私的Lメモ「友達以上…」 投稿者:霜月祐依

「…♪」
 鼻歌交じりに商店街を歩く広瀬ゆかり。
 週に一度の日曜日が完全オフなんて組み合わせは、多忙を極める彼女にとっては
滅多にない一日。雲一つない青空の下を彼女はウィンドウショッピングを楽しんで
いた。
「あ、このジャケットって雑誌に出てたのだ」
 ブティックのショウウィンドウにディスプレイされている服に目が止まった瞬間、
脇に飾ってあった大鏡越しに意外な人物を見つけてしまった。
「あれって…、夏樹じゃない」
 気心が知れた親友を偶然見かけたゆかりは夏樹を呼ぼうと片手を挙げた。
 が、声を掛けることは出来なかった。隣に意外な人物が連れ添っていたからである。
「YOSSY!?」

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             私的Lメモ「友達以上…」
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 意外な組み合わせといえば意外であった。確かにYOSSYFLAMEは風紀委員会によく
遊びに来るし、何かと問題を起こすので夏樹とも面識はあり、会話もする。だが、
スケベ四天王『ナンパのYOSSYFLAME』と異名を取る彼である。
 夏樹は普段から好みの人物は『誠実な人』と言っていただけに、ゆかりにとって
はありえない組合せなのだ。
「そういえば…」
 ゆかりは数日前の夏樹との昼食風景を思い出していた。夏樹が妙なことを口走って
いたあの日を…。



「ねぇ、ゆかり…」
「ん、どうしたの?」
 風紀委員会の居室でお互いの弁当を広げるゆかりと夏樹。いつもの光景だ。牛乳を
ストローで吸いながらゆかりがは耳を傾ける。。
「初めてのときって、どれぐらい痛いのかなぁ」
「初めてって何の?」

「だから、初エッチ」

「ブッ! ゴホッ、ゴホッ いきなり何を言い出すのよアンタは!!」
 思わず飲みかけの牛乳を気管に詰まらせてしまい、咳き込みながら抗議するゆかり。
だが、当の夏樹本人はきょとんとした様子で
「え? だって、ゆかりの時はどうだったかなぁ…と思って」
「私のときは…って、人それぞれよ、人それぞれ」
 夏樹と目を合わさないように言葉を濁すゆかり。もし、この場に志保がいようもん
なら真っ赤になったゆかりを徹底的に追求するはずだ。
「ふぅん」
 納得したのかは知らないが、夏樹がこの話題を続けることは無かった。



「で、今日は二人でデートってことかしら?」
 何時の間にか物陰に隠れて二人の跡をつけ始めたゆかり。
 一方、YOSSYFLAMEと夏樹は仲睦まじいとは言えないものの、適度に話も弾んでいる
様子であった。
「でも、どこへ行くのかしら…」
 二人の行き先を追跡するつもりでいたゆかりであったが、今回は自分の立場が災い
した。目ざといファンに自分の存在を見つけられてしまったのである。ファンを適当
にあしらったゆかりであったが、ついに二人を見失ってしまった。



 バサッ
 部屋に戻るや否やベットに倒れこむゆかり。
 あれから数日、ゆかりは夏樹に休日の出来事を聞き出せずにいた。
「夏樹にも春が来たのかな…」
 普通の人なら冗談めかして聞けばいいものを、ゆかりはこういった話題を自分から
切り出すのを苦手としていた。どこをどう考えたらそうなるのかはわからないが、
ゆかりの中では猥談につながってしまうのである。
 もしかすると先日レミィが言った何気ない一言
「ユカリはStadyなFrendっているの?」
 とか、XY-MENに
「お前、YOSSYが楓ちゃんにナンパしてたんだぞ、鎖につないでおけよ」
 なんて自分の範疇外で、しかもその後の結果が容易に想像できるにも関わらず苦言を
言われたり。
 松原美也に至っては
「橋本先輩を誘惑するのに使うので、過激な服貸していただけません?」
 と、勝手に芸能界のコネを頼られた所為かもしれない。

