『どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト』 第四十一話 「Stand up GUY's」 投稿者:霜月祐依


「ジンさま、あなたの牙はまだ折れていません。そうですよね」
 ジンはちらりと眠り続けている耕一を見やる。そして口を開いた――

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 『どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト』 第四十一話 「Stand up GUY's」
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「折れる? バカ言うなよ。
 俺の辞書にはそんな後ろ向きの言葉はねぇ。
 ここで燃えなきゃスーパーヒーローじゃねぇんだよ」
 鋭い眼光はそのままに、ニヤリと口の端を釣り上げる。
「そうこなくてはなりませんな」
「まぁ不恰好だが、動けないことにははじまらねぇ。そいつ使わせてもらうぜ」
「ささっ、どうぞ」
 ギャラが手招きをし、ジンの元へと乳母車をもってくる橋本と矢島。
「ちょっと肩かりるぞ」
「ぐっ…」
「お、重いっス…」
 アレイが前方を動かないように押さえる中、両サイドに立った二人の肩に両腕を
つかまらせて、一気に乳母車にその身を滑り込ませ――



 グシャッ



「「「・・・・・・・・・」」」

 割と長い沈黙が訪れる。
 ギャラですら、小声で「いやはや」と呟くに留まる。
 予想はつきそうなものなのだが、乳母車に体重百キロは有に越えてそうな人間が
乗ることなんて想定されているわけがない。
「あの、台車でしたらいかがでしょうか?」
 後方で成り行きを見守っていた彩が申し出る。
「…おや? ジンさま?」
 潰れた乳母車の上に腰掛けた状態のまま、顔を伏せているジンを訝しむ。

「クックック…、こうなりゃなんでも乗ってやるよ。
 乳母車だろうが台車だろうが三輪車だろうがなんでもよぉ。

 お前達に『ジン・ジャザム』というものをみせてやるよ」

 戦う意欲はあっても、やはり乳母車というのに抵抗はあったのかもしれない。
  油断―という言い方には語弊があり、ひづきチームの作戦の賜ではあるのだが―
からきた敗北に打ちひしがれていたジンに、蘇った熱い闘志。そして今の開き直りで
冷静さもがジンに戻ってきた。

「おお、そう言えば」

 ギャラが何かを思い出したかのように相槌を打つ仕草をする。
「馬でしたらすぐにご用意できますが…」
「それを早く言え!!」
 ツッコミは忘れなくとも、ジンの頭の中には悠然と騎馬――完全武装をしたJJあたり――
に跨っている自分をイメージする。思わず「ハイヨーシルバー!!」なんて叫んで
みたくもなりそうだ。

 そうこうしている内に、ギャラに取ってくるように指示されたアレイが戻ってきた。
保健室の扉からひょっこり顔を出して
「あの…これ……ですよね?」
 なんて能天気なハズのアレイが見せる不安そうな表情には、交流が深いとは言えない
ジンですらも一抹の不安を覚える。
「はい、もちろんですとも。ささっ、うぇるかむでございます」
「わかりましたぁ…」
 ギャラのオーバーリアンションな仕草を受けてアレイの顔が一度扉から引っ込む。
再び大きく開かれた扉からアレイが引きずってきたのは――


 三角木馬だった。



「・・・・・・」

 ジャキィィィン

 無言でアームランチャーを構えるジン。
  そして爆砕音、木片となって弾け飛ぶ三角木馬。
  ついでに射線上にいた矢島と橋本も吹き飛ばしつつ。
「おきに――」
「めすかぁっっっっ!!」
 ギャラの言葉を遮るように胸倉を掴んでジンが叫ぶ。
「伝説の三角木馬職人と呼ばれた方が丹精込めて作った逸品に、
我々薔薇部の血と汗と涙と…フガフガ」
「そんなもんは込めるんじゃねぇ!」
 なおも語るギャラの口の端をジンが両手で引っ張る。傍から見ればガキのじゃれあい
みたいなもんだが、さりげなく引っ張られているギャラの頬がありえない長さに伸びて
いたりもする。


