Lメモ「……というのもおこがましいがとりあえず咆えてみる事にする……「がおぅ〜」(笑)」 投稿者:皇 日輪

「追跡……ですか?」
『そうだ』
「……誰を?」
『君に任せる』
「……わかりました」
『だがくれぐれも……」
「……そのことなら……重々承知してます」
『ああ……分かっているならそれでいい。
 では、明日から始めてくれ』
「はい……では……また……」


 ぴぴぃぴぴぃという電子音とともにカードが戻ってくる。
 皇はしばらくそのカードをぼうっと見ていたが、ため息一つをつくとカードを
とって電話ボックスから出ていった。


(さて……どうしましょうか……)
 教室でやけに響くチョークが黒板を叩く音を聞きながら、皇は考えていた。
 任せるといわれたものの、実際、この学園には何人も鬼……エルクゥがいる。
 だが、おそらく……。
(誰か一人に接触をはかれば、数人ついてくることになりますね)
 柏木の四姉妹にはそれぞれの守護者、つまりはエルクゥ同盟が。
 むろん、柏木耕一にも。
 柳川裕也……ジン・シャザムは出てくるだろう。
 もっとも耕一も柳川も皇が一人でどうにかなる相手ではない。
(逆は?……いや……どちらにしろ同じか)
 勝てる見込みのない戦いをする必要はない。
 無駄な挑発はかえって手の内を見せるだけでこのさきにとって何の得にもなら
ない。
 皇はただ今は、見ているだけでいいのだ。
(だったら……追跡しやすい、動きがわかりやすい……)
 柏木初音か柏木楓……がいいだろうか?
 ……警戒しなければいけないのは、ゆきと西山英志……。
 正直な話、いざというとき相手にするならば西山よりもゆきのほうがいい。
 少なくとも、手元の資料を見る限りではゆきには特に注意すべき点は見あたら
ないのだ。
(……彼女で決まりですか)
 気がつくといつの間にか授業は終わっていた。
 皇は机の上のものを片づけると、教室を出た。


 最初にその鬼達が隆山に降り立ったのが約500年前。
 そして、最初の戦いがあってから500年。
 500年……それだけの時間をかけて鬼を追い続け……。
 人が代わり、人々が住む場所の光景も変わり。
 やっと、その喉元まで追いつくことができた。
 あとは、喉元に喰らいつく機会を待つだけ。
 この待つ時間は、500年追い続けた時間に比べれば。
 ……なんと短いことであろう。


 最近奇妙な視線を感じる。
 柏木初音は姉たちと耕一にそうもらした。
「またまた……初音にちょっかいだそうとしている奴でもいるんじゃないの?」
 梓は笑いながらそういうと、夕食の焼き魚をちょいちょいっと箸でつまみ口に
入れた。
「初音はかわいいから。……気をつけなければだめよ?」
「うん……わかってるよ」
 気遣う千鶴に初音は少し微笑んだ。
「姉さん達にはあんまり縁のない話よね……」
 すでに夕食を食べ終え、食後のお茶を飲んでいた楓がつぶやいた。
「ま……まあ、見ているだけなら大丈夫じゃないかな?」
 姉妹の間に走った一瞬の凍り付いた気配をうち消すため耕一は初音に言った。
「いざとなったら、俺が何とかするし。他にも……そうだな、ゆき君とかにも頼
んでみてもいいんじゃないかな? 変な視線を感じるから……って」
「うん……」
 ちらちらと緊迫した状況になっている姉たちを見ながら初音は返事を返す。
「でも、そういうのじゃないの……まるで見張られているみたいな……そういう
感じがするの」
「見張られてる?」
 聞き返した耕一に初音は頷く。
「……春でもないのに変質者かしら?」
 その言葉を聞いて千鶴は首を傾げた。
「おいおいおい、ますます危ないじゃないか」
 変質者と言う言葉に嫌悪感を覚えたのか、梓はその身を軽くふるわせた
 実際問題、女性にとってそういう変質者とは下手な犯罪者よりもたちが悪いも
のなのだ。
 女性とあれば無差別、場所も時間も選ばずただ単に迫ってくる。
 目的と言えば女性をいやがらせることとかそういうことだけ。
 まあ、結局、理解しがたい訳の分からないものは相手にしたくないのは女性で
あろうと男性であろうと一緒なのだが。
「……そういえば……私も一昨日くらいにそういう視線を感じたわ」
「楓お姉ちゃんもなの?」
 驚いている初音に短く頷くと楓は続けて言った。
「私はその日一日だけだったけど……同じ人かしら?」
「同じ人間だとしたら……いったいなにを……」
 梓がそういうのを聞いてと事態は重いと判断したのか千鶴が言った。
「とにかく、さっき耕一さんが言っていたとおりにしてみた方がいいようですね」


