恋愛趣味レーションL 〜伝説の樹の下で〜  投稿者:セリス
 女の子なら誰もが信じる伝説。
 それは、ここ試立Leaf学園にもあります。

 『卒業の日、校庭の外れにある大きな樹の下で女の子から
 告白して生まれた恋人達は、永遠に幸せな関係になれる』

 いつか私もきっと………。



−−−−  恋愛趣味レーションL 〜伝説の樹の下で〜   −−−−



 緑葉帝七十四年三月一日。
 今日は試立Leaf学園の卒業式。
 三年間この学舎で過ごした生徒達の巣立ちの日だ。
 優等生の学生として・ジャッジのリーダーの片割れとして、勉学に励んできたセリスも
卒業していく。
 彼は卒業後の進路も既に決まっているので、余裕綽々。
 足取りも軽く、廊下をスキップするように歩いている。
 と言っても実際にスキップしているわけではないが。
 高校三年にもなってスキップするヤツがいたらそいつはアブナい。

「おい、セリス、セリス!」
 教室に戻ってみると、妙な熱気が渦巻いていた。
 同じクラスの友人に声をかけられる。
「なんだ?」
「お前、この高校の伝説、覚えてるか?」
「ああ、〜卒業の日、伝説の樹の下で…〜ってやつだろ? それがどうかしたのか?」
「どうかしたのかって、今日が卒業式だろ!!」
「あ、そう言えばそうだったな」
 友人Aはハァ…とため息を吐いた。
「全く、勉強は出来るくせに変なところで抜けてるんだからな。ほれ、お前も机を調べて見ろ」
 言われるまま、机の中に手を入れてみると…
「あっ、あったぁ!!」
 そう、それは紛れもなく呼び出しの手紙!
 と言っても「校舎裏まで来い」なんていう無粋なモノじゃない。

『伝説の樹の下で、待っています…』

という狂喜乱舞必至のおてまみ。
 よっしゃあ!


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選択肢

1.急いで伝説の樹へ行く。
2.いや、ぼくには心に決めた人がいるんだ。
3.ぼくには関係ないことだな。

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1.急いで伝説の樹へ行く。


 よし、速攻で伝説の樹へダッシュだ!
 セリスの体内に内蔵されているマルチブーストスイッチオン!!
 手紙を読んだ3秒後には玄関を飛び出していた。
 手紙には差出人の名前はなかったのだが、マルチの手紙だと信じて疑っていない。
 こーゆー単純な思考パターンの人間は、さぞ人生が楽しいだろう。
「マルチぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ、今行くよーーーーーーーーッッッッッッ!!」
 セリスは100メートル1秒のタイムで突っ走った。

(ここで画面が一旦ブラックアウト。白地の画面に樹のシルエットが黒く浮かび上がり、セリスが
左側から駆けてくる…とゆー、『あのシーン』になる)

