『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』第二十九話 〜 A Game We Shouldn't Play 〜 投稿者:皇日輪




「ちくしょー……痛ってー」

 打ち据えられた左手を撫でつつ、声をあげたのは名もなき男子生徒である。

「誰だよ……みんなでかかれば、何とかなるって言った奴……」

 先ほどの彼とは別の男子生徒――判りづらいので仮に前の生徒をA、後に話した生徒
をBとしておこう――は、あたりを見渡した。
 ある教室の一角――彼らの周りには、彼らと同様に肩を落とし、ぐったりとした男子
生徒達が数十人ほどいた。
 彼らは、コンテスト序盤に、隆雨ひづき、悠朔、佐藤昌斗等を襲った男子生徒達であ
った。

「でもよー。 途中まではいい感じだったじゃんよ」
「ひょっとしたら『いけるかなー?』って思ったもんな」

 Aの言葉に頷くB。
 確かに、彼らは、隆雨ひづき等三人を相手に善戦したといえる。
 最後には鉢巻を斬られて――服まで斬られたが――あの状況まで、三人を追い詰めた
事は事実だ。
 圧倒的多数を持って少数を攻める。その方法自体は、必勝の方法には間違いないのだ
し、あのようにルールを利用した手段を悠朔と佐藤昌斗がとらなければ、確実に彼らは
勝っていただろう。

「結局最後には、SS使い達が邪魔をするじゃん」
「あいつら……いっっっっっっっつも、おいしい目を見てるくせに……
 たまには俺達にも、いい思いさせろってんだよなっっ!!」
「おっ? はじまったか、Bの『SS使いなんて病』」
「だってよ〜、悔しいじゃねーか。 なんだかんだ言いつつ、あいつら、この学園を我
が物顔で牛耳ってるんだぜ? 
 俺達だってこの学園の生徒だってのによ。
 おかしな力まで使いやがって、そんなの絶対に不公平じゃね……ふぐふぐふぐっ!」
「しーっ! しーっ! あんまりそんな事、でかい声で言うんじゃねえよっ!」

 慌てて、Bの口を押さえるA。
 そういえば、Bは、ディルクセン先輩の事をベタ誉めしていたっけ……と思い出す。

「だったら、生徒指導部にでも入ればいいじゃんかよ」
「ふっ……俺は、慎ましく穏やかな平和主義者なのだ……」
「うそこけ」

 思いっきり呆れた顔でつっこむA。
 どこの世界に、数に任せて少数を押さえ込もうとする平和主義者がいるものか。

「なにいっ!
 短時間で戦いを終わらせ、尚且つ、周りへの被害を最小で押さえる事のどこが平和的
ではないとっ?
 それこそ某国大統領だったら「君こそ正義だ」と褒め称えてくれるのにっ!」
「はいはいはい。 
 そのノリには、絶対に俺は、ついていかないから、勝手に続けてくれ」
「ちっ……友達がいのないやつめ」
「まあ、それはさておき……これからどうする?」

 不満ありげなBを無視し、Aは問いかける。
 もちろん――「もう一度やるのか?」と言う意味である。

「当然、やる――――と言いたいところだが……」

 言って、Bは、周りに倒れている他の男子生徒を見渡す。

「考えなしに突っ掛って二度も三度も同じ目にあうのは嫌だな」
「――その前に、そのなんだか無意味に偉そうな口調を直せよ」
「…………」
「…………」

 沈黙。
 そしてAとB、見詰め合う事、きっちり五秒

「……………………癖になるんだよなー。この口調」
「ああ、もう……なんなんだかな、おめーわ……」

 へらへらと笑うBに頭を抱えるA。







 そろそろ頃合だろう。
 教室の前で、男子生徒達の話を聞いていた僕は、彼らの話が一段落ついたのを見計ら
って教室のドアを開けた。
 ガラガラとドアの立てる音に、彼らは一斉に僕のほうを見た。
 皆、一様に「誰だ?こいつ」といった顔をしている。
 まあ当然の反応だ。僕は、別に彼らと面識があるわけでもないし、ここは、何千人単
位の生徒が通う試立Leaf学園だ。学園内に知らない顔など何人もいたところで珍し
くもなんともない。
 だが僕が彼らに、言うべき事はひとつだ。



「その話…………手伝ってあげましょうか?」



『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』
  第二十九話 〜 A Game We Shouldn't Play 〜



