昼休みと言われてあなたは何を思い浮かべますか? 食事、歓談、休息、静寂、喧騒・・・etc。 ここ試立Leaf学園ではある一部分がクローズアップされているといえ、全ての 場面が平等に訪れる。そして、昼休み時間中の3年生の教室にものどかな一時が訪れ ていた。 「「「「いっただきまあ〜す」」」」「・・・・・・」 教室の一角で柏木梓、来栖川芹香、長谷部彩、大庭詠美、猪名川由宇といった3年 生女子軍団が机を囲むようにして昼食を広げる。ちなみに、梓、彩が手作り弁当派。 芹香、由宇が作ってもらった弁当派。詠美がパン派に分類されるのだが・・・。 「ちょっとまだなの〜、スカタン三人組」 色とりどり弁当が並ぶ4人に対して、抗議の声をあげる詠美の前には何もない。 「人に買いだしさせといて、ぜーたく言わない」 「5分以内に帰ってこいって言ったのに、ちょ〜むかつくぅ」 ドタドタドタッ、ガラッ 空腹に耐えかねた詠美が地団駄でも踏もうかとイラつき始めた頃、騒々しい音を立 て橋本、菅生誠二、霜月祐依の三人が駆け込んできた。 「来たやんか、スカタン三人組」 「「「誰が、スカタン三人組だ!!」」」 由宇の一言に誠二、橋本、霜月の三人が一斉に抗議の声をあげる。スカタン三人組 (命名:詠美)は詠美と同じくパン派であるのをいいことに、昼休みは詠美の下僕と 化していた。詠美に口喧嘩では勝った試しがない3人は、様々な理由で彼女のパシリ をさせられている。 一昨日は『漫画の構想を練りたいから』だった。 昨日は『1500m走をやって疲れている女の子に無茶させる気』と10kmを走 らされた相手に向かって言い放った。 そして今日は・・・ 「ゼェゼェ・・・で、ペンだこの痛みは大丈夫か?」 と誠二。 「ハァハァ、俺達の身体の痛みよりも辛いんだろう?」 と橋本。 「フゥフゥ、確か昨日俺達にベタ塗りさせている横で、スヤスヤ寝てたのは気の所為 なんだよな?」 と霜月。 「いいからとっとと、戦利品(パン)を出しなさい」 詠美は購買部でのパン争奪戦で名誉の負傷を追った3人の反論を取り合う前にパン の差し出しを要求する。お互いに顔を見合わせた3人は、揃ってため息をつくと黙っ てパンを差し出した。 「ちょっと、カツサンドはど〜したのよ、カツサンドは」 「「「ないっ!」」」 「とゆ〜より、葵ちゃんに奪われた」 霜月が痣になったお腹に湿布を貼りながら答えた。どうやら、崩拳をまともに食ら ったらしい。 「FENNEKと一緒に工作部でメシ食べてた方が、平和だったな」 誠二は制服がビームモップでズタズタにされている。 「弁当にすればいいのに」 「とゆーより、俺の弁当奪って早弁したくせにまだ食うのかよ」 梓の至極当然の一言に、暗器が背中に刺さったままの橋本が空になった弁当箱を詠 美に突きつけて抗議する。 「女の子はベツバラなの」 って、それはデザートの話では? 「ところでさぁ、霜月ってサークル活動はせぇへんの?」 食事タイムが終了し、ジュース片手に彩と話をしていた由宇が霜月に話し掛けた。 「サークルねぇ・・・」 「ウチ(工作部)にはこなくていいからな」 誠二が悩みだした霜月に向かって即答する。そんな様子を見て彩がしずしずと申し 出る。 「美術に興味はありませんか?」 「何、彩さん。そう言って下さるのでしたら、この橋本いつでも貴方のためにこの身 を差し出しますよ」 「駄目駄目、彩ちゃん橋本も霜チーもチョー下手くそなんだから」 詠美が指を振りながら会話に割り込んでくる。どうも、自分が会話に参加しないと 気が済まないらしい。 「の前に、なんだその霜チーってのは」 「何よ、折角詠美ちゃんがイケてる呼び名でよんであげてるのに、じゃあ祐ポン」 「・・・知らん、好きにしてくれ」 霜月はこめかみを押さえて、この会話に対して反論することを放棄した。どうせ飽 きっポイ詠美の事だ、日替わりで違う呼び名になるから反論するだけ無駄なのだ。 「・・・・・・」 「え? オカルトに興味はありますかって?」 霜月は芹香の突然の発言に驚いた。というより、転入後芹香とまともに会話したの が実は初めてだったりする。 「興味というより、ゴーストスイーパー見習いなんだけど。俺」 「・・・・・・」 「でしたら是非って、霜チーモテモテぇー」 いつになく積極的な芹香の発言に詠美が囃し立てる。