『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第十話 〜喜・怒・哀・楽〜 投稿者:霜月祐依



「えーいーーみぃーーー」
「な、なによ…」
「おどれは、何あっさりと脱がされて脱落しとるんじゃあーーーー!!」
「ふみゅ〜〜ん」

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 『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第十話 〜喜・怒・哀・楽〜
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 どよこん開始後、ターゲットを探しがてら様子を探りに行っていた霜月が教室に
戻ってきて目にした光景。それは、タオルケットに包まれた水着姿の大庭詠美その人
であった。
「霜月さん、いくらなんでもそれは…」
「いくら『堂々としてりゃいい』って俺が言ったって、ノコノコと付いていって、
あまつさえ温泉子パンダにさくっと剥かれるとはアホかぁ!」
 詠美に寄り添っていた彩の弁護も聞かず、霜月は続けて捲し立てる。
「教室でじっとしてれば良かったものを、大体タテ・ヨココンビが身体張って女の子
を守る性質か」
「俺達に任せれば大丈夫って言ったもん…」
「友達いないからってあんな奴等の言葉を信ヨ…」
 そこまで言って、霜月は言ってはならないキーワードを発していたことに気が付いた。

「いーもん、いーもん、どーせ私友達いないもん…」

「あぁ〜、その悪かった。ナ。俺達友達だろ?」
 背中を向けて『のの字』を書き始めた詠美にあわててフォローを入れる。そこで、バス
タオルの隙間から水着を着ている背中に何か文字が書かれているのに気がつく。
「なんだこれ…」
「ちょ、ちょっと、取らないでよ!」

 バサッ

 水着の背に書かれていたのは『負け犬一号』の文字。わざわざご丁寧に振り仮名まで
振ってある。
「温泉子パンダちょームカツク! こーなったのもそばにいなかった祐依の所為なんだ
から、ギッタンギッタンにしてきなさいよ!!」
「つーか、温泉子パンダエントリーしてないから剥いたら失格になってしまうんだが、俺」
「むかつく、ムカツク、ちょームカツクぅ!!」
 直接由宇にリベンジが行えないため、怒りを周囲に撒き散らす詠美。こうなったら
もう止まらない。
「そうだ、詠美まだ『アレ』持っているよな」
「役に立たなかったからまだ持ってるわよ」
 詠美は霜月がスタート直前に渡した物を取り出す。
「役立つ以前の問題だったろーが…。とにかく、こうなったら詠美にも協力してもらう
からな」
「これで?」
「そう、俺の知る限り『ソレ』を使いこなせるのは誰よりも詠美が一番だ」
 詠美は霜月から渡された『一本のペン』を信じられないと言った表情で見つめていた。


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「おぃ…レミィ、ホントにヤルのか?」
「Yes! Huntするターゲットは大きい方がイイです」
 どよコンエントリーヒロインの中でも、狩りをさせたらNo.1であるレミィはお供に
XY−MENを従えてとある建物が建っている50m付近にいた。もう目標とする建物は
目の前だ。そして、彼らには中にいる人物が誰だかも判っている。
「ダディが言ってました。ウサギをHuntして自慢するぐらいだったら、熊をHunt
することにチャレンジしてみろと。それに日本の諺にもアリマース、『鶏口となるも牛後
となるなかれ』って」
 言いたいことは判るけど、その諺の意味はどーだかなぁとXY−MENは思った。
 後、どっちかっつーと借りの対象がウサギで、その傍らにいるのが熊よりも恐ろしいの
だが。
 しかし、侮れないのがレミィの弓道の腕前である。目指す建物は学園の敷地内にあると
は言え、深い森の中を通る必要があった。そこには彼らを待ち伏せていた生徒も多数。だ
が、レミィはXY−MENの嗅覚によるサポートもあったとはいえ、遮蔽物の多い森の中
で百発百中の腕前で襲撃者を撃退してきたのである。
「しかし、アイツに勝つのは俺の悲願とは言え、その後は…」
 XY−MENはその建物に居るであろう、彼女を守るべき存在を倒すことを宿願として
いる。そして、傍らにいる彼女を自分の元に抱き寄せることも。
 だが、今回は剥いてナンボのコンテストである。レミィの護衛をしているXY−MEN
としては、彼女を剥かねばならないのである。
「XY−MEN、そろそろ行くヨー」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…。こんないくら大会とはいえ、こんな事をやったら間違い
なく嫌われて口聞いてくれなくなる」
 が、レミィはXY−MENの首根っこを掴むと、ズルズルと目標の建物に向けて歩き出す。
 二人が向かう建物の名は『通称:SS不敗流の庵』。ターゲット柏木楓と、彼女を護る最
強の存在、西山英志がそこにいる。
「こ、心の準備がぁ〜!!」


