『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第二十四話 〜Cat's? or Bell's?〜 投稿者:霜月祐依

「りべんじよ、リベンジ!!」
 ぐーぱんちを高々と天に突き出して振り回し、意気の高さを示しているのは栄えある
『負け犬一号 大庭詠美』その人。
「こーなったらエルクゥだろうがシズクゥだろうが、ずぇーんぶひん剥いて詠美ちゃん
様が最強のくぃーんになるんだから」
 既に脱落している段階で、クイーンも何もあったもんじゃないのだが。
「それと…温泉パンダを見つけたら、ぎったんぎったんにして東京湾に売り飛ばして
あげるんだから、見てなさいよ!!」
 東京湾に売り飛ばすって、水兵さんにでもさせるつもりか?
 あ、こみパ会場は東京湾に近いから、人足に駆り出す=売り飛ばすになるのか。
 それにしても、ぎったんぎったんって表現ってどんな感じだろーか?
「……なんか、さっきから外野がうるさいわね」




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 『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第二十四話 〜Cat's? or Bell's?〜
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「…ところで祐依。一体いつまでこの詠美ちゃん様を歩かせれば気が済むの?」
 詠美は自分の後方を歩いている霜月祐依に文句をたれる。
「んな事言っても、誰にも出会わないからしょーがないだろ」
「『俺に掛かれば、どんな娘でもひん剥いてやるぜ』ってゆーから、わざわざついてき
てやってるのよ。さっさと、見つけなさいよ」
「いたらな」
 どよコン開始早々脱落した詠美と霜月が合流し、共に行動を始めたのが昼頃。それから
ずっとこんな調子である。

「…ところで祐依。一体いつまでこの詠美ちゃん様を歩かせれば気が済むの?」
 先ほどの会話から5分と経たぬうちに始まる同じセリフ。もうこれで何度目であろうか?
 いくらなんでもこの二人に限って、エントリーヒロインとのエンカウント率が低いのに
はれっきとした理由がある。
 詠美も霜月も揃いも揃って、良く言えば通る声。
 平たく言えばやかましい。
 そんな二人が絶えず口喧嘩をしながら歩いているのである。
 要するに

 猫と鈴がセットになって歩いているのに近づく鼠はいない

 ってことになる。
 霜月としても、一旦スイッチが入ってしまった詠美を放置すると後が大変なので、
本人が満足するまでは行動を共にするしかないのである。
「ったくまいったなぁ…。詠美がいる以上、『裏道』が使えないし」
「なんか言った?」
「いや、なーんも。 っと、あれは?」
 霜月は廊下の窓の向こうに見える光景に目を留めた。
「ちょっと、同僚に挨拶してくるか。いくぞ詠美」



「ふわぁ…、誰もこないってのはいい事なんだが退屈だな」
「まぁ…」
 美術部室の一角で椅子に座っていたOLHは鉄壁の布陣を引いたは良いものの、
幸いにも襲撃者は訪れず少々退屈気味である。
 思わず欠伸がこぼれる。
 同じく、暇を持て余し気味であった神凪遼刃も肯定を示すような曖昧な返事を返す。
「こらー、お兄ちゃん動いちゃだめ!!」
「じっとしてて!」
「ゴ、ゴメンなさい」
 すると、OLHを取り囲むように座っていたティーナと笛音から叱責の声が飛ぶ。
 真剣な面持ちで見つめる彼女らの表情に思わず頭を下げるOLH。

 彼女らの頭を覆うのはモチベーションを高めるためのベレー帽。
 彼女らの瞳は一分の隙も見逃さないと、片目を瞑り目標物に集中する。
 彼女らが膝に抱えているのは自分の身体には余るぐらいの写生版。
 彼女らが突き出す右手には真っ赤なクレヨン。

「琴音ねーちゃんの絵描けたぞ〜」
 突然良太が立ち上がると、自分の作品を琴音の元にもっていく。
「良太君、じょうずねぇ。目のところなんかそっくり」
「へへん」
 所々をクレヨンで汚しながら自慢気に鼻をこする良太。
 どよコンエントリーヒロインである姫川琴音を護衛するために、OLHや神凪。
松原葵といった面々に加え、立川郁美率いるお子様軍団が勢ぞろいしたものだから、
今や美術部室はかってないほどの大所帯となっていた。
 意気込みは買うが、所詮お子様。
 集中力が持つわけも無く、お絵かき大会が始まった。
 写生対象は、てぃーくんが笛音。
 笛音とティーナがOLH。
 残りのお子様が琴音をモデルとして描いていた。
「お兄ちゃんも、描けばいいのに。楽しいよ」
「構わん、俺が入ればこの教室は狭くなる。それに周囲への警戒は怠ってはならんしな」
 同じように鉛筆による写生を行っていた郁美が、美術部室入り口で警戒を行っている
兄雄蔵に向かって話し掛けた。
 だが、雄蔵は廊下から静かに声を発するのみ。