 走って乱れた息を整えるべく、セリスは膝に手をついて前屈みになった。
 身体全体で大きく呼吸する。
 バルキリーバトロイド形態に似ている、と思ってはいけない。
 そんなセリスの前に、一人の少女のシルエットが現れた。
 全体的に小さめの身体、おかっぱとショートの中間とでも言うべき髪型、両手は照れたように
胸の前で合わせている。
 そして耳からは見慣れた突起が…。
(お、おおおおおおおおおおっっっっっ!!)
 すかさず顔を上げたくなったセリスだが、そこはグッと我慢。
 ここはお約束を守らなきゃ。
 続いて女の子の腰の辺りからのバストアップ。
 お馴染みの赤いスカート、薄いピンク色の制服に赤いリボン。
 胸の前に置いている手はとても小さく、柔らかそうだ。
(う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっっっ!!
俺は今猛烈に熱血しているぅぅぅぅぅぅおあぁぁううっぁっっっっっっ!!!!)
 態度には出さないが、セリスの心中は狂気乱舞状態(誤字に非ズ)だった。
 堪えきれなくなり、バッと一気に顔を上げた。
(おおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!)
 木洩れ日に淡く照らされた美しい碧髪、エメラルドの輝きを思わせる優しげな瞳、メイドロボだと
言うことを表すために付けられているセンサー、いつでも穏やかな笑顔を浮かべているその顔は…。
(ま、まるちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ!!!)
 セリスが恋い焦がれてやまぬ想い人。
 HMX−12型、マルチであった。
(くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっっ!!)
 セリス感涙にむせぶ。
 良かったねー、この日のために三年間、爆弾処理と男磨きに尽くしてきたんだもんね。
(い、生きてて良かった…………!! 我が生涯に一辺の悔いなし!!)
 ラオウモード入ってます。
(い、いや、まだ死ぬわけにはいかない。マルチの告白を聞かなければ……)
 セリスは改めてマルチを見つめ直した。
 ほんのりと赤みを帯び、恥ずかしそうにこちらを見ているマルチの表情ったら、そりゃーもう。
 この顔だけで全国3000億人くらい軽く萌え殺す事ができますよ。
 そして、どじょう・ナマズを連想させるおヒゲが…。
(………って、ヒゲ?)
 マジマジとマルチの顔を見ると、確かにヒゲがある。
 一昔前の漫画に出てくる怪しい中国人風のヒゲ。
 舞い上がっていたセリスは気付かなかったが、初めからヒゲがあったのだ。
「ま……マルチ?」
「……は、はは、はい…、な、なんでしょう…?」
 マルチは恥ずかしそうに口元に手を寄せ、囁くように言葉を返した。
(うっきゅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜)
 セリスくん、その仕草のあまりの破壊力に、地面をゴロゴロ転がりたくなってきました。
 が、しかし。
「………え、えーと…なんて言ったらいいのか…」
「え、あ、あの…す、すみません、こんなところにお呼びだてして…。でも、今日、どうしても
セリスさんに言いたい事があって…」
 セリスくん、マルチのヒゲの事を聞こうとしていたんだけれど、マルチは勘違いしてどんどん
話を先に進めます。
「あ、あの…私…、ドジで、泣き虫で、何やっても満足にできなくて、最新型なのに全然ダメな
メイドロボですけど…、で、でも、セリスさんはそんな私にとっても優しくして下さって…」
「………うんうん………」
 セリスくん、感動の涙をだーだー流しながらマルチの言葉を聞いています。
「違う、これは涙ではない…喜びの雨だッ!」
 こらこら、ヒゲの事はどうした。
「………私はメイドロボですから、そうしていただけるだけで満足でした。…そう思ってました」
 マルチの独白は続きます。
「……それで満足しなきゃいけなかったのに…でも、そうじゃなかったんです。セリスさんが
今日この学校を卒業しちゃうって…、もう今までみたいに毎日会う事ができなくなるって…、
そう思ったら、私…なんだか、胸が苦しくなってきて…それで、思い切って…」
 切なそうに胸を押さえるマルチちゃん。
 でもやっぱり顔にはヒゲ。
 さすがにセリスくんもヒゲが気になってきました。
「…い、いや、マルチにそう言ってもらえるのはぼくとしても本望と言うか、ものすごく嬉しい
事に間違いはないんだけど、なんて言うか…」
「……は…はい…。…そう…そうですよね…。私みたいなダメロボットなんか…」
 セリスくんの言葉を誤解したマルチちゃん、寂しそうに俯いてしまいました。
「だぁぁぁぁーっっっ、違う、そうじゃない! ぼくはただ単にヒ…」
「分かってます、私はヒトじゃありません。たくさんの人達の温かい心遣いでこの世に生まれる
事ができたのに、そのご恩を返す事すらできないダメなメイドロボです…。でも、そんな私に
だって、心はあるんです…それを教えてくれたのは、セリスさんじゃないですか…」
「ちがぁう、ぼくはそんな事言ってるんじゃないんだってばよぉ!!」
 セリスくん、半狂乱になってマルチちゃんを説得しますが、マルチちゃんは聞き耳持ちません。
 どんどん思考ベクトルがマイナスに沈んで行きます。
「すみませんでした、セリスさん…。私、もう帰ります。…卒業、おめでとうございます…」
 マルチちゃん、後ろを向きました。
 マルチちゃんの顔から雫がポタリポタリと落ち、足下が黒く滲んでいきます。
「セリスさん…。初恋を、ありがとうございました…」
 その言葉を最後に、マルチちゃんは走って行きました。
 慌てて追おうとしたセリスくん、こんな時に限って転びます。
 どべらっしゃんと豪快に転んでしまいました。
 痛さを我慢して立ち上がった時には、もうマルチちゃんの姿は影も形もありません。
 セリスくんは、伝説の樹の下に一人取り残されてしまったのです。