「なんで、あいつと夏樹なのよ…」
 寝そべったまま、左手を広げて眼前にかざし深くため息をつく。
 『色恋沙汰=スキャンダル』になりかねない立場のゆかりにとって、自身の事は
意図的に避けてはいたが、自分の彼氏になる可能性のある男性は?
 芸能界での男友達はルックスには問題無くても、芸能人であることを自慢したがる
奴が多いので対象外。自分に熱心にファンレターをくれるファンはもってのほか。
 かといって、学園内の一般生徒は風紀委員長の肩書きが災いしてあまり話し掛けて
くる者がいない。
 となると、自分を一人の女の子としてみてくれる人物といえば、XY−MENに
とーる。そして…YOSSYFLAME。

「おーぃ、広瀬」
(やだ、なんであいつの声が頭に浮かぶの?)
 自分の思考をあわてて否定しようとするゆかり。だが、左手の隙間からぼんやりと
浮かぶのは、よく知っている彼の顔。
(なんで、あいつの姿が目に浮かぶのよ。…って姿!?)
 違和感に気がついてあわてて身を起こすゆかり。そこには飛び起きた彼女に驚いた
格好のYOSSYFLAMEがいた。

「ちょ、ちょっとなんでYOSSYがここにいるのよ!」
「夜這い」
 さらっと返すYOSSYFLAMEの発言に、反射的に枕を構えて警戒するゆかり。
「わー、待った待った。ちょっと手伝いで来て、お前の部屋が電気ついていたから
覗いてみただけだ」
「手伝い?」
「そぅ、あとおまえに言っておきたいこともあるし」
 ゆかりはいつになく真剣なYOSSYFLAMEの表情にドキリとさせられる。
「お前の…」
(まさか、本当に夜這い?)

「芸能人の友達を紹介してくれる話はどうなったんだよ」

 目が点になるゆかり。
「一ヶ月の間、覗きもナンパもしなかったら芸能人の女の子紹介してくれると言った
じゃないか」
「あ〜ぁ、あれね」
 こめかみを押さえながらこたえるゆかり。そう言えば一般女生徒からの訴えがあまり
にも多かったから、冗談半分で持ちかけた気がする。
「でも、雛山さんや松原さんに毎日言い寄っていたじゃない」
「あれがナンパのうちに入るかっ」

「おーぃ、YOSSY。こっちの用事は済んだぞ…ってあら?」
 窓のほうから声がしたかと思えば、そこには霜月の姿があった。
「あ、済みました? 霜月さん」
「手伝ってくれてありがとな」
 なんで、YOSSYFLAMEに続いて霜月の姿まで。ちなみにここは女子寮の最上階である。
「警備保障の人ともあろうお方が、女子寮に不法侵入してよろしいんですか?
霜月先輩」
「あ〜、今日は非番だからね。勤務時間以外は関係ないってことになってるし」
 結構いいかげんな理論である。
「じゃぁ、今日の夜勤はどなたが?」
「え? DガーネットとDセリオだけど…」
 それだけ聞くと、ゆかりはクスリと笑ってYOSSYFLAMEに切り出した。
「さっきの話、考えないこともないわよ。…但し、今日を無事に過ごせたらの話だけ
ど!!」
 言うや否や、携帯用の非常スイッチに手をかけるゆかり。スイッチが押された瞬間、
女子寮全体がサイレンに包まれサーチライトが煌煌と辺りを照らす。
「霜月さんのアホーーー!!」
「もう遅い! とっとと逃げるぞ!!」
 振り返りもせずに窓から脱出するYOSSYFLAMEと霜月。入れ替わるように部屋に飛び
込んできたのはパジャマ姿の夏樹であった。
「ゆかり、大丈夫!?」
「大丈夫、大きい鼠を2匹追い払っただけだから」
「まったく、YOSSY君に霜月先輩だね。まったく…」
 あきれる夏樹。だがゆかりは何故彼らが来たことを知っていたのか気になった。
(まさか、夏樹の所に?)
「ねぇ…」
「ごめんゆかり、ちょっと下の様子見てくる!」
 夏樹に問いただす機会を失ったゆかりは呆然と自室の窓から下の様子を眺める。
夜風に当てられた胸がズキリと痛んだ。



