テニス応援Lメモ「たぶん温泉のために(笑)」 投稿者:霜月 祐依

 暗躍生徒会主催のテニス大会も半ばにさしかかり、いよいよもって盛り上がりを見
せていた。有力選手が次々と敗退するなど波乱も巻き起こっている中、菅生誠治・柏
木梓のペアは勝ち残っていた。

タタタッ

「せぃっ!」

スパーン

「なんのっ!!」

 テニス大会に参加した事、そして優勝してみんなで温泉旅行に行くことの更なる思
いで作りを実現する為、誠治と梓は互いに忙しい合間を縫って練習に余念がなかった。
なにせ、次の相手は柏木千鶴×ジン・ジャザムの優勝候補コンビ。下馬評では圧倒的
不利とさえされていた。そしてそれは本人たちが一番解っている。それでも・・・・
という思いが彼らを練習へと駆り立てているのである。

「誠治、そこガラ空き!」
 梓の強烈なボレーがコートの隅を的確に捉える。
「やっぱ、すごいな梓は。ちょっと油断するとすぐ狙われる」
 誠治がボールを拾いに行きながら答える。一時間ほど前から一対一での実践形式の
練習をしていたこともあって、誠治も少々バテ気味で答える。
「隙を見せたら全力で狙ってくるからね。ジンと千鶴姉さんは」
「まぁな、もう1セットいこうか」

 コートをチェンジして再び構える誠治と梓。そこへ霜月祐依と長谷部彩が現れた。
「おお、やってるやってる☆」
「梓さんに誠治さん、お疲れさまです」
 突然の来訪者に驚いた誠治と梓であったが、霜月と彩の格好を見てもう一度驚いた。
「二人とも、なんでテニスウェア着てるの?」
「あー、テニス大会はダブルスだってのに、チマチマとラリーばっかしてるのは哀れ
なんでな」
「私たちにも何かお手伝い出来ることはないかと思って」
 ソッポ向きながら答える霜月とあくまで献身的な態度をとる彩。実に対照的な二人
であったが、誠治と梓は少し嬉しくなった。
「あ〜、いたいた」
「・・・・・・」
 そこへ芹香、FENNEK、橋本といった3年生軍団も次々に現れた。
「誠治さん、実践形式でやるんでしょ? 審判やりますよ」
 FENNEKがそう言いながら審判席へ向かう。たった二人きりでの練習で神経が
張りつめていた二人であったが、一気に活気あふれるいつもの授業風景と同じ雰囲気
が伝わり、緊張の糸がほぐれた。
「じゃ、誠治×梓組 VS 祐依×彩組練習マッチはじめ!」



 誠治×梓と霜月×彩の試合は程良く無難な試合展開を見せていた。元々自力がある
梓と、パワーアシストグローブを使用している誠治がやや押し気味に進めているが、
負けじと霜月と彩も食らいついていく。
「思ったより地味だな・・・」
 フェンスにもたれながら橋本がつぶやく。
「・・・・・・」
「え? 霜月の奴が彩さんに会わせてるみたいだって? ・・・にしちゃぁ、そつな
くっていうか、丁寧というか」
 霜月と彩のプレイスタイルは、前衛の彩が精霊を通じて相手側の動き・狙いなどを
読みとる。それを後衛の霜月に簡単なサインで伝えていたのだ。霜月が彩の指揮下で
動いているのでコンビプレイの乱れこそないものの、どうしてもタイムロスが生じて
しまうので返すのが精一杯で威力は二の次というショットもあった。
「でも、よく霜月が大人しく彩さんの指示に従ってるよな」
 チョィ、チョィ
「?」
 まだ合点がいかない橋本を見た東雲忍は霜月の視線の先を追うように指を出した。
その先には風に揺れる純白のスコートがきらめいている。
「あんにゃろ、こらぁ霜月! 俺と代われ!! 羨ましいじゃないか!!!」
(いっしょじゃん)
 と突っ込みたかったが、あえて口に出さない忍であった。

