『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第三十二話 〜Look here Honey〜 投稿者:霜月祐依

 ギシッ…

「ふぅ、これで大人しくなったでしょ」
 栗毛の長髪の少女はそう言って大きく息を吐く。

 フゴー! フゴゴゴー!!

「…そうでもないみたいだぞ」
 傍らにいたバンダナをつけた少年はソレを指さす。
 その指先には猿轡をされた水色の髪の少女が必死に何かを訴えている。

「うむ、準備万端のようじゃの」
「「あ、隊長」」
 奥から出てきたのは20年前の番長スタイルをした大男。
「で、言われたとおりにやっておきましたけど。どーするんですコレ? それに…」
 バンダナの少年は大男のズ太い右腕に首根っこを捕まれていた人物を指さす。
「暴力沙汰は良くないですよ、色々と…」
「どーせ、『くぐつ』なんじゃろ? ちょっと全校中に中継を手伝ってくれればええんじゃ」
「は、はぁ…」

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 『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第三十二話 〜Look here Honey〜
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「…にしても、彼女はいったいどこに連れ去られたんでしょうか?」
 救出作戦を始めるにはいいにしても、確固たるアテがない。瑞穂は考え込む。
「やっぱ、ダーク十三使徒の本拠地とかじゃないのかな?」
 そう返すのはたくたく。

 その時、体育館に設置された巨大ビジョン並びとジャッジ本部内に設置されているテレビ。
正確にはコントロール可能な全ての映像装置に同一の映像が配信されてきた。
「電波ジャック!?」
 岩下の顔が強張る。

「やっほー、みんな頑張って剥き剥きしてるー?
 みんなのヒロイン志保ちゃんよー。
 ここで、ちょっと面白い映像を送ってくれって要請があったから流すわよ〜」

 少しのノイズの後、映像が切り替わる。その瞬間、ジャッジ本部にいた全員の表情が
固まった。
 薄暗い室内の映像、画面中央には猿轡をかませられていた岡田メグミの姿があった。
ついでとゆーか、お約束とゆーか、十字架に縛り付けられて。
 その傍らには、うず高く積み上げられたエロロリ本の山に座る大男――。
「ロリコン番長、平坂蛮次…」
 SOSが呟く。
 平坂はゆっくりと立ち上がると岡田を舐め回すように見つめる。至近に接近する
番長Faceに顔を背ける岡田の姿。
「いゃぁ…」
 まるで自分が同じ目に遭っているかのように、松本が悲鳴を上げる。
 ひとしきり眺め回した後、番長はカメラの方向に向き直る。

『心当たりのあるのもいるじゃろう。
 このちゅるぺたを返して欲しくば、極上のちゅるぺたを連れてくるんじゃな。
 ぐずぐずしちょると、こんなになってもしらんぞ!』

 平坂は手元にあったエロロリ本の一冊を開いてみせる。
 そこには放送ではとてもじゃないが放映できないような、とゆーか持っているだけで
捕まりそうな内容のシーンが大写しになっていた。
 直後、唐突に映像は途切れて終わる。

「非道い…」
「拘束されているだけで無事のようだが、この先どうなるか…。 ん? たくたく君?」
 岩下は岡田のこの先を考えて表情を曇らせる。
 が、たくたくが映像の直後必死に何かを考えている様子を気に掛ける。
「…多分アレは男子寮近くにある廃屋の一つです。ここからは少し距離がありますが、
急ぎましょう!!」
「そうよね、これでメグミに何かあったら頼りない男の子として一生十字架背負うことに
なるもんね。」
 掛けだそうとしたたくたくに向かって浴びせられた吉井の何気ない一言に、豪快に頭か
らスッ転ぶたくたく。
 …頑張れ、前途は多難だ。