「…誰か来る」
 直後、廊下で警戒していた雄蔵からの声に、俄かに色めき立つ美術部室。
「だ、大丈夫でしょうか?」
「まだ敵が来ると決まった訳じゃないんですから」
 緊張気味に拳を合わせる葵を落ち着けようと、OLHが声をかける。
「みんなで琴音おねーちゃんを泣かす奴をやっつけるぞー!!」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
 ルーティの掛け声に続いて、声をあわせるお子様軍団。
「で、一体誰が来たんですか? …って霜月さんじゃないですか」
 廊下側の窓枠から身を乗り出すように覗き込んだ郁美が、霜月と詠美の姿を認める。
「なんだ、霜月か。じゃぁ敵だな」
「これ以上ないぐらいに判りやすい敵ですね」
 その瞬間、霜月を敵と認識したOLHと神凪がいつでも攻撃できるように身構える。



「どーしたのよ、祐依」
「なんか向こうから、これでもかっていう敵意が叩きつけられているんですけど」
 美術部室に向かって歩いていた霜月と詠美は、手前30mぐらいで立ち往生していた。
 その先には『この先進みたくば、俺を倒してからにしてもらおうか』と仁王立ちで
構える雄蔵の姿がそこにある。
 そして、見えないはずの美術部室からも敵意が流れ込んでくるのがわかる。
「おい詠美、くぃーんになるんだったらアレなんとかしてくれ」
「したぼくの祐依が身体を張って詠美ちゃん様を守るのがぎむってもんでしょー」
 目の前の脅威を前に喧嘩を始める二人。

「なんか、警戒するのが馬鹿らしくなってきましたね」
「同感」
 そんな二人のやり取りはしっかりと聞こえているため、お互いの顔を見合わせ頷き合う
OLHと神凪。

「貴様がいかなる策略を企てようとも、姫川琴音を剥かせはしない」
 威圧感のこもった声が二人に向けられる。
「…へぇ。じゃぁ、そこにはエントリーヒロインがいるのか」

 その瞬間、ずっこける美術部室内の一同。
「お兄ちゃん! 誰がいるか自分からバラしてどーするのよー!!」
「むぅ」

「俺たちは、詠美が美術部室に置きっぱなしの画材を取りに来ただけなんだが」
 直後、詠美が霜月の袖を引っ張る。
「ちょっと祐依、そんな用事無いわよ」
「いーから、あるって事にしとけ」
「何を小声で話している」

「…ん、護りきれる自信があるならいいんじゃねーの? 
 それに俺たちはまだ『何もしていない』ぜ」

 両手を上げ、攻撃の意思表示を示さずに接近する霜月。
 ここで彼を吹っ飛ばすのは簡単だが、郁美やお子様軍団のいる手前そういう訳には
いかない。
「おーおー、OLHに神凪にいくみんに松原に…勢ぞろいしているなぁ」
 廊下側の窓枠から身を乗り出すようにして美術部室内を見渡した霜月は、呆れたとも
感嘆したとも、どちらともつかないようなため息をしながら呟いた。
「で、何の用なんだ?」
「ったく、折角同僚が尋ねているんだからそう邪険に扱うなよ」
 OLHの言葉を流した霜月は、脇にいる詠美に視線を移す。
「この詠美ちゃん様の画材道具を取りに来たんだけど」
 と言って、美術部室に踏み込もうとした詠美をてぃーくんが手で制す。
「僕が取ってきてあげるよ、詠美おねーちゃん」
「さっすが、したぼくたるもの心得を理解しているわね」
「したぼくってなんだよ〜」
「それは、もしかして『下僕(げぼく)』の事でしょうか?」
「そ、そーとも言うわね」
 マールからの的確なツッコミを受けてうろたえる詠美。
「右から2番目の棚の真ん中の、これだね。
 えーと、あれ? これって…あっ!!」
 詠美が指示した場所から画材一式が入れられたケースを取り出したてぃーくんが
ケースのある一点を見た瞬間、何かを思い出したかのように画材ケースをもとあった
場所に戻す。

