ここは、日々非日常的な破壊と騒動が繰り広げられるこの試立Leaf学園。ここに また新たな厄介者が紛れ・・・もとい、新たな転入生がやってきた。 「はぁ〜、なんか噂に聞いていたよりはずいぶんとふつーの学校じゃないか」 それもその筈、現在は一時間目が始まったばかり学園内でも数少ない平和と平穏が訪 れる時間でも・・・なかった。 「おい貴様、悪びれもせず遅刻するとはいい度胸だ。学年と名前を名乗って貰おうか」 正門からのこのこやってきた男を風紀委員とディルクセンが取り囲んだ。一時限目開 始直後、すなわち風紀委員による遅刻者狩りの最中であった。 「はぁ?」 「貴様、人の言うことがわからんのか? 学年と名前を名乗れと言っているんだ!!」 「・・・その前に、あんた誰?」 霜月のあまりにも投げやりな発言は、ただでさえ怒りやすいディルクセンの堪忍袋の 尾を切るには十分であった。 「反省房一週間ほどブチ込まれて貰おうか!!」 ディルクセンの合図で周囲の風紀委員が一斉に警棒を構えた。別にどってことないい つもの遅刻取り締まりの風景なのだが、霜月は思い切り後ずさる。逃げ道はふさがれて いる。 (しょうがない、誤解は解かれそうにもないし、いきなりお札使うしかないのか・・・ って!?) キキキィィィッッッ!!! ドォーン!!!! 誤解も何も、釈明すらしていない霜月が覚悟を決めたその瞬間、猛スピードで突っ込 んできた1BOXに風紀委員の半分ほどが吹っ飛ばされた。よく見ると、TV局のロゴ が確認できる。紙一重で避けたディルクセンが抗議しようと1BOXに近づいたところ、車内から降りてきたのは広瀬ゆかりであった。 「あ、ディルクセン先輩じゃない。おはよ〜ございます」 「お、おはよ〜ございますじゃないっ!! なんて事をしてくれたんだ」 「ドラマの撮影が押しちゃって、マネージャーさんに急いで貰ったんだけど、これぐら いなら問題ないですね」 「大ありだ!! どうしてくれるこの有様」 「こんな所で転校生いじめてるあなた達がいけないと思うんだけど」 広瀬とディルクセンはこの展開についてゆけず、立ちつくしていた霜月の方を見る。 「転校生だと?」 「そう、今日このLeaf学園に転入することになった霜月祐依とも〜します」 ディルクセンに対して嫌みたっぷりの言い方で改めて自己紹介する霜月。だんだんと こめかみに血管がくっきり浮かぶディルクセンとのやりとりを見て、広瀬がクスクスと 笑う。 「大体、何で広瀬さんがこいつが転校生だって知ってるんだ、顔見知りか?」 「初対面だからよ」 広瀬の言葉にディルクセンはいまいち要領を得ない。 「風紀委員として人を束ねるつもりだったらLeaf学園の全員の顔と名前を覚えるの は常識よ、じょーしき。それに、私、女優だから☆」 「な・・・」 「あっ、いっけなぃ。急いでるんだったじゃ〜ねぇ」 あっけとに取られるディルクセンと風紀委員をおいて広瀬は去っていった。 「く、おぃ霜月とか言ったな。貴様・・・」 ディルクセンは後ろを振り返っただが、そこにいたはずの霜月の姿が見あたらない。 別の風紀委員が指を指した先には、広瀬とコミニュケーションを取りながら玄関に向か う霜月の姿があった。 「君、広瀬ゆかりって言うんだ。さっきはありがとな」 「いえいえ、女優としての勤めですから」 「ふぅ〜ん、女優ねぇ・・・」 「・・・聞かないんです? 女優の話」 「って、何聞いたらいいんだろう?」 「あら・・・」 広瀬は意外な答えに驚いた。 「そう、くるとは思いませんでしたわ」 「そう? ま、校長室に行って来るんでここで失礼するわ」 広瀬が校長室まで案内すると申し出たが、霜月はそれを断った。手を軽く振ってその 場を去っていった霜月を見送った後 「報告通り、って所かしら?」 と誰に聞かれることもなく呟いた。 「しまった、余計な寄り道するんじゃなかった・・・」 霜月はクラブハウス棟に迷い込んでいた。