「な、なんでこうなるんだぁーーーーーーーーっっっっっっ!!!」



<BAD END>



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2.いや、僕には心に決めた人がいるんだ。

「いや、マルチはこんな手紙を書いてぼくの机に入れてくれるほど、積極的な子じゃない。
ここは一つ、ぼくの方からマルチを探して告白するしかない!」
 セリスは意気込んで立ち上がった。
「せっかく手紙をくれた子には悪いけど、ぼくはマルチが好きなんだ。ごめん!」
 そう言うと、手紙を破きだした。
 自らの未練を断ち切り、マルチへの一途な想いを再認識するために。
 こんな自分に告白しようとしてくれる、心優しい女の子に詫びるために。
 セリスは心を込め、泣きながら手紙を破り捨てた。
 かなり怪しい光景だった。
 ちなみにこの手紙、実は机を間違えられていた物だったりする。
 元々セリスにはまるで関係のない手紙だったのだ。
 ああ、永遠の愛で結ばれるハズだった一組の恋人達が引き裂かれてしまった…。
「よし! もう後戻りはできないぞ! マルチにこの熱い想いを伝えるんだ!」
 セリスは固い決意を胸に秘めて立ち上がった。


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選択肢

→ジン・ジャザム    風見ひなた    西山英志
 ハイドラント     ギャラ      佐藤 昌斗
 beaker        葛田       XY−MEN

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「あれ?」
 セリスは自分の目を疑った。
「おかしいな…コンタクトが曇ったのかな?」
 コンタクトレンズを取り出し、洗浄液で濯いで付け直した。
「さあ、もう大丈夫だろう…」


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選択肢

→ジン・ジャザム    風見ひなた    西山英志
 ハイドラント     ギャラ      佐藤 昌斗
 beaker        葛田       XY−MEN

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「あ、あれれ? おかしいな…?」
 背筋を冷たいモノがたら〜りと伝った。
「ディ、ディスプレイが曇ったのかな?」
 徐々に沸き上がるイヤな予感を抑え、セリスは平静を装ってワザと明るい声で言ってみた。

  ごしごし、ごしごし、きゅっきゅっきゅ……。

「ふぅ、これで良いだろう。こんどこそ、正しく表示されるはずだ…」


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選択肢

→ジン・ジャザム    風見ひなた    西山英志
 ハイドラント     ギャラ      佐藤 昌斗
 beaker        葛田       XY−MEN

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「な、ななななな、なななななな…………」
 セリスの顔が蒼ざめてくる。
 とてつもなくイヤな画像が脳裏に浮かんだ。
 振り払おうにも、それは脳裏にこびり付いて離れない。
「…あ、ぼ、ぼくとしたことが。キャンセルの存在を忘れていたよ。素直に伝説の樹の下に行こう、
もしかしたらマルチからかもしれないし……」
 セリスは最後の望みを託し、右クリックでメニューを呼び出して「一つ前の選択肢に戻る」を
選んだ。


