Lメモ「The end of 神牙獅斬」  投稿者:ハイドラント



「お前が……瑠璃子を、連れて行くのか……?」
「返せよ……。瑠璃子は、僕のものなんだ……!」

                             ――月島拓也








 この、世界は。
 二つの世界の狭間に生まれた。




「新たな世界を、築こうと言うのですか」
「はい」
 ”女神”の問いに、Runeは頷いた。
「何のために?」
 女神は重ねて問う。
 Runeは、暫し沈黙した。
 自分の中に、その問いに対する答えが無かった訳ではない。
 それを告げても、女神に理解してもらえるという自信が無かったのだ。
 より適当な答えを求め、逡巡する。
「何のために?」
 だが、女神は彼の真実の言葉のみにしか耳を傾けぬであろう事は、その声の
響きで知れた。
 仕方なく、Runeは告げる。
「面白い……からです」
「面白い?」
「はい。……そう、思います」
 今度は女神が沈黙した。
 理解されているかは分からないが、少なくとも拒絶はされていないらしい。
 そう見て取ったRuneは、更に続けた。
「二つの世界の狭間に新しい世界を作り、そこに双方の者を招き入れる。
 きっと、面白い歴史が……『物語』が生まれるでしょう。
 そうは、思いませんか?」
「……お前達は、どう思いますか?」
 女神は、Runeにではなく、問い掛けた。
 六つの姿が、女神の傍らに現れる。
 ――女神の僕たる、六人の使徒。
「良き提案と思います」
 ”銀の顎”が最初に口を開いた。
「自由に満ちた、楽しき世界が生まれましょう」
「そうじゃな。妾もその世界は見てみたい。少なくとも退屈はせんじゃろう」
 ”白き双翼”も、興じた様子で頷いた。
 その横で、銀の顎にちらりと視線を走らせた後、”蒼き心臓”も頷く。
「僕も異存はありません」
「…………」
 三人までが賛意を示す中、”黒き爪”は瞑目し、何も言おうとしなかった。
 ”黄金の瞳”も沈黙していたが、蒼き心臓が頷いたのを見て、口を開こうと
した。
 が、”紅き牙”の表情を見て、再び口を閉ざす。
「俺は反対だ」
 紅き牙は、その瞳に激しい怒りを浮かべていた。
「そのような行為は、我らが世界を汚す事にしかならぬ」
「……そんな事は」
 反駁しようとしたRuneを、紅き牙は睨みすえた。
「貴様……面白い、と言ったな」
「はい」
「確かに貴様らは面白いだろうとも。これまで、ただ見ているしかなかった、
我らが世界の者達を好きに出来るとなればな」
「……」
「だが、貴様らは良くとも、我らはどうなる?」
「……とは?」
 僅かに困惑した様子で反問するRuneに、紅き牙は女神を指し示して見せ
た。
「我らが世界を造られた母は、果たして楽しく思われるかと聞いているのだ。
 その新たな世界とやらを見て」
「……それは……実際に世界を造って見て頂かなくては、分かりませんが」
「造らずとも分かるわ!!!」
「っ!」
 一喝され、Runeは息を呑む。
 紅き牙は侮蔑と憎悪を隠そうともせず、言い放った。
「分かるとも。
 新たな歴史を、物語を作ると称し、我らが世界の者達を所有物の如く扱い、
自己満足に浸る……そんな貴様らの姿が、俺には目に見えるようだ。
 やがて、それだけでは飽き足らず、貴様ら同士で我らが世界の者を取り合い、
醜い争いを起こしたりもするのだろうな。
 何が新たな世界か。貴様らの欲望のはけ口の間違いであろう!」
「……」
「我らが世界は完成されている。
 美しい世界だ。
 それをわざわざ汚す為に、開く扉などは持ち合わせておらぬ」
「…………」
 Runeは、奥歯を噛み締めた。
 反論の言葉が幾つも脳裏に浮かぶ。
 だが、妥協の余地を感じさせぬ紅き牙に対し、Runeが口にするべきはそ
の中のただ一つだけだった。
「完成されている……それはその通りだろうとも。
 だが、それは……」
「…?」
「変化が無いという事だ」
「……なに?」
 紅き牙が片眉を吊り上げる。
 Runeは叫んだ。
「変化が無いんだよ、お前らの世界は!
 余りに狭すぎる……果てが近すぎる。自分達は、もっと色々なものを見たい
のに。望んでいるのに。
 だから思ったんだよ……自分らの手で、お前らの世界に変化をくれてやろう
