VSジン・ジャザム「宿命の対決?」  投稿者:セリス
「プロフェッサー柳川と!」
「熱血サイボーグ・ジンの!」
「「三分デベロップメント!!」」

 ちゃらっちゃっちゃらっちゃっちゃ〜……と、二人のポーズに合わせてBGMが流れ出
す。
 曲目は「デビルマンのうた」。

「………」
「………」
「語呂悪いっすよ、柳川先生」
「仕方ないだろう、”クッキング”調にまとめられる言葉がなかったんだから」
「”ハッキング”とか…」
「ばかもん、意味が違うだろ」
「”ドッキング”は?」
「Gディフェンサーとでも合体するのか?」
「じゃ、”ブッキン…い、いでででで」
「余計なおしゃべりはもういい、ジン。ちょっと黙ってろ、話が進まない」
「すんません…」
 柳川のうめぼし攻撃(両手をゲンコツにして中指だけ突き出し、相手の後ろからこめか
みをグリグリやる攻撃)を受け、ジンはおしゃべりな口をやっと閉じた。
「さて、本日TVの前の皆様にお見せする発明は…」
「TVじゃないって」
「何か言ったかジン?」

  グリグリグリグリ。

「いっっ…いーえ、何も言ってません!」
「そうか。まぁ俺もこの発明のために三日三晩寝てないから、幻聴かもしれんな」
(徹夜のせいでいつも以上にハイになってるよ、この人…)
 ジンはそう思ったが、さすがに今度は口に出さなかった。
「本日の発明はこれですッ! 変身ブローチ〜!!」
 ジャジャジャーン! という効果音と共に柳川が一つのブローチを掲げて見せた。
「なんです? その…”CV:大山のぶ代”ってテロップが入りそうなしゃべり方は?」
「心外だなジン。俺は、”CV:藤田淑子”のつもりだったんだが」
「うわー、そのネタすげぇ分かりにくいっすよ先生」
「そうか? ま、キテレツな人間の大百科って感じの学校だから、何人かは分かるだろ。
実際お前は理解できたわけだしな」
「さらっとヒント言ってますね。ところで先生、その”変身ブローチ”ってなんですか?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた! ってゆーかお前はそのセリフを言うためにいるんだろー
が」

  グリグリグリグリ。

「うがー、すんませんすんません! そ、それより話の続きを!」
「おっとそうだった、ジンをいぢめていても仕方がない」
 柳川はそう言うと、クルッとカメラ目線になって向き直った。
 風もないのに柳川の前髪がフワッと揺れる。
「さて視聴者の皆様、お待たせいたしました。取りいだしましたるこの変身ブローチの説
明をさせていただきます」
 話しながら、変身ブローチなるブローチを胸につけて見せる。
「と言っても使用法はカンタン。こうして胸に取り付け、『誰々に変身したい!』と言う
だけ。そうすれば、後の複雑で煩雑で面倒な手続きは全てブローチがやってくれ、あなた
は一秒後には変身したいと言った人に!!」
 朗々と歌い上げるように変身ブローチの説明を続ける柳川だったが、ノリにノッている
彼をまたも邪魔するジン・ジャザム。
 それでも一応は気を遣って、こそこそと小声で話しかけた。
「………あのー、柳川先生」
「黙ってろ! 今大事なところだ!」
「なんすか、その”複雑で煩雑で面倒な手続き”って? ブローチの不思議な力かなんか
で一瞬にして変身するんじゃ?」
「バカもの。科学の信奉者たるこの俺が、不可視の力などという非科学的なモノに頼れる
か」
「不可視の力なんて言ってないって。だいたい、先生の専攻は物理だったんじゃ…」
「それもある。が、この天才・柳川、たかが博士号を一つ取った程度で満足などできるも
のか!」
「ってゆーかエルクゥユウヤはどーしたんだ、あんた」

  どかっ。

「さて、言葉だけでは信じていただけないかもしれませんね。そこで、今ここで実際に使っ
てみましょう!」
 柳川はジンを蹴り倒すと、再びカメラ目線に戻った。
「千鶴さんに変身したーい!!」