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「さて、走り出したはいいんだけど…。これからどうしようかセリオさん」
「――特に今すぐどうしようというのはないのですが、FENNEKさんは何か?」
「スポーツカーFですってば」
 セリオと合流したFEN…もとい、スポーツカーFは追撃してきた一般生徒達を振り切ると、
運転席の位置に腰掛けているセリオに今後の方針を求めた。が、放送室での演説の後どうこう
しようという明確なプランは考えていなかったらしい。
 彼女の持つサテライトサービスを用いれば学園内の状況も把握でき、事を有利に進められる。
が、彼女にその選択肢を実行させることは躊躇われた。

 ――フェアじゃない。

 確かにそうなのだが、セリオがすぐにそういった結論に達したわけではない。ただ、そうやっ
て得た勝利ではマルチのような笑顔で笑うことはできないのではないか? 彼女の中でもそう
いう結論に達していたのであった。
「――陸奥さんは、どういうお考えなのでしょうか?」
「…名も無き一般生徒Tです」
 セリオは助手席に腰掛けていた陸奥た…これまた名も無き一般生徒Tに話しかけた。
 彼もFENNEK同様、自分が陸奥崇であることを(未だに)否定しているのだが。少なく
とも『お前がセリオさんのスカートが風でたなびく姿を見るたびにやらちゃて汚されるのは勘
弁ならん』と、目隠しをされたまま座られるような人物はこの学園に二人といないと思ってい
るのだが。
「校内に入ると僕たちが不利になっちゃうから、とりあえず校舎外を一周して…」
「――あれは?」
 陸奥の意見を中断させるかのように、セリオがある光景に気が付く。校庭の一角にある女子
トイレを十重二十重に一般生徒が取り囲んでいるのだ。
「みんな参加者のバンダナしてらぁ…って事はあの中に誰かいるな」

「――助けられませんか?」

 セリオのその言葉にFENNEKも陸奥も一瞬言葉を失った。
 あの中にいるのが誰だか別にして、見殺しにすれば自分にとってのライバルは減る。だが、
突入すれば逆に自分が狙われる事にもなりかねない。
「あいつらを全員蹴散らしてもいいけど…」
 そこで、目隠しを取って現状を確認した陸奥の言葉が途切れる。自分の圓明流とFENNEK
のパワーをもってすれば蹴散らせるだろうが、セリオの安全にまで気を使えるほどの人数ではない。
「――二人とも心配いりません。これがありますし」
 と言って、セリオはFENNEKに乗り込んだ際に後部座席に放り込んだソレを取り出す。
「――G3A3です。先ほど放送室で篠塚先生にお会いした際に拝借して参りました」
 よくよく見ると、他にも何丁か扱いやすそうなサブマシンガンが転がっている。
「なるほど、僕たちはセリオさんの役に立つのが目的なんだし」
「それじゃいこうか」
 陸奥が視界に写った相手を見据え、指を鳴らせる。
 それが突撃の合図となった。

「小出センセー。乱暴な事しないから大人しくでてきてー」
「僕たちが優しく脱がしてあげるからぁ〜」
 女子トイレを囲んでいる一般男子生徒から、卑猥なヤジとともに投降勧告が告げられる。
ソレと共に周囲から笑い声が上がる。
 狭い女子トイレ。周囲からも独立しており逃げ場はない。彼らは勝利を確信していた。
いつ中に隠れた小出由美子が観念して出てくるか。そして、自分たちの目の前で公開スト
リップショーが開かれるのか。そりだけが楽しみであった。
「なぁ、扉ブチ壊して引きずり出そうぜ」
 中からそういった強行論がわき出した頃。
「なっ、なんだぁ!!」
「うわぁ〜、助けてくれぇ!」
 取り囲んでいた生徒のある一角から、悲鳴が起こり始める――。

 一方、女子トイレに閉じこめられた格好になった小出由美子と相田響子は、用具置き場
にあったモップなどでバリケードを築いてはいる。だか、それはあくまで気休めでしかな
いことは彼女達にもわかっていた。
「ちょっと、由美子先生どーすんのよー」
「うう、耕一先生も助けにきてくんないし。私の少女漫画専用図書館計画がぁ〜」
「由美子先生を信じた私がバカだったのね。私もついでに脱がされそぅ…」
 中にいた二人がいよいよ観念しかかった頃、異変は起こった。外の様子が異常なまでに
騒がしいのである。
「耕一先生が助けにきてくれたんだわぁ!」
「本当…?」
 二人は恐る恐る隙間から外の様子を覗いてみる。

 一方、外を取り囲んでいた一般男子生徒は大パニックに陥っていた。突如、茂みの向こう
から銃撃をうけ次々に倒れていく生徒。最も、銃弾自体は先ほど放送室で弥生も使用してい
た特殊ゲル状弾なので殺傷能力は無い。だが戦闘能力を一時的に奪うには十分なのに加え、
これだけ男子生徒が密集していれば嫌でも当たる。
 そこに、煙幕弾も投入され、その場にいた生徒らは大混乱に陥った。元々、指揮形態も
何もあったものじゃない。