「「???」」

 そして今度は、『左から2番目』の棚から慌てて画材ケースを取り出してきた。
「詠美おねーちゃんの名前が書いてある、これだよね」
「ありがとー。…ところで、部屋の片付けでもしたの?」
 てぃーくんの行動を理解できなかった詠美が素朴な疑問を口にする。
「え? あ、あの。この子達が絵を描きたいっていうので、みなさんの画材をちょっと
お借りしていたんですよ。ごめんなさい」
「この詠美ちゃん様の素晴らしい道具を使わせてあげたことをこーえーに思いなさい」
 琴音のしどろもどろな説明に気を良くし、口元に手の甲を当てて高笑いする詠美。

「で、用事はそれだけですか?」
「んまぁな。」
 一刻も早く追っ払いたい神凪の口調に曖昧に答える霜月。
「あ、そうだ。同僚のよしみで忠告しておいてやるよ」
 窓枠にインテリアとして飾ってあった風鈴を指で弾く。
 チリーンと人口密度の高い室内全体に響き渡るすんだ音色。


「穴熊も結構だが、この大会動かなきゃ勝てないぜ」


 長居は無用と、美術部室の面々の反応を待たずして立ち去る霜月。
 詠美もそれに続く。
 程なくして彼ら二人の気配が感じられなくなった後、一同は大きなため息と共に
緊張を解く。
「なーなー、穴熊ってなんだ?」
「将棋で王将を守る形として穴熊という形がありますから、恐らくはいまの状況に照ら
し合わせたのではないでしょうか」
「むぅ、将棋よくわかんないぞ」
 良太の質問に答えるマールであったが、やっぱり理解できていない様子。
「駆け引きのつもりか、気に食わんな…」
「お兄ちゃん…」
 霜月と詠美が去った方向を睨み付ける雄蔵と心配そうにそれを見つめる郁美。
 個人差はあれど、そこにいた面々に今の状況を考えさせる要因となった。



「ねー、なんであいつらやっつけて琴音ちゃん剥かなかったのよ」
「あの面子相手に勝てる方法があったら教えてもらいたいもんだ。それに…」
「それに?」
 霜月の言葉にオウム返しで反応する詠美。
「お前の画材の中身、多分誰も手をつけてないと思うぜ」
「っと、どれどれ。…ホントだ」
「お子様がいきなりマンが用の画材なんてまず使わねーよ。
 あたりにクレヨンが散らばっていたしな。
 幻影の類を見せる罠が張ってあったんじゃないのかな。
 アレだけ人が集まっているのに、お子様軍団はともかくOLHや神凪まで窓際に
いるってのは、警戒するにしてもちょっと変だしな」
「さっすが、私のしたぼく。よくぞ見抜いたわね」
「ぜってー、気づいてなかったろ詠美は…」

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 一方、その頃の来栖川警備保障。

「へーのきさん。Dボックスさんがどこに行ったかご存知ありませんか?」
「え? ここにいるんじゃないの?」
「30分ほど前から、急に姿が見えなくなりましたので」
 心配そうな表情をするDセリオ。
 ここにいればほぼ確実に安全地帯であるのに関わらず、誰にも行き先を告げずに
Dボックスがいなくなってしまったのだ。
「マルチさん。Dボックスさんの反応を調べてもらえる?」
 へーのきは、メインコンピュータの前で作業をしていたDボックスに対して、所在を
調べてもらうように依頼する。

 主に、立ち往生するDボックスとか
 目的を忘れてうろつく鳥頭Dガーネットとか
 出先で思考の無限ループに陥って動かなくなるDマルチとか
 戦闘に夢中になってしまい付近の想定被害を算出する必要があるDセリオとか

 …とにかく、Dシリーズの所在が即座に把握できるシステムが警備保障のシステム
には組み込まれていた。
「ダメです、Dボックスさんの反応がありません。
 恐らく、上空の巨大な飛来物がジャミングをかけている影響かと」
「巨大な飛来物…?」
 いぶかしむへーのき。
「モニター映ります」
 そこには、某巨大な飛来物が学園上空に浮かんでいる姿が映っていた。
「どよコン競技参加艦艇?」
 なんのこっちゃといった感じで、掲げているビームフラッグの文字を読み上げる。
「つまり、あそこにいるのは今大会の参加者であって。
 Dボックスさんを護衛している我々としては、ヒロインであるDボックスさんの危険を
 脅かす要因を排除する正当な権利があるんですね」
「そ、そーともいうけど」
 したり顔で笑みをこぼすDセリオに、冷や汗だらだらでこたえるへーのき。
「準備してきます。へーのきさんはVセリオを使用できるようにお願いします」
 軽やかな足取りで武器庫に消えていったDセリオとモニター上の映像を交互に見つ
めたへーのきは一言。