 次の日曜日。

 繁華街へ繰り出す若者の待ち合わせによく使われる駅前の噴水広場。
 そこにじっと立ち、周囲をきょろきょろと見回している女の子の姿があった。
 淡いピンクのロングスカートと同色のベレー帽。そして、丁寧に纏められた黒髪と
縁無しメガネから覗かせる彼女の表情は『待ち人来らず』を如実に表していた。
 そんな彼女に近づく男二人。
「あ、あのっ…」
(なぁ、彼女だよなぁ?)
(特徴と、服装からみて間違えなさそうですけど…)
(でも彼女、なかなかかわいいですよ)
 少女は自分の目の前でひそひそ話しをする男二人にどう対処したらよいか戸惑って
いる様子だった。なにしろ逃げたくとも逃げられない。
(じゃ、とにかく声でも掛けてみる?)
(間違えたら、そのまま仲良くなってしまおう)
 ひそひそ話は終わったのか、男の片割れの方が口を開く。
「お嬢さんこんにちは。さっきから誰を待っているの? ひょっとして俺達?」
 身も蓋も無い言葉にもう片方の木刀を背中に背負った男が天を仰ぐ。
「駄目ですよ霜月さん、そんな切り出し方は。もっとスマートにいかなくちゃ。
お嬢さん、もしよろしかったら僕達とお茶なんていかがです?」
「それも大して変わらないと思うけど、YOSSY…」
 目の前でナンパと思しき漫才を繰り広げるYOSSYFLAMEと霜月に戸惑う少女。だが、
救いの手が突如後方より現れた。
 YOSSYFLAMEと霜月の後方より缶ジュースが彼ら目掛けて投げつけられたのである。
YOSSYFLAMEは素早く反応し片手でキャッチしたが、霜月は後頭部に直撃を受けた。
「霜月さん、それぐらい取りましょうよ」
 後頭部を押さえる霜月を尻目に缶の飛んできた方向を見やる。すると、ゆかりが
ものすごい剣幕で近寄ってきた。
「ちょっと、なんであんた達がここにいるのよ!」
 ジーンズ製のショートパンツにジャケット。肩には羽でもついていたら似合いそうな
ミニリュック。目の前の少女とは対称的な彼女はのっけから怒り心頭の様子である。
「大体、あの時はDシリーズに撃墜されたハズでしょ?」
「いやぁ、秋山が出てきてくれたときは逃げ切ったと思ったんだけどね」
 霜月が頭を掻きながら苦笑いする。あの晩、絶対絶命の二人の前に現れたのは秋山登
その人であった。なんせ、Dセリオ・Dガーネットの2プラトン攻撃を浴びるチャンス
は滅多に無いと待ち構えていたらしい。…結局、Dシリーズの足止めに成功した二人で
あったが、昼間のうちに真藤誠二が仕掛けておいた罠に足止めを食って御用に。
「俺と霜月さんは二人で街に遊びに来ただけだって。広瀬が今日友達と待ち合わせなん
て知らなかったよ、ホント」
 YOSSYFLAMEの発言も、後半は妙に棒読みでそれがゆかりの怒りを誘う。
「あ、あのゆかりさん…」
 先ほどからどうしたらよいか解らない表情を見せていた少女が、ようやく待ち人に
声を掛ける。
「あ、あさひちゃんゴメン! 待った?」
 そこで、自分の長い時間待たせた相手。桜井あさひに対してゆかりは詫びた。
「風紀委員長ともあろう人が時間にルーズってのは良くないね」
「いぇ、そんな…。それほど待っていませんから」
 ゆかりに対して茶々を入れる霜月。だが、あさひは自分が悪いかのように恐縮して
しまう。
「もぅ、こんなバカ二人はおいといて、行きましょ」
 ここで口論をしててもキリがないと判断したゆかりは、あさひの手を取る。
「で、でも…」
「い〜のよ。こいつらはお呼びじゃないんだから」
「ゆかりちゃんが紹介してくれる、お友達ってこの人達じゃぁ…」
「へ?」
 思わず聞き返すゆかり。
「だって、私…。こんな性格だから、お友達って言ってもあんまりいないし。男の人
の友達もいないから…」
 消え入りそうな声で話すあさひ。ちなみに、千堂和樹との交流は…まぁいいか(爆)
「それで、夏樹ちゃんに相談したら『こういう話は同業者のゆかりに聞いてみるね』
って。その後、ゆかりちゃんから電話があったからてっきり…」
 ゆかりは夏樹が妙にあさひと遊びに行かせたがっていたのを思い出す。と、同時に
自分を相手に堂々と策謀を張ってくれた親友をちょっと恨んだ。ここで、この二人を
切り捨てればあさひが更に落ち込むのは目に見えているし、かといって安全な人物を
引っ張ってくる余裕もアテもない。
「と、ゆーことで俺はYOSSYFLAME。よっしーって気軽に読んでくれ」
「俺は霜月祐依。改めてよろしく」
「わ、私は桜井あさひっていいます。よろしくおねがいします」
 横では、既に自己紹介が始まっている。ゆかりの苦悩は既に手遅れだったようだ。
「桜井あさひって…まさか、ラジオの番組やってるあのあさひちゃん?」
 あさひのフルネームを聞いて、何かを思い出していた霜月が素っ頓狂な声で問い掛
ける。
「はいっ」
「はぁ〜、ラジオとは声の勢いが違うから気がつかなかったよ。言われれば確かにそうだ」
「あの、私人前で話すのは苦手なんです。緊張してしまって…」
 と、言いつつ一枚の紙を広げる。
「えと、大根一本100円。ブタバラ100g78円。卵1パック80円、お一人様
3パックまで…って、ま、間違えました!」
 慌ててスーパーのチラシをしまいこみ、バッグの中をごそごそとあさる。
「うん、これだ」
 あさひは、内容を確認すると息を大きく吸い込んだ。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、ヒトノゲノム! マジカルティーナが変体さんに引導渡しに
ただ今参上!!」

