Lメモ報復伝3.2「無限と有限の報復劇」 投稿者:春夏秋雪
『否定の否定は肯定
裏の裏は表
では、幸福の幸福が不幸
不幸の不幸が幸福
これが定義できるのでしょうか?
そもそも、幸福と不幸が両端を為すものなのでしょうか?』

「…ここはなんだ?」
半眼になって、ひなたが聞く。
「今年オープンした有名なアミューズメントパークの東京ネズミーランドよ」
「そーかそーか、僕も理性的な人間であるからして、現実を直視します」
「素直で良い事ね」
「ありがとう。では、悪いが『東京ネズミーランド』
目を瞑って深呼吸してから、この単語を三回繰り返してみよう」
ひなたはそう言いながら実際に自分でやってみた。
彼女もそれに従って、深呼吸をする。
「東京ネズミーランド、東京ネズミーランド、東京ネズミーランド」
「東京ネズミーランド、東京ネズミーランド、東京ネズミーランド」
ひなたは頷いた。
「…さて今、心に浮かんできた光景があるはずだ。それを忘れないようにして、
ゆっくりと目を開こう」
瞼が震えるほどにゆっくりと、開いていく。
そして、現実と幻想が交錯する。
許容。
侵食。
崩壊。
ひなたは彼女―四季―の方へ向き直り、聞く。
「言いたいことが理解できたか?」
四季は首を傾けて答える。
「…マスコットキャラクターがあんまり可愛くない?」
「ちがうだろ!?」
ひなたは叫びながら、彼らの方を指差す。
「なんで、あいつ等がここで働いているぅぅぅぅっ!!?」

Lメモ報復伝3.2「無限と有限の報復劇
〜ENDLESS LOVE AND PURE HEART〜」

『射撃屋』

「おう! お前等こんなところで会うなんて奇遇だな!」
「あ! はろはろ! ジンちゃん!!」
ジン・シャザムはニッコリと笑った。
「ジン先輩、こんなところで何をやっているんですか?」
瑞穂が聞くと、ジンは後ろの方を指差し
「見ての通り、射撃屋の店番だ。
どうだ? 一回やってくか?」
そう言って、ジンは瑞穂に拳銃を渡す。
瑞穂は受け取った銃を見つめ
「意外と重いんですね」
「常日頃、リアリティの追求は大切と思っている」
そう言いながら、ジンは他のみんなにも渡す。
「?」
「あれ?」
「これって…」
「瑞穂君っ!! 撃っちゃ駄目だぁぁっ!!!」
岩下の呼ぶ声を聞いた瞬間、瑞穂は引き金を引いていた。
 
 パンッ!
 
やけに乾いた音がこだました。
不意の振動に瑞穂はしりもちを着く。
瑞穂が狙っていた熊のヌイグルミには大きな穴が空いている。
「ジンッ!!! 貴様、瑞穂君になんてことをぉぉぉっ!!」
「何を怒っている?」
「どこに射的に本物の銃を使うところがある!?」
「当たり前だ、ここは射撃屋だ」
「だから、射的に――え?」
「『射的』ではなくて『射撃』だ、この店は」
長い沈黙。
永遠と思われるこの停滞を破ったのは風見の一言だった。
「…やっぱり、こんな事だろうとおもったよ」

『ヒーローアクション』

「ねえねえ、ひなちゃん! ヒーローショウやってるよ! 見ようよ!!」
「何だよ、そんなの見なくたっていいだろう? 子供じゃあるまいし…」
そう言う、風見をよそにヒーローショウを見に行く、四季と沙織、瑞穂。
「…たまには、童心に返るのもいいかな?」
そう呟くと、彼は小走りに彼女たちを追いかけていった。

そして、その行動に後悔をしたのは数分後であった。
「デレンガイヤァァァァァアアァァァッ!!!!」
「なぜだぁぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁっ!?」
鎖で縛られ、檻に入れられた風見が血涙を流す。
『デレンガイヤーショー』
正面舞台の看板には黒字でそう書かれていた。
風見と四季の周りには誰もいない。
少し後ろで、沙織たちがポップコーンを食べながらショーを楽しんでいる。
四季は両手にデレンガイヤーグッツを抱えて、ショウに夢中である。
後で知ったことであるが、四季はこの手のヒーローアクションに弱い。
特に、デレンガイヤーに関しては非公式ではあるがファンクラブを作ったほどである。
「この世に、悪が蔓延るかぎり私達は負けない! それが正義!!
そして、正義は私だから!!! 食らえ!! 怪人!!!!
デレンバスタァァァァァァァァアアァァァァッ!!!!!!!」
そして、デレンガイヤーの放った一撃はもはや倒れている怪人にではなく
風見本人に当たった。

