私的Lメモ「電波でピ・ポ・パ☆」 投稿者:霜月祐依


ブルルルッ、ブルルルッ

『新着メール:1件』
『差出人:小翳』
『件名:あ…その……』
『本文:あの…お…おはよう…ございま……なさい』

カタ、カタ…

 >返信

『宛先:小翳』
『件名:おはよう』
『本文:おはよう、今起きたみたいだね。中等部は今日はお休みだったかな?
    体調のほうはどうだい?』

カタ、カタ…

 >送信

ブルルルッ、ブルルルッ

『新着メール:1件』

(くすっ、やれやれ…)

カタ、カ…
ブルルルッ、ブルルルッ

『新着メール:3件』

(おぉ!?)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「おぃ、神海、神海」
「なんですか、霜月さん」
「お前、携帯なんて何時の間に持ってたんだ?」
「ちょっと前ですよ。随分安くなりましたし」
「安い? お前の財布事情で!?」

「霜月うるさい!」
 思わず大きな声を張り上げた霜月に対し、教壇にいる耕一から注意が飛びたちまち
  教室中から失笑が洩れる。今は日本史の授業が始まって間もなくの1時限目。半分
  寝ぼけ眼の面々が目を覚ますには十分な刺激らしい。
「そんなに話すのが好きなら、ここのページを読んでもらおうか」
「へーへー」
 室町時代に関する一文を読み終えた後、着席した霜月はちらりと隣席の神海を見やる。
  授業も先ほどの騒ぎも我無関心とばかりに、机の下でメール打ちをしていた。


 〜休み時間〜


「神海、お前の携帯ちょっと見せてみろよ」
「はぁ…まぁ、いいですけど」
 霜月は神海の持っていた携帯を手に取る。
  来栖川製の折り畳み型の携帯は本人が安いと言っていただけあって、液晶はモノクロ。
  本体価格1円であった事は容易に想像がつく。
  ストラップには黒い人形がぶら下がっていた。
「なんだこれ…こんなキャラクターいたっけ?」
「まぁ、13使徒の義務みたいなものですよ」

ブルルルッ、ブルルルッ

「お、メールが来たぞ」
 携帯がメール着信をバイブ振動を霜月の手に伝える。
  霜月から携帯を返してもらった神海は折り畳みを開いた後、指が滑らかに携帯の
  キーを打ち始める。
「授業中も見ていて思ったけど、お前携帯のメール打つの早いなぁ」
「そうですかね?」
 神海は霜月の方を見ながら打ち終わったメールの送信ボタンを押す。
「少なくとも携帯でブラインドタッチできる奴はそうそういないと思うけどなぁ」
「慣れれば簡単ですよ」
「簡単ねぇ…」
 霜月が感心したとも呆れたとも言えないため息をついた時、またメールが着信した
  らしく指が慌しく動き出す。

「ねーねー、なんの話してんの?」
「おぉ、詠美かぁ。いやな、神海のメール打ちが早いって話さ」
 二人の話に興味を示した詠美がやってくる。
「ふぅ〜ん、どれほどのものか。この詠美ちゃん様に見せてみなさいよ」
 そんな詠美の言葉に耳を傾けることなく、神海は指を動かしつづける。
「ほらな」
「ちょ、ちょっとはやるよーだけど、このくぃーんおぶくぃーんの実力にはちょぉ〜っと
及ばないわね」
「あに言ってんだよ。詠美の返信が早い時って漢字の誤変換だらけか、全部ひらがなじゃ
ねーかよ」
「う、うるさいわねっ。使うたびに違う漢字が出てくるんだからしょーがないじゃない、
ケータイが悪いのよ。ケータイが」
「ついでに言うと、絵文字だけでメールを送るな。解読するのに疲れる」
「したぼくのくせに――」
「だから、もうちょっと読み手に優しいメールをだな――」
「あの、仲の宜しいのは結構なんですが…もう授業始まりますよ」
 口論が始まろうとした霜月と詠美の間にメールを送信し終わった神海が割って入る。
「「え?」」
 二人が辺りを見回す。
 クスクスと忍び笑いをしているクラスの面々と、教壇には――
「ねぇっ、先生ってそんなに印象薄い!?」
 ワカメ涙を流す小出由美子の姿があった。



