彼女の住んでいたのは、白い部屋。 白い床。 白い天井。 白いベット。 白いキャスター付きのテーブル。 部屋の奥にあるドアの向こう側には、ユニットバスがあった。 まるで病室。 頭が痛かった。 日に日に酷くなっていく。 毎日薬を飲んだ。 吐き気がして意識が朦朧としていた。 薬を飲んだ。 どんどん悪くなっていった。 薬を飲んだ。 誰か助けて。 私はここにいる。 私はここにいる。 『ラストLメモ』 バレンタインデー。 女の子が男の子にチョコレートと一緒に自分の想いを打ち明ける日。 そして、女の子がほんのちょっぴり勇気を出す日。 気まぐれなキューピットを味方につけて… 一番光り輝く日。 『ねぇ、夢と希望の違いって何?』 『夢か現か幻か〜LONG LONG GOOD−BYE〜』 PROLOGUE:from DREAM to PRECENT 〜前奏:夢見る現実〜 ここLeaf学園ではバレンタインデーを目前にして男の子も女の子もどこかそわそわして落ち着かない雰囲気を持っていた。 「綾香!! ぎぶみーちょっこれーとっ!!」 「麗しの君よ!! この俺にチョコより熱い拳――ぶほっ!!」 「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」 「雅史せんぱ〜い☆」 「耕一さぁぁぁぁぁんっ!!」 まあ、例年どおりの騒がしさである。 もちろん、ここ科学部でも…。 「れぇぇぇぇぇぇぇぇつっ!!」 「さくりふわぁぁぁぁぁぁぁいすっ!!」 「「「待てやぁぁぁぁぁあああぁぁっ!!!」」」 …前言撤回。 いつもとほとんど変わらないでいた。 なぜかカメラ目線でポーズを取る四季とEDGEに対して床にめり込んでいる電柱にワイヤーで縛られているゆき、空、ジン=シャザムが絶叫する。 「えー、本日はバレンタインデーも近いということで我が科学部の女の子達もチョコレートを作ろうと思います。」 「人の話を聞けぇぇぇっ!!」 完全に漢達の訴えを無視して、なぜかカメラ目線で語るEDGE。 「では、本日チョコ作りの先生を紹介しましょう! たける先生と電芹先生だよ〜ん★」 「頼むから聞いてくれぇぇぇぇぇっ!!」 言うだけ無駄である。大体、事の発端はジン君君である。 「こんな事なら募集するんじゃなかった…しくしくしく」 後悔あとに立たず。 「「うぃ〜むっしゅっ!」」 何処からともなく流れてくる優雅なBGM。 その音楽に合わせながらたけるをエスコートする電芹。 二人ともコックの格好をしている。 「二人ともすごく似合ってるじゃない」 「絵になるね〜! たけるちゃんに電芹ちゃん☆」 「えへへ。なんか照れるね電芹」 「けれど、たけるさんその衣装とっても似合いますよ」 「ええ?(照れ照れ)電芹だって似合うよ」 二人の賛美にテレながら、喜ぶ二人。 「…おい。盛り上がっているのに申し訳ないが、なぜ俺達はこんな目に合わされているのだ?」 すでに人生を悟ったというか諦めた瞳をしたジンが問い掛ける。 「これから、貴方達にはチョコの試食をしてもらうのよ」 あくまで笑顔を崩さないで答えるEDGE。 「別に、こんなことをしなくても試食ぐらいねぇ…」 「ええ」 ゆきと空がお互いに意見する。 ちなみに彼らにとってこういうことは日常茶飯事でありえらく冷静である。 習慣ってこわいね(はあと) 「「余計なお世話です!!」」 「では〜☆ ジンちゃん達の許可を得たことですし、本日のチョコ作りの行程で〜すっ!!」 そう言いながら四季は、軽々と40インチはある大型テレビをジン達の目の前に置く。 「ん? なんで俺達の方にモニターを向けるんだ?」 「あ! いいのいいの☆ 私達が見ても意味ないから〜☆」 四季の意味不明な言動に首をかしげる3人。 「では、ここに取り出したるビデオ。しかし、このビデオただのビデオじゃありません…」 そういってEDGEはテープをデッキに挿入した。自動的にスイッチがオンになる。チャンネルを合わせてプレイボタンを押す。 雑音とともに画像は乱れ、一呼吸おいて墨を流したような映像が目に飛び込んでくる。 「ま、まさか…」 「これは…!!」 「あの…ウィルス付きびでおぉぉおおぉぉっ!!?!!」 元ネタちょっと遅いけど、とにかく彼らに旋律が走る。 緊張の一瞬。 そして、彼らが見たものは… たらったたら、たらったたら、たっらたったたら う〜!!(テーマソングです) たらったたら、たらったたら、たっらたったたら う〜!!(くどいようですが、テーマソングなのです) 『ちーちゃんのお料理がんばるぞ〜(はあと)』 …もっと、恐ろしいものだった。 そこに映っていたのは、白いレースのふりふり(死語?)