ラストLメモ 2 投稿者:春夏秋雪
 両手で頭を押さえる。
 しろ。

 黒。

 シロ。

 くろ。

 黒。

 閃光が頭の中を駆け巡る。

 摩擦。

 放電。

 衝突。

 反発。

 発生。

 ありとあらゆるものが、目の前に出現し起こる。

「おい、四季…?」

 一瞬のうちにすべての色を見た。

 しろ。

 くろ。

 白。

 黒。

 全身が痙攣する。



「イヤァァアアああぁぁぁぁぁアアアぁっ!!!!!」

 床に倒れる。


 ブツンッ!!



 ツーー。

 ツーー。

 ツーー。

 ツーー……




『ねぇ、現実って何だろう…?』


『ラストLメモ:夢か現か幻か〜LONG LONG GOOD−BYE〜』

  from PRECENT to ILLUSION
  〜現実を真似る虚映〜


 気がついたら私はベットに横たわっていた…。

「…ここ…保健室…?」
 
 四季は気がついた。

 頭が割れそうなほど痛い。

「気がついた…?」

 声が聞こえたほうへ首だけを向ける。

「ゆかりちゃん…」
 
 彼女はゆっくりと頷く。
 
「どうして…ここ――きゃっ!?」

 体を起こそうとした時、不意に肩に圧力を受けベットに埋もれる。

「病人はおとなしく寝とけ…」

「光ちゃ――紫音ちゃん…」
 
 彼は四季の肩から手を離し、腕を組む。

「…なに? ゆかりちゃん達どうしたの?」

 うそだった。
 
 知っているはずだ! どうして? 認めない!?
 
 もう一人の自分が叫ぶ。

「…知っているんでしょう?自分が今どういう状況か…」

 ゆかりはとても冷たい眼で四季を見つめる。

 昔の彼女のあの瞳だ。

 悲しさ、辛さをすべて隠そうと自分を偽っていた昔の彼女の瞳。

 彼女はため息を一つ。

「あなたじゃ、話にならないわ… 春夏君に替わって」

「嫌」

「替わりなさい」

「嫌!」

「替わりなさいよっ!」

「イヤッ!」

「あなた! わがまま言うのもいいかげんにしなさいよっ!」

 ゆかりが大声をあげる。

 さすがに四季も驚く。いままで、こんなゆかりを初めて見た。
 
 二人はみつめあう。
 
 静。

 そして、その沈黙は第三者によって破られた。


 ガララッ!


「おまえら、何もめてるんだよ?」

「…ジンちゃん」

「おう、四季。どうだ調子は?」

 いつもと変わらない調子。

 変わりたくない。

 このままでは変われない。しかし…。

「そうね、彼にも言っておきましょうか?」

 止まることはない。

「…やめて」

 常に動き続ける。

「彼女ね…」

 ゆかりが言葉を発する。


 ヤメテッ!


「このままだと自滅するわよ」

「? どう言うことだ?」

「つまり…。 彼女は死ぬわ…」












 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死

 シシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシシ

 しししししししししししししししししししししししししししししししし


 死。



 ダッ!!
 カシャァァァァァンッ!!

 四季は勢いよくベットから飛び出しそのまま窓を突き破り走り出す。  

「四季っ!?」

 紫音がその後を追う。

 保健室にはゆかりとジンが立っていた。
 
「おい…女優」

「なに?」

「さっきのはどう言う意味だ?」

「そのままの意味をよ。それ以上でもそれ以下でもないわ

 私達強化人間はその潜在能力の引出しの替わりにかなり寿命が短いわ…

 私はそれほど改造されずにいたって普通の人間ぐらいの寿命だし

 紫音はいま光君の体を使っているわ…。

 けど、四季さんだけは変わってない。

 しかも、異常なまで自分の力を酷使してるのよ…

 ただでさえ、プロトタイプで無茶な改造をされているのに

 あれでは、長くはないわ…」

 抑揚のない声で答える。
 
 ジンはそんな彼女を睨み付ける。
 
「じゃあ! 四季のやつこのまま死んでいくのかよ?」

「そうよ」

「貴様は、それでいいのかぁっ!!!!?」

「いいわけないじゃないっ!!!!!」

 彼女はジンに向かって拳をぶつける。

 ただ一発。

 彼の胸に。

 彼女は頭をたれてジンの方に向かい合う。

 彼女の足元には雫が落ちていた。

「おまえ…。 泣いて…いるのか…?」

「あなたに、あなたに何がわかるっていうの!?