 翌日。
 皇は柏木初音を追跡調査するために足早に教室を出ていった。
 ……と廊下に出たときに初音に鉢合わせしそうになったので、慌てて教室に戻
った。
 教室の入り口のドアに寄りかかり様子をうかがう。
 脇を通っている生徒がいぶかしげにこちらを見ているが、鼻歌でも歌ってなん
とか誤魔化そうとする。
(やっぱりこういうのは苦手だ……)
 生徒をやり過ごしたのを確認するとよそを見る振りをしながら廊下の初音の方
を見た。
 初音は廊下で誰かと話している。
(……あれは……ゆき?)
 初音が話している相手はゆきだった。
 何を話しているのかはここからは聞こえない。
(もう気取られたのか?……それともただの世間話か?)
 皇がそういうことを考えていると話が終わったのかゆきと初音は別々の方向に
歩いていった。
(そういうわけじゃなさそうだな……)
 皇はそう判断すると初音の後を追っていった。




 ……来てる?
 うん……来てるよ。


(普段どおり……ですね)
 皇は前を行く初音を追いかける。
 ここ何日か、柏木初音を追っているが、別に特別変わったことはない。
(得られるものがないのならば……人を変えた方がいいんだろうか?)


 あともうすこし……。


「なっ……」
 角を曲がると急に初音がいなくなっていた。
 慌てて周りを見渡す。


「とったああああっ!」
「っ?!」
 背後からきた鋭い蹴りをもろに食らいそのまま、皇は蹴り飛ばされる。
 蹴り飛ばされ皇はそのまま、地面に落ちる。
「柏木をつけまわそうやなんて、ええ根性しとるやないか、変質者っ!」
 ……夢幻来夢は倒れている皇に言い放った。


「……ありゃ?」
 言い放ったものの皇はぴくりとも動かない。
「おーい」
 近づいてつついてみるものをやはり、動かない。
「完全にのびとる……あっけないな〜」
 なぜか残念なような、あきれたような笑いを浮かべ来夢はこの先どうするかを
考えた。
「…………………………………二度と動けんよーに止め刺そか……」
「刺すなっ!」
 初音をつれて戻ってきたゆきが来夢に突っ込んだ。
 仕掛けは簡単である。
 ここの角は右と左に分かれているがすこし初音に走ってもらって右へ。
 あらかじめ、そこで待っていたゆきが左に……ちょうど皇が追ってきて見えるタ
イミングで歩いていき、すぐに民家の軒先に隠れたのだ。
 勘違いした皇はゆきを追って左に。
 こうして初音の安全を確保し、あとから追ってきていた来夢が背後から皇を蹴り
飛ばしたのだ。
「そないゆうてもな。こういう輩は、一匹見つけたら二十匹はいるってな」
「そりゃ、ゴキブリだよ……」
「うーん……そしたら、どないしようか?」
 皇をちらりと見た後、来夢は初音の方を見た。
 まかせる……と言う意味らしい。
「あの……あんまり手荒なことはしない方がいいと思うの」
「くぅ〜、柏木はやさしいな〜、感謝せいよ、変質者……」
「とか、いいながら蹴ってる蹴ってる」
 結局、皇は気絶したまま警察に引き渡されることになった。
 目を覚ました皇は必死に弁解をしていたが通じず。
 一晩、警官から長い説教を食らうことになったのだった。
 ……最後まで変質者扱いで。

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