしろその逆である。
 相手のことを本当に心配しているからこそ、こんな事を言うのだ。
 その程度の事も分からぬほどつき合いが浅くはない。
 だからbeakerは好恵が好きなのだ。
 不器用にしか優しさを表現できない好恵が。
「あらっ…」
 好恵が不意に声を上げた。
「どうかしましたか?」
「うん…」
 好恵の視線の先には、一人の少女がいた。
 遠目に見たところでは、だいたい中学生くらいに思える。
 外見にはこれといった特徴も無く、強いて言えば若干背が低めだと言うことくらいであるが、
行動に特徴があった。
「どうしようどうしよう迷子になっちゃったよ電芹とはぐれちゃったよここどこなの
私わかんないよわかんないよ父さん僕にそんな事出来るはずないよ見たことも聞いたことも
ないのに出来るわけないよ迷子だよ迷子だよどうしよう」
 こんな事を一人で言いながら心細げにキョロキョロ辺りを見回していれば、目立ちもする。
「迷子…みたいですね、あの子」
「…やっぱり、beakerもそう思う?」
 二人は顔を見合わせ、うーんと唸った。
 それはそうだろう、とても迷子という年の子には見えないからだ。
 小学生でもあるまいし。
 それでも見て見ぬ振りをするのはさすがに気が引ける。
「どうしたの?」
 好恵が女の子に優しく呼びかけてみた。
「お姉ちゃん、誰?」
 お姉ちゃんって、あなたも好恵さんと大して年の差がないんじゃ?
 beakerはそう思ったが、敢えて何も言わなかった。
 ここは好恵に任せておく方が良いだろう、そう考えたのだ。
「お姉ちゃんはね、坂下好恵って言うの。それで、こっちのお兄ちゃんはbeaker」
 一方の好恵は不思議そうな顔もせず自己紹介をする。
「好恵さんに…beakerさん?」
「そう、好恵さんにbeakerさん」
 好恵はニッコリと笑う。
 まるで子供をあやしているようだ…beakerは内心好恵の順応性の高さに舌を巻いていた。
 女の子を年相応の少女として扱いつつ、子供をあやす時の要領で話しているのだから。
「私の名前はね、川越たけるっていうの」
「たけるちゃん?」
「うん、たけるちゃん」
 そう言って笑う女の子……たけるの顔からは、不安の色はもう完全に消えていた。
 やはり背が低く、beakerや好恵と並んで立つと頭一つ分くらいも低く見える。
「それで、たけるちゃんはどうしてこんなところにいるの?」
「私ね、ちょっと下見に来たの。地理を把握していれば後で役に立つって、言われた
から…あっ!」
「ああ、お散歩してたってことね?」
「う、うん…まぁそんなところ。でも、一緒に来ていた電芹とはぐれちゃって…」
 たけるはややばつが悪そうな顔をした。
 それは(余計なことを言ってしまった!)と思っていたからなのだが、beakerと好恵は
迷子になっている自分を恥じているのだと勘違いしていた。
 もう少し注意を払って、その点を問いつめていれば、無益な戦いは避けられたかもしれない。
 しかし、まだまだ未熟な二人に今それを求めるのは酷だろう。
「たけるちゃん。電芹って、誰?」
「電芹は……………、あ、電芹!」
「えっ?」
 たけるがさかんに手を振っているので、beakerと好恵も振り向いてみると、一人の
メイドロボがこちらに向かって歩いてくるところだった。
「えっ…セリオ?」
 そう、セリオタイプのメイドロボだ。
 好恵の不思議そうな声を無視し、メイドロボは直接たけるに話しかけた。
「こんなところにいたんですか、たけるさん。探しましたよ」
「うん。会えて良かった」
「セリオ…にしては、話し方がやや滑らかなような気もするわね」
「そうですね?」
 狐につままれたような表情のbeakerと好恵を見て、たけるはクスッと笑って説明してくれた。
「電芹はねぇ、HMX−13セリオちゃんのデータを元にバージョンアップされた
後期型モデルなんだよ。だからセリオちゃんとはちょっと違うんだ」
「そうだったんだ。…beaker、そんなモデルがあるって話知ってた?」
「いえ全然。特例の試作タイプでしょうか…?」
 beakerと好恵はまだ少し納得しがたい部分もあったのだが、たけるの安心しきった笑顔を見て
いると、些細な事に拘っている自分がひどく無粋な事をしているようにも思える。
 そんな自分を振り払う、というわけでもないのだろうが、好恵は良いことを考えついた。
「ねぇ、たけるちゃん。まだ時間ある?」
「うん。日没までに帰ってこいって、T-starに言われたから」
(T-star? 聞いたことのない名前だな)
 そう思ったbeakerがふと見上げると、まだ日は高い。
「じゃ、お姉ちゃん達と一緒に遊ばない?」
「え? 遊ぶ…?」
 好恵の言葉がよほど意外だったのか、たけると電芹は顔を見合わせた。
「うーん…電芹、どうしよっか?」
「私は構わないと思いますが…たけるさんは?」
「うん、私も良いと思う」
 たけるは好恵に向き直ると、にこっと笑った。
「好恵さん、遊ぼう」
「あの、好恵さん…僕も頭数に入っているんでしょうか?」
「当然でしょ。何よ、イヤなの?」
「いえ、そういうわけでもないですが」
 恐る恐るといった心境で尋ねたbeakerの言葉を軽く一蹴。
 beakerにしてもそれは不快な事ではなかったので、すんなり引っ込んだ。
「ところで、たけるちゃん。T-starって誰なの?」
「イヤな奴」
「どうして?」
「だって、すぐ命令とかするんだもん。私、あいつキライ」
 たけるの話に何か引っかかる物を感じたbeakerだが、たけるはもうこんな話をしたく
ないとでも言うように手をバタバタさせると、
「あんな奴の話なんかもう良いよ。それより、遊ぼう!」
ちょっと不満そうな顔になった。
「うん、ごめんね。じゃあ、何して遊ぼうか?」
「えっとね〜…まず鬼ごっこ! その後かくれんぼして、それからそれから…」
 やれやれ、今日一日付き合わされることになりそうだな。
 beakerは苦笑しながら、嬉しそうに話している好恵とたけるを眺めていた。