  ぼうん、もくもくもく……。

 柳川の言葉と同時にブローチから白い煙が吹きだし、あっと言う間に柳川を覆い尽くす。
「わー……レトロな演出」
「なんですって、ジン君?」
「ゲッ…」
 煙はすぐに消え失せたが、そこに立っていたのは柳川ではなかった。
「千鶴先生そっくりだ…声まで同じだ。すごいです、先生!!」
「ふふふ、そうでしょう。私の自信作ですもの」
「…あのー、先生。その口調は…?」
「ああ、これ? 変身後の人物に最も相応しい口調に自動的になるのよ。私が意識してやっ
てるわけじゃないわ」
「はぁ…そうですか…女言葉の柳川先生…」
 ジンはゲンナリした顔になった。
「TVの前の皆さん! ご覧になった通り、この変身ブローチの性能は素晴らしいモノで
す。今ならたった一万円、一万円!! しかも同じモノがもう一個ついてくる!!」
「あーもー良いです。突っ込む気力も無いです」
 カメラ目線で張り切って宣伝する柳川扮する千鶴だったが、ジンはいかにも投げやりな
口調で答えた。
「ジンくん…そんな風な態度だと、こーゆー目にあっちゃうのよ?」
 梅干し攻撃炸裂。
「いたたた、いたいいたい痛いですってば。はぁ…分かりましたよ、先生」
「そう、それで良いのよ」
「うう……」
 涙目になってこめかみを押さえるジン。
「…で、先生。そのブローチ、なんのために作ったんですか?」
「意味はないわ」
「……………」
「冗談よ。本当はね、別の発明品を作っていたんだけど、その過程でこれ…」
 柳川は胸からブローチを取り外した。
 ブローチが外れて効果が消え、元の姿に戻った柳川は、ジンにそのブローチを見せた。
「ルビーのような赤い石がついているだろう?」
「ええ…その石を飾りつける形のブローチになってますね」
 ジンの言葉に応えるように、石がかすかに煌めいた。
「この石がたまたま生まれたんだ。これはあくまで偶発的な副産物だ」
「ふーん…で、これをどうするんです?」
「偶然とは言え、せっかく作れた珍しい石だ。俺の研究室で保管しておく」
「はぁ…」
 ジンはとぼけた返事をしていたが、柳川はニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「だが、その前にもう一度くらい効果を試してみるか。どれくらいそっくりになれるのか。
ちょうど、実験台としておあつらえ向きの人間もいるしな」
「は?」
 柳川の視線の先には、ちょうど科学室前の廊下を歩いているセリスの姿があった。
「マルチに変身したーい!!」
 柳川は予想通りマルチに変身する。
「これでどこまで彼を騙し通せるかな?」
「はぁ……」
 ジンが半ば呆然と見守る中、マルチになった柳川(以下柳川マルチ)はくすくす笑いなが
らセリスに近づいて行く。
「せーりすさん(はぁと)」
「あれっ、マルチ? 今玄関の掃除中だったはずじゃ?」
「そんなことどうでもいいじゃないですかぁ…(はぁと)」
 柳川マルチはとろけるような微笑みを浮かべつつ、セリスの左腕に自然に右腕を絡めた。
「そ、そうだね、どうでもいいよねそんなこと…」
 セリスは鼻の下を100メートルぐらい伸ばし、見事にとろけるチーズになった。
「うう…情けない…。セリスも柳川先生もどっちも情けないぞ…!!」
 ジンは肩を震わせ拳を握りしめて、男泣きに泣いている。
「せりすさぁん…。まるち、おねがいがあるんですけどぉ…(はぁと)」
「うんうん、何でも叶えてあげるよ」
「ジンさんやっつけて☆」
「オッケー!!」
 セリスはだらしなくにやけていた顔を引き締め、ジンを睨み付けた。
「そーゆーわけで、お前を殺す!」
 右手を芝居がかった調子で振り上げ、人差し指をビシッとジンに突きつける。
「お前なぁ…」
 一人で勝手に熱血するセリスを余所に、ジンはとことん冷めていた。
「うふふ〜。せりすさん、がんばってくださいねぇ(はぁと)」
「先生…。何考えてるんですかぁ…」
「せんせいってだれのことぉ? まるち、わかんなぁ〜い」
 思いっきり力の抜けた声でジンが問い返すが、柳川マルチはシラを切る。
「ダメだ…徹夜でハイになってるとは思ってたが、まさかここまでボケてるとは…」
 ジンは今度こそ、その場にへたり込みたくなるような脱力感を覚えた。
「じゃ、マルチ、ちょっと待っててね」
「はぁ〜〜〜〜〜い(はぁと)」
 セリスは甘い笑みを浮かべ続ける柳川マルチから体を離すと、
「でりゃあああああああああああっっっっっっっ!!」
 いきなりパワー全開で突っ込んだ。
「…ったく、このバカが。先生の嘘臭いマルチにまんまと乗せられやがって…」
 熱血・必中・幸運の重ねがけで迫るセリスに対し、ジンは冷静だった。
(え、ティーさんのLSRCではセリスはそんな精神コマンド持ってないって?
 そんな細かいこと気にしちゃメッ! だよ。笑)
「一発ぶん殴って目を覚まさせてやるよ」
 正面から突進してくるだけのセリスに、ロケットパンチを放つ。

