「僕は、まどかを、守れなかった…」 ―――そんなことないよ。 「守れなかったんだ…」 ―――気にしないで。 「守りたかった…守らなきゃいけなかったのに…」 ―――ありがとう。 「…守れなかったのに…?」 ―――だって… 「…どうして…」 ―――だって、護ってくれたから…。 何もない世界。 いや、世界と言っていいのかどうか、それさえも分からない。 真っ白い光に包まれた空間。 そんな場所に、透也は一人「存在」していた。 …いや、一人ではない。 姿こそ見えないが、自分以外の存在を、透也は感じていた。 しかし、異質な者だとは感じなかった。 むしろ、共に存在する事こそが、自分のあるべき姿だとさえ思えた。 そこまで思ったところで、透也は再び意識を失った。 次に透也が目覚めた時、一番に視界に入ったのは、すすけた天井だった。 「………」 まだ頭がはっきりしないまま、周囲を見回してみる。 「よう、透也。お目覚めか?」 ゴツン! 「あいたっ!」 突然の鈍痛に透也が振り向くと、一仁が仁王立ちに立っていた。 「…と、父さん…? …いきなり何するんだよ…」 頭を押さえつつ、涙目で抗議する。 「馬鹿野郎! お前昨日何してやがったんだ?!」 「な、何って…。まどかと一緒に森へ行って…それから…」 透也の脳裏を、野犬に襲われる自分とまどかの姿がよぎった。 「……それから…僕は……僕達は…」 一仁は腕組みをして透也の言葉を待っている。 「……僕達は…野犬の群に襲われて……それで……僕はそこで意識を失ったんだ…」 絞り出すような声で、やっとそれだけを言った。 「…それで?」 「…僕が覚えているのは、そこまでだよ…」 力無く頭を垂れる。 「…透也。まどかちゃんの両親、帰りが遅いって心配してたぞ」 「………え…?」 「お前達が帰ってこないから、俺とまどかちゃんの親父さんで探しに行ってみたら、 二人一緒に村はずれの森でぐっすり眠ってるんだからな」 「………」 「透也、まどかちゃんは体が弱いんだから、もっと気をつけなきゃだめだ。野宿なんて、 絶対にまどかちゃんにさせるな!」 「…うん。分かったよ、父さん。遅くなってごめんなさい」 一仁は真剣に怒っていた。 まどかと透也を本当に心配しているから、怒っているのだ。 幼い透也にもそれくらいは分かったので、素直に謝った。 「…よし、分かったのならもういい。説教はここまでだ」 ふっと表情を緩める。 「ところで、透也。いつからまどかちゃんを呼び捨てにするようになったんだ?」 「え? …そう言えば、呼び捨てにしてるな…」 「まぁ、仲がいいのは良いことだ。しっかりやれよ! ハハハハ…」 透也の背中を一叩きし、一仁は豪快に笑った。 「そう…。透也くんも覚えてるの…」 透也はその後すぐにまどかの家に飛んできた。 いつもよりかなり早い時間だったが、まどかも既に起きていた。 「うん…。やっぱり、夢なんかじゃなかったと思う…」 「………」 透也の言葉を聞き、まどかは何かを考えるように軽く瞳を閉じた。 「…まどか、どうかしたの?」 「…ううん、なんでもない。気にしないで」 そう言って、まどかは軽く笑った。 「身体の調子はどう?」 「…調子良いわ…って、答えたいんだけどね…」 「…具合悪いの?」 「…悪いわけじゃないよ…一昨日と同じなだけ」 まどかはそう言うが、やはり体調が優れないらしく、時折咳き込んだりもする。 「ごめんね…。今日はもう帰るよ。また明日来るね」 「…うん。またね、透也くん」 その日を境に、透也は今までとはうって変わって、剣術の鍛錬に真面目に取り組むようになった。 「透也、どうしたんだ? 最近やけに熱心じゃないか」 訓練の合間、村人から軽いからかいの声をかけられることもある。 だが、透也はそんな声になど、耳を貸さなかった。 透也には強い信念があったからだ。 (あれが夢だったのかどうか…そんなのは、今は関係ない。 それよりも、今の僕にとって大事なこと…それは…) 両腕に力を込め、木刀を上段に振りかぶる。 「強くなること!」 バシッ!! 気合いのこもった剣戟が響く。 「もう敵の前で、…守るべき者を後ろにして力尽きる事など、絶対にしない! 絶対に!!」 そのことだけを思い、透也はひたすら剣術に励んだ。 熱心な鍛錬の賜物か、透也は十四になる頃には「国一番の剣の使い手」と噂されるようになっていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 今回は、前二章と比べ、少し短いですが、区切りをつけるためここで切りました。 でも相変わらずLメモじゃない…(汗) …と、とりあえず。 次章では、99.89%の確率で、Lメモキャラを出せます! …たぶん(汗)