 サッサッサ…
「はぁ…」
 サッサッ…
「じーーーー」
 サッ…
「私のアイリーン(仮)……」

「……おぃ」
「なんでしょうか?」
「この重苦しい雰囲気をなんとかしやがれ」
「なんとかと言われましても…はて、彩さんのアイリーン(仮)を壊したのはジンさまですし」
「持ってこさせたのは貴様だろうがぁ!!」
 今度はギャラの胸倉を掴み上げるジン。「やめてください」とか「苦しい」とか言って
いる割には表情が全然余裕なのだが。
「あの、ここは保健室ですしそろそろ…」
 彩と一緒に三角木馬のアイリーン(仮)を片付けていたアレイが窓を開けながら話す。
先ほどからすちゃらか気味で進んではいるものの、奥のベットでは未だ柏木耕一が目覚める
事無く眠っている。
「ご心配なさらずとも問題ありません。噂をすれば――」
 そんな噂など何一つしていないのだが、丁度のタイミングで保健室の扉が開かれる。

「ふみゃぁ〜、お運びするのはどれですかぁ?」
 キャタピラ装備の台車を通り越した別の何かになっているような台車を引いて
やってきた小柄な少女に全員の目が集まる。
「初めまして、私ギャラお兄さんに頼まれてやってきました」
 ぺこりんと擬音が入りそうな勢いでお辞儀した彼女は、名を塚本千紗と名乗った。
黄色いヘアーに両サイドにちょこりんと、かわいく赤いリボンでまとめられた髪の毛が
跳ねる。

「よいしょっと!」
「にゃぁぁっ」

 早速、その台車に腕の力だけで反動をつけたジンがまさに『飛び乗る』。
「ったくよー、最初からこれを用意すればいいんだよ。これを」
 自分から飛び乗った荷物に慌てる千紗を余所にジンがギャラに悪態をつく。
「…ま、いいけどよ。
 ところで千紗って言ったな。すげぇ台車だな、これ」
 ジンにとって未だに真意を測りかねるギャラの表情であったが、これ以上追求
することなく千紗にやたらゴツイこの台車の事を聞く。
「長瀬先生と誠治お兄さんが作ってくれたんです」(ディルクセン様作・『犬追物』参照)
「ほぅ、あの二人か。なら性能は折り紙付だな。
 いっちょ運んで貰おうか、頼むぜ!」
「えっと、どこまで…?」
 千紗の言葉にニヤリと笑って、

「強い奴のところまでさ」

 と答える。
「はいですぅ!」
 解っているのか否か、千紗が台車のハンドル部分にあるスイッチを入れる。
 静かな駆動音とは裏腹に勢い良く廊下を駆け出していく千紗(と台車のジン)
「いくぜえぇっっっっっ!!!」
「はにゃぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
 二人の叫び声の意味合いが全く異なっているのはともかくとして。

「うっ…」
 突如ベットから聞こえたうめき声に、残された薔薇部の面々が振り返る。
「こ、ここは……」
「柏木先生、気がつかれたんですね。あ、まだ寝てないとっ」
 ゆっくりと起き上がろうとした耕一を彩が慌てて押しとどめる。
「教えてくれ、今どうなってる? ……千鶴さんは?」



 〜 〜 〜



 じりっ…。

 じりっ、じりっ…。

 一方こちらは新城沙織・坂下好恵チームと佐藤雅史率いる男子運動部連合が対峙する
校庭脇。周囲を包囲する運動部連合に対して、沙織達を庇うようにしてとーるが油断なく
構える。
 運動部連合は徐々に包囲の幅を狭めてはいるものの、沙織たちの一手を十分に警戒して
いる様子が手に取れる。
(マズイ、このままでは全滅しかねない…)
 表面には出さないものの、とーるは内心冷や汗ダラダラ物である。頭の中で脱出する
方策をシミュレートしているのだが、これという解答が導き出せない。昏倒したディアルト
が復活する気配もなく、電芹という飛び道具もない。とーる・沙織・好恵と攻撃力には
申し分ないのだが、沙織と好恵がダメージを受けることを許されない状況下に至っては
とーるの計算に含められないのだ。

「なぁ、新城」

 その時だった。

「もし優勝できたら何がしたい?」
「え? そんな事急に言われても…」
(坂下さん?)
 全周囲を油断なく警戒するとーるにとっても、困惑する沙織と同じ気持になる。
「私が優勝して生徒会長になったら、運動部がもうちょっと活動しやすく――
あいつらの為でもあるんだけど――」
 そこで一旦言葉を切る。

 好恵が掲げている公約
  『運動場および体育館等施設の拡充、および部活動への公平な使用。』
というのは、セリオが掲げているそれ(現段階で公約として表明しているのが実は
この二人だけ)よりも、男子運動部連合にとっては支持をしてもらえるだろうとい
うのもあった。

 だが『食い物の恨みは恐ろしい』。
  沙織達がセリオに敵対したのは未来に対する不安から。男子運動部連合がセリオを
支持したのは過去の人災(笑)からくる危機意識。事前に格闘部サイドからの根回しが
あった事など、とうの昔に忘れているに違いない。

「――私は護られるガラじゃないって事なのよ」



 ドンッッッッ!!!