  クリーンヒット!
  ジンはセリスに25ポイントのダメージを与えた。

「はっ…こ、ここは? ぼくは一体?」
「やっと目を覚ましやがったか」
 正気を取り戻したように辺りを見回すセリスを見て、安堵した声をかけたジンだが。
「せりすさぁ〜ん! ジンさんやっつけてくれたら、キスしてあげる〜(はぁと)」
「うおおおおおっッ!! 我! 無敵! 也! 我! 最強! 也!」
 柳川マルチの一言であっという間に元に戻る。
「せんしぇえ〜……」
「うふっ、ジンさんも頑張って下さいねっ(はぁと)」
 ジンが柳川に対し、初めて怒りを覚えた瞬間だった。
 後日の取り調べで彼はこう語ったという…
”お、俺が悪いんじゃない! 柳川先生が俺を………”
「って、なんでいきなり刑事ドラマになるッ?!」
 ジンのご丁寧な突っ込みなんて無視して、セリスが再びジンに迫る。
「抜刀斎! ここが貴様の墓場だぁぁぁ!!」
「誰が抜刀斎だ、誰が」
 ゲッタァァァァァァァァビィィィィィィィィム!!
 と神谷明氏調に叫ぶ…ような事はせず、ジンはへーぜんとゲッタービームを放った。

  クリティカルヒット!
  ジンはセリスに128ポイントのダメージを与えた。

「うっ…ここは誰? 私はどこ?」
 ジンの一撃で再び正気を取り戻したかに見えたセリス…、しかし。
「せりすさぁ〜ん! ジンさんやっつけてくれたら、一緒に添い寝してあげる〜(はぁと)」
「ウオオオオオオオオッッッッッ!! 俺を戦いに駆り立てたのは貴様だッ、カミーユ!
そんな事が言えるのかよッ!!」
「俺じゃなくて柳川先生だろ、お前を戦いに駆り立てているのは。それに俺はカミーユじゃ
ないぞ」
「俺は貴様ほど、人を殺しちゃいないッ!」
「お前なー…そのネタ、ガンダムオタクじゃないと分からないからその辺でやめとけ」
 ジンは奥義・イツ花大根切りを放つ。
 健康度を1減少させて放つ大技だ。

  メチャクチャ効果的だ。
  ジンはセリスに598ポイントのダメージを与えた。

「くっ…ぼ、ぼくは一体…?」
 いかにマルチバカとは言え、セリスもいい加減ヘロヘロになってきた。
「いけないですぅ…セリスさんもそろそろ限界みたいです」
「セリフだけ聞くとセリスを心配してるっぽいけど、実際は色々考えてるんだろーなー」
 ジンの言う通りなのだが、外見がマルチにそっくりなだけに余計質が悪い。
「仕方ないです。こうなったら………」
 柳川マルチは大きく息を吐き、次いで小さな胸一杯に空気を吸い込むと大きな声で叫ん
だ。

「せりすさぁ〜ん! ジンさんやっつけてくれたら、○○○してあげる〜ッ!!」
(○○○に何が入るかは各自で考えよう!)

 セリスはブーーーーーーッッと激しく鼻血を吹き上げた。
「オッケーマルチ! ジンを倒したらまっすぐ保健室にゴーだ!!」

  セリスのHP・MPが全快した!

