Lメモ報復伝3.1『有限と無限の報復劇』 投稿者:春夏秋雪
『幸福も知らないのに不幸を語れるのですか? 貴方に?』
 日曜日は晴れだった。

 『AM10:45』

 四季達は駅の改札口で待ち合わせをしていた。
 沙織はきょろきょろと辺りを見ながら「おそいなぁ〜」と、呟く。
 瑞穂は腕時計を見ながら「沙織さん、まだ待ち合わせの時間には15分もありますよ」と、苦笑混じりで応える。
「ひなたちゃん達にも、きっと色々とあるのよ…」
「え? なに四季さん?」
 彼女たちの後ろで四季が言った。
 四季はただ上を見ていた。
 空が青い。
 どうして青いという疑問は誰も持っていない。
 みんなそれが当たり前のことに感じている。
 空は青い。
 そう言うモノなのだ。
(確か青い光の波長が一番届きやすいから…? だったかな? よく覚えてないや)
「…色々とね」
「?」
 彼女の呟きに、首を傾げる二人。
 四季はその青いキャンパスを眺めていた。

 Lメモ報復伝3.1『有限と無限の報復劇
  〜ENDLESS  LOVE  AND  PURE  HEARTS〜』
 
 『AM11:05』

(こんな筈じゃなかった…)
 電線に雀が止まっている。
 鳥の鳴き声も聞こえてくる。
 日も高くなり、暖かい。
 ナップザックが肩からずり落ちる。
 しかし、ひなたはそれに気づいてないようだ。
 予定の時間に遅れてしまった理由を考える。
 目覚まし5個が朝起きたら全てたたき壊されていたこと。
 美加香を巻くのに多少手こずったこと。
 急いで出かけたのに途中で、YOSSYやディアルトがいきなり攻撃してきたこと。
 そして、そんなことを考えながらひなたは目の前の伝言板を見る。
 そこにはなぶり書きで
『ひなた君! 女性を待たせるのは良くないよ! by岩下』
 すこし、急いでいたのか走り書きで
『風見君、先に行ってます 長瀬』
 達筆で
『現地で合流しましょうね 瑞穂より』
 かわいらしく丸文字で
『遅いぞ! 先に行っちゃうんだから! さおりん』
(さおりん、怒ってるかな?)
 彼が沙織萌えであることを知っているのはごくわずかである。今回のデートにしたって沙織と一緒に
遊園地に行けるからである。
 しかし、最初からマイナスイメージ。
 これで好印象など無理である。
 そして、少し間をあけて赤字で
『ひなたちゃんへ
 オードブルは美味しかったでしょう♪
 メインディッシュはこれからよ♪ 四季ちゃんより
 
 追伸:私の雇ったオードブル達は美味しかった?』

(…オードブル…!?)
 頭の中で何かが少し動く。
(えっと…)
 ひなたは目を閉じる。
 違和感があった。
(オードブル…オードブル、オードブル…)
 心の中で何度も繰り返す。
 ほんの刹那の違和感を取り戻そうとする。
 その様な行動自体が逆効果であると言うことを知っているのに行動してしまう。
 そして、後悔する。すでにもう遅いが…。
(今閃きかけたのに…)
 そう思いながらも、彼はその重い足を引きずって改札口に入っていった。

 オードブルの味は少し苦かった。
 
 『PM0:10』

 沙織は四季をずっと見ていた。
 目的地まで電車でまだ30分近くかかる。
 彼女は缶コーヒーを何口か飲んで、その後、窓の外を見たまま動かなくなった。
 四季は、窓の外を見ている。窓のすぐ下の地面に、線路が二本走っている。
 隣の席では岩下と瑞穂そして長瀬が談笑している。
 沙織は四季の表情をのぞき込む。目は開いている。窓の外を凝視したまま、彼はピクリともしない。
 外界から完全にアクセスを絶っている。
(何を考えているんだろう…?)
 沙織はその事を聞こうとするが、諦める。
(やっぱり、ひなた君を置いて先の行くんじゃなかったかな?)
 しかし、置いていくと言い出したのは四季だ。もちろん、瑞穂も沙織も反対したが
四季の押し切りで結局先に来てしまっている。
「…そうしよう」
「え?」
 不意に四季が唐突に言葉を漏らす。その場で立ち上がり周りを見わたす。
 そして、手を挙げ大きな声で呼びかける。
「おばちゃぁぁぁあぁぁぁぁんっ!!! 鶏釜飯弁当4つ頂戴っ!!」
 どうやら、昼の弁当を何にしようか迷っていただけであったらしい。

 『PM0:25』

 ひなたは瞑想に耽っていた。
 幸い、彼女たちが乗った電車の次に乗ることが出来た。これならば現地で合流できる。
 ひなたは頑なに瞑想していた。
 外界からのアクセスを絶とうと努力をするが、情報が流れ込んでくる。
(何も聞こえない、何も聞こえない、何も聞こえない…)
 何度も反芻する。五感を無理に遅らせようとする。
「父上ぇ〜」
「HAHAHAHAHAHA! 今日モ良イ天気デスネ!」
「すごいよ速いよ綺麗だよ!いいないいないいなこんな所に住んでみたいな住んだらきっと楽しいだろうな!」
「…窓から顔を出しては危ないですよ」
「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「今回は加速度と遠心力について実験します! 被験者はお馴染み…」
「いやじゃぁぁぁああぁぁぁっ!(涙)」
「掘り出し物のアイテムが手にはいると良いですね」
「…商売が上手くいけば私は良いのですけどね」
「青いって言うなぁぁぁぁっ!!!」
 ひなたは周りから聞こえてくる情報を頑なに拒否をし続ける。
(聞こえない、聞こえない、聞こえない…)
 ただただ、彼は自分にそう言い聞かせるだけであった。




 さあ、当店自慢のメインディッシュはもう少しで出来上がります。
 宴の続きをお楽しみ下さい。お客様。