   ☆


「たけるさん。そろそろ日没ですよ」
 楽しい時間はあっと言う間に過ぎるものだ。
 懐かしさも手伝って、鬼ごっこやかくれんぼなどの遊びに興じていたbeaker達だったが、
「えっ、もうそんな時間?」
電芹の言葉に空を仰ぐと、確かに西日が揺らぐ時間となっていた。
「いっけない、T-starに怒られる! じゃあ私達はもう帰るね! 行くよ、電芹!」
「はい」
 たけるは電芹の手を引き、慌てて走り出した。
「じゃあねー、二人とも。また遊んでねー!!」
 あっと言う間に道の向こうに消え去る二人。

  ね〜……ね〜……ね〜……(ドップラー効果)

「うーん…なんか、台風のような女の子でしたねぇ…」

  ね〜……ね〜……ね〜……(ドップラー効果)

「でも、悪い子じゃないわ。いい子よ。私、あんな子好きだな」

  ね〜……ね〜……ね〜……(ドップラー効果)

「ドップラー効果、うるさい!」
「ってゆーかそんなに長く続かないって、ドップラー効果」
 しかし、とbeakerは思い直した。
「鬼ごっこにかくれんぼ…。最後に遊んだのは何年前でしょうか」
「私ももう長いこと遊んでなかったわ。どうしてかしら…」
「こんなに面白い遊びだったんですね。久しく忘れていました、この感覚は」
 小学生の頃は、毎日のように友達を集めて遊んでいたものだった。
 いつからだろうか…こういった遊びをしなくなったのは…。
「…私達も帰ろうか、beaker。もう日も暮れるわ」
「そうですね。では、また明日」


   ☆


 来栖川電工は日本屈指の大企業であり、非常に精巧なロボットを作ることが出来る。
 その技術力の高さは世界的にも認められており、科学という名の魔法を操る事にかけて
右に出る者はいないと言ってもいい。
 来栖川電工研究所で働く全ての技師達は、このことを自負すると共に誇りにしており、
その名を貶めることのないよう日夜研究に励んでいた。

  ドーーーーーーーーーーーーン!!