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 ブッブー。
 キャンセルは認められません。

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 運命の女神様は意地悪だった。
「な、なんでこうなるんだよぅ……」
 選択肢1のラストでも言ったセリフをまたも呟く。
 しかし、泣いても笑ってもこれが現実。
 どんなにイヤでも誰か一人を選ばねばならない。
「………何が正しいのか、何が正しくないのか、正解なんて誰にも分かりはしないんだ。なのに、
どうして選ぶ事ができる?」
 今度はロードス島戦記のスパ○クが言ったセリフだ。
「それでも選ばねばならない。これがあなたの選んだ道なのだから」
 どこからともなく、それに答える声が上がる。
「…ううっ、ぼくははめられたんだ…ぼくはいらない子なんだ…」
 あっ、いじけた。
 MDウォークマンを取りだしてPS版TH・オリジナルゲームサウンドトラックを聞いている。
「…いや、現実逃避はもうやめよう。誰かを選ばなくては…」
 やっと正気を取り戻したセリスは、選択肢一覧をじっくり吟味した。


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選択肢

→ジン・ジャザム    風見ひなた    西山英志
 ハイドラント     ギャラ      佐藤 昌斗
 beaker        葛田       XY−MEN

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「そうだな…この中で一番妥当なのは、やっぱりジンだな。ヤツとは中学以来のつき合いだし、
軽い冗談で流してくれるだろう」
 セリスは渋々ジン・ジャザムを選んだ。
「さて、ジンを探そう。見つからないと良いけど…」
 嫌々教室を出るセリス。
 今度は運命の女神様がにっこり微笑んでくれた。
 あっさり探し出す事ができたのだ。
「おう、セリス。俺達もいよいよ卒業だな」
「ううっっ…いぢわる…」
「あん、何がだ?」
「こっちの話だよ。…それより…」
 涙目を隠そうともせず、セリスはジンに向き直った。
「好きだ、ジン。ずっと前から好きだったんだ」
 スパッと言った。
 イヤな事はさっさと済ませるタイプなのだ。
「な…なんだって?」
「だから、お前が好きなんだ、ジン!」
 変な顔をするジンにもう一度言った。
「…せ、セリス……」
 ジンは顔を下に向けた。
 肩がブルブル震えている。
(やべ、怒らせたか? まぁいい、ロケットパンチの一発でこの悪夢から逃れられるのなら、
安いものだ…)
 セリスはあっさりと覚悟を決めた。
 もっとも、M.A.フィールドで防御するつもりだったが。
「せ…セリス…お前という奴は…」
「ああ、なんだ?」
「どうして、もっと早く言ってくれなかったんだ!!!」
 言いながらジンは顔を上げた。
 その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
 ジンは男泣きに泣いていた。
「俺は…俺は…」
 右腕で両目を大きく拭うが、涙は止めどなくあふれてくる。
「俺は半ば諦めていたんだ…友人として付き合っていければそれで満足、お前と真友に
なろうなどとは、叶わぬ夢だと…」
(親友、ではない。「まことの友」と書いてしんゆうと読む!!)
「お、おい、ジン?」
「お前も俺と同じだったのか…今日から俺達は真友だ!」
 なんだか話がおかしな方向に向かっている。
 さっきのイヤな画像がより一層鮮明になってきた。
 16色から256色になったらしい。
「じ、ジンくぅん…千鶴さんはどーしたのかなぁ…、なんて思ったりなんかして…」
「案ずるな! 千鶴さんは浮気は許してくれないが、男同士の友情には寛容な人だ!」
「ちょ、ちょっと待て…」
 セリスは思いっきり引いてしまった。
 後ろの壁にビタッと張りついた。
 ひきつった薄笑いを浮かべつつ、カニのように壁沿いにじりじりと横歩きする。
「ま、まぁ、その話はまた今度と言うことで…」
 何とか逃げようとしていたセリスの手に、ドアの感触が触れた。
 そちらに目を向けてみると………
「………こっ、こここここ、この部屋わぁっっ!!」
「そう…薔薇部だ! さぁ、めくるめく薔薇の世界、素薔薇しき男の友情を育もうではないか!」
 ジンが静かに近づいてくる。
 いつの間にか薔薇部のドアが開いており、中からギャラが出ていた。
「心配しないで、痛いのは最初だけです。すぐに良くなります、大丈夫…」
「あああああああっっっ、何の事だか分かるようで分からないけどスッッッッッッッゴク
嫌だぁぁぁぁぁっっっっ!!」
「セリス、お前からの告白、嬉しかったぜ。今度は俺がリードしてやる、全てを俺に任せろ」
「じ、ジン…正気に戻ってくれぇぇぇぇ………!!」
「ジンさま、お早く!」
「おうっ! 協力すまねぇ!」
 ギャラとジンの二人は、どたばた暴れるセリスを無理矢理薔薇部室に引きずり込んだ。
 一分後………。

「うっぎゃあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 セリスの断末魔の悲鳴は、十キロ離れた街でもはっきりと聞き取ることができたという…。
 …合掌。



『恋愛趣味レーションL 〜伝説の樹の下で〜』改め、
『VSジン・ジャザム 〜warever with you〜』
 セリス完全に敗北!!

<DEAD END>



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3.ぼくには関係ないことだな。


「悪いけど…ぼくには関係ない手紙だな」
 セリスは一瞥しただけで、さっさと机の奥に押し込んでしまった。
「お、おいセリス君…良いの? もしかしたら、マルチさんからの手紙かも…」
「そんなはずないよ。マルチがこんな手紙をくれるわけないもの」
 たまたまそれを目にしたFENNEKが忠告してくれたが、セリスはあっさり言った。
「ふーん……君達って破局を迎えていたの?」
「馬鹿な事言わないでくれ。…っと、じゃあ今日はぼくはもう帰るよ」
「お、おい。今日はこれから卒業の打ち上げが…」
「パス! みんなにも謝っといて!」
 言うが早いか、鞄を掴んで教室を飛び出していった。
「なんなんだ…一体?」
 FENNEKにはセリスの態度がさっぱり理解できなかった。


「あ、セリスさーん、こっちですー」
 校門の前で、マルチが元気よく手を振っている。
「待たせてごめん。ホームルームが長引いて…」
「いえ、お気になさらずに。それじゃ、行きましょうか」
「うん、そうだね」
 セリスとマルチは、今日この後一緒に遊ぶ約束をしていたのだ。
 いわゆるデートである。
 伝説の樹については、セリスは何とも思っていなかった。
 学校中に広まっているくらいメジャーな話なんだから、他にも告白しようとしている女の子は
たくさんいるだろう。
 自分とマルチは今更そんな事をするほど素っ気ない仲ではないつもりだったし、伝説に
縋らなければ想いを成就できないなどとも思っていなかった。
 もちろん、マルチにあらかじめ「伝説の樹を使うなんてやめよう」などと厚顔な事を言ったり
したわけではないが、マルチがそんな伝説を軽々しく使うとも思っていなかったのだ。
 だから、セリスは机に入っていた手紙をあっさり奥へ入れ直したのだ。
「…セリスさん、どうかしましたか?」
 マルチの声に我に返ると、心配そうな顔で下からのぞき込んでいる。
「いや、何でもないよ。さ、行こう」
「はいっ」
 セリスの言葉に安心したマルチは、うきうきとセリスの手を取った。



「もうこんな時間なんですね…」
「ああ…」
 日はとうに沈み、すっかり暗くなっている。
 三月になったとは言え、まだまだ春は遠い。
「早く帰ろう。長瀬さんも心配しているだろうし」
「すみません…」
 夜の寒さを感じた二人は帰路を急いでいた。
「あっっ………」
 不意に、マルチが何かを思いついたように声を上げた。
「んっ、どうしたのマルチ?」
「あの、セリスさん。学校の前を通って帰りませんか?」
「え? うん、良いけど…」
「はいっ。ではお願いします」
 マルチは心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 セリスには、マルチの考えていることは分からなかったが、マルチの喜ぶ顔が見られるなら
まぁ良いかと思う。
 マルチのペースに合わせ、ゆっくりとした歩調で歩く。
「学校に何かあるの? 忘れ物とか?」
「え、そ、それは…つ、着いてからのお楽しみです」
 セリスの軽い問いかけに、マルチは顔を真っ赤にして答えた。
「ふぅん…?」
 セリスもそれ以上は追及せず、この話題はそれで終わりとなった。