 喧騒すらも掻き消えたかと思えた校庭に大きな衝撃音。
 と、同時に包囲の輪から数人の男子生徒が吹き飛ぶ。

「とーる!!」
「は、はぃっ!」
「あんたは二人を連れてさっさと行く!!」
 思わず直立不動になって反応するとーる。右手がしっかり敬礼の形をとっている。
「好恵さん!」
「私はこいつらに『お願い』があるから」
 お願いのところで拳を握りこんで骨をボキボキと鳴らせる。どういうお願いであるかは
誰の目にも明らかだ。

「か、かかれぇっ!!」
 包囲の輪の中から誰ともなく号令が飛ぶ。
 直後、好恵の放ったハイキックによって先ほど吹き飛ばされた包囲の人間と含めて
道が開ける。とーるのコンピュータによる計算も好恵が切り開いた血路が唯一の脱出
ルートであると指し示していた。

「すいません!!」
 そう叫ぶと、自らの体に紫電を迸らせ戦闘モードへと移行させる。
 とーるの長髪がたちまち電髪アフロへと変化する。
「やぁ、なにするのぉ、電芹、電芹ぃ〜!」
「ちょっと、と、とーるくん!!」
 とーるはそう叫ぶと右手でうずくまったままのたけるを抱えあげると、左手で沙織の
手を握る。そして、光の速度で包囲網を抜けて駆け抜けていった。



「あ〜ぁ、逃しちゃったか…」
 雅史はそう呟き動揺するそぶりすらなく頭を掻く。

 シュゴッ!!

 雅史の顔面を突き抜ける衝撃音。
 咄嗟に身をよじってかわした雅史の視線の先には、数m離れた位置から正拳付きを
繰り出した好恵の姿があった。
「へぇ…」
「よくよく考えてみたら、あんたたちは今が十分に広いグラウンドや体育館を占拠して
いるようなものだし、私の提案に乗るわけないか」
 そう、好恵の提案を反故にしたもうひとつの理由は既得権益。全体的に施設の改善が
図られるといっても、今までグラウンドや駐車場の片隅で活動していたような同好会
レベルならともかく、彼らにとっては一時的なマイナスが座視出来ないのだ。
「あんた達がセリオの提案を支持していること自体疑わしいわね。あなた達の目的は
私を潰す事、そうでしょ」
 包囲の輪の中からこぼれ笑いが聞こえる。雅史からも反論の言葉はない。

 好恵にとってはそれすらも予想できた反応であった。
  雅史の方を向いて再び構え直すと、自らの闘気を叩き付ける。形容するなら『白虎』
と言ったところか。
「どちらにしろ邪魔であることには変わりはないから――」
 雅史の左頬には先ほどの拳圧によってうっすら血がにじんでいた。それを気に留めた
様子もなく、邪悪な笑みを浮かべる。
 一時期ではあるが、確かに学園を震撼させた『鬼畜雅史』の姿そのものである。

「――消えてもらうよ」



 〜 〜 〜



「おぉ〜ぃ、メシ作ってきたぞ」
「昌兄、お腹空いたぁ〜!!」
 緊張感もへったくれもない声でひづきが応える。
 臨時スタジオ(戦艦冬月)にメンバー(志保とか志保とか志保とか)が出払っている為、
無人となっていた情報特捜部の部室にひづき達はいた。気が付いたら公式に提供された
食事を食いっぱぐれたひづきの為に、昌斗が軽食をと作りに行っていたのだ。
「おむすびにコーヒーじゃちょっと合わないけど、ここのコーヒー結構いい豆使って
るんだよなぁ…」
 と一人ごちながら昌斗がバスケットの中に入っていたおむすびを取り出していく。
すぐ食べられるようにと、ひづきのことも考慮して俵型のおむすび。この辺の配慮は
実に彼らしいとも言えよう。
 おかずにはミニトマトや一口サイズのウインナーやチーズ巻き等。短時間でここまで
出来るからこそ、下手な食事よりもよっぽど豪華でもある。