『ミラーハウス』

何かがおかしい。
風見は悩んでいた。
彼の目の前では、偶然という名の必然が展開している。
足を止める。
何かが、違う。
彼は、目の前の鏡を見る。
自分が見える。
何重にも、何人にも。
目を閉じる。
彼は今までの経過に着いて考える。
四季に誘われ、このレジャーランドに来ている。
すると、いつもの面子がそこにはいて、なぜか自分に不幸が訪れる。
いや、あれを不幸と呼べるのだろうか?
そもそも、不幸とは? 幸せとは?
そして、自分の思考が横道に逸れることに気がつく。
今彼は、ミラーハウスの中に一人でいる。
最初は6人で入ったが、ふと気がつくと一人になっていた。
あれほどうっと惜しくくっ付いていた四季の姿もない。
それどころか周りの鏡には自分の姿しか映し出されていない。
(早く出口に行こう…)
そう考え、ひなたは歩調を速める。
このままいるのは、やばい…
本能的にそう思った。
しかも、こういう勘は悪いときだけには当たる。
『ふふふふふふふふふふふふふふふ…』
不意に、含み笑いが聞こえる。
『ううぇるかむ! まいぶらざぁぁぁぁっ!!』
そして、かがみに人影が映し出された。
風見の時だけが止まる。
ひなたの目の前の鏡には、油ギッシュな筋肉をした阿部先生率いる薔薇の生徒だった。
『さあ! 風見君僕らと一緒にレッツポーズング!!!』
阿部が上腕3等金を強調したポーズで話し掛ける。
『風見君も一緒に楽しむっス!!』
どこぞの生徒(風見にはそんな奴らの名前を覚えるなんてしない)が、大胸筋をアップに語り掛ける。
風見の世界はまだ、保たれていた。
浜辺に作られた砂の城のようにもろかったが、彼は理性と言うものを保っていた。
しかし、次の瞬間それは霧散する。
『夢の舞台でチョッピリ緊張、乙女の心はメリーゴーランド! エクルゥユウヤ参上です!!』


 そして、魔王は降臨した…。
 
『レストラン』

「なにか、どっと疲れた…」
ひなたはそう言いながら、椅子にもたれかかった。
「…ねえ、しきりん。 ひなた君どうしたの?」
沙織がそっと、四季に耳打ちする。
四季は肩をすくめ、
「はしゃぎすぎて疲れたのよ…。まだまだ子供ね」
そんな、たわいもない会話をしている。
「ご注文はお決まりですか?」
そう言いながら、川越たけるが話し掛けてきた。
「あれ? たけるさんもここでお仕事ですか?」
「そうなの! みんなは?」
「なに、ただ四季君と風見君のデートの同伴だよ」
岩下が四季と風見の名前を強調して言う。
抗議を入れようとした風見に、厚いお絞りを顔に押し付け黙らせる四季。
「そうなの〜! 私とひなちゃんもうラブラブなの〜」
笑顔でそう答える。
「良いな良いな羨ましいな私も素敵な人とどこかに行きたいな!」
そう言いながら、話しつづけるたけるを後ろから呼ぶ声が聞こえた。
「たけるさん、ご注文を取らないといけないのでは?」
電芹が後ろから顔を出す。
「あ! そうだ、なんにする?」
そう言いながら、たけるはメニューを配る。
「え〜と…」
「私、お腹ぺこぺこ〜! 祐君は何食べる?」
「えっと、ぼくは…」
そう言いながら、彼らはメニューに視線を落す。
そして、全員があるところに目を留める。
数秒の後、岩下が呟く。
「……出よう」
そういうと、全員がその場を退出した。
「え? え?」
訳がわからず、戸惑うたける。
「どうしたの?」
厨房から、声が聞こえる。
「みんな、帰っちゃった…」
「どうして?」
「さあ」
そう言いながら、首をかしげるたける。
そう言いながら、たけるはメニューをみる。
ラーメン、ハンバーグ、エビフライ、スパゲティ、カツ丼…
ありきたりのメニューである。
ただ、その名詞に付いている形容詞を除いては…

そこには、マジックペンで可愛らしく
『ちーちゃん特製キノコ』
と、書かれているだけで…。


報復に限界はありません。

そして、輪廻は続く…。
永遠と思われる時の中を…。