 同じ仲間でも何も出来ない私達の気持ちが!?

 ええ! もし、助かる方法があるのなら私はどんなことをしてでも彼女を助けるわっ!! 

 それが… それが彼女に嫌われてしまうことでも…」

 そういって、床に崩れ落ち声を殺して泣いた。

 彼女は、ジンに背中を見せて手で顔を覆い泣いた。

 いくら悲しくても泣き顔を他人には見せない。

 彼女の女優としてのプライドがそうさせていた…。

 そして、そんな彼女を見ながらジンは無造作に頭をかき天井を見つめる。

「…ったく。 シリアスはおれの専門外にしてもらいたいぜ…」

 誰に言うでもなく、彼は独白した…。



 
 頭が痛い。

 また、あの眩暈がする。

 壁にもたれかかる。

「はぁ、はぁ…」

 走らなきゃ、止まってはいけない。

 足が縺れて倒れる。

「大丈夫か!? 四季!!」

 何時の間にか紫音ちゃんが私を抱える。

 やさしいね…。紫音ちゃん。

 けど、その優しさは…。

「さぁ、戻ろう」

 ……残酷過ぎるよ。

 私は、彼から離れる。

「ダメ…。 帰らない」

 立ってるだけで、話すだけで気が狂いそうなほど辛い。

「四季っ!?」

 ごめんね…。紫音ちゃん。

 私は彼に向かって右手を掲げる。

 「プログラム……疾風…どど…ぅ」

 かまいたちが彼を襲う。

「くっ!」
 
 彼にこんなものは通用しないけど少なくとも足止めはできる。

 私は、跳躍した。

「しきぃぃぃっ!!!!」

 彼の叫びが聞こえた。

 ごめんね紫音ちゃん。

 そして、さようなら。



 一体、何処をどう来たのかわからないけど私は、とある部室に逃げ込んでいた。

「ここ…工作…部?」

 そんなことはもうどうでもいいと思った。

 私はこのまま、死ぬんだし…。

 前から知っていたよ。

 もう、私の体がだめだって事ぐらい。

 だから、ひなたちゃんをデートに誘った。

 そして、嫌われようとした。
 
 私のことよりほかの子がきっと大切だと思ったから。

 ジンちゃんと部活でいろいろ遊んだ。

 私のことを覚えていてほしかった。

 ダーリンと…。

 浩之君といろいろなことをした。

 彼のおかげで今の私がある。

 彼には、ちゃんとお礼がしたかった。

 右手が痛む。

 さっきの技で体がもたなかった。

 右手が砕けている。

 感覚ももうない。

 やっぱり死ぬんだ。

 もう、眠りたい…。

「あんた、なにやってるんですか!!」

 誰かが呼んだ。

 誰?

「大丈夫!? 生きてるわよね!?」

 ああ…。 分かった。

「生きてるんなら返事しなさいよ!!」

「…うるさいわね。 あんたがうるさいから死のうにも死ねないわよ…」

 赤十字…美加香。

「それだけ、減らず口がたたければ十分よ! さ! いきましょう!!」

 そういって肩を貸し私を起こす。

「どうする…つもりよ…」

「話は全部聞いたわよ! まったく無茶ばっかりして!!」

 一歩一歩と少しずつ歩く。

「関係な……いでしょ…」

 正直、このまま楽になりたい。

「大ありね…。 あんたに死なれちゃ、ひなたさんが悲しむのよ。」

 ひなたちゃん。

「あのデート以来、ひなたさん、あんたの事すごく心配して勉強もろくに手がつかなかったんだからね!!」

 バランスを崩す私を美加香ちゃんが支える。

「それは…悪かったわね」

「ともかく、急ぎましょう!!」

 そういって、多少早足になる。

 けど…。

「わたしはもうだめよ…。助からないわ…」

 自分の体のことは自分が知っているもの。
 
 猫や犬だって、自分が死ぬときには主人の元を離れるって言うじゃない。

 それと同じ、私もみんなの元を離れるの…。

「それがもし助かるとしたらどうする?」

 また、違う声が聞こえた。

 私はこの声の主を覚えていた。

 そう、彼は、彼の名は――



「お久しぶりです… ドクター緒方…」

 《続く》
 
 
『それを認めたときそれは過去であり、それ以外は知らないことつまり未来だよ。
 現実はそれを認めた瞬間現実ではなくなる瞬間の虚像さ』