 十分くらいで学校に着いた。
 当たり前の事だが、どの教室にも明かりはない。
 卒業式で込み合っていたとは思えないほどの静寂に包まれている。
 …いや、むしろこの方が卒業式に相応しいのかもしれないな。
 セリスはそんな事を思った。
「マルチ、学校だよ。…入る?」
「は、はい…入れるでしょうか?」
「もちろん」
 セリスは校門に手をかけると、軽く飛び上がった。
 素早く内側に降り立ち、閂を静かに外す。
「さ、早く」
「は…はいっ」
 門を細めに開いてマルチを引き入れると、すぐに閉じて閂をかけた。
「こうしておけば、ぼく達が入った事も分からないだろう」
「は、はい…」
 マルチはさっきから妙にそわそわしている。
「で、どっち?」
「…あ、あっちです…」
 セリスに答えて指さしたのはグラウンドの方角。
「校舎じゃないの? …まぁ、校舎に入らなくてすむのは楽で良いけど…」
「…い、行きましょう」
「うん」
 口ではそう言うが、マルチは元来怖がりだ。
 夜の学校などと言う怪談スポットに来て怖くないわけがない。
「…じゃ、行くよ、マルチ」
 結局、セリスに手を引いてもらってやっと歩き出した。
「で、どこまで行けばいいの?」
「…す、すぐです…」
「どこ?」
「も、もう少し…」
「どこなの?」
「あ、あとちょっと…」
「だからどこなのさ…」
「…こ、ここです!」
 マルチの言葉に、セリスは足を止めた。
「ここ? 何の変哲もない………あれ、もしかして?」
「…………」
 マルチは顔を真っ赤にしたまま俯いている。
「…ここって…」
 そこは、伝説の樹の下だった。

  …卒業の日、伝説の樹の下で…

 セリスの耳に、聞き飽きた伝説の話が甦る。
「時間を…指定してないな、あの伝説…」
「は、はいっ…」
 ようやくマルチが言葉を発した。
 顔は俯いたままだったが。
「マルチ…」
「……………!」
 マルチは一大決心をしたように顔を上げた。
 真っ赤になって照れているが、その表情の中に…優しい瞳の奥底に、ほんの少しだけだったが、
不安の色が見えた。
(マルチ………)
 マルチは、ありったけの勇気を振り絞って、自分の気持ちを言おうとしている。
 拒否される事を恐れながらも、それでも伝えようとしてくれている。
「マルチ…」
 セリスはマルチをふわりと抱いた。
「せ、セリスさん…?」
「マルチ。ぼくはマルチが大好きだ。自分の気持ちを相手に伝えることは、決して恥ずかしい
事じゃないんだ。…だから、マルチも怖がらないで…」
「は、はい…ありがとうございます…」
 セリスはマルチを優しく離す。
 マルチは、それまでのぎくしゃくした態度がウソのようにすっきりとした顔つきになっていた。
 一呼吸置き、そして、口を開いた。
 伝説を真実とすることのできる、魔法の言葉を言うために…。
「せ、セリスさん…。わ、私…今日、どうしてもセリスさんに言いたい事があって…」



<HAPPY END>



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ども、セリスです。
 恋愛趣味レーションLを書いてみました。
 もちろんというか当然というか、ヒロインはマルチ。
 好き勝手書いちゃったなぁ、色んな意味で(笑)

 なお、選択肢”2”の展開は、makkeiさんに捧げます(笑)