「「・・・・・・」」
 呆気にとられるYOSSYFLAMEと霜月。
 つい先ほどまで自分の意思を伝えるのも苦労していた少女が、目の前で彼女とは
対称的なマジカルティーナを演じきっていたのだ。
「あさひちゃんはセリフ渡されただけで、別人格として演じる事が出来るの。これ
ばっかりは私よりも一歩も二歩も上よ」
「でも私は声だけですから…」
 謙遜するあさひの声は、先ほどまでの声に戻っていた。
「でも、なんでマジカルティーナなんだ?」
「カードマスターピーチの後番組に決まっていまして…」
「「「マジ?」」」
 こんどはゆかりも聞き返す。
「企画会議で緒方さんが絶対にウケると、強力に推して、その…」
「つーか、アレは放送コード的にマズイと思うのだが」
 YOSSYFLAMEの指摘が何を指しているかは言わずもがな(笑)



「で、次はどこに行く?」
 霜月が時計に目をやり問いかける。
 時間は午後5時を少し回ったところ。最初に行ったボーリングはスコアを競うはずが
『あさひにストライクを取らさせたら勝ち』という、指南勝負になっていた。
 遅い昼食はウェイトレスの制服が袴と評判のファミレスで取り、その後商店街をブラ
ついていた。
「あさひちゃんと服でも見ようかと思っていたんだけど…。あんた等が一緒なら却下」
「なんでだよ、人のセンスを信用してないのか」
「それもあるけど、下着売場なんか連れていけないもの。特にYOSSYは」
 YOSSYFLAMEの抗議をばっさりと切り捨てるゆかり。あさひは顔を真っ赤にしている
あたり、そんなに嫌ではないようだ。
「そうだ、YOSSY。この前話していた所は?」
「ああ、貞本と行った…。ちょっと早い気もするけどあそこのホテルにするか」

(夏樹? ホテル?)