 唐突だが、神凪は困っていた。
 こんな所で、思い人(?)に遭遇するとは思っていなかったからだ。
「やっと見つけたニャー、遼刃ニャン」

 それは神凪が用をもよおしたからと、琴音チームを離れ一人トイレに出かけていたとき
だ。用を終えて、トイレから出てきた神凪の前に現れたのはたまだった。
「イビルもエビルもあんなにかっこいい出番があるのに、一人だけ出番が無いニャんて
寂しいニャー。今から挽回するにはルミラ様のお役に立つしか無いニャロメ」
「たまさん…。申し訳ありませんが私は琴音さんをサポートするのがクラスの総意と
なっていまして…」
「それじゃ遼刃ニャンは、たまのことなんかどうでもいいのニャー」
「いや、そこまでは」
「いいニャ、いいニャ。こうなったらタマネギたらふく食べて死ぬニャー!」
「ちょ、ちょっと! 私に出来ることでしたら何でもしますから」
「ほんとニャー?」
 演技ッポイ錯乱ぶりを見せていたたまが泣きやんだそぶりをみせつつ、遼刃の方を
覗き見る。
「え、ええ…」
「ならこれをお願いするニャー」
 たまは背中に背負っていたリュックから袋を取り出して渡す。粉状のものが入って
いるのかサラサラとした感触が伝わる。
「これは…?」
「魔界印のまたたびニャー。
 この香りをかげば猫でも人間でも魔物でもみんなトリップしちゃう、まっしぐらな
逸品ニャー」
「まさかこれを…」
「そうニャー、みんなの前でばらまいて欲しいニャー」
「い、いけません。私は琴音さんを裏切るわけには…」
 遼刃が言い切らない内にたまは遼刃にもたれかかるように接近する。身長の割にサイズ
のあるたまの胸の感触がダイレクトに伝わる。

「遼刃は何も悪くないニャー。
 またたびの粉がばらまかれるのは戦闘中にはよくある事故ニャー。
 トリップして服を脱いだって、自分で脱ぐのなら誰も悪くないニャー。
 何があったって、遼刃のせいじゃないニャリよ…」

 いつの間にかその場で尻餅をついてしまった遼刃に覆い被さるようにして、たまが
耳元でささやく。相変わらずの胸の弾力に加え、遼刃の頬をチロチロとたまの舌が踊る。
「わ、わかりました…」
 遼刃の口から言葉がこぼれ出る。



「ホントに大丈夫なのかしら?」
「ええっ。確かに芹香さんの側には綾香さんやハイドラントさんがいますし、オカ研の
方々も実力者揃いでココの実力はトップクラスです」
「ですが、戦いには相性というものがあります。みんなの実力が十分に発揮されれば
こちらの方が有利なんですよ」
 ここは、ある空き教室。マルチ・セリオ連合軍の襲撃に失敗した琴音チームは次なる
ターゲットを芹香チームと捕らえ、作戦を練っていた。子供たちもいるのにと不安がる
琴音に対し、郁美とマールの二人が戦いとなった場合のシミュレートをしていた。
 このチームの恐ろしいところは、お子様も含めて全員が何かしらの場面で実力を発揮
できる人材が揃っているのである。しかも、郁美とマールこの二人のトップクラスの軍師
がいる。
 はっきり言ってこの二人相手に知略戦で活のは難しい。

 程なくして、神凪が戻ってきた。
「遅かったな、どこまで言ってたんだ?」
「ええ、ちょっとソコまで…」
 いつもの飄々とした感じが感じられず、首を傾げるOLH。窓の外と琴音を交互に見つ
めた後、大きく息を吐いてうつむく神凪。
 彼の心を揺らす要因など、彼らには知る由もなかった。



「中継ご苦労様、もう帰っていーわよ。 …ってあら?」
 先ほどの岡田メグミ緊縛中継現場では、映像を中継していたT-star-reverseの傀儡に
栗毛の少女―死乃森阿修羅が声を掛ける。
 が、傀儡は鼻から真っ赤な血を流してピクリともしない。先ほど平坂が突きつけた
エロロリ本を直視したせいだろう。
「邪魔しないんだったらほっとけよ」
 バンダナの少年―魔江田凶治の声に同意する阿修羅。

 フゴッゴ、フンゴゴコゴフゴゴゴ。 フゴッゴ、フゴゴゴゴン
(ちょっと、なんて事するのよ。 いいから離しなさいよ!!)

「そうはいかんのじゃよ。おんしは特上の鯛を釣るためのエビじゃからの」

 フゴー!? フゴゴゴ、フゴッゴ、フゴゴー!!
(エビー!? 私がエビってどういうことよー!!)

