どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト 第三十三話「A Night in the Garden」 投稿者:皇日輪



(バレなきゃ問題ないよな。うん。問題ない。のーぷろぶれむっ)

 決めてしまえば、この男の行動は早い。
 YOSSYFLAMEは、意気揚揚と鈴香たちが水浴びをしている泉へと向かっていた。
 すっかり日が暮れ、暗闇と静寂に包まれた森。
 その森の中に、時折、聞こえてくる麗しき乙女たちの楽しげな声と水音。
 そう……それは、あたかもYOSSYを誘っているようでもある。

(この状況下で覗きに行かないのは、彼女たちに失礼だよな〜)

 などと、いささか勝手なことを思うYOSSY。
 泉まで続く獣道は、木々の間から漏れる月明かりによって、照らされていた。
 すっかり暗闇に目が慣れたYOSSYには、その明るさだけで苦もなく森の中を歩くこと
が出来る。

(バレないように、バレないように……)

 この静寂の中では、自身の土の踏みしめる足音さえ大きく聞こえる。
 それでも、必要最小限の物音しか立てないように、細心の注意を払う。
 泉の近くまでいったら、どこか隠れる場所を探さないといけない。
 そんなことを考えながら、進む。

 ――突如、背筋を走る悪寒。
 YOSSYは、視界の隅にうつった光から、とっさに身をかわした。



どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト 第三十三話「A Night in the Garden」



 はずみで、足元の土や落ち葉が巻き上がる。
 仰け反るようにしてかわしたYOSSYの頭上すれすれを、光る“それ”は、音もなく通
り過ぎる。
 そして、それは、宙に舞った落ち葉を攫い、そのまま森の奥へと飛んでいく。

「ちっ!」

 地面を蹴るようにして、すばやく体勢を立て直し、あたりを見回す。
 だが、YOSSYは襲撃者の姿を見つけることはできなかった。
 風が木々を揺らす音と虫の声、そして、YOSSY自身の息遣い。
 聞こえてくるのはそれらだけであった。
 襲撃者の気配は、感じ取ることはできない。

「!!」

 またも、森の中から突然現れた光を、YOSSYは持ち前のスピードで木を盾にするよう
にしてかわす。
 今度は、その光は、木に突き刺さって止まった。

「……なんだこりゃ?」

 木に突き刺さっていたのは、三日月のような形をしたものだった。
 YOSSYが指先で触れようとすると、

「――弧月っていうんですよ、それ」

 背後からの声。
 振り向きざまにYOSSYは、木刀を振り払う。
 だがその一撃は、あたりに風を切る音を響かせただけだった。

「おっと、あぶない、あぶない」

 まるで相手をからかっているかのような口調。
 YOSSYは、いつのまにか背後に現れた襲撃者をにらみつける。
 そんな視線にも動じず、襲撃者は、YOSSYに、にっこりと微笑みかけた。
 その笑みには、まったく邪気というものを感じられない。
 背丈は、YOSSYと変わらないぐらいだろうか。先端に飾りのついた背の高さよりも長
い棒――錫丈をもっている。
 長めに切りそろえられた黒髪を後ろで、結わえている。
 暗がりで、はっきりとは見えないが整った顔立ちをしているように見える。
 服装が、男性のそれではなかったら、女性と見間違えるかもしれない。
 だが、YOSSYには、見覚えのない、はじめてみる顔だった。

「一体、何のつもりだかは、しらねえが……誰だ、オマエは?」
「……「誰だ」ときましたか」

 なぜか、肩を落とす襲撃者。

「あー……。まあ、僕の名前なんてどうでもいいでしょう、YOSSY先輩?」
「……会った事、あったけか?」
「いやいや、先輩は……ほら、有名人ですから」

 あまりよい意味ではありませんが、と続け、けらけらと笑う。
 場にそぐわない能天気な態度。
 YOSSYは、半ばあきれる。

「で?その名前なんかどーでもいい名無しのごんべが何のようだ?」
「ああ、それそれ……」

 襲撃者は、錫丈をYOSSYのほうに向ける。
 彼はにっこりと笑う。

「……ちょっとした時間稼ぎに……ね?」






 時間は、少し前に遡る。
 夕刻。日が落ち、徐々に暗くなっていく中、彼らは森の入り口付近にいた。

「……にしても、水浴びとはな〜」

 こんな時にのんきなもんだな――と霜月は、言った。

「なにいってんのよ。こんな時だからこそ、水浴びしたいんじゃない」
「そういうもんか?」
「そーよ。一日中、走り回って、べとべとになって、これで、お風呂に入りたくならな
い女の子なんているわけないじゃない。じょーしきよ、じょ・う・し・きっ」