「ゲーム! 誠治×梓組 5−3!」

「やっべー、あと1ゲームじゃん」
「ほらほら、覚悟はいいか?」
 毒づきながら、どこか楽しそうな霜月。完全にリラックスして軽口を叩く誠治。対
戦相手がジン×千鶴が決まった頃のような悲壮感。緊張の糸が切れたら全てが終わっ
てしまうようなプレッシャーを感じることはなかった。

「ゲーム!  アンド、マッチ・ウォン・バイ、誠治×梓組!  ゲームポイント、6−3!」

 勝負が決まった瞬間小さくガッツポーズをして互いに握手をする誠治と梓。練習と
はいえテニスを楽しむ二人の姿があった。一方、霜月と彩はというと・・・
「霜月さん、そうそろそろ到着するそうです」
「わかるの?」
「精霊さんが教えてくれました」
 となにやら密談をしていた。

「まだ時間あるけどどうする?」
「じゃぁ、俺達が相手になるよ。芹香さん、準備しよう!」
「・・・・・・」

グィッ

スパコーン!!

 FENNEKの声に橋本が芹香の腕を引いて立ち上がらせようとした瞬間であった。
コート外より飛んできたテニスボールが突如橋本の頭を直撃したのである。
「あぃたたた、誰だ!!」
 橋本は頭をさすりながら周囲を見回すと、観客席の一番上でラケットを携えてそび
え立つ大庭詠美の姿があった。
「こらこらこらぁ!! あたし抜きで盛り上がろうなんてゼッッッ対に許さないんだ
から」
「てめぇ、詠美なにしてくれんだぁ!」
 橋本がコート内に降りてきた詠美に掴みかかる。見れば詠美もテニスウェア姿であ
った。
「あぁ、言い忘れてた。今回の言い出しっぺは詠美なんだ」
「詠美が?」
 聞き返す梓。
「詠美がおまえらを特訓につき合おうと言い出してな」
「で、どうして詠美じゃなくって彩と一緒だったの?」
「この前の世界史のテストで赤点取ったあげくに、今日の授業で宿題忘れたの誰だっ
たっけ?」

 ズゴン!!

 詠美の顔を見ながらにやついた顔で話す霜月に脳天に、今度はラケットがたたき込
まれる。
「居残りはちゃんと片づけて来たから文句ないでしょ!」
「詠美さんが来るまでの間って事で霜月さんにお願いされたんです」

「ほぅ、本当にそれだけか?」
 ギクッ
 いつの間にか霜月の背後に立った橋本が腹の底から絞り出すような声で問いかける。
「彩さんのスコートを見て鼻の下が伸びきっていた事実を身に覚えがないとは言わさ
せん!!」
「失敬な! ちゃんと梓のダイナマイツボインもチェックしてたぞ!!」
 開き直った霜月の発言に、一気に白ける周りの面々。

「・・・コホン、とにかく俺と詠美のペアでもう一試合いくからな」
 そういいながらパワーアシストグローブを装着する霜月。詠美は既に装着を済ませ
準備体操を行っている。
「じゃ、今度は僕が審判をやるよ」
 忍が審判席に向かい、互いのペアがコートに付いて試合が始まった。

「誠治×梓組 VS 祐依×詠美組練習マッチはじめ!」

「いくぞ」
 誠治のサーブから始まったこの試合、すぐさま霜月がそれを返す。
「そらっ!」

 スパーン

「15−0!」

 梓のリターンが霜月と詠美の間を突き抜ける。

「30−0!」

「40−0!」

「ゲーム!  誠治×梓組、1−0!」

「・・・どーすんのよっ、祐依がだらしないから手も足も出なかったじゃない!!」
「あのなぁ、さっきまるまる一試合やった人間に言うセリフか? ちっとは気を使え」

「おいおい、まだ1ゲームしか終わってないのに早速喧嘩してるぞ」
 自コート中央で口論を始めた霜月と詠美を見て、呆れる橋本他ギャラリー一同。
「・・・・・・」
「え? いい方法が有りますって・・・ふむふむ」
 芹香のつぶやきに耳を傾けるFENNEK。
「おぁ〜ぃ、勝った方に芹香さんと彩さんがご馳走してくれるってよ!」