 突然クラシカルな爆発音が響いたかと思うと、館内の全ての電源が一斉に落ちた。
 当然蛍光灯等の照明器具も消える。
 既に日が落ちていたため館内から明るさが失われてしまったが、光源が全くないわけ
ではない。
 大きく作られた窓から微かな月明かりが差し込んでいるので、目が闇に慣れてくるにつれ
少しずつ周りの状況も見えるようになってきた。
 来栖川研究所ではデータの万一の消失を防ぐため、電力は全て専用の自己発電機関から引いて
おり、発電機関・電力送信機関には二十四時間体制で複数の管理員がついている。
 彼等は皆忠実に職務をこなしており、管理員の不手際で事故が起こるなどと言うことは
今までに一度もなかったし、これからも無いと思われていた。
 そこへ今回の停電である。
 所員達は誰もが発電機関・電力送信機関どちらかの管理員のミスであると判断し、データ
復旧のためにも一刻も早い電力供給を待った。
 しかし、一分、二分と待っても電力は回復しない。
 初めは鷹揚に構えていた研究員達も、五分、六分と経つにつれ、ザワザワと不安げな声を
上げ始めた。
 それはHM開発研究課にしても同様だった。

「うーむ………」
 いつもは飄々としているこの室長も、さすがに今は腕組みして何か考え込んでいる。
 深刻そうに眉をひそめるその顔は、世界最先端の技術を扱う者として相応しい表情だ。
 この人の奇行にいつも振り回されている彼の忠実な部下である研究員達は、今更ながらに
この室長の偉大さに感じ入っていた。
 そして、全世界でも五本の指に入るだろうエリート工学者は言った。
「これは妖魔の仕業だな」
 科学に生き科学に従事し科学を下僕として使いこなす科学者の非科学的な発言に、一同は
思わずこけそうになった。
「ま、まさか。…いや、確かにそれも可能性としてはあり得ますが、断定するのは
早すぎませんか?」
 それでも、いち早く立ち直った研究者A(名前は相沢祐一)が長瀬に反論した。
 その反論は至極もっともな物だったが、長瀬は露骨にイヤそうな顔になった。
「そーゆー口答えはしちゃいかん。ここは素直に『はい、分かりました!』と答えなさい」
「でも主任! こういった非常事態では、ありとあらゆる可能性を検討した方が…」
「…………ふぅ」
 長瀬は軽く肩を竦めると、この頭の固い部下(某K社のソフトとは何の関係もありません)
にも理解できるよう、端的にして的を得た説明をしてやることにした。
「キミ、これはコンバットビーカーだ。もしこれが妖魔の仕業でないのなら、今まで延々と
書かれてきた状況描写は一体何のためだと言うんだね?」
「…ううっ、それはSSの出演者には分からないハズの話ですよぉ…」
「キミが余計な突っ込みを入れるからだ。キミが何も言わなければ、話は素直にヒーローモノ
の展開になっていたんだ」
「分かりましたぁ…ううっ」
 研究者A(AはイニシャルのA)、ちょっと涙ぐんでいる。
 しかし長瀬は目もくれず、
「よし、HMX−12マルチとHMX−13セリオを至急呼びたまえ!」
いきなり口調を変えると、腕を大袈裟に振ってみせながら部下達に命じた。
 胸には地球連邦軍大将と書かれた記章をつけていた。
「主任…その記章は…」
「良いだろ? こないだ街の骨董品店で見つけたんだ。なんでも、地球連合宇宙軍とか
惑星連合宇宙軍とか地球統合軍とか地球連邦軍とか、数々の大きな戦で使用されてきた
由緒あるバッジらしい」
「もう良いです…マルチ達をさっさと呼びます…」
 目から滝のように涙を流しながら、研究員A(趣味:どきどきメモリアル)は部屋を飛び
出していった。

  ドーーーーーーーーーーーーーーン!!
  カッッッッ!