『初めてのときって、どれぐらい痛いのかなぁ』

 ゆかりの頭にはいつかの夏樹の言葉がフラッシュバックしていた。
 親友とライバル。認めたくない組み合わせ――。
 否定しているのに、どこかで逆のことを考える自分――。
 そして、導かれてしまう至らないはずの短絡的な結論――。
 ゆかりは思わず胸に手をやる。

「ん? どした、ゆかり」
 YOSSYFLAMEがゆかりの様子に気が付き声を掛ける。
「わ、わたしは、あの、まだ、早いんじゃ、ってその…」
 あさひはゆかりの様子そっちのけで頬を真っ赤にする。
「何か勘違いしていないか? だから――」

 タタタタッ

 YOSSYFLAMEがそう言おうとした時だった。通りの向こうから真っ直ぐこちらに
向かって走ってくる人物が二人。近づいて来るにつれて二人の顔がはっきりする。
「由綺先生に理奈先生じゃないですか?」
 霜月が相手に気が付いたのと同時に向こうも気が付き、近寄ってきた。
「あら、どうしたの? 四人も揃って」
「理奈先生こそどうしたの?」
「ちょっとトレーニング中なの」
「「トレーニング?」」
「そう、アイドルってステージでずっと歌ったり踊ったりですごく体力使うの。だから
こうやって…」

 ズドドドドド…

 由綺の言葉にいまいち的を射ない霜月とYOSSYFLAME。そうしている間に、由綺と
理奈がやってきた方向から大地を揺るがすような振動が伝わってくる。
「由綺、休憩は終わり。来るわよ!」
「え? やだ、もう?」
「来るって何が?」

 ズドドドドドドドドドドトドドト……

「由綺ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん!!!」
「理奈ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんん!」

 音の方向を見た霜月とYOSSYFLAMEは硬直する。商店街の道幅一杯に横に膨張した野郎
と骨と皮だけのような野郎の混成部隊が奇声を上げながら向かってきたのであった。
「あれって、先生達の追っかけ?」
「そう、加減知らない子達だから、こっちも真剣勝負になるし体力付けるには便利よ」
「じゃ、先急ぐから」
 そ言い残して由綺と理奈は駆けていった。

「はぁ、なんだかなぁ…」
 霜月が呆れたような声を出す。
「マズイ、俺達もこの場から離脱するぞ!!」
「確かに、脇に避けていた方が安全だな」
「違う! そうじゃなくって!!」
 事の重大さに気が付いたYOSSYFLAMEが彼等から何かを隠すように身体を動かす。が、

「あ、あれって、桜井あさひちゃんなんだな…」
「本当だ。おや、横にいるのは広瀬ゆかり嬢でござるよ」

 膨張男と骨皮男の大群が一斉にこっちを見る。その時点で霜月も気が付き、途端に
青ざめる。
「あさひちゃん逃げるよ!」
「え? あ、きゃぁ」
 霜月は素早くあさひの手を取り、細い路地へと駆けだしていく。
「霜月さんずるい!」
 YOSSYFLAMEもその後を追おうとするが、後一人足りないのに気が付いて踵を返す。

「「ゆかりちゃぁぁぁぁんんんん!!」」
「……え? きゃぁっ!?」
 ゆかりが現実に戻って目の当たりにした風景は、膨張男と骨皮男の大群が波のように
迫っているものだった。さしものゆかりもどうする事も出来ない。
「広瀬!」
 自分を呼ぶ声に振り向くと、そこにはYOSSYFLAMEの手が。条件反射のように手を掴む
と、二人は先に逃げた霜月達を追って走り出した。

「ちょ、ちょっとなんなのよアレ!!」
「文句なら由綺先生と理奈先生に言ってくれ!!」
 商店街の人垣の中を避けるように走るYOSSYFLAMEとゆかり。先に逃げた霜月とあさひ
の方を追いかけていったファンもいるが、先ほどの半分以上がまだ追いかけてきている。
「ちくしょ〜、恨むぞ二人とも!!」