「「「「芹香さんと彩さんの手料理!?」」」」

 FENNEKの言葉に過敏に反応した四人。その傍らで呆れ顔でため息をつく梓。
ん? ということは・・・?
「お前は違うだろ」 ゴスッ
 橋本がFENNEKにこつかれていた。

「じゃぁ、本気を出さないとなぁ」
「そうね、詠美ちゃんの実力で瞬殺しちゃうんだから」

「・・・・・・」
「効果覿面ですねって・・・どうして詠美さんまで」
 してやったりという雰囲気の芹香をよそに、予想外の親友の行動に呆れる彩であっ
た。

「せいっ」

 詠美が小柄な身体を精一杯使ってのサーブが梓の脇を駆け抜ける。
「甘いっ」
 素早くフォローに回った誠治が強烈なリターンを返す。それを、前に詰めた霜月が
的確に返す。ご褒美が聞いているのか、第一ゲームとは打って変わって見応えのある
ラリーが続くようになった。その為、霜月達がくる前から練習を含め、ずっと身体を
動かしてきた誠治と梓にとって、疲労が急激に表面化してきた。前衛に詰めた誠治が
後ろに下がるのがワンテンポ遅れてしまったのである。

 スパァァァン

 その僅かな空白を詠美が渾身のボレーをたたき込む。

「ゲーム!  祐依×詠美組、1−1!」

「うしっ、まず同点」
(年は関係ないけど、体力が・・・少し辛いかな? でも・・・、まだやれる!)
 同点に追いつき勢いづく霜月を目に、誠治は自分自身により一層の気合いを込めた。

 再び、長いラリーが続く。現在コート内で戦う四人の内、ゲームを始めたばかりの
詠美はともかく、エルクゥでスポーツ万能の梓と警備保障に属し、仕事柄実戦で鍛え
ている霜月と比較すると、誠治は体力の面で確実に一歩劣っていた。だが、自分には
この頭脳がある。経験と勘。計算と確率。相手の動きを読んで最小限の動きで最大の
効果をもたらすことが出来る。そして、今度も

「うりゃぁ!」

 気合一閃、霜月が力一杯振り抜く体制を取る。誠治は、梓が打ったボレー、霜月の
体制、インパクト時のラケットの接地点を予測し、自分の予測した地点に移動する。
そして霜月が打ったリターンは、誠治の動いた位置とは『逆』の場所を駆け抜けた。

「なっ、、、なんでだっ!! 梓の打ったボレーの速度、霜月のラケットに対する進
入角から考えて、どうしてそっちに行く!!」
 自分の頭脳を、というより物理法則を無視した一打に激高する誠治。

「ああ、このラケット? これ神通棍仕込んでるから」
 ラケットを手で弄びながら説明を始める霜月。
「この神通”ラケット”なら霊力をラケットにそそぎ込めるから、インパクトの瞬間
に別方向へはじき返すぐらい可能だよ。あと威力も倍加するし。さすがに、変化する
ような魔球を打つまではいかないけど」