「えー! メグミちゃん、さらわれちゃったのー!」

 トイレから戻ってきた松本は、たくたくから事情を聞いてた。

「慌てて追いかけたんですけど…… 
 ……すみません。 見失ってしまいました」

 申し訳なさそうに、うなだれるたくたく。

「……ううん。 たくたく君のせいじゃないよ」

 吉井は、落ち込むたくたくの肩に手をおき、優しい声で言う。

「私だって、あの時、咄嗟に動けなかったんだし……」
「……吉井さん……」

 見詰め合う吉井とたくたく。
 ちなみに、後ろで『なーに? 急に背景に花が咲き始めたよー?』と、松本が騒いで
いたりする。
 そんな松本に構わず吉井は、続ける。

「さっきの死森って人に、威嚇されて、たくたく君が怯んじゃった時は、ちょっと、ア
レかなー?……と、思ったけど、ああいう状況じゃ仕方がないよね。 
 怖かったもんね、死森って人。
 でも、ああいう状況になる前に逃げ出してれば何とかなったかもしれないよね。
 ……って……ああ……いまさらこんな事言っても仕方がないよね」
「……吉井さん……」

 その言葉にワカメ涙を流す、たくたく。
 たちまち萎んでいく花。
 その様子に『あれ? あれ?』と松本。

『「嗚呼っ 愛し貴方はやっぱし天然鬼畜」……てな感じだな?』
「うるせいやいっ!」

 余計な事を言う寄生生命体的おさげ。
 ……どーでもいいが、自分の後ろ頭にツッコミいれる気分というものはどういうもの
だろうか? いや、ほんとにかなりマジ本気で、どーでもいいが。

「あの……すみません……ちょっと……」

 そんな、たくたく達にかけられた控えめな声。

「……藍原さん?」
「あっ……はい、すみません」

 なぜか謝ってしまう瑞穂。その様子に岩下は苦笑している。
 実は、瑞穂はずっと話しかける機会をうかがっていたのだ。

「あの……皆さんは、これからどうなさるんですか?」

 三人は顔を見合わせる。

「どうする……って……」
「やっぱり、メグミちゃんを助けに行くしかないっしょ?」
「でも、どこにいるか分らないし、見つけ出しても私達だけじゃ不安……」

 そのまま、黙り込んでしまう三人。

「……あの……もしよかったら……」
「藍原君っ!」

 彼女が彼らに何を言おうとしているのか察し、岩下が声を荒げ、瑞穂を静止する。
 その声にびくりと身を振るわせる瑞穂。
 少し、瑞穂は戸惑いの表情を見せたが、意を決したように、岩下のほうに向き直り、
言う。

「いけませんか、信さん?」
「むざむざ君を危険に晒すような事は、僕には出来ない。
 ……それに、仮に守備良く助けたとしても……彼らはどのみち敵となる人間だ。
 だから……」
「信さん」

 なおも言い募る岩下を今度は瑞穂が止める。

「――死森さん、言ってました。
 …………私の代りに岡田さんを連れて行くって……」
「――藍原君、それは……」
「いけない事ですか? 自分の代りに犠牲になった誰かを助ける事は? 
 それは、本当にいけない事ですか?」

 視線を逸らさず、瑞穂は、じっと岩下の目を見る。
 気がつくと、たくたく、松本、吉井も岩下を見ていた。
 ……SOSは、少し離れた壁際で、そんな、岩下と瑞穂をずっと見ていた。
 しばしの沈黙。
 やがて、聞こえてきたのは岩下のため息。

「――わかったよ、藍原君。 彼らに協力しよう」
「はい……ありがとうございます、信さん」

 本当に嬉しそうに瑞穂は岩下に微笑み、

「それでは、ほんの少しの間ですけど、手伝わせていただけませんか?」

 ――そんな様子に、SOSが、くすっと笑ったような気がした。






 あ〜ふろは続く〜よ〜 どこまでも〜♪ (ピッピ〜♪)
 野を埋め、山埋め〜 谷〜埋めて〜♪  (ピッピ〜♪)
 アフロの街まで〜 敷き詰める〜♪   (ピッピ〜♪)
 楽しいアフロ夢〜 繋いでる〜♪    (ピッピ〜♪)

 ……やはり、アフロ行進曲五番とかにした方がよかったろうか?
 まあ、そんな事はさておき。
 月島瑠璃子率いるアフロ同盟御一行は、今もって順調にその勢力を強めながら北上し
ていた。このままだと、勢力が衰えないまま、北海道まで到達しそうな見込みです……
てな感じだった。



 いや、マジで。



「んふっふっふっふ……見ーつけちゃった☆」

 そんなアフロ同盟を、廊下の曲がり角に隠れながら見、無気味な笑いを浮かべる女
生徒がいた。
 力を得るために今やアフロに身も心も売ったかもしれない女――太田香奈子である。

「ついにこの時が来てしまいまシタネ……」

 その横で、彼には珍しく何やら沈痛そうな表情を浮かべるTaS。
 さらに二人の後ろには、もはやアフロな生徒指導部の面々が、滂沱の涙を流しながら
整列させられてたりするのだが、それはTaSと香奈子には関係のない事柄だった。

「……なあ、美也」
「……なに?」
「俺達、いつまで、このままなのかな?」
「……知らないわよ、そんなこと……」

 彼らの行く末は、まさにアフロのみぞ知る。



 はっきり言って信用ならない。
 それが、霜月祐依が受けた、彼の印象だった。
 砂埃を上げながら、突然、原付に乗って表れた彼は、どうやら自分たちを探していた
らしい。
 しかも、霜月達に協力したいのだそうだ。
 霜月は、彼には見覚えがなかったし――詠美にしてもそうだろうが――そもそもこう
いう状況下で、まったくの初対面の人間を相手に「協力したい」と申し出てくる人間な
どいるものなのだろうか?
 更に言うならば、すでに詠美はコンテストを脱落した――本人は認めていないが――
ともかく、すでに脱落した人間に「協力して」、彼はどうするつもりなのだろう?