「…ねぇ、理奈ちゃん」
「どしたの? 由綺」
「なんだか、誰も追っかけて来ないんだけど…」
「・・・・・・帰ろっか」
 芸能界の人気も低年齢化が進んでいるよーで(笑)

「ぜぇ、ぜぇ、ここまでくれば大丈夫」
 一方、一足先に逃げ出した霜月とあさひは高台に設置された展望台にいた。
 下手に逃げると追いつかれると判断した霜月は、あさひを背中に背負って、一気に
ファンの集団をまいたのである。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「いやぁ、とんだ災難だったね」
「そうじゃなくって、私、最近、ちょっと重く…いぇ」
「何言ってるの、これぐらいが心地いいんだから。それに」
「それに?」
「あさひちゃんの胸もお尻もいい感触だったから、駄賃と思えば安いもんだよ」
 一気に、茹で蛸のように赤くなるあさひ。霜月にとっては日常茶飯事の発言であった
が、初対面の人間に対して、致命的なミスを犯したことに気が付いていなかった。
「あ、あのあの、今日はラジオの録りが…。で、そのその、失礼します!」
「あ、あさひちゃん!?」
 霜月が自分のミスに気が付いたときには時既に遅し、あさひは高台に続く階段を駆け
下りていってしまった。
「…やっちゃった」
 ナンパした女の子に逃げられるのは日常茶飯事とはいえ、折角友達付き合いが出来
そうなチャンスを自ら潰してしまったことに悔やむ霜月。程なくして降りだした雨は、
やがて夕立の如く降りしきる。



「ゆぅかぁりちゃぁぁぁぁぁんんんんん!!!」
「なんなのよぉ〜! まだ追ってくる!!」
 一方、YOSSYFLAMEとゆかりの方はまだ追いかけられていた。YOSSYFLAMEの脚力を
もってすれば振り切るのは簡単だが、ゆかり一人にするわけにはいかない。
「チッ、しつこいなぁ。 …ん、雨?」
 雨が降り出した事でファンの集団も一瞬だが天候に気が行く。
「広瀬、しっかりつかまっていろ」
「え? ちょっと、きゃっ」
 YOSSYFLAMEはゆかりを抱きかかえると、自慢の超起動で一気に相手を撒きにかかる。

「む、消えたんだな。探すんだな」
「どこへ行ったでござるか」
 二人の姿を見失ったファンの集団は付近を探しに掛かる。やがて、膨張男の一人が
路地裏で抱き合っているカップルに目を留める。
「あれは…、カップルが路地裏でいちゃついているんだな」
「我々のゆかりちゃんは、清純派でござるから、あれは違うでござるよ」
 しばらくすると、雨足も激しくなり、ファンの集団も天候には勝てないのか、やがて
散り散りに去っていく。

「「・・・・・・」」
「どうやら、ごまかせたみたいだな」
「ごまかせたって、何するのよ!」
 ゆかりの抗議をYOSSYFLAMEは手で制す。
「あのまま、追っかけっこ続ける気か?」
「そうじゃ、ないけど…」
 ゆかりはそこまで言ってYOSSYFLAMEの髪から水滴が滴り落ちているのに気が付いた。
「ちょっと、YOSSYびしょ濡れじゃない」
「まぁ、位置的にそうなるな」
 気にもとめない様子のYOSSYFLAME。YOSSYFLAMEがゆかりに覆い被さるように抱き合
ってやり過ごしていた為、逆にゆかりはあまり濡れていなかった。
「どうしよう…。このまま帰るわけにも行かないしだからといって…」
 見事に外れた天気予報信じた二人は傘を持っていなかった。下手に駅前に戻れば
まださっきのファンに再発見される可能性も高い。
「どっかで休憩でもする?」
「休憩?」
 YOSSYFLAMEは路地から見え隠れしているある建物を指さす。
「「・・・・・・」」