 この一打をきっかけに流れは大きく霜月×詠美ペアに傾いていった。

「ゲーム!  祐依×詠美組、4−1!」

「なんか、一気に流れが霜月たちの方に傾いたね」
 FENNEKが言うように、霜月×詠美組は立て続けにポイントをものにしていた。
「霜月に詠美、二人の共通点って何だと思う?」
「スケベ・・・じゃなくって、横暴・・・でもなくって、お調子者?」
「そのお調子者同士が調子に乗ったらどうなると思う?」
「・・・手がつけられなくなるって事ですね」
 橋本が指摘した内容の通り、確かにこの二人は調子に乗っていた。詠美がコート内
を縦横無尽に駆け回り相手コートに散らすようにリターンを返して、誠治と梓のフォ
ーメーションを崩しにかかる。フォーメーションを崩されたところに霜月の必殺ショ
ットがたたき込まれる。自分たちの決め技が成功したこと、ポイントで差を付けたこ
とによって心理的優位に立っていた。その為、前半では全くなかったロブやフェイン
トまでも効果的に決まっていた。

「ほらほら梓、マッチポイント決めちゃうよ」
「俺達に勝てなくてジンと千鶴さんに勝てると思うなよ〜」

 更に調子に乗った二人が誠治と梓に挑発をしはじめた。誠治は挑発には乗らないと
言った表情で涼しい顔をしているが、梓はこの挑発を聞き流せるような理性を持って
なかった。
「ほらっ、梓のサーブだぞ」
「・・・・・・」
 誠治が投げたテニスボールを無言で受け取る梓。その鬼気迫る雰囲気に気がついた
のはすぐ側にいた誠治だけだった。

 ポーン、ポーン、ポーン

    ――ったく、詠美も霜月も黙って聞いてれば調子に乗って

 梓がボールを高くあげ、ラケットを振りかぶる。

    ――ふっ、、、ざけるなっ!!!

 インパクトの瞬間、エルクゥの力を一気に解放した梓の足下が陥没する。

 ズゴォォォォォォォンンンン!! 

 霜月と詠美の五感が感知できたのはそのすさまじいまでの衝撃音だけ。コートの
中央には、ボールが触れたと思われる場所に黒い焦げ後が残るだけ。ボールがどこ
に行ったかは解らなかった。

「「あんなの取れるか・・・」」

 一気に青ざめた霜月と詠美の声がハモる。梓の渾身のサーブは二人のお調子者を
萎縮させるには十分すぎるほどの効果があった。

そして、試合の流れは逆転する。

「ゲーム!  アンド、マッチ・ウォン・バイ、誠治×梓組!  ゲームポイント、7−5!」

「ハァハァ、ザマミロ」
 誠治が霜月に向かって、指を立てる。
「これで、芹香さんと彩の手料理は俺のもんだ」
「しまったぁ。くっ、、、詠美への一日下僕権を賭けてもう一勝負!」
「するかぁっ、大体お前は毎日下僕だろうがっ」
「あ〜もぅ、ホラホラ」
 霜月と誠治の会話に梓が割り込む。
「折角みんな集まってくれたんだから、私の家で前祝いという事でみんなで食べまし
ょ。忍も手伝ってくれるでしょ?」
 突然話を振られた忍が自分? という事で問いただす。しかし、すぐに手で輪を作
ってOKの意志を示す。脇では橋本が万歳三唱をしていたりもする。
「試合に向けて頑張るぞー」
 詠美は選手じゃないのに、自分一人気合いを入れていた。だが、その場にいた全員
が同じ気持ちであった。

「・・・・・・」
(星空へどうか私たちの願いが叶いますように・・・)
星が煌めきだした夕闇の下、誠治と梓の、いや、皆の願いが叶いますようにと芹香は
祈った。

                                   Fin.

−−−おまけ−−−
「なぁなぁ、梓」
「どしたの霜月」
「鶴来屋って、混浴風呂ある?」

 バキィッッッッ

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つーことで、テニス応援Lメモです。

どっかで見たタイトルだなと思われた方正解です。
そして、昴河さんごめんなさい。当初は別のタイトルでしたが、このタイトルが
思いついた瞬間に「これだー!!」って(笑)

選手として参加できないから、とりあえず特訓相手として自分の好き放題やってます。
応援Lの癖に自分がエエかっこしてるのはそのせいです。

とりあえず、誠治×梓組 勝ち目薄いけどがんばれー(爆)

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