 古めかしく味のある擬音が再び鳴り響いた。
 その懐かしさと言ったらもう、ナムコクラシックに収録したいくらいだ。
「な、なんだッ?!」
 さっきは気付かなかったが、音と同時に一瞬光が差し込んでいた。
 ほんの一瞬の現象であり、星々の瞬きの半分ほどの時間もなかったが、暗い室内を一瞬
浮かび上がらせたため、光が差した事に気付かない者はいなかった。
「あれは…雷の光だ。やはり私の睨んだ通り、妖魔の仕業に違いない」
「妖魔?!」
 長瀬の呟くような独り言にも几帳面に返事を返す研究員がいる。
 視聴者に優しい彼の名は折原耕平くん、一度消滅しかけたという変わった経歴を持つ
ナイスガイだ。
「うむ、説明を振ってくれてありがとうO君」
 長瀬は水を得た魚のように生き生きとした表情になった。
 某イネスさんのように。
「このビルはハイテク技術の粋を集めて建設されており、あらゆる電子的外部アクセスからは
完璧に守られている。しかし、今我が研究所を襲っている妖魔には、完全に無力だ。
その妖魔の攻撃とは、雷撃によって配線ケーブルに過度の負荷をかけて電線をショート
させるもの。過去に幾多のハッカー・クラッカー達を撃退してきた来栖川セキュリティシステム
だが、雷撃という盲点を突く攻撃に対しては、それがあまりにも初歩的すぎるが故に無力なのだ。
ちょうど、ゼンマイ仕掛けのロボットを外部から操作できないように」
「ちょっとくどいような気もしますが、説明ありがとうございました主任。これで、テレビの
前の良い子達にも分かってもらえたでしょう」
「うむ。後はマルチとセリオが来るのを待つのみだ」
 長瀬の言葉に、研究室の一同の目は自然と研究員Aが開け放して行った扉に集中した。


   ☆


「……ふぅ」
 beakerは軽く息を吐くと、自室のベッドに寝ころんだ。
 久しぶりに遊んだ鬼ごっこやかくれんぼで疲れてしまったが、それはむしろ心地よい
疲労感と言えた。
 このまま寝てしまおうかとも思う。
 しかしbeakerの束の間の休息は、大きな落雷の音によってあっさり打ち破られた。

  ドーーーーーーーーーーーン!!

「なっ、何だッ?!」
 戻ったばかりの自室を飛び出し、音の震源地とおぼしき方角…来栖川研究所を目指して
再び走り出すbeaker。
 常時携帯しているクリムゾンが一瞬煌めいたように見えた。


   ☆


「ふっ…ちょろいものね。私達にかかれば来栖川なんて敵じゃないわ…」
 来栖川研究所の上空に浮遊している雷雲。
 そこから発せられる雷撃により、来栖川研究所は全ての機能を停止させられている。
 もちろんただの雷雲ではない。
 中に潜んでいる川越たける・電芹の二人が、今回の騒動の元凶なのだ。
「ふふふ…街を適当に破壊してやれば、コンバットビーカー・パステルジャザムを燻し出せる。
来栖川研究所を破壊してしまえば、クルスカワセイヴァーとかいう奴等もお陀仏。
正に一石二鳥の妙案ね…ふっふっふっふっふっふっふ………」
 悪役特有のばか笑い。
 やっぱり悪役はばか笑いしなきゃね。
「さぁ、電芹! 一気に行くわよ!」
 しかし、電芹は警戒モードに移行していた。
 ルビーのような目の色が、赤から翠、翠から赤へと目まぐるしく変色している。
「敵、接近してきます」
「敵? 機種は分かる?」
「………データベース照合完了、99.92%の確率でクルスカワセイヴァーだと思われます」
「あとの0.08%は?」
「0.002%の確率でエステバリス、0.005%の確率でエヴァ初号機、0.012%の
確率でマジンガーZ、0.011%の確率でガンダ…」
「ああああああっっっ、それ以上は言っちゃダメぇぇぇ!」
「はい」
 放送コードに引っかかりそうなセリフをたけるは慌てて遮った。
「敵はクルスカワセイヴァーって事ね。出撃できるだけの体力が残っていたのは意外だけど、
満身創痍で勝てるとでも思うのかしら?」
「いえ、そうと決まったわけでは…」
「それ以外にあり得ないわよ!」
 きっぱりと言い切ったたけるの眼下からぐんぐん近づいてくる敵影。
「今攻撃しちゃダメでしょうか?」
「さすがにそれは反則よ。巨大ロボットを呼んでいる最中のヒーロー戦隊をプチッと踏みつぶす
みたいなモノだわ」
「そういうものですか」
 待ち時間を無駄話で潰す二人の前に、遂に敵が姿を現した。
 はたしてそれは、たけるの予想通りクルスカワセイヴァーであった。
 すごいぞたける、五択の安田もビックリの透視能力だ!
「…なんか、ナレーションにばかにされてるような気がするんだけど」
「何のことです? たけるさん」
「あ、ううん、何でもない。こっちの話。それより、いくわよっ電芹!」
「了解」
 たけるの言葉に応えるように、電芹は戦闘態勢に移行した。


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【CM】