エプロンをつけた柏木千鶴と鎖で縛られ恐怖で蒼白になっている柏木耕一であった。 「「「いやだぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁっ!!」」」 絶叫する3人。 この世で何が怖いかというと、幽霊や呪いよりもっと身近な鬼が怖い。 しかし、泣き叫ぼうがどうしても視線はモニターに向けているし、聞きたくもないのに聞いてしまう。 ある意味、呪い以上の威力である。 『ここで柏木家秘伝のたれを――』 「いやだぁぁぁぁぁぁっ!!!」 ジン君、やけに過剰な反応。過去に何があった? 『ここで、庭にあったキノコをチョイチョイと――』 「いやだいやだいやだいやだぁぁぁぁぁあぁぁぁあああぁぁっ!!!」 錯乱モード。 『ここで隠し味の特製――』 「クオオォォォオオオォォォオオオォオォォッ!!!」 なるな、鬼に…。 まあ、そんなこんな実にリアクションが面白いジン=シャザムを他所に映像は続くのです。 これが、ただただ20分もの間映されていた。 見せられている3人にとっては永遠とも思われる時間であった。 そして、チョコが出来上がり試食させられた耕一が緑色の物体になったところで画面がいきなり黒くなる。そして、白字が浮かび上がってくる。そこには、 『この映像を見た男の子は一週間以内にこの手順で作ったチョコを食べないと、お仕置きしちゃうぞ(はあと)』 と、丸文字フォントで記されていた。 そして、世界の時が止まった…。 「へへ…。 燃えたぜ…燃え尽きちまったぜ…俺…」 「ああ、初音ちゃん先立つ不幸をゆるしてね…」 「はにゃ〜ん…」 それぞれが現実逃避しているのをみてEDGEは、 「それじゃあ、この天災からみんなを助けよう!」 「「「おーーーっ!!!」」」 「「「立派な人災だろうがぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!」」」 彼らの魂の叫びが世界を救った…。(大嘘) そんなこんなで作りはじめたチョコ作り。 たける、電芹の的確な指導でいたってまともなチョコをメカニックの面子は作っていた。 「あんまり、高熱でチョコを溶かすとココアバターが分解して美味しくなくなっちゃうんだよ」 「へ〜」 「ここは、ホワイトチョコで…」 「ふむふむ…」 ちなみに、男どもはというと…。 『白い雪〜がまぁちに〜…』 「きさまらぁぁああぁぁっ!! 楽しいか!? こんな事して楽しいのかぁぁぁぁっ!!!!」 「ぜったい!! このパターンですか!!!?」 「お決まりすぎますぅぅぅっ!!!」 エルクゥユウヤのプロモーションビデオの観賞をしていました。 『あ〜いらびう〜〜〜〜〜…』 現実逃避。 パトラッシュ…。僕は疲れたよ…。(笑) 「チョッコレート☆ チョッコレート☆ チョコレートはメ○ジ〜☆」 鼻歌交じりで溶かしたチョコを型に流し込む。 形はいまいちだがそれなりに愛情が詰まっていそうなチョコレートみたいだ。 四季はそれにホワイトチョコでそれぞれのチョコに『ダーリン』『ひなたちゃん』『ジンちゃん』と字を入れる。 「よし! できた〜☆」 至極満足そうにチョコを見る。 ハート型のチョコにホワイトで相手の名前を入れたいたってシンプルなものであるが、それが彼女らしいといえば彼女らしい。 しかし、それは突然の訪問であった…。 カラーン…カランカラン… 「?」 いきなりの金属音にたけるは驚いて振り向く。 そこには… 「四季…ちゃん?」 チョコを入れたボールごと床に落としうつろな目をした四季の姿があった。 「大丈夫ですか!?」 電芹が作業を中断して、四季の元に駆けつける。 「………」 電芹の呼びかけにも答えず視線が定ならないでただ宙を見る四季。 「お、おい?」 ジンたちも四季の異変を不審に思う。 「大丈夫ですか? 四季さん?」 そしてゆっくりと頭を向け、言葉を発する。 「…あなタ…誰?」 沈黙が訪れる。 「や…やだなぁ〜 四季さん、そのジョーク人が悪いよ〜」 「あなたモ、ダレ?」 「…え?」 たけるの表情が凍る。 科学部の面子も不審に思いはじめる。 「ここ…ハ…ワタしは誰…?」 「おい、四季…?」 「ワワわワワタたワタわ…たしはシシし…ききき…」 明らかに言動がおかしい。 四季は頭を押さえる。 光が振動する。 鼓動が早くなる。 眩暈。 光。 フラッシュバンク。 光の奔流。 そして、意識が 「イヤァァアアああぁぁぁぁぁアアアぁっ!!!!!」 交錯して…飛ぶ。 そして、彼女は力なく床に倒れた。 すべてはここから始まり、ここで終わり始める。 『君が言う押し付けがましいお願いが希望で、言葉ではうまく説明できないあいまいな理由が…夢だよ』 《続く》