「ふぅ……」
「・・・・・・」
 部屋に入り、オートロックの作動音が聞こえたとき、YOSSYFLAMEは大きく息を吐いた。
 二人が目指した建物は、最近では『ブティックホテル』とか『ファッションホテル』
と呼ばれたりもするが、俗に言う『ラブホテル』。
 最初は文句を言いながらもついてきたゆかりも、いざ建物の中に入ると一言も発し
なくなった。
 空室状況を示すパネルの前に立ったときも。
 二人きりのエレベータの中も。
 部屋番号を示すランプが点滅する扉を前にしても――。
 できるだけ平静を装ったYOSSYFLAMEから見た広瀬ゆかりは居場所を失った子猫のよ
うなか弱さを感じた。
 YOSSYFLAMEは、こんなゆかりを過去に一度だけ見たことがある。が、思い出すのを
やめた。いまは他にすることがある。

「ほら、いつまでツッ立ってんだ」
 YOSSYFLAMEは荷物を部屋の奥に放り投げた後、今度はバスローブをゆかりにむかって
投げつけた。
「ちよっと、丁寧に渡してよ」
「グスグスして風邪引いてもこっちが困る。とっとと風呂入ってこい」
「風呂って、YOSSYの方がズブ濡れじゃない」
「やかましい! 何を悩んでいるかは知らないが、シャワー浴びてすっきりして来い」
 YOSSYFLAMEはゆかりをバスルームに押し込んだ。抗議の声も聞こえたが、やがて
静かになり、シャワーの水音が聞こえ始めた。
「全く、あんな姿で一人前に落ち込みやがって…。へんな気になるじゃねーか」
 YOSSYFLAMEはベッドに腰掛けながら、気分を落ち着かせていた。脳裏には水に濡れた
シャツからうっすらと見えたブラジャーが残っている。

 シャァァァァーーーーー
 ゆかりはシャワーの温水を浴びていた。
 身体を洗うわけでもなく、ただ浴びていた。
 ただ、今は何も考えたくなかったから。

 やがて、シャワーを浴び終えたゆかりがバスルームから出てくる。
「YOSSYもシャワー浴びたら?」
「ん、そうする」
 どことなく投げやりな会話。YOSSYFLAMEはバスタオルを掴むとそのままバスルームへ
と消えていった。
「…なんか、ちょっと違うな」
 ゆかりは再び水音のし始めたバスルームを見つめ、呟く。自分の身を覆い隠すものは
バスタオル一枚のみ。シャツが透けていたのは知っていた。いつもの彼ならどうなった
ことか。

 どうせなら、本能に任せて滅茶苦茶にしてくれれば――。

「ふぅ、すっきりしたぁ…」
 YOSSYFLAMEは少し長めのシャワーを終えてバスルームから出てきた。室内灯が消され
ているらしく、部屋は真っ暗である。
「…広瀬?」
 先ほどまで一緒にいた相手を呼んでみる。
 反応はない。が、人の気配はあるし、ゆかりが着ていた服も干されたまま。置いてけ
ぼりになったわけではなさそうだ。
「YOSSY?」
 声のする方に顔を向ける。ベットでシーツを被り、頭だけ出しているゆかりがそこに
いた。

「ねぇ、一つ教えて?」
「何?」
「誰とでも、こーゆー所入るの?」
「あのな…、嫌いな奴だったら見捨てて帰ってるよ」
「でも、初めてじゃないんでしょ」
「そら…な……」
「な、夏樹とも来たの?」
 一時の沈黙。時計の音が室内に響き渡る。
「…来てねえ」
「さっき、夏樹とホテルに行ったって言ってたじゃない。それに、YOSSYと夏樹が
デートしてるの見たんだから」
 YOSSYFLAMEの否定の言葉に呼応するかのように聞き出せた言葉。今まで、言い出せず
にいたのに一言目がでると案外楽に質問もできる。
「先月から始まった鶴来屋のケーキバイキングを男一人で食べに行くのはあまりにも寂
しいから、貞本に持ちかけたら乗ってくれただけだが。一日中荷物持ちやらなんやらで
振り回されて散々だったけどな」

