Lメモ報復伝3「無限と有限の報復劇」 投稿者:春夏秋雪
 『幸せの定義が出来るというのですか? 貴方に?』

 それはいきなりだった。
 昼休みにbeakerは事務の学生係から放送で呼び出された。
 こんな学校にも学生係なん言うのがあったのか
 と、変なところで感心してしまう。
 事務棟は、食堂の廊下を歩いて行ける。
 滅多に行くことのない場所である。
 学生係は事務棟の二階で区役所のような雰囲気の広い大部屋に事務机が並べられ、幾人もの事務員が書類に
埋もれていた。
 カウンタに一番近い女性に学生係の部屋を尋ねると、廊下の一番奥の部屋と教えてくれた。
 beakerは礼をその部屋に向かった。

 コンコンコン

「入ります」
 規則正しくノックをしてbeakerは中に入る。
「beakerですが…」
 そのまま部屋に入っていく。
「待っていたわ、びーちゃん」
 そう言うと彼女は椅子から立ち、そばにあった応接セットに驚く彼を導いた。
 彼女は、自分の机から大きなファイルを持ってくると、それをbeakerの前でめくり始めた。
「驚きました… 一体どういう了見ですか?」
 ファイルのページを探している彼女に尋ねる。
「風見ひなたちゃんの事についてよん☆」
 そういって、彼女はひなたの写真をbeakerの前に置く。
「僕にどうしろと…? 四季さん」
 四季は微笑みながらきっぱりと応える。
「人誅を手伝って欲しいの☆」

     Lメモ報復伝3「無限と有限の報復劇
  〜ENDLESS LOVE AND PURE HEART〜」

 第二購買部で店番をしているbeakerは不機嫌だった。
(分からず屋め!)
 beakerは机を蹴り飛ばしたくなるが、思いとどまる。
 四季は馬鹿のように見えるが意外にきれる人物である。
 beakerもその事については認める。
 しかし、如何せん他人の意見を聞かない。
 協調、妥協、不純という概念が彼女にとっては同義なのだ。
 どんな事をしようとも自分の意見を貫き通す。
 先の件も彼は断るつもりだった。
 彼女も無理強いはしないと言っていた。
(無理強いはしない? あからさまに顔が強制していたぞ!)
 彼女は始終笑っていた。
 目だけが。
 そして、beakerもお得意の営業スマイルで承諾をした。
 ここで彼女を敵に回すことに得はない。
 しかし、味方になっても得はない。
 根っからの商売人である彼にとっては後味の悪い商談である。
「ご機嫌斜めですね? beakerさん」
 そう言いながら、デコイはbeakerにファイルを差し出す。
「お約束の物です。しかし、こんな物どうするんです?」
 首を傾げて訊ねるデコイにbeakerは曖昧な笑みでごまかし、そのファイルを受け
取った。

 次の日の昼休み、四季は沙織、瑞穂と一緒に中庭で昼食を取っていた。
「うそー! それ本当?」
「本当も本当!! すごいのよ☆」
 彼女らはたわいもない雑談に花を咲かしている。
 ここ数日、四季は沙織と仲がいい。
 元から、性格の明るい二人だったこともあり、今では良き親友である。
「そう言えば、この前び−ちゃんからこんなモノ貰ったんだ☆」
 そう言うと四季はポケットから6枚のチケットを取り出す。
「あ、それ最近オープンしたレジャーランドの入場券ですね。」
 知識が豊富な瑞穂が応える。
「そうそう、どうせならみんなで行かない?」
「ほんと?」
 沙織が目を輝かせて訊ねる。
「けど、チケットは6枚ですよね? 私たちの分の他に3枚余りますが…」
「だ・か・ら、誘うのよ。と、言うわけでハイ! 瑞穂ちゃん達の分☆」
 そう言うと、四季は瑞穂に2枚渡す。
「え? 2枚って…」
「決まってるでしょう! 岩下さんを誘うのよ!!」
「えっ!? で…でもでもでもでも」
「デモもストライキもないわ! いろいろ、岩下ちゃんにはお世話になっているんだから
 たまには誘いなさいよ☆」
 そう言って、チケットを瑞穂に押しつける。
「…うん」
 そう言って、真っ赤になりながらチケットを受け取る。
「瑞穂ちゃんは良いわよねぇ。岩下ちゃんみたいな人がいるんだモン☆」
「アツアツよねぇ〜」
 四季と沙織がはやし立てる。
「ハイ! で、これは沙織ちゃんの分☆」
 そういって、チケットを差し出す。
「え? けど私には誘う相手が…」
「長瀬ちゃんがいるじゃない☆」
「祐くん…?」
 きょとんとした顔で応える。
「そうよ、きっと喜ぶわよ!」
「…うん、誘ってみるね」と、心なしか頬染めて応えた。
「四季さんはどうするんですか?」
「やっぱり藤田くんを誘うんでしょ?」
「うーん、残念だけどダーリン今週予定が入ってるの☆」
 と、さほど残念そうでもない顔で応える。
「じゃあ…」
 心配する瑞穂に四季は手をパタパタ振りながら
「大丈夫! 別の人誘うから☆」
「そう、じゃあ!今度の日曜に!!」
 そう言って、四季はそのまま彼女たちと別れる。
 そして、彼女たちが見えなくなってから彼女は笑顔を崩さぬまま、言葉を発する。
「……女の子の会話を盗み聞きするなんて良くないと思うわ☆」
「………」
 そして、後ろの茂みに歩み寄り
「……で? もちろん行くわよね☆ ひなたちゃん?」
「………」
 そこには、迷彩服を着た風見ひなたがいた。
「断るなら、盗み聞きのこと沙織ちゃんにチクるわよ☆」
 彼女の目は笑っていない。
 ひなたが沙織に少なからず好意を持っているのを知っていての台詞である。
 計算されていること。
 全てがイーコールで結ばれている。
 決まっている公式。
 ひなたは四季の脅迫に涙を流しながら
「…行かさせていただきます」
 と、応えるしかなかった…
 


 …人誅の支度は出来た。
 『宴』はこれから始まる…。