 〜放課後〜



「――てな事があってさー」
 警備保障の休憩室でその時の出来事を霜月が語っていた。
「でも知らなかったよ」
「何が?」
 OLHの言葉に霜月が続きを促す。
「お前と詠美がそんなに進展してたなん――ガッ!!」
 最後のうめきは霜月がOLHの脳天にまっすぐチョップを振り下ろしたからである。
「なんで、メールだけでそこまで言われなきゃならん。あさひちゃんや長谷部とかとも
メールはしてるわい」
「そか?」
「あさひちゃんの場合は忙しいし、いくみんは兄貴の目があるからなかなか返事を打て
ないんだと。メイフィアはそもそも携帯もってねーし…」
「彩ちゃんは?」
 OLHの言葉に霜月は無言でポケットから携帯を取り出すとおもむろにボタンを
操作する。するとOLHの携帯に着信があり、添付の画像が一枚ついていた。
「……迂闊な時間帯にメールをすると、こんな画像がついてくる」
「こんな?」
 いぶかしげな目つきでOLHが霜月をみやる。
 OLHの携帯には誰のとまではわからなかったが、淡いピンクのパンチラショットが
写っていた。
「ちげぇ! 間違えた!!」
 慌てて画像を送りなおす霜月。
「とりあえず、長谷部がトリップしている時間帯に――って聞いてねーか」
 真っ白になったOLHの携帯に映し出されていたのは、彩がもっているカメラ付き
携帯で撮られたエルクゥユウヤの画像であった。

「神海先輩にもメル友が出来るとは春ですねぇ…」
 そうシミジミとつぶやいたのは、T-star-reverse。今日は珍しく本体が来ていた。
「いや、どーも妹さんらしいぞ」
 即座にそれを否定する霜月。
「妹? ああ、あの…」
 兼部王で顔の広いTに心当たりはあるらしく、深々と頷いてみる。
「みんなに同じ頻度・同じ感覚でメールを返さないと納得しないんだと。
で、同じ内容だと即座にバレて大変らしい」
「でしょぅねぇ」
 それぞれが全く異なるベクトルで神海のハートを掴むべく、強烈な個性を発揮して
いる妹たち。外面の印象でしかないが、Tにはそれが実感できた。

「そーいや、こいつも他人事じゃねーよなぁ」
 霜月が指を指す方向を見て、Tが大きく頷く。
「さすがに、携帯を持たしてもらえてはないでしょうから今はいいとして…何年後の
話になりますかね。さてはて」
 未だ固まったままのOLHを見て二人して笑う。
 このやりとりの所為で神海が更に大変な目に合うとは、二人とも想像だにし得なかった。

というか、関係ないし。



 〜翌日〜



 ブルルッ、ブルルッ、
「お、誰からかな?」
 マナーモードにしていた神海の携帯にメールが着信する。休み時間ではあったが、静かに
携帯を開くとメールを確認する。

『新着メール:1件』
『差出人:D−BOX』
『件名:メールデス、メールデス』
『本文:オハヨウゴザイマス、オハヨウゴザイマス。
    コウミサン、コウミサン、
    メールデス、メールデス。
    ヨロシクオネガイシマス、ヨロシクオネガイシマス』

 机に向かって、派手に突っ伏した神海をクラスの面々が奇異の目で見つめる。
「な?」
 ネタかと思いつつ、差出人のメールアドレスを確認する。
『d-box@kurusugawa-ss.co.jp』
 思いっきり来栖川警備保障より出されたメールアドレスである。となると間違いなく
本物からのメールである。
(せ、せっかくD−BOXさんからのメールなんです。ここはより親密になれる
チャンスですね……)
 気を取り直して返信のメールを打つ神海。
 ちなみに、何故自分のメールアドレスが知られていたのかに疑問は持たなかった
ようである。
(これで、送信……………完了と――)
 携帯の待ち受け画面に送信完了の画面が表示され、携帯をしまおうとする神海。
が、彼の行動を妨げるかのように再び携帯のバイブレーションがメールの着信を
知らせる。
(今度は、小梅あたりですか――のぉっ!?)
 神海は我が目を疑った。今さっき届いたメールの差出人は――