「いっただっきまぁ〜す ハグハグ… おぃしぃ〜」
 普段は口うるさい従兄妹であっても、この時ばかりは素直な笑顔を見せる。
「よっと、コーヒー入れたぞ。ひづきは――」
「角砂糖みっつに、ミルクもね〜」
 間髪入れずの返事に背を向けたまま苦笑いして、棚から砂糖とミルクを取り出す。
「で、悠はどうすんだ?」
「・・・・・・」
「あれ? お前、コーヒー駄目なんだっけ?」
 無言の悠に対して問いかけるが、椅子に座ったまま顔を伏せており応える様子がない。
「おいってば!!」
 この位置で聞こえていない訳がないのにと少し腹立たしくなった昌斗は悠の肩を揺らす。

 ガバッ

「ったく、寝てたのか――」

 ゲシイッッ

 跳ね起きるように顔を上げた悠は昌斗を一睨みすると、そのまま無言で右ストレートを
叩き込む。
「痛ぇな、何するんだよ!!」
「それはこっちのセリフだ、人の邪魔をするな!」
「邪魔ってなんだよ!!」

「あ。今、悠さんさっきみたいに式神を使ってるから起こしちゃ駄目よ」
「遅いよ、ひづき…」
 おいしそうに二つ目のおむすびをほおばりながら幸せそうに話すひづきに悪びれる
そぶりさえ見せなかった。


「……で?」
「何が『で?』なんだ?」
「さっき式神で見ていたんだろ? 何か変わったことは?」
 三人で車座になっておむすびを食べた後、コーヒーを口にしながら昌斗が切り出した。
ちなみに悠は専用で玉露入りのお茶っ葉が棚にあったのを飲んでいる。
「肝心な所だったんだけどなー」
「ぐっ…それでも肝心な所だったということは誰かの陣営を見ていたんだろ?」
「察しがいいな」
 昌斗の言葉に指を立てる仕草をする悠。ひづきはふ〜んとばかりに黙って話を
聞いている。

「俺が見てきたのは姫川琴音の陣営、ちょうど作戦会議みたいなのをやっていたよ。
『いつもの連中』に加えて、松原葵に立川雄三の近接戦闘にはこれ以上無い取り合わせ、
さらにお子様軍団が勢揃いしていたからな。正直眩暈がした。
 あいつらがどういう作戦を練っていたかまではわからなかったが、目標はわかった。

 来栖川陣営だ」

 悠の言葉に昌斗とひづきの息が止まる。
「で、姫川陣営の狙いに俺なりの考えを乗せてみたんだが、この二大勢力が潰しあって
くれるというなら是非そうあって頂きたい。ここで最低でもどちらかに消えて貰えないと
我々の『勝ち目』はゼロに等しくなる」
 発言者の悠本人は気づいていたであろうか?
  当初、生き残ることを前提に行動していた人間が勝ちを意識してる事に。
「順当にぶつかった場合、どちらが勝つかは明白なのだが――
 予想外もせぬファクターというのはどこにでもあるものだ」

「「ファクター?」」

 昌斗とひづきの声が重なる。
 悠は指をまっすぐ昌斗に指し、次いでひづき、自分の順に指を動かす。
「ファクターは多ければ多いほどいい。
ここで『優勝候補が相次いで』なんて志保が喜びそうなハイライトシーンを演出するのも
いいじゃないか」
 そう言うと悠はぐびっと湯飲みのお茶を飲み干した。
「いくぞ、巻き添えがまだ必要だからな」

(悠さん、すっごい楽しそう〜)
 言葉には出さないものの、マグカップに口をつけた姿勢のままひづきはそう感じていた。



 〜 〜 〜



 セィッ! ヤァッ!!

 掛け声と共に一人、また一人と崩れ落ちていく。
  黒き群像を砕くのは鋭き牙
  吹き飛ばすのは白き爪。
  好恵の繰り出す一撃が一人また一人と男子運動部員を沈めていく。

 ハアアッッッ!!