広瀬と別れたところから真っ直ぐ歩けば校 長室はすぐだったのに、冒険心が芽生えてちょっと寄り道してみたら、ものの見事に迷 ってしまったのであった。 「とりあえずどうしよう・・・」 霜月が思案に暮れる所、突然後方の扉が開かれてジン・ジャザムが現れた。 「ん? なんだ入部希望者か?」 「入部・・・? 違う違う!!」 霜月は科学部と書かれた扉の奥に怪しい機械類と、簀巻きにされている生徒を確認し た瞬間、全力で否定した。室内から簀巻きにされた生徒の魂の叫びが聞こえたが、気の せいだと思うことにした。 「あっ、そだ校長室を探してるんだけど」 「校長室? なんで?」 「いや、転校してきたから校長先生に挨拶しないと・・・」 その言葉を聞いた瞬間、ジンの頭の中にはある図式が浮かんだ。 1.この転校生を校長室まで親切丁寧に案内する。 2.千鶴さんに俺の優しさをアピールできる。 3,そして、俺様好感度アーッッップ!!!!!! 「あ、あの・・・」 霜月はジンの背中と目に炎が浮かぶのが確かに見え、思わず後ずさる。 「ん? じゃぁ、俺が校長室まで案内してやるよ。俺は3年のジン・ジャザム、宜しく な」 「ああ、俺は霜月祐依。一応3年生、霜月でいいよ」 「俺のこともジンって呼び捨てにしてくれて構わないぜ。じゃぁ同じクラスかもな、今 朝新しい机が増えていたから」 早速意気投合したジンと霜月は科学部の前を後にした。簀巻きにされた生徒の声が一 層大きくなった気がしたが、今は聞こえない。代わりにすさまじい機械音が聞こえてき たのも気のせいであろう。 「あなたが霜月君ね、Leaf学園にようこそ」 ジンに案内されて校長室にたどり着いた霜月は早速、千鶴校長と対面した。日本女性 の理想とも言える美しい黒髪に霜月も目を奪われた。横を見るとジンが少し赤い顔で棒 立ちになっていたが、彼の場合は美しさ以上になにか思うところがあるのだろう。 「そうだ、さっきクッキー焼いてみたの。耕一先生に持っていこうと思うんだけど、あ な達もいかが?」 (し、しまった!! 今は10時のおやつの時間、この可能性を忘れてた!) ジンの顔がたちまち青ざめる。そんなジンの心を知ってか知らずか、ジンの前に見た 目だけは普通のクッキーがやってくる。ジンは心の中で十字を切ってから一つを口の中 に放り込んだ。 (モグモグ・・・ん?) 覚悟を決めたジンであったがいつもとは違うクッキーに違和感を覚え始めた。 (こ、これは・・・確かに砂糖と塩を間違えてて、焼け具合もなったもんじゃないけど ・・・) ・・・視力OK。 ・・・右手OK。 ・・・左手OK。 ・・・右足OK。 ・・・左足OK。 ジンは、千鶴に悟られないように全身の各機能をチェックする。 (食べて、ひいじぃちゃんに会いに行くこともなければ、マジックナイトに変身するこ ともない、ただマズイだけの料理なんて、霜月の奴ツイテやがる!!!) 「じゃ、霜月君もどうぞ」 「あ、いただきます」 霜月もジンの様子に違和感を覚えながらもクッキーを手に取り口にやる。 「な、なんだこれ、マズっ!!」 瞬間、世界は凍り付いた・・・。 ああ、あの時のことは今でも覚えているよ。表情を崩さずに千鶴さんが俺と霜月の間 に立って、俺に背を向けて。だから、霜月の方を向いてから 「お気に召さなかったかしら、ごめんなさいね」 って言った後、俺には『にっこり』って書き文字が浮かぶのを確かに見たんだ。その 瞬間、霜月が膝から落ちたんだ。霜月の顔は真っ白を通り越して一種のオブジェみたい に、この世の者とは思えない顔をしていた。でも、振り向いた千鶴さんはいつもの俺が 知ってる千鶴さんだった。霜月の奴もその時の記憶をなくすし・・・。 「ジン・ジャザム回想録『炎の叫び』より」 「・・・う〜ん、ここは?」 霜月は、一人保健室のベッドに寝かされていた。外からは体育の授業中なのであろう か喧騒がこだまする。 「え〜と、校長室に入ったところまでは覚えてるんだけど・・・」 ガラッ 「すぃませぇーん、相田先生いますか?」 