『新着メール:1件』
『差出人:D−BOX』
『件名:アリガトウゴザイマス、アリガトウゴザイマス』

――だったのである。
(は、早すぎますよ!?)
しかも内容が、

『本文:サッソクデスガ、カイダンデス。
    ノボレマセン、ノボレマセン、
    タスケテクダサイ、タスケテクダサイ』

(これから柳川先生の授業なんですけど〜!?)
 さりげなくこんな所で『私と仕事どっちが大事なの?』的な選択を迫られてみたり。
 更に追い討ちを掛けるかのように妹達からのメールの着信も届いてくる。

(しかぁし、私の携帯ブラインドタッチテクニックをもってすればこのような状況も
問題無(モウマンタイ!))

 ガラガラッと教室の扉が開かれて柳川教諭が入ってくる。日直の「起立」という掛け声
に目もくれず柳川が手のひら大の物体を教卓の上においてスイッチを入れた。

「ぐぅおぉぉぉぉっっっっっ!!!!」

 その瞬間、ある生徒が悶え苦しむように教室内を転げまわる。
 当然、教室内の生徒の視線がそちらに向かう。

「最近授業中にも関わらず携帯のメールに夢中になっている輩が多いと今朝の
職員会議で問題になってな。早速だが、携帯電話を強制的に圏外にする装置を
使用させてもらった」
 転げまわる生徒など知ったことではないという感じで柳川はその装置を指差す。
「空き時間にありあわせで作ったものだったんだが……、こいつにも効果があるとは
ひとつの発見だな」
 そういって柳川がニヤリと笑う。
 視線の先には――

「ルゥ、ルリコの、ルリコの電波がぁぁぁぁ、
 受信で、で、受信できないぃぃぃ、ルゥリィコォォォォッッッ!!!」

 グチャッ

「発見ではあるが、ここまでやかましいと携帯電話よりタチが悪い」

 ――たった今、柳川によって命の火を散らされた肉片があった。

 一方、こちらは
(け、け、圏外ですとぉぉぉぉっっ!?)
 明らかにショックを受けていたり。



 授業が終了し、柳川が装置の電源を切る。そして、神海の携帯にメール着信を伝える
バイブの鳴動が。

『新着メール:24件』

 古いメールから新しいメールへとチェックしていく神海の表情が段々と曇っていく。
最新メールの件名だけでも見てみると。

『お兄様なんでー!?』
『お兄ちゃんサイテー』
『私なんて必要ないんですね……、ゴメンナサイ』
『ヒドイデス、ヒドイデス』

「………………」



 次の時間、
「おや、神海は欠席か?」
「なんか、ワビ入れてくるって言ってましたよー」



 〜翌月〜



「神海、あんさんに郵便やで〜」
「由宇さんありがとうございます」
 男子寮に戻ってきた神海に、由宇からそう言って渡されたのは携帯電話の請求書×4。
 自分自身のを含めて小梅・小竹・小翳らの請求書であった。
 元々この携帯も彼女達にせがまれて導入したんだっけと思いながら、封を開けて金額を
見て、そして硬直する。
「なんやなんや、どしたん? ……ゲッ」
 神海の様子を怪訝に思った由宇も思わず目を疑う。
 料金の安いプランを利用しているとはいえ、ちりもつもればなんとやら。
 特に妹三人+D−BOXとメールをしていた神海の請求金額は桁が違った。
「気ぃ落とすなや、人生こんな日もあるさね」
 由宇が神海の両肩をポンポンと叩く。
「由宇さん…」

「でも、三ヶ月滞納している寮費はまからんからな」

 死刑宣告にも等しい由宇の言葉。今月の神海の生活がどうであったかは定かではない。
ただ、へーのきの所にD−BOXに内蔵されたメール送信ユニットを取り外してくれと
泣いて頼む姿が見受けられたとかいないとか…。

                                    End.