「保健室で何するつもりだ、お前」
 ジンの冷静な突っ込みなどもちろん聞こえない。
「V−MAX発動! ジン、消えてくれ! ぼくとマルチの幸せのためにッ!!」
 V−MAXなどと言っても、結局のところ、理性をなくしたセリスの戦い方なんて、暴
れイノシシのように突っ込むしかないわけだが。
 今までとは気合の入り方が違う。
 強化型レイズナーからレイズナーMk-IIに乗り換えたくらいに違う。
「ったく、このバカが。すっかり惑わされやがって…」
 さすがにジンも本気になって応戦する。
 セリスはM.A.フィールド全開で霊波刀を振り回すだけという、直線的な行動しかとっ
ていないが、なにせ気力+200。
 魔装機神におけるポゼッション状態なわけだから強い強い。
(ポゼッションを知らないとゆーアナタは、SFC魔装機神をやるベシ!)
 ジンと二人して校舎を破壊しまくって戦っている。
「うーん…これまた良くないですぅ。こんなに派手に戦っていたら…」
「こらッ、そこッ! 何してる!」
 柳川マルチの憂いに答えるように、ピーーーーーッという鋭い警笛の音が聞こえてきた。
 風紀委員会のお出ましだ。
「ああ〜……やっぱりですぅ。仕方ないです、最後の手段を使います。…えーと、えーと」
 柳川マルチはちびっこい体に着た小さめの制服の内ポケットをごそごそあさり、ボタン
が一つ付いた小さな箱を取り出す。
 これらの柳川マルチの独り言は自身の行動確認のようなもので、別に言う必要もない言
葉なのだが、やはりそこはマルチの仕草を真似ているだけの事はあった。
「ポチッとな」
 だからこうして、オールドタイプのアニメファンなら泣いて喜びそうなかけ声も言って
くれるのだ。
「へっ?!」
 突然ジンの体が内部から白く光り出したかと思うと、あっと思う間もなく爆発した。
 ドッカーンという古き良き時代を彷彿とさせる爆発音と、昔懐かしいドクロマークの煙
を上げて。
「はぁっ?!」
 もちろん学校の中だから、昔からの伝統に則る大きな爆発はできない。
 ごくごく小規模の爆発だったが、至近距離で戦っていたセリスは爆発に巻き込まれた。
「…………ふん」
 柳川は変身ブローチを外して元の姿に戻ると、つまらなさそうに鼻で一瞥した。
「どうした、何事だ?!」
 集まってきた風紀委員達の間を割り、彼らの代表のディルクセンが姿を見せる。
「…柳川先生。この騒動は一体?」
「ジンが暴走したので、俺が責任を持って自爆させた。それだけだ」
「はぁ…まぁ、そう言われればそうとも見えますが…」
 辺りに散らばるのは、コンクリートとガラスの残骸。それに真っ黒焦げになったジンと
セリスの二人である。
「ジンなら心配するな。これしきでどうにかなるようなヤワじゃない。俺がすぐ直す」
「そこにセリス君がぶっ倒れているのは?」
「ジンの暴走と、自爆に巻き込まれた。ほっときゃ気が付く。心配なら保健室にでも連れ
て行け」
「はぁ…」
「じゃあな」
 ディルクセンが次の言葉を言う前に、柳川はジンの体を持ってさっさと立ち去っていった。
 
 
 
「せんせぇ〜…。ひどいっすよぉ…」
「ジン。俺は常々語っていただろう、自爆こそ男の美学だと」
 柳川に研究室へ連れて行かれながら涙目で文句を言うジンだが、柳川にはどこ吹く風。
 ちなみにTH本編で浩之があかりを抱きかかえて運んでやったような、優しい運び方じゃ
あない。
 ジンの右腕を左手で掴み、ズルズル引っ張っているだけだ。
「俺、すぐ直してもらえるんでしょうね? この後、千鶴さんの手料理を食べる約束になっ
てるんです」
「悪いが眠いんだ。二十時間ほど眠ったら直してやる」
「そ、そんな! 俺、明日千鶴さんに約束破ったって怒られます!」
「気にするな。何かあっても俺は全然関与しないから安心しろ」
「この場合はそれじゃあ安心できないですよぉ…」
(ダメだ…最初から最後までボケッぱなしだよ、この人)
 ジンは引きずられながら、明日千鶴先生にどうやって言い訳しようか考え始めていた。
 
 
 
 尚、この後のセリスの行動であるが。
「マルチぃぃぃぃぃ〜!! さぁ、保健室で一緒に天国へ行こう!!」
 そう言って廊下掃除をしていたマルチに抱きつき、そのまま引きずって行こうとしたの
だが。
「ちょ、ちょっとセリスさん、一体何のお話ですか?」
 当然本物のマルチには何がなんだかサッパリ。
「またまたそんな事言っちゃって。大丈夫! 痛くないように優しくするから」
「ななななんですか、一体。やめて下さい、私、まだお掃除の途中なんです」
「掃除は後で手伝うよ。さ、それよりも…」
 まだちょっとハイになっていたセリスは、無理矢理マルチを引っ張って行こうとしたが、
「そんな事言う人、嫌いです」
の一言で敢えなく撃沈。
 マルチのセリスへの好感度が−1されたという…。



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 文章中、一部伏せ字的表現になっているところがありますが、たぶん面白いアニメかな
んかです。
 変な事考えちゃダメですよ☆(笑)