 一際気合いのこもった掛け声をもって正拳付きを繰り出す。
 常に全周囲を警戒しなければいけない状況。
  確かに好恵は疲れていたのだが、毎日何千回、何万回と繰り返してきた型は自分を
裏切らない。もっとも理想的な形で拳を蹴りを繰り出していく。

「おぃ、このままだと全滅だぞ!」

 雅史の側にいた一人がうろたえたように声を張り上げる。
 既に総数の1/3までに減らされていたのだ。
 このままでは本気で好恵一人に全滅されかねない。

「これでもくらえぇぇっ!!」

 背後から野球部員が好恵目掛けて野球の硬球を投げつける。
 だが、好恵は流れるような動きで振り向いたと同時に腕を円を描くように動かして
硬球を弾き飛ばす。
 ラグビー部員の一人が好恵の動きを止めようと正面から掴みにかかる。好恵は動じず、
正拳を彼の脳天に叩き込む構えを取る。

 その様子を見届けた雅史は
「なら、こうしたらどうかなっ!」
 サッカーボールをラグビー部員の背中目掛けて蹴りこんだ。

 グェッッ
  キャァッ!

 好恵の眼前で後ろからの強烈なボール勢いを受けて、押し出されるように吹き飛ぶ
ラグビー部員。さすがに予測できなかった好恵は拳を繰り出すタイミングが遅れ、
すんでのところを避ける。
 が、体勢を完全に崩されてしまった。
 雅史にとってはその一瞬で十分――

「おつかれさま」

 抑揚もなくつむいだ雅史の言葉と同時に放たれた雷獣ショット。
 白虎の喉元に噛み付いた雷獣の一撃によって、好恵の意識はもぎ取られた。



   :
   :
   :
「うっ……」

「気づいたみたいだね」
 意識を取り戻した自分。
 両腕はがっしりと力自慢の男子部員によって掴まれている。
 場所が移動されていないことと、自分がロープなどで拘束されていないこと、
自分がのした半数はまだ起き上がれないことからも、気を失っていた時間はさほど
長くないのであろう。
「ここで勝ち誇ってもいいんだけど」
 雅史の目は極めて冷静だった。
「君に消えてもらうのが目的なんだから」
 雅史が好恵が着ているどよコン特注空手着の両襟に手をかける。

 ビリビリビリィッッ!!

「くっ…」
 多少強引に引き裂かれた空手着が雅史の両手から無造作に地面へと落下する。
好恵は自分の敗北を認識すると同時に張り詰めていた気が霧散していくのを感じた。

「で、どうするよ」
 取り巻いていた一人が雅史に問い掛ける。
「僕としてはもういいんだけど、また新城さんとかの加勢に回られたら困るなぁ」
「ならすることは一つしかねーよなぁ…」
 もう既に好恵に対する関心はないとばかりな雅史の口調に、もう一人が好恵の正面で
頬を軽く叩きながら卑しい笑いを浮かべる。

 ペッ!

 好恵が今頬をたたいていた生徒に目掛けて唾を吐く。
 自分が出来る精一杯の抵抗として。
「テメェ!!」
 逆上して殴りかかろうとしたその瞬間。


 ゾクリッ!!


 自らの背後で強烈な殺気と共に拳銃の撃鉄を起こされているような感覚。


 『ウゴイタラコロス』


 その場にいた男子運動部員全員がそんな感覚を叩き付けられて硬直する。
それは好恵の両腕をとっていた二人にも例外ではなく、支えを失った好恵は
力なく地面に崩れ落ちる。
「あ…」

「君は…」
 雅史はゆっくりと後ろを振り返る。
 丸いサングラスをつけているため、表情を窺い知ることは出来ない。だがその人物は
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

「b、beaker……」



                              to be Continued…。

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坂下好恵…失格

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 え〜、今回は男性陣にスポットを当てて書いてみました。
 坂下好恵がそこに含まれるか否かはノーコメントということで(笑)

 まずはジン・ジャザム&塚本千紗の異色タッグ。
 ほんとーはkosekiさんと合体をしててジン・ディフェンサーとか
  ジンタンクとかやってもよかったんですが、千紗全然出番がないし、
  機動力としては申し分ないのでこっちに。

  鬼畜雅史は何気に美加香に対してだけだった気もするんだけど、
  善人のままだと勝てないし、浩之の為ならなんでもやっていたのも
  ある意味鬼畜だし(^^;

 さって、恋人のピンチに間に合わなかったbeakerですが、
  どう立ち回らせるかは全然考えてなかったり。
  大体、雅史達の目的も当初はここまで考えてなかった(笑)

 ちなみに白虎の下りはラストサムライの影響受けてます(^^ヾ

 後書きまでも敬称略ですが、ご容赦の程をm(__)m