 そう力説する詠美。
 その横で、なぜか女の子ではない皇が、うんうんと肯いていたりする。

「まあ、それはおいておいて。
――こうして相手がわざわざ、弱点をさらけ出してくれてるんですから、いかないては
ないかと」
「そりゃ、そうだがな。闇雲に突っ込んでいっても、逃げられるだけかもしれないぞ」
「……ふむ」

 皇は、森のほうをみる。

「この森の中では、バイクはそれほど速くは動けないですし……」
「バイクってのは、見かけよりずっと小回りが効かないからな。しかも、パワーの強い
大型のバイクならなおさらだ」
「ですから、そちらのほうは、あまり心配は要らないです。
むしろ問題なのは……」
「よっしーだな?」
「ええ」
「奴の足なら、仮に俺たちが泉のほうに先に向かったとしても、すぐに駆けつけて来る
だろうしな。奴の相手にもたついてると、とっとと、とんずらされるぞ」
「……YOSSYさんが噂どおりの人なら、すぐ近くにはいないとは思いますが」
「は?なんでだ?護衛するなら近くにいたほうが都合がいいだろうに」

 はぁ……と、ため息をひとつ。
 皇は、詠美のほう向き直る。

「大庭先輩。
もし大庭先輩が、水浴びをするとして、霜月先輩をすぐそばにいさせますか?」

「ぜーったい覗くから、嫌」

 きっぱりと言い放つ、詠美。

「即答かよっ」
「だって、祐衣、「覗かないで」っていったら、「覗かないのは失礼だ」とかなんとか
いって、ぜーったい、覗きに来るもんっ」
「そりゃまあ、当然、覗きに……
――って、誰が、お前のへなちょこ幼児体型何ぞ見に行くかっ。そんな台詞は、南さん
か、彩ちゃんなみの魅惑の曲線を会得してから言いやがれっ」
「ふんふんふーんだっ。祐衣は、詠美ちゃん様のちょーないすばでぃを知らないから、
そんなことが言えるのよっ」
「はんっ!じゃあ、このウェストの肉はなんだっ!」

 ふにっ☆

「きゃあっ!ちょっと、どこつかんで――きゃっ!」

 霜月の手を避けた詠美が、足を滑らせ派手に尻餅をつく。

「いたーいっ、なんなのよっ」
「おっ、おい、大丈夫かっ」
「だいじょぶじゃないわよっ。もう、お尻痛いし……あいたたっ」 

 涙目になりつつ、詠美は立ち上がり、泥を払う。

「あー、お尻がびちょびちょ……」
「あ?雨も降ってないのになんで、濡れて……って、おい、なにをしてるんだ?」

 気がつくと、今の今まで黙っていた皇が、詠美がこけた場所にしゃがみこんでいる。
 霜月が近づくと、そこには詠美のこけた跡……というよりも、尻型があった。

「……でっかい尻型だな」
「いえ……確かにそうですけど、そういうことではなくて」
「ちょっと、誰がでっかいお尻よっ!!」
「誰もお前のがとは言ってねえよ。
今、何か拭く物もって来てやるからおとなしくしてろっ」