「はぁーーーーっ、弧月!!」
 そこへ単身切り込んでいった陸奥が、圓明流で残った生徒を沈黙させる。次に陸奥が放っ
た『旋』の直撃を食らった生徒ももんどり打って倒れる。
「――敵戦力7割沈黙。残りも逃走を始めています。今のウチです」
「わかった!!」
 陸奥が女子トイレの扉を強引にノックする。
「どなたか知りませんが、助けに来ました!!」

「助かったぁ〜」
 扉の向こうではどうやら戦闘は収まり、驚異が去ったらしい。思わず安堵の声を上げる二人。
「やっぱ日頃の行いって大切よねぇ」
「バカな事言ってないで、とっとと脱出するわよ」
 女子トイレの扉を開きセリオらと対面する由美子と響子。まだ煙幕により視界がはっきり
している訳ではないが、それぐらいは確認できた。
「――大丈夫ですか? お二人とも」
「はぁ、セリオちゃぁん。助かったよ、ありがとぉ〜」
 由美子が思わずセリオに抱きつき、涙ながらに感謝の言葉を述べる。
 セリオはどうしていいか判らなくなり、思わず陸奥の方を見やる。

 セリオの目に飛び込んできたのは笑顔。――限りないぐらいの。

 自分を守りたくて一緒にいてくれるのに、自分から危険に飛び込むような真似をして怒られ
るかとも思っていた。しかし、セリオを迎えてくれたのはこの上ない感謝の言葉と、とびっき
り笑顔。

 ――私は、マルチさんに近づけたでしょぅか?

 セリオはそう問いかけようとして、やめた。
 自分の行動は決してマルチに対する対抗意識で行ったわけではない。自分がそんな考えを持っ
ていることを彼らが知ったらどう思うであろうか。
 セリオは気づいていない。その感情こそが人間らしくありたいと願う、彼女自身が作り上げ
た掛け替えのない物であることを。セリオシリーズとしての同一の思考パターンなどではなく、
Dセリオや電芹が持ちうる感情とは全く異なる一個人のモノであることに。

「もう煙幕が持たないっ、それに気絶させた連中がそろそろ復活する!」
 セリオを現実に引き戻したのはFENNEKのその一言であった。慌てて、FENNEKの
車内に乗り込む。陸奥と響子が後部座席、運転席にはセリオ。助手席に由美子が乗り込むと、
乱暴に扉を閉めてFENNEKは急発進でその場を離れた。



「って、ここまで逃げれば大丈夫でしょ。追っ手は巻いたみたいだし」
 セリオ一行を乗せたFENNEKは第一保健室の側まで来ていた。エスケープゾーンで一端
心を落ち着かせたいという由美子の申し出からであった。
「じゃ、私は保健室の業務に戻りますか」
「え〜、響子ちゃんも一緒にいてよ」
「由美子といてこんな目に遭うのはもうコリゴリ」
 由美子の嘆願を響子はあっかんべーをしながら拒否の姿勢を示す。
「うう、わかったわょ。響子ちゃんのケチィ…」
 諦めきれないといつた様子を見せながらも、由美子も外に出る。
「あ、セリオさゃんに、陸奥くんに、FENNEKくん。ほんとっーに助かった。ありがとね」
 由美子は自分を助けてくれた頼もしいクイーンとナイトに順番に何度目かの礼を言う。
 運転席側の後部座席(いわゆる社長席)に座っていた陸奥にも、助手席側の後部座席側から
身を乗り出して感謝の握手をする。
「もぅ、扉ぐらい閉めなさいよ…」
 由美子が感謝の言葉を述べるあまり、助手席の扉を閉めていないことに気が付いた響子は、
軽く扉を押して閉じる。
「――それでは、そろそろ私たちは失礼いたしますので。ご健闘を」
 次にあったときからは敵同士。正々堂々戦うことを約束し、FENNEKのエンジン音が
うなりを上げて動き出す。
 その瞬間―。

 ビリビリビリー!!

 妙に乾いた音と共に由美子の視界に写ったのは、自分が身につけていたハズのどよコン
エントリー用特注制服。これがFENNEKが遠ざかると共に、自分からも遠ざかってい
る光景。
 その場にいた全員が状況を理解するのに一拍の時間を要した。

「あ」
 プッシュゥゥゥーーー!!

 原因はきわめて簡単。響子が助手席の扉を閉めた際に、助手席側から身を乗り出すように
して陸奥と握手を交わしていた由美子の制服のスカートを挟んでしまったのだ。
 ややサイズが大きめであったことと、由美子が興奮状態にあったこと。彼女は自分自身の
異常に気が付いていなかった。
 状況を把握した響子の呟くような声と、陸奥の盛大な噴水が吹き上がるのは同時であった。

                                  to be continued…

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小出由美子…失格

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