その後方で、会話の主導権を すっかり奪われてしまった彩がオロオロしだしている。 「警備保障のバイトを始めたばかりだし・・・」 正直、今の仕事以上にオカルトに関わりたくなかった霜月は、芹香の申し出を断る つもりでいた。しかし、霜月は見てしまったのである。 「・・・・・・」(うるうる) 「う゛・・・」 瞳に涙を溜めた芹香が自分の眼前に迫って『お願い』ポーズをしているのだ。この 状況で断ることの出来る奴などいるだろうか? いやいない。 「け、見学ってことでいい?」 「・・・・・・」(にこっ) 「じゃぁ放課後、バイトに行く前にでも寄らせてもらうね」 鼻の下がいつの間にか伸びている霜月に対して呆れ顔でため息をつく芹香以外の面 々。そんなやりとりを教室の隅でじっと伺っている人物がいた。 「オカ研に霜月を入部させて、勢力強化を図るつもりか来栖川・・・」 その人物とは、たこさんウインナーをほおばるディルクセンであった。 「一人増えたぐらいで我々に対抗できるつもりか?」 策謀を巡らす頭脳は24時間フル回転とはいえ、箸を動かす手は止まらないようだ。 意外なことにディルクセンも手作り弁当派で、梓や彩に負けないぐらい立派な出来で ある。が、いかんせん教室内では一人で食べることが多い為、誰も気がついてくれな い。 「たまには親切な事をしてみるのもいいかもしれんな・・・」 何かを閃いたディルクセンであったが、と同時にコロッケの会心の出来に満足して いた。 〜〜〜〜〜〜 ジーーーーッ 清掃の時間、梓は自分の教室を担当していた。机を端に寄せてモップをかける。 ジーーーーーーーッ 「フ、フン、フフ〜」 鼻歌混じりでモップをかける梓。しかし、先ほどからなにか視線を感じるのだ。 ジーーーーーーーーーーーッ さすがに気味が悪くなったのか、周囲を見渡してみるとそこには ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ ズゴン!! 「な・に・を してるのかなぁ? 霜月は」 「観察」 ゲシィッ!!! 脳天に踵落としを食らわせた霜月の答えに、返す刀で顎を蹴り上げる梓。 「あいたたた・・・。こんなたわわに実った胸に興味を示さない男は不能か薔薇か ってことで、どれ」 むにっ 霜月はしゃがんだままの体制でモップの柄で梓の胸をつつく。梓は顔を伏せたま ま柄を掴んで・・・その柄を握り潰す。床のパネルも梓の足下から徐々にひび割れ ていく。 「霜月、一生懸命床を掃除するのと、今この場で私に掃除されるのとどつちがいい?」 「・・・床、磨かせていただきます」 ジーーーーッ そんな霜月と梓のやりとりを廊下から見つめる視線が三つ。東西とトリプルGと エーデルハイドである。 「あれが、風紀委員の連中が話していた霜月という奴ですね」 「噂には聞いていたけど、ホント『歩くセクハラ』って感じだ」 芹香に片思い中のトリプルGは、自分の近くで風紀委員が『あの霜月が芹香を狙 ってオカ研に来るらしい』との会話を聞き、いてもたってもいられず東西を連れて 偵察に来たのであった。 「で、なんでこいつまで付いてきたんですかね?」 「ご主人様を守るつもりなんでしょうね」 トリプルGの問いに答えた東西の背にエーデルハイドが器用に乗っていた。エー デルハイドは東西の答えを肯定するかのように一鳴きする。 「・・・みんなに知らせないとな」 「にゃー」 「ちょ、ちょっとトリプルGさん、まって下さい〜」 〜〜〜〜〜〜 「ふぅ〜ん、じゃ結構本格的なことやってるんだ」 「・・・・・・」 コクッ 放課後、霜月と芹香はオカ研部室に向かっていた。芹香は霜月にちょっとした儀 式魔術を見せてくれると言った。その内容は後のお楽しみらしい。 「・・・・・・」 「え、着きましたって」 頷いた芹香が部室の扉を開ける。中にはエーデルハイド・神凪遼刃・トリプルG・ 神無月りーず・東西・沙也香・T-star-reverse・皇日輪・神海といったオカ研の面 々が勢揃いしていた。 (あれが霜月祐依・・・) (あの人が女性の敵・・・) (あいつが芹香先輩を・・・) その場にいた全員が奇異と言うより敵意をもった目で霜月を迎える。彼等は全員 が何らかの形で風紀委員をニュースソースとして事前に情報を得ており、清掃時間 に偵察に行ったトリプルGと東西の言葉が悪印象に拍車を掛けていた。 