シャッフルL「彼の名はハシモト」 投稿者:T-star-reverse


 でけでけでー、でけでけでー、でけでけでけでけでけ。

「ぅゅっ!」

 でけでけでー、でけでけでー、でけでけでけでけでけ。

「ぁぅっ!」

 てけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけ……。

「ぃぇぃっ!」

 電子的な音の残滓を残しつつ、室内にかりそめの静寂が訪れる。
 だが、すぐにそれは別の音に取って代わられる。

 きゅいんきゅいんきゅいーん。

「ぉぅっ☆」

 きゅーんきゅーん、きゅーんきゅーん、きゅるるんるるるん。

「ゃぅっ☆」

 きゅぴぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ。

「ぃぇぃっ☆ ぃぇぃっ☆ ぃぇぃぇぃぇぃぇぃぇぃぇぃぇっ☆」

 すっかりノリノリのその声を後目に、電子音はまたすぐに沈黙する。
 声の主がきょろきょろと周囲を見回すと、場に似つかわしくない音が
突然部屋の隅から響いてきた。

 ばんばんばんっ!

「……ぁぅ」

 どんどんどんっ!

「……ゃぅ」

 どごんっ! どごんっ!

「…………」

 ノれない。
 室内にいるその人物は、だんだん激しくなる音からすぐに興味を無くし、
部屋の反対の隅……音のしない方にある物に目をとめた。

「……♪」

 スキップをしながらそれに近づく。そこそこの大きさの箱である。
 『!DANGER!』と赤で大きく記されているのは当然気にも止めない。
 蓋を開けると、色とりどりの団子のようなものがぎっしりと詰まっていた。
 一つ手に取り、ぽいと床に放ってみる。

 ぽんっ☆

「♪」

 破裂した。その音と様子が気に入ったのか、次々と色違いの珠を放る。

 ぽんっ☆ ぽんっ☆ ぽぽぽんっ☆

「ぃぇぃっ♪」

 ぽぽんっ☆ ぽんぽんっ☆ ぽっぽんっ☆

「ぃぇぃぃぇぃっ♪」

 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……☆

「ぃぇぃぃぇぃぃぇぃぃぇぃぃぇぃぃぇぃぃぇぃぃぇぃぃぇぃぃぇぃ……♪」

 最後の方は、箱ごと持ち上げてぶちまけた。
 ひとつひとつは小さな爆発。しかし。
 塵も積もれば山となる。

 ごがぁんっ!!

 それとほぼ同時に、先程から響いていた音が途切れると共に、かつて
扉の形をしていたものが砕け散り、その破片を室内に飛び散らせた。

「てめぇ、このクソガキ! 勝手に部室占拠しやがって何のつもりだ……」

 そう言いながら、室内に彼が踏み込んだ瞬間。

 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ
 ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぱぽ……

 連鎖爆発。かすかに青く見える光は重力に心を引かれた証だろうか?
 熱と衝撃を伴った白光が視界を灼き、クラブ棟の一角を吹き飛ばした。
「こ、この中にワラギリ者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「……ぃぇぃっ♪」
 そして、人影は光の中に消えた。

 ……ジン・ジャザム享年十八歳。
 墓碑は「熱血ヘビーメタルここに眠る」
 辞世の句は以下の通り。

 千鶴さん
   ああ千鶴さん
       千鶴さん
          それにつけても
               飯のまずさよ

「出鱈目抜かすなぁぁぁぁぁぁぁっ! オレは消えてねえぇぇぇぇぇっ!
 だから手招きしないでくれマイご先祖様ぁぁぁぁぁっ!!」

 軽度の錯乱状態に陥ったジンはともかくとして、もう一人。
 ここ……かつて科学部部室であった部屋を占拠していた人物……水野響は、
なぜかすでに来栖川警備保障で摘まれていた。