「ねーねー、祐依ー。 早く行こうよー」
「――――あのなぁ〜、詠美……」

 詠美はもうすでに、彼を仲間に加える気のようだ。
 ……というか、早速、彼が乗ってきた原付に座っていることをみると、ただ単に昼頃
から連呼していた『歩きたくない〜』が、目の前の手ごろな乗り物を見て再発したらし
い。
 詠美ちゃん様、悪いが、それじゃ、まるっきり、お子様だ。

「……彼女は、もうやる気みたいなんですが」

 その彼――皇日輪は、霜月に「どうします?」という視線を投げかけた。

「貴方方にとって、決して悪い提案ではないとないと、僕は思うんですけど――」
「――ああ、確かに
 確かに悪い提案では、ねえな……
 ――――ただひとつ、あんたが、何を考えているか、分らない事を除けばな」

 睨み付ける霜月。

「正直……あんた、胡散臭いよ」
「……まあ、ごもっともな意見ですね」

 対して、場違いな柔和な微笑を浮かべる皇。
                      ・・・・
「どうせなら、言っちまいなよ。 ……お前……誰の味方だ?」
「……僕としては、その質問にお答えしても良いのですが……」
「答えるわけにはいかない……てか?」
「…………まあ、言ってもかまわないでしょうね」

 少々困ったように、皇は視線を横に逸らし、人差し指で頬を掻く。

「僕は、今日は、来栖川芹香先輩に協力するために学園に来ています。
 ……理由は……とりあえず、部活の先輩を応援するためって事にしておきましょう」
「オカ研の人間だったのか、お前……
 ……で、『とりあえず』てことは、他に理由があるって事だな?」
「ええ、まあ。 人にはいろいろ事情がある……とだけ、ご理解いただければ、僕的に
は、すごく嬉しいのですが」

 ――答えたくないということか。

「…………質問を変えようか?
 それなら、なんで、直接、来栖川の護衛につかない?」
「来栖川先輩の護衛には、もうすでに、すごく強い人たちが付いてるみたいですから。
 だったら、攻撃側に回って、先輩と護衛の方々の負担を少なくしてあげればいいので
はないかと、思いましたから」

 その点に付いては霜月も同意見だ。
 ……だが、結果としてそれは裏目に出たが。

「――それで、なんで俺たちなんだ? 声をかけるのなら他にも沢山いるだろう?」
「たとえ、攻勢側に回っていたとしても、エントリーヒロインが、いっしょにいる人た
ちは除外させていただきました。……理由はわかりますよね?
 で、なんで霜月さんたちなのかってことになるんですが。
 ……霜月さんは、なんでもゴーストスイーパーを職業としていらっしゃるとか。
 でしたら、適切な協力が出来るのではないかと思いました。
 ――だからです」
「オカ研だったよな? ……お前も、ゴーストスイーパーなのか?」
「いいえ。 ……でも、似たようなものですよ」

 霜月の方に向き直り、皇は、続ける。

「質問は、それだけですか?」
「……いや、待て。 最後にもうひとつだけある」

 霜月は少し意地の悪い表情をして言った。

「お前……俺たちが、来栖川をひん剥きにいくと言い出したらどうするつもりだ?」

 皇は一寸、考えるそぶりをした……が、最初に見せた柔和な笑みを浮かべ、
                 ・・・・・・
「……どうぞご自由に。 ただし……あまりお勧めは、しませんよ?」

 その穏やか物腰とは明らかに食い違う不敵な言葉。
 その言葉に、にやりと笑う霜月。

「……いいだろう……お前の話に乗ってやろう。
 ……結構……面白い人間みたいだしな……」
「面白い? ……僕、よく、つまらない奴だな〜……って、言われるんですけど?」
「いやいや。 ……実に、お前は面白い人間だよ」
「…………? まあ、いいですけど……」

 皇は、本当に、不思議そうに小首をかしげる。

「みゅう〜 これどうやって動かすの〜?」

 不満げな詠美の声が聞こえる。

「お呼びのようだな?   ・・
 ……じゃあ、いこうかね、同志さんよ?」
「……はい。 よろしくお願いします、霜月先輩。
 ……僕、こう見えても『鬼ごっこ』は、得意ですからきっと役に立って見せますよ」



                                                          ――To Be Continued.



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