「よくあの状態で会話が成立するよな」
「同感」
「まてよ…」
 凶治はあることに気がついた。
「どーせ隊長の望みは監禁陵辱なんだから、肉体的に何もされていなければ『一応』
無事だよなぁ」
「そうねぇ」
 阿修羅がその言葉に頷く。
「だったら別にこのコンテストのヒロインとして生き残っている必要は何もないんじゃ」
 二人の会話に気がついた岡田の視線とぶつかる。

 フッゴ、フンゴゴゴ?
(ちょっと、冗談でしょ?)

「「たいちょー。待ちきれないでしょうから、制服だけだったら剥いちゃっていいですよ」」
「そうじゃの、この娘でも剥いて我慢するか」
 ゆっくりと立ち上がる平坂。
 歓喜にきしんだその表情に、十字架に両手足を固定されて動かない身体をよじる。


「おいっ! ここにヒロインが三人もいるぞ!!」
「ホントだっ! 選り取りみどりだぜ」
 瑞穂チーム・三人娘チームは運の悪いことに一般生徒に取り囲まれていた。
「信さん…」
 瑞穂の心配そうな表情に岩下は、そっと笑顔を見せると一般生徒に振り帰る。その
表情は瑞穂の前では絶対に見せないような表情で、威圧と恐怖を叩きつけるには十分
である。
「俺たちは先を急いでいるんだ。 邪魔だぁーーー!!!」
 叫びに完全に気圧された一般生徒は一人、また一人とその場を離れていく。その場に
立ちすくんでいた者も、ゆっくりと前を進む岩下の前に何も出来ずに道を譲る。
「岩下さんすごーい」
 松本が感嘆の声を上げる。
「やっぱこれぐらいの頼もしさはほしいよね。男の子には」
「吉井さん…」
 相づちを打つ吉井の一言にワカメ涙を流すたくたくであった。


 フゴ、フゴゴゴ…、フゴゴンゴゴゴ
(やだ、やめてよ、お願いだから)

 ゆっくりと延びる平坂の手に涙目でちょっと泣き落としをしてみようと試みる。
 が、
「絶望に怯えるちゅるぺたってのはやっぱいいもんじゃのー」
 平坂のやる気を俄然引き出すだけで逆効果に終わっていたり。

(助けて…)

 岡田は、自分を助けに来てくれるであろう友人に願った。
 奇跡を信じて――。


         『起きないから奇跡って言うんですよ』
                      byどっかの病弱(のハズ)な人


 願い虚しく岡田の制服は四散し、薄紫色のワンピース水着が露わとなる。



「それじゃ暫くお願いします」
 戦艦冬月に向かう途中、突然の襲撃を受け地上に逆戻り。なんとか窮地を脱出した
ものの、エントリーヒロインである芳賀玲子の疲労は著しい。
 そこで、同じくエントリーヒロインである隼魔樹と共にエスケープゾーンで休憩を
取ることにした。
 一時間という時間制限はあるものの、安全は与えられる。許された時間内にどれだ
け疲労を回復させられるかが彼女らの今後を左右する。
「やっぱ軽いなぁ…」
 隼はそう呟くと、玲子をベットに横たわらせる。荒い呼吸を繰り返す彼女に冷やし
たタオルで汗をふき取る。
 心なしか玲子の呼吸が落ち着いてきたのに安心した瞬間、強烈な睡魔が隼を襲う。
 無理もない。開始直後からじぇりーずを酷使しつづけてきた上に、知らず知らずの
うちに蓄積した疲労は相当なものだ。
「はふっ…」
 ベット脇のイスに腰掛けていた隼は、小さなあくびを漏らすとそのまま玲子の眠る
ベットの隙間に顔を埋める。
 わずかな時間の休息。それでも二人の表情は安らかであった。


 一方、山浦と神海はお互いに別れて情勢を探ってくることにした。山浦にしては
想い人の芹香の様子が気になって気になって仕方がなかったので、神海と別れ最初の
角を曲がった瞬間に一目散に掛けだしていった。
「仕方がありませんね」
 騒々く遠ざかる足音に苦笑いをこぼしつつ山浦が去った方向とは逆を振り返った
瞬間、彼の目の前には学園の制服に身を包んだ少女が一人立っていた。
「どうかいたしましたか?」
 神海の問いに少女は答えない。
 が、神海は何かが引っかかった。
 年にして12・3。小学生と中学生どちらでも通用しそうな表情だ。だが、誰かに
にている。自分の身近にいる誰かに――。