「――へーのきさん、こんなものを拾ってきました」
 Dセリオに襟首を猫のように摘まれ、へーのきの眼前にぶら下げられる響。
「はじめましてです☆」
「……捨ててきなさい」
 摘まれた状況をまったく気にせずに深々と頭を下げる響。
 服装は素敵にヘビメタ風味だ。
 それに対し、頭を抱える以前の問題に即答するへーのき。
 ……というか、なんでDセリオは人なんかを拾ってくるんだ。
 釈然としないものを感じつつ、へーのきは出入り口を指さすしかなかった。



シャッフルL「彼の名はハシモト」



 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。

 ……俺? 俺は――橋本だ。

 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。 
 お前は誰だ……。

 俺は橋本だ。
 それ以上でも、それ以下でもない。

 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。

 だから俺は……橋……。

 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。

 お、俺は……?
 橋本……じゃ、ないのか?

 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。
 お前は誰だ……。

 う……。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 目が覚める。
 嫌な夢を見ていたせいか、学生服の下は汗だくだ。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ」
 嫌な感覚に胸を押さえつつ、俺――橋本は息を整えた。
 そう、俺は橋本。……名前はまだない。
 ここは……保健室か。
 女の子でもひっかけようと、クラブ棟を彷徨っていた所から記憶がない。
 この学園のことだ、また何かあったに決まっているな。
 俺がそんなことを考えつつベッドを下りたとき。
「お届け物でーす!」

 ごがっ。

 丁度下りた部分の床板が跳ね上がり、俺の身体を跳ね飛ばした。
 同時に聞こえた声の「す」の部分にかぶるように、俺は天井に激突した。

「……大丈夫ですか?」
「……いや、かなりやばい。ってゆーか抜いて。お願い」
「わかりましたー」

 床板を跳ね飛ばしたヤツは、そう言って俺を天井から引っぱり出した。
 ……あまり、見ない顔だ。
 服装は……そう、ペンギン便とかいう運送会社の制服だな。
 そういや、お届け物って言ってたよな。
「……で、お届け物って? 俺に?」
「はい。橋本様ですよね?」
 ……だな。
 すくなくとも、この学園で橋本と言えば俺のことだ。
 俺が頷くと、運送屋は俺に小包を手渡した。
「お届け物です。受け取りにサインお願いします」
 ……ふむ。
 その手を見て、俺はその運送屋が女性であることを確認した。
 見ればなかなかの美形である。ボーイッシュな感じがなかなか良い。
 俺は受け取りにサインしつつ、自慢のナンパテクを発動させた。
「ところで、君の名前はなんていうの?」
「へっ?」
 運送屋は驚いたような顔をして、俺の顔を怪訝に見返す。
 だが、一見突拍子もない質問も、マイ頭脳にかかればごく自然になる。
「こんなやばい学園に届け物に来れるんだし。どうせ専任だろ?
それなら一応、名前くらい覚えておいた方がいいかなと思ってさ」
 ……うむ、実に説得力のある理由づけだ。
 運送屋も、なるほどと言った顔をして頷く。
「それもそうですね……。私は風見鈴香です。よろしくお願いします」
 帽子のつばを直しながら自己紹介をする鈴香さん。
 ……俺より年上っぽいが、まあそれほど離れてもいないだろう。
「風見……鈴香さんかぁ……風見……かざ……?」
 俺の脳裏に一瞬、目つきの凶悪な一年坊主の姿が浮かぶ。
 だが、俺はぶんぶんと頭を振ってその姿を打ち消す。……偶然だ、偶然。
 そして、ここからが俺の本領発揮。デートのお誘いを……。
「それで鈴香さんは、これから時間有る? 良かったら、お茶でも……」
「いえ、仕事がありますから」
「じゃあ、仕事が終わったら……」
「仕事がありますから」
「いや、終わったら……」
「仕事ですから」
「……ちょっとでも……」
「仕事ですから」
「…………」
「仕事ですから」
 爆死。ミッションアンコンプリート。
 ……プロだ、この女。
 呆然とする俺を後目に、鈴香さんは床下に潜っていく。
 俺は、最後の力で笑みを保ちつつ、勇気を持って訊いてみた。
「……なんで、床下?」
「運送屋って、近道とか抜け道とか、知ってるものなんですよ?」
「……いや、それって道路の話じゃ……?」
「仕事ですから」
 その言葉を聞くと、もう何も聞く気が起きなくなる。
 そんな俺を後目に、彼女は何処へともなく去っていった。
 ……なんとなく、よっしーの奴にもこの無力感を味わせたくなった。