ってな!」
「……っ!」
 一瞬、紅き牙は気圧されたように表情を歪ませた。
 だがすぐに、前にも増す勢いで口を開こうとする。
「ふざけるな! 変化だと? そんなものはいらぬ!
 我らが世界は美しく完成されている――それだけで良いのだ!
 貴様の言う変化とやらが、我らが世界をより美しく出来る訳でもあるまいに!」
「――可能性はある」
「!」
 そう言ったのは、Runeではなかった。
 蒼き心臓、である。
「二つの世界を重ねて新しい世界を作り、それを丁寧に育ててゆけば……二つ
の世界を合わせた程に優れた世界が出来るかもしれない。
 ……僕は、そう思う」
「馬鹿な!」
 紅き牙の声は、もはや絶叫に近かった。
「そのように都合良く事が運ぶものか。醜い混沌の世界となるに決まっている!
 ……お前達は、そう思わぬか!?」
 最後の言葉は、他の四人に向けられたものだった。
 誰も、答えるものはいない。
 銀の顎と白き双翼は、紅き牙が何と言おうと、既に定まった意志を変えるつ
もりはないようだった。
 黒き爪は、目を閉ざしたままだ。
 黄金の瞳は、蒼き心臓と紅き牙の間で、ただ困惑している。
「……母!」
 紅き牙は、縋るような眼で女神を見た。
 他の者達も、それに倣うように女神に目を向ける。
 ……女神が口を開いたのは、長い静寂の後だった。
「Rune」
「はい」
「新しい世界を美しいものにすると、約束出来ますか?」
 Runeは、すぐには答えなかった。
 嘘はつけない。が、出来ないと答えれば女神の意志は拒絶に定まろう。
 迷った末、Runeはこう答えた。
「それは出来ません。
 ですが、そうするよう努力する事は、約束します」
「……」
 再び沈黙が落ちる。
 だがそれは、長いものではなかった。
「……分かりました」
「え?」
「新たな世界を造りましょう。
 二つの世界の、狭間に……」
「……有り難うございます」
 Runeは、深々と頭を下げた。
 紅き牙が声にならない唸りを上げる……女神の意志に対し、異を唱える事は
許されない。
 だが、女神は続けて言った。
「但し、私達も参ります」
「は?」
「貴方達だけに、新世界の構築を委ねはしません。
 私達も干渉します。
 構いませんね?」
「それは……はい。貴方達さえ良いのならば」
 女神は、六人の使徒を見た。
 そして、一人ずつ、命を与えていく。
「黄金の瞳。――お前には”完全たる秩序”を」
「はい」
「銀の顎。――お前には”自由なる混沌”を」
「応!」
「黒き爪。――お前には”安らかなる死”を」
「はっ」
「白き双翼。――お前には”望まれぬ生命”を」
「承知」
「蒼き心臓。――お前には”迷える創造”を」
「はい!」
「紅き牙。――お前には”正しき破滅”を」
「……はい」
「お前達六人は、必要とされた時に、課された役目を果たしなさい。
 私も、ひとつの存在に宿り、新しい世界に降り立ちます。そして、その世界
がどのような物語を紡いでいくのか、見守る事にしましょう。
 ……願わくば……」


《秩序ある世界を》                   《自由な世界を》

  《優れた存在を》                《楽しき存在を》

    《より高みへと……》        《…壊してやる……》




         「素晴らしき物語が紡がれん事を……」








 ……そして。
 世界は――




「この戦いで初めて……我々リーフキャラと……SS使いが協力した。これが
……新たなLeaf学園の歴史を作る事になるだろう……」

                  ――第一次SGY大戦直後、月島拓也




                               完

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 えー、まず。
 この物語はフィクションです(笑)。実在の人物、氏名、団体とは(以下略)

 本当は書かないつもりだったんだけどねえ。
 挑戦されたら受けざるを得ないと思う程度には、プライドが残ってたのか(笑)

 まー、そういう訳で。
 俺がもう一度神牙Lを書けば、こーなるよ。>ひなたん
 君がどう受け止めるかは分からんが。
 ……はてさて。