「・・・・・・」 「みなさん、どうなさいましたって、どうもしませんよ。ぎ、儀式前だから緊張し てるんですよ。ねぇ皆さん」 神凪の言葉に一同が頷く。その言葉に安心した芹香は霜月を招き入れようとした。 が、オカ研の部室に一歩踏み込んだ霜月の表情が真剣な物へと変わる。 「なぁ、来栖川。これはどういうことだ?」 霜月は素早く背中に手を回すと神通根を取り出し、天井に向かって突きつける。 霊力を帯びた神通根が薄暗いオカ研に光り輝く。 「貴様っ!」 場の空気が一瞬にして緊張したものに代わり、皇が錫杖を霜月に向かって突きつ けた。他の部員も一斉に身構える。しかし、霜月は彼等の行動などおかまいなしに じっと天井を見続ける。 「・・・・・・」 「彼等は、大切な部員だって?」 この緊張を破ったのは芹香の一言であった。芹香はオカ研にいる幽霊は正式な部 員であること、ここの部長は文字通り幽霊であること。彼等がオカ研を設立してき た経緯を説明した。 「・・・そうか」 霜月は神通根に霊力を注ぐのを停止した。と、同時に場の緊張した空気も徐々に 薄れていく。オカ研部員の臨戦態勢も解かれ、芹香はほっと胸をなで下ろす。 「幽霊部員の皆さんに驚いただけですか」 「確かに初めて見た人は驚くけど・・・」 トリプルGと東西は自分の心配が杞憂に終わって安心した。しかし、今の霜月の 反応が驚きだけでは無いことに不安を覚えた。 「そーだ、霜月さん・・・」 「来栖川、ちょっといいか? 話がある」 「ちょ、ちょっと、霜月さん? 待って下さい! 霜月さん!!」 とりあえず、場を和まそうと会話切り出そうとしたりーずの言葉を遮って、霜月は 芹香を連れ出していってしまった。東西の制止に耳を傾けることなく、芹香以外の部 員を無視するような霜月の行動に残された部員は怒りを覚えた。 〜〜〜〜〜〜〜 「―――さっきの話から言うと、彼等の存在理由はなんだと思う?」 霜月は来栖川を屋上に連れ出していた。夕日の赤色が支配する舞台に足を踏み入れ た二人の役者を見守る観客はいない。 「幽霊が現世に留まるにはそれなりの理由がある。来栖川の過去を知っている訳じゃ ないけれど推測は出来る。それは・・・」 芹香は霜月の言葉に続くように言葉を紡ぎ出す。自分がこの学園に入学し、たった 一人でオカルト研究会を続けていた頃の気持ち。それよりも前からオカルト研究会を 守っていた彼等の気持ち。その想いは一つ、すなわち オカルト研究会を守る想い 「そのことが悪いって訳じゃない。けど、幽霊にとってそれはなによりも危険なこと だって来栖川ならわかっているんじゃないのか?」 「・・・・・・」 芹香は霜月の言葉に強き意志をもった目で反論する。『彼等はそんなことをする存 在じゃない』 「芹香さんの言うとおりです」 そんな神凪の声と共に屋上への入り口からオカ研部員一同が現れ、霜月を取り囲む。 エーデルハイドは芹香の元に寄り添い、ご主人様を守るかのように威嚇の構えを取る。 「盗み聞きはお勧めできないけど」 「霜月さん、あなたはなんのつもりでこんな・・・」 肩をすくめて見せた霜月に東西か問いかける。 「まさかとは思うが、生徒指導部の差し金か?」 「風紀委員がああも口が軽いのも不自然ですが、生徒指導部とあなたが繋がってると すれば話は繋がる」 皇の言葉が発したキーワードに導かれるように、トリプルGが一つの仮説を霜月に 突きつける。 「そんなことして、俺にどんなメリットが」 (ま、確かにそうかも) 神海が霜月の言葉に一人納得する。 (と、なると霜月さんがいいたい事はつまり・・・) T-star-reverseはオカ研の自分から離れて第三者の立場で考えてみた。霜月は確か ゴーストスイーパーだと聞いている。少し彼の言いたいことが見えてきた。 「・・・意志を持った幽霊というのはそれだけで危険な存在なんだ、その意志が純粋 であればあるほど。そして、純粋な力を利用しようとする悪意はどこにでもある・・・」 「霜月さんの言いたいことは入部した時から覚悟していました」 芹香の言葉は自らの意志を表現するために発せられる。その言葉は、はっきりとし た音声となって鼓膜に届く。 「だけど、私が生まれる前からこのオカルト研究会を守ってきた彼等の思いは無駄に したくありません。