「……やるの?」



 肝心のDボックスはとゆーと。
「―コウミサン、コウミサン。 ―ドコデスカ、ドコデスカ」
 Dボックスは絶対の信頼(?)を寄せている、神海がいなくなった事から、危険も省みず
探索に出ていたのであった。
 Dボックスとしては警備保障にいさえすれば、まず安全といえる。
 絶対の防衛力が充実している警備保障の攻め落とすには、それこそ『嵐の中の戦争』のように
ダーク十三使徒総掛かりになってしまう。
 そこまでの、コストを支払って得られるモノは箱の艶姿一つ。
 これで、損得勘定が出来ない奴を見てみたいものだ。

 鉄壁のゆりかごを飛び出してまでDボックスが求めるのは、
 信用できない誉め言葉。
 薄っぺらい笑顔。
 今まで交際が噂されていたチャバネメタオにはない新鮮な気持ちであった。

 …どこをどう贔屓目に見ても誉められてないような気もするが、まぁそこはそれ。

 動機はどうあれ想い人を想うあまりに女の子(?)に行動を起こさせるなんて、『惚れられ冥利』
に尽きるのではないだろうか。

 モテル男は辛いね〜。

「―ガイヤ、ウルサイデス、ウルサイデス」



 同時刻。
 同じくエントリーヒロインである篠塚弥生は、たった一人で堂々と廊下を歩いていた。
 開始直後こそ一般生徒の急襲を喰らったりしたものの、どこからともなく取り出した銃火器で
迎撃しているうちにいつしか誰も近寄らなくなっていた。
 自分から参加した事自体戯れかも知れないのだが、かといって自分からエントリーヒロインを
攻撃するほど優勝に固執している訳でもない。

 だからといって――。

「―コウミサン、コウミサン。 ―ドコデスカ、ドコデスカ」
 自分らしくない思考の海に沈んでいた弥生を現実に引き戻したのは、機械的な繰り返しの音声。
 見ると、そこには階段を前に立ち往生しているDボックスの姿があった。
「どうかいたしましたか?」
「―コウミサン、コウミサン」
 Dボックスは弥生の姿を認めても、同じ言葉しか繰り返さない。
 同じエントリーヒロイン同士、脱がすのは簡単。
 だが、弥生はDボックスの声に人間のいじらしさを感じた。

 そして、ある事を思いついた。

「Dボックスさん、私もちょうど神海さんに用事がありました。ご一緒に彼を捜しましょう」
「アリガトウゴザイマス、アリガトウゴザイマス」
 弥生は礼を言うDボックスを抱え上げると、階段を上り始める。
「神海さんが心配ですか?」
「シンパイデス、シンパイデス」
「そう、それならば早く安心させてあげたいですね。
 ――誰にも邪魔されない場所で」

                                    to be continued…

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状況をさらにややこしくしてどーする俺。

神海さん、文中で散々な事書いちゃって申し訳ありません。
まぁ、Dボックスとラヴラヴになるための必要な関門と言うことで(^^;
あと、来るべきネタ実現のための布石づくりなんで。

Dセリオも折角神海さんに動機付けを書いて貰ったのに、全然行動していないので
理由付けと、Dセリオの強大な戦力に見合う相手を捜していたら何故かこーなりました(爆)
Dボックスを動かした結果、色々やりたいことが出来るようになった。
自分の所属する警備保障だろうがなんだろうが、拠点で籠もられると
作品の性質上やりにくいので、解消させたいという思惑もありますが。

美術部室の面々も布石はバッチリ敷いたので、なんとかしないとどーなっても知りません(^^;

ちなみに、霜月が文中で言っていた罠。
これはてぃーくんによる宝貝の事です。
『宝貝:逆世幕(サカシヨノマク)
 透明なカーテンのようなモノで、これを通してみた光景は全て左右逆に見える。
 欠点は自分たちも逆に見えてしまうことと、この幕の間に生物が入り込むと
 映像が乱れるのでたちどころにバレる』

ま、そんな感じでがんばっていきましょー。