「……そっか、ありがと」
「ありがと…って?」
 YOSSYFLAMEはゆかりの言葉の意味を聞き返そうとした。が、ゆかりはシーツの中で何
やらごそごそしている。やがて、シーツの中から何かを無造作に投げ捨てる。
「い゛っ?」
 YOSSYFLAMEはゆかりがシーツの中から投げ捨てた物の正体がわかり、思わず固まる。
それは、ゆかりの身体を包んでいたはずのバスタオルであった。慌てて辺りを見回す。
ゆかりが身につけていた衣服、下着も干したままである。つまり、シーツ越しの彼女は
何もまとっていないことになる。
 そして、ゆかりは中央に陣取っていた自分の身体を少しだけ片隅に移動させる。
YOSSYFLAME一人分のスペースがそこにある。
「ちょっと、広瀬…」
 YOSSYFLAMEの問いかけにもゆかりは答えない。
「…どうなっても知らないぞ」
 そう言い捨てると、YOSSYFLAMEはシーツに手を掛けた。



「ん・・・」
 ゆっくりと瞼を開く。
 ベットに据え付けられた時計は午前4時になろうかとしている。まだ、日の出には
時間があるようだ。
 横を見る。
 規則正しく寝息を立てる顔がそこにある。起きる様子はない。
 こんな表情もするんだと、関心しつつ気付かれないようにそっとベットを出る。
 乾いた衣服を身につけながら周囲を見渡す。自分のいた証は確かにあった。
「さてと…」
 誰に聞かせることもなく呟くと、出口へと向かう。朝が来れば、『女優広瀬ゆかり』
に戻ってしまう。それまでにはここを出る必要があったし、なにしろ自分がどんな顔を
しているか見られたくなかった。

 キィ、バタン

 扉が閉じる音がした直後、YOSSYFLAMEが体を起こす。

 今すぐ追いかければ間に合う。

 そんな思考が頭をよぎったが、すぐにYOSSYFLAMEはその思考を振り払った。
 追いかけてどうするものでもないし、自分と彼女の関係はそんなものではない。
 朝まではまだ時間はある。YOSSYFLAMEは再び、温もりに身体を埋めるのであった。



 まだ、交通機関は動いてないので、ゆかりは学園までの道のりを歩くことにした。
女子寮に到着したとき、玄関で出迎えたのは貞本夏樹であった。
「おっはよ〜、ゆかり」
「夏樹? なんで?」
「風紀委員長ともあろう人が、朝帰りなんて大胆だね〜。点呼の時ごまかすの大変
だったんだから」
「ちょっと、なんで…」
「あさひちゃんから電話があったよ。昨日はファンに追っかけられて大変だったん
でしょ?」
「うん、まぁ、そうなんだけど」
「で、どこまで逃げてたのかな?」
 昨夜の出来事思い出し、思わず赤くなるゆかり。
「い、いいじゃない。それより、夏樹、私をハメてくれたでしょ。いい度胸してる
じゃない」
「え? や、あさひちゃんの為を思って。ね、ごめん、許して」
 両手を合わせて拝むように許しを請う夏樹。
「そ、それより、あさひちゃんが『楽しかった』って。またみんなで遊びましょって
言ってたよ。良かったじゃない」
「ふっふっふ、そのあたりはじっくりと話をききましょうか。ね、親友」
 ゆかりは夏樹の首を掴むと脇に抱え込むようにして引っ張る。夏樹が脇でジタバタ
と抵抗する中、昨夜の出来事は一人だけの秘密にしようと心に決めた。

(まだ、二人だけの秘密には早い…よね)

「ゆかり、何かいった〜」
「えぇ、これからじっくりとしぼってあげるんだから」
「しぼられるのはゆかりでしょ〜」
「夏樹の方が重罪人なの!」
「そんな〜」

 また、Leaf学園の一日が始まっていく。

                                   Fin.