Lメモ過去編・第三章「目覚めの刻」 投稿者:セリス

  「僕は、まどかを、守れなかった…」
                             ―――そんなことないよ。
  「守れなかったんだ…」
                               ―――気にしないで。
  「守りたかった…守らなきゃいけなかったのに…」
                                ―――ありがとう。
  「…守れなかったのに…?」
                                 ―――だって…
  「…どうして…」
                        ―――だって、護ってくれたから…。




 何もない世界。
 いや、世界と言っていいのかどうか、それさえも分からない。
 真っ白い光に包まれた空間。
 そんな場所に、透也は一人「存在」していた。
 …いや、一人ではない。
 姿こそ見えないが、自分以外の存在を、透也は感じていた。
 しかし、異質な者だとは感じなかった。
 むしろ、共に存在する事こそが、自分のあるべき姿だとさえ思えた。
 そこまで思ったところで、透也は再び意識を失った。




 次に透也が目覚めた時、一番に視界に入ったのは、すすけた天井だった。
「………」
 まだ頭がはっきりしないまま、周囲を見回してみる。
「よう、透也。お目覚めか?」

  ゴツン!

「あいたっ!」
 突然の鈍痛に透也が振り向くと、一仁が仁王立ちに立っていた。
「…と、父さん…? …いきなり何するんだよ…」
 頭を押さえつつ、涙目で抗議する。
「馬鹿野郎! お前昨日何してやがったんだ?!」
「な、何って…。まどかと一緒に森へ行って…それから…」
 透也の脳裏を、野犬に襲われる自分とまどかの姿がよぎった。
「……それから…僕は……僕達は…」
 一仁は腕組みをして透也の言葉を待っている。
「……僕達は…野犬の群に襲われて……それで……僕はそこで意識を失ったんだ…」
 絞り出すような声で、やっとそれだけを言った。
「…それで?」
「…僕が覚えているのは、そこまでだよ…」
 力無く頭を垂れる。
「…透也。まどかちゃんの両親、帰りが遅いって心配してたぞ」
「………え…?」
「お前達が帰ってこないから、俺とまどかちゃんの親父さんで探しに行ってみたら、
二人一緒に村はずれの森でぐっすり眠ってるんだからな」
「………」
「透也、まどかちゃんは体が弱いんだから、もっと気をつけなきゃだめだ。野宿なんて、
絶対にまどかちゃんにさせるな!」
「…うん。分かったよ、父さん。遅くなってごめんなさい」
 一仁は真剣に怒っていた。
 まどかと透也を本当に心配しているから、怒っているのだ。
 幼い透也にもそれくらいは分かったので、素直に謝った。
「…よし、分かったのならもういい。説教はここまでだ」
 ふっと表情を緩める。
「ところで、透也。いつからまどかちゃんを呼び捨てにするようになったんだ?」
「え? …そう言えば、呼び捨てにしてるな…」
「まぁ、仲がいいのは良いことだ。しっかりやれよ! ハハハハ…」
 透也の背中を一叩きし、一仁は豪快に笑った。




「そう…。透也くんも覚えてるの…」
 透也はその後すぐにまどかの家に飛んできた。
 いつもよりかなり早い時間だったが、まどかも既に起きていた。
「うん…。やっぱり、夢なんかじゃなかったと思う…」
「………」
 透也の言葉を聞き、まどかは何かを考えるように軽く瞳を閉じた。
「…まどか、どうかしたの?」
「…ううん、なんでもない。気にしないで」
 そう言って、まどかは軽く笑った。
「身体の調子はどう?」
「…調子良いわ…って、答えたいんだけどね…」
「…具合悪いの?」
「…悪いわけじゃないよ…一昨日と同じなだけ」
 まどかはそう言うが、やはり体調が優れないらしく、時折咳き込んだりもする。
「ごめんね…。今日はもう帰るよ。また明日来るね」
「…うん。またね、透也くん」




 その日を境に、透也は今までとはうって変わって、剣術の鍛錬に真面目に取り組むようになった。
「透也、どうしたんだ? 最近やけに熱心じゃないか」
 訓練の合間、村人から軽いからかいの声をかけられることもある。
 だが、透也はそんな声になど、耳を貸さなかった。
 透也には強い信念があったからだ。
(あれが夢だったのかどうか…そんなのは、今は関係ない。
それよりも、今の僕にとって大事なこと…それは…)
 両腕に力を込め、木刀を上段に振りかぶる。

「強くなること!」

 バシッ!!

 気合いのこもった剣戟が響く。
「もう敵の前で、…守るべき者を後ろにして力尽きる事など、絶対にしない! 絶対に!!」
 そのことだけを思い、透也はひたすら剣術に励んだ。


 熱心な鍛錬の賜物か、透也は十四になる頃には「国一番の剣の使い手」と噂されるようになっていた。






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 今回は、前二章と比べ、少し短いですが、区切りをつけるためここで切りました。
 でも相変わらずLメモじゃない…(汗)
 …と、とりあえず。
 次章では、99.89%の確率で、Lメモキャラを出せます!
 …たぶん(汗)