将来、私がこの学園を卒業した後もオカルト研究会がオカルト研 究会であり続ける為の努力を、私は惜しみません」 芹香の意志に周囲の部員全員が頷く。自分たちがオカルト研究会を守るという強固 な意志を象徴するかのように。霜月は首を振って全員の顔を見渡した後、屋上出入り 口に向かって歩き出した。 「霜月さん、話はまだ終わってません」 「残念ながら時間切れ。バイトの時間なんでね」 東西の言葉に霜月は背を向けたまま答え、その場を去っていった。 〜〜〜〜〜〜 深夜、霜月は警備保障の夜間見回りを行っていた。一年生棟、二年生棟、三年生棟 と何事もなく進んでいく。そしてクラブハウス棟のオカ研部室前にまで来たとき、霜 月はこれまでとは違う変化を発見した。 「これって、確かおまじないの一種で・・・」 部室の扉には魔法陣が描かれた布が打ち付けてあり、周囲はなにやら清めの儀式を 行ったらしい跡を見つけることが出来た。儀式魔術にはそれほど詳しくない霜月であ ったが、記憶の片隅からこれがどういう効果をもたらすものかを思い出した。 「障気を祓うやつだっけ・・・」 霜月はポケットから銀製のネックレスを取り出すとその場に置いた。第二購買部で beakerに勧められて購入した幸運のお守りだそうだ。 「さっきはビビらせて悪かったな。だけどあなた方の純粋な想いは何色にも染まりや すいってことだけはわかって欲しいんだ。俺はゴーストスイーパーとして、霊退治を ビジネスとする世界で生きてきた。あなた方を祓いたくないけど、依頼が来たら私情 を挟めないんだ・・・」 霜月の独白は満月だけが聞いていた・・・のかも知れない。 〜〜〜〜〜〜 翌日、今度は美術部の見学をすることとなった霜月は彩と一緒に美術室に向かって いた。何故か、誠二と橋本も見学したいと言い出したので一緒である。 「結局、昨日のオカ研はどうなったんだ?」 「・・・嫌われただろうな、みんなに」 誠二の言葉に霜月は頭をかきながら応える。芹香は登校はしているものの、授業に は出席をしていなかったので、彼女がどう思っているか確かめる術はなかった。 「あそこに見えるのって芹香さんじゃないか?」 橋本が窓の向こうを指さす。中庭を挟んだクラブハウス棟の廊下では数人が動き回 る姿が確認できた。その中に芹香の姿も確認できる。 「ごめん、来栖川に昨日のこと謝ってくる。先行ってて!」 そう言うと霜月はクラブハウス棟に向かって駆けだした。 「りーずさん、そっちの棚持ってくださーい」 「沙也香さん、雑巾取ってもらえる〜」 オカ研前の廊下にはロッカーや蔵書の数々を始めとして様々な物が無造作に置かれ ている。そして、その場にいる全員が頭巾にマスク、エプロンといった出で立ちであ る。そして、一人割烹着姿の芹香を見つけた。 「お〜い、来栖川ー!」 芹香は霜月の姿を見つけると駆け寄ってきた。 「・・・・・・」 「昨日はすみませんでしたって、謝るのは俺の方だよ。で、大掃除してるの?」 「・・・・・・」 「埃がたまった部屋というのも障気は溜まり易いですからね。それに、負の力を使用 したりもしますからそれに引き寄せられる悪霊ってのも少なからずいますし」 芹香同様、霜月に気が付いたT-star-reverseが芹香の言葉を代弁する。 「ゴーストスイーパーの手を煩わす事はさせませんよ。それにここの人たちなら大丈 夫。永い時を見てきた僕が保証します」 「見習いだけどね」 T-star-reverseの言葉に霜月は笑って答える。 「さて、じゃこれで失礼するわ」 「・・・・・・」 「俺がオカ研にいると多分、この結束が乱れる気がするから・・・ごめん!」 芹香の誘いを霜月は両手を合わせ、断った。自分の立場がオカ研にとって不利にな る予感がしたからだ。 「・・・・・・」(しょぼん) 「今度、儀式やるときはみせてよ。ね」 うなだれる芹香に霜月がフォローを入れる。芹香の表情が元に戻るのを確認した霜 月は改めて芹香に謝罪し、その場を去っていった。 「来栖川先輩ー、てぃーさん、こっち手伝ってくださぁい」 東西の言葉に二人とも掃除に戻っていく。彼等の結束はより一層強固な物へとなり、 それは次の世代に確実に伝わるであろう。今までがそうであるようにこれからも・・・。