 ニコッ

「!?」

 神海がもう一度問いかけようとした瞬間、少女はこちらに向かって微笑んだ。
 誰に似ているのか、自分の頭の中で完全に繋がったのだ。
 一度も見せた事のない表情だからこそ。いや、自分が思い描いていたその表情と
一致していたから――。

 少女は神海に背を向けると、ゆっくりと歩き出す。そして距離が開くと、またこちら
を振り向く。
(ついてこいって事なんでしょうねぇ…)
 神海はゆっくりとした歩調で、少女の後を追う。

 少女は時折、神海がついてきていることを確認しながら進む。
 やがて音楽教室の前に到着した瞬間、少女はもう一度こちらを振り向くとその姿が
かき消えた。
「ここですか…」
 先ほどから音楽教室の中では、ピアノソロが鳴り響いている。曲名は思い出せないが、
有名な曲だったと記憶している。
 演奏が一段落した瞬間、神海はゆっくりと扉を開いた。

 明かりもつけない音楽室。中央に鎮座するグランドピアノとカーテンの引かれてい
ない窓から覗かせる月夜。それだけがこの場を支配する光景。
 ピアノを演奏していた人物は神海が扉を閉め、ゆっとくり近づいてくるのを確認す
ると楽譜を閉じて立ち上がった。
「貴女が中学生の頃はきっとあんな感じだったのでしょうね」
 暗闇でも映えるウラニアブルーの長髪。篠塚弥生は表情一つ変えず神海を見つめ続ける。
「ピアノソナタ『月光』。こんな美しい月夜に合っていると思いませんか?」
「そうですね。…私に出来ることでしたら、誠心誠意サポートいたしますが」
 神海は弥生が自分に用があるからこそあんな手の込んだ真似をしたものだと思ってい
た。もちろん、それは間違っていないのだが――。
「その言葉、あなたの真実ですか?」
 ドキリとさせられる発言。
「もちろんです。貴女の為なら」
 同様の素振りも見せず、平然と答える。
「では、その発言…」

 音楽室の奥からの物音。神海もそちらに注意を寄せて…瞬間、硬直する。
「――コウミサン、コウミサン」
「Dボックスさん…」
「――その発言、もう一度言ってもらえますか?」
 Dボックスの中断によって途切れた言葉を、弥生が再び紡ぐ。
「……私に出来ることでしたら、誠心誠意サポートいたします」

 永遠とも思えるような沈黙。
 実際には1分も経っていなかったのだが。
「少し楽になりませんか?」
 それは、神海に向けた言葉なのか。それとも自分自身に向けた言葉なのか。

 弥生が指を軽く鳴らす。
 すると先ほどの少女が、弥生とDボックスの間に現れる。ただし、今度は全身に
甲冑を纏って。これがシュヴァルツヴァルキューレである本来の姿なのだろう。
 シュヴァルツヴァルキューレは神海の前まで進み出ると、ゆっくりと弥生と
Dボックスの方に向き直る。片手に剣を携えて。
「――コウミサン、コウミサン」
「Dボックスさんも了承済みです」
 シュヴァルツヴァルキューレが剣を構える。
 視界の向こうの二人は逃げるそぶりを見せない。覚悟は出来ているのであろう。

「――コウミサン」
        「貴方の真実を見せてください――」



                               to be Continued…。


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岡田メグミ…失格

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 えーっっっと(^^;
 夢もチボーもなく、岡田失格です。
 まぁ、そうそう奇跡が起こったらいつまで経っても終わらないので。
 岡田萌えがいたら、展開は全く違っていたかも解りませんが。

 あと、神海さんの修羅場、BGMは月光の第三楽章で是非。
 この結末は『是非』神海さん本人に書いていただきたいと思っていたり(爆)

 今回のタイトル、いろんな意味でピッタリだよなぁ(^^;
 他にはPleaseHelpMe!!とかもあったんですが。