 そういうと霜月は、その場を離れる。
 皇は詠美のこけた跡の土に、手を触れてみる。

「……湿ってる」

 詠美がこけた跡の土は、水気を多く含んでいた。
 その跡の一番深いところには、すでに少量の水が集まって溜まりつつあった。

「――そうか。泉が近いから」

 そうつぶやくと、少し考えをめぐらせる。
 そして、

「霜月先輩」
「あん?」
「なんとかなるかもしれません。いきましょう」






 夜の森。
 YOSSYは焦っていた。
 常人には、とても出せないスピードで森の中走るYOSSY。
 だが、その常人離れした脚力は、今の彼にとって仇になっていた。

「おわっ!」

 突然、足元の感触がなくなる。
 転びそうになるのを、なんとか他の地面を蹴って立て直しを試みる。

「っ!!」

 そこに狙い澄ましたかのように、飛んでくる弧月。
 YOSSYは、その場で立ち上がるのをあきらめ、地面を転がり、弧月を避る。

「くそっ!」

 木の根元まで転がったところで、立ち上がり、襲撃者の位置を確認し、走る。
 襲撃者は、木々の背後に――ちょうど、YOSSYとの直線上に木を置くように、隠れる。
 やむなく、YOSSYは、木を避けるため方向を変える。
 が、今度は木を避けきった同時に、弧月がYOSSYに襲いかかる。

「どわったったっ!」

 その弧月を避けるために、また再び襲撃者との距離が開く。
 追撃はこない。
 ――なぜなら、襲撃者には、その必要がないからだ。

(野郎っ!宣言どおり、時間稼ぎをしてやがるっ)

 戦いが始まった時点からこのような攻防の繰り返しだった。
 敵に近づこうとすれば、引き離される。その繰り返し。
 しかも、じりじりと、泉からは遠ざかされている。

(だが、離れようとすると――)

 意を決め、YOSSYは襲撃者に背を向け走り出す。
 と、同時に、

「――っ!」

 音無き裂帛の気合と錫丈を振るう音。
 その音と同時に、錫丈から、幾重もの弧月が生み出される。
 ブーメランのような軌跡を描く弧月達は、森の中を縦横無尽に飛び回り、逃げようと
するYOSSYの行く手を塞ぎ、背後に迫る。

「ぬおわっ!」

 避けようとして、無理やり体の向きを変えたため、またも足もとの感覚がなくなる。
 それでも、なんとか倒れるようにして、弧月をかわし切り、木の陰に隠れる。
 森の中の湿った柔らかい土は、泥濘、すべり、彼の持ち前のスピードをそいでいた。
 全速力で走ろうとすればすべり、すばやく左右に、方向を変えようとしても同じだ。
 それは、まるで氷上をスケート靴なしで歩いてるかのような感覚。
 仕方なく、速度を押さえて走るが、それでは森の中を飛ぶ弧月に追いつかれる。

「てめぇっ!いいかげんしつこいぞっ!」
「…………」

 苛立ち、叫ぶものの、襲撃者からの返事はない。

「くそっ!だんまりかよっ!」

 YOSSYは、体中についた泥を振り払い、再び走り出した。



 獲物から、近づきすぎず、離れすぎず。
 皇は、冷静に、相手からの距離を測っていた。

(……彼が聞き及んでたとおりの性格の人物なら、ここまでコケにされて、おとなしく
しているはずは、ない)

 考えながら、弧月を放つ。

(多分、意地でも僕に近づこうとするだろう)

 YOSSYが、かわすのを確認すると、深追いはせず、彼の様子をうかがう。
 そして、わざと、そのYOSSYから見える位置に移動するもの忘れない。

(まあ、いずれにしろ……)

 YOSSYは、自分を見つけ、向かってくる。

(近づけば、何とかなるなんて思ってるとしたら、大間違いですけどね)






『できれば、バイクを先に探してください。多分隠してあると思いますが、泉からそう
遠くにはおいてないはずです』
『見つけてどうするんだ?』
『まあ、それは霜月先輩に任せますが……すぐには動かせないように、するだけでいい
です』
『泉のほうに先にたどり着いた時は?』
『そのときは、そちらの方をなんとかしてください』
『……なんとも、大雑把な作戦だな』
『……柔軟性に富んでる作戦といってくださいよ』



(……とは、いってもな)

 雑草を振り払いながら、霜月は森の中を歩いていた。

「ふみゅ〜ん。祐衣〜。服に、草が引っかかっちゃった〜」
「だああああっ!またかよっ!」
「だって〜」
「だって、じゃねぇっ!」
「ふみゅ〜ん」

(……この状態で、俺に、どうしろと?)



                             ――To Be Continued.