霜月が思案に暮れているところ、保健室に入ってきたのは体操着姿の長谷部彩であっ た。 「ここは、俺しかいないみたいだけど、どうしたの?」 「ちょっと転んじゃって」 彩が右足をやや引きずるように前に出す。右膝がうっすらと赤く血で滲んでいる。 「あらら、ちよっと消毒した方がいいね。そこ座っててよ、探すから」 彩を丸椅子に腰掛けさせると霜月は保健室の棚を漁り始めた。 「・・・これは違う、・・・これでもない、・・・クロロホルム? 何故?」 「あの、貴方は?」 する事がない彩は、背中を向けて棚を漁っている霜月にありきたりな質問を投げかけ る。 「ごそごそ・・・、え? 俺? 今日Leaf学園に転校してきた霜月祐依。なんでか わかんないけど気がついたらココで寝てた。君は?」 「私は、長谷部彩と言います」 「ふぅん、あ、これかな?」 消毒液と包帯一式を見つけた霜月が彩の向かいに腰掛ける。 「ちょっとごめんね〜」 「え? あっ」 言うが早いか、霜月は彩の右足を持ち上げ消毒液を吹き付ける。 「これぐらいなら浸みることはないと思うけど、こんなものかな? さて、包帯、ほー た・・・」 (こ、これはっ!!) 霜月はある事実に気がついた。 ドクッ、 丸椅子に腰掛けている彩の右足を霜月が持ち上げている。 ドクッ、ドクッ、 彩は体操着&ブルマー、すなわち生足。 ドクッ、ドクッ、ドクッ、 霜月の視線は白く美しい彩の両足接合点(核爆)に注がれてしまった訳で・・・。 ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、 「どうかなされました?」 (ここは保健室、今は授業中、人は来ない、ご休憩設備もバッチリ、しかも目の前には 俺好みの日本的美少女、つまり、つまり・・・) モンモンモンモンモン・・・・・・ 「し、霜月さん?」 彩の右足を掴んだまま、背中から怪しいオーラを立ち上らせる霜月に彩も不安を感じ て距離を取ろうとする。しかし、右足を霜月が話そうとしないので離れられない。 「長、長谷部・・・」 地獄の底から絞り出したような声にビビル彩。霜月の頭の中では既に官能小説よろし くの世界が展開、そろそろ椿の花がポトリと堕ちる頃であろう。 「お父さん、お母さん、ごめんなさいい、彩は先に逝きます」 観念したのか、彩も覚悟を決める。って自決する訳じゃないのに、彩も混乱している のか。 モンモンモンモン・・・・・・・カッ! ドガッ!! ドッゴォーン!!! 煩悩120%が臨界を迎えたのか霜月が両目を大きく見開いた瞬間、彩の目の前に一 陣の風が駆け抜けたかと思うと霜月が保健室の壁に突き刺さっていた。 「え? あ、梓さん」 「ったく、戻ってくるのが遅いと思ったら何やってるのよ、彩」 そこに彩と同じ体操着姿の柏木梓の姿があった。 「大丈夫? 変なことされなかった? 全く油断しすぎよ」 「え、ええ、でも・・・」 「どこの誰だか知らないけど、このくらいじゃ死なないでしょ、早くしないと授業終わ っちゃうよ」 「う、うん」 梓に引っ張られるようにして彩は保健室を出ていった。後には頭からドクドクと血を 流した続ける霜月だけが残された。 翌日 朝のホームルームの時間教師である藤井冬弥が到着し、歓談を続けていた生徒も慌て て自分の席に戻る。 「え〜、うちのクラスに新たな仲間が増えました。仲良くしてやれな」 扉が開かれ、霜月がゆっくりと入ってきた。その瞬間、生徒の方から叫び声があがっ た。 「あーーーー!! 昨日彩を襲った奴!!!」 「「なにぃっ」」 「ち、ちょっと、梓さん」 梓の叫びに、菅生誠二と橋本が同時に反応する。 「へ? 昨日?」 「「本当なんですか、彩さん!!」」 「あ、あの襲われた訳じゃ・・・」 「「ブッ殺ーーーース!!!」」 「え? え? え?」 事態を理解できない霜月に対し、冬弥が出欠欄の霜月の欄に欠席と書き込むのと、誠 二・橋本の拳が霜月の顔面をクリーンヒットするのは同時であった。