「それにしても……俺に小包? なんだろーな、一体」
 俺は小包を抱えつつ、廊下を歩いていた。
 保健室で開けてもよかったのだが、そこが第一保健室だと解ったので
俺は慌ててその場を立ち去ったのだ。
 ……千鶴先生が留守で助かったぜ。
 心の中で冷や汗を拭いつつ、俺は自分の教室に戻ってくる。
 教室の中には人影もまばらで、俺に注意を向けるヤツはいなかった。
 窓が割れていて、教卓の上で猫娘が丸いモノで遊んでるのが見えた。
「おら〜、転がるにゃ、転がるにゃ、ついでにマタタビよこせにゃ〜!」
「あうあうっ、見逃してください〜、うちには腹をすかせたひび猫が〜」
「…………」
 とりあえず無視して、俺は小包の梱包を解いてみることにした。
 余り大きくないとはいえ小包は小包、このまま持って帰るのもおっくうだ。
 中から出てきたのはプラスチック製のケース。中は見えない。
 おっと、差出人を見るのを忘れていたな……。
 と、伝票を見ようとしたその時である。
「にゃはははははははははっ、それそれそれそれにゃ〜っ!」
「あ〜れ〜、おやめください御代官猫様です〜」
 丸いモノをサッカーボールの如く転がしながら駆け抜ける猫娘が、
俺の机の上に置いてあったケースをかすめ取っていきやがったのだ。
 教室を出るところでぴたりと止まり、俺の方を見てにやりと笑う猫娘。
「油断大敵にゃ。返して欲しくば鮎塩よこすにゃ〜!」
 ふっ。
 そう鼻で笑って、教室を飛び出していく猫娘。
 おのれっ!
 猫娘の分際でっ!
 人様のモノに手を出すとはふてえ猫娘だ!
 俺は慌てて廊下に飛び出した。

 ……ことん。

 何故か、音がした。
 音がした方を見ると、ケースが落ちていた。
 だが、猫娘の姿は見えない。
 ……どういうことだ?
 中身だけ持っていきやがったのか?
 ……それにしちゃ様子がおかしい。
 俺は、ゆっくりとケースに近づいた。
 そして、蓋の半分空いているそのプラスチックケースを拾い上げる。
「……なんなんだ?」
 俺は、おそるおそる蓋を完全に開けてみた。
 ……中には、紙切れが一枚。


 −ふりだしにもどる−


「……どーいうことだ?」
 俺が首を傾げると、俺のすぐ近くにある火災報知器の扉が思い切り開いた。

 ずべしっ!

「……こんなとこに居たんですか。保健室には何故かたまさんがいましたし。
橋本さんですよね? 小包です……あれ、どうしたんですか?」
 鈴香さんが何か激しく歪んだことを言っているのを訊いて……。

 俺は、これが悪い夢であることを強く願うのだった。



<おわらない?(笑)>



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 ……と、T-star-reverseがお届けしましたシャッフルL。
 お題は「橋本」「ヘヴィメタル」「どんでんがえし」ですね……。

 ……とゆーか、ヘビメタの知識もあまりない上に、お題でどんでん返しを
強制されるというのは天の邪鬼に構えるのには実に不都合で(笑)
 まあ、お題の遵守もそこそこに書き上げてみましたが、どーでしょう?

 ちなみに、謎のプラスチックケースの差出人は決めてません。
 とゆーか、パラドックスとかよく解らないモノをイメージして書きました。
 みずのんは歪んだ時空間によく似合うと痛感しました……(笑)

 では、シャッフルL、書き手として楽しませて貰いました。
 あとは読み手として楽しませてもらうことにします。

 次回も、あれば参加したいですねー。
 では、失礼しましたー。