Lファンタジア2・第5話「うつろう光の探索者」 投稿者:T-star-reverse

 かぽ、かぽ、かぽ、かぽ……。

 僕達は今、馬車で旅をしていた。
 何故かというと、商人beakerの護衛のため。
 なんでも、品物を手に入れたので早めに商談に向かいたいと。
「んー、やっぱ、こうやって馬車でのんびりできるのっていいわねー」
 僕の向かいに座っている理奈ちゃんが、進行方向の景色を眺めつつ言う。
 長閑な街道はきちんと整備されており、揺れはほとんどなく快適。
 beakerが用意した果物のジュースを飲みながら、僕は退屈していた。
「それで、これから向かう『ぶれーど』ってどんな国?」
 今更ながら、僕は理奈ちゃんに訊いてみた。
 理奈ちゃんは、ふ菓子を食べながらんー、と言った感じで答える。
「そーね。『刀(ぶれーど)』って言うのは伊達じゃないわ。
 ぶれーど、にーどる、ふぉうりっじ、くれいんぎや、らいすりばーの、
通称『五大都市』の中でもダントツの軍事力を誇ってる国よ」
「はぁ……」
 軍事国家……か。
 中身の無くなったジュースの容器を屑籠に投げ入れつつ、視線を移す。
 すでに、その城影が肉眼でもはっきりと見て取れる距離まで来ていた。
 だが近づくにつれ、だんだんと不安が僕の心中に忍び寄って来る。
 なんだろう、この不安は?
 特に不安になるようなこと、あったっけ?

 ……?

 いや、なんか違う、なんか違うぞ。
 意識がぼやけ、視界がだんだん狭くなってくる。
 あー、眠くなってるんだ……と思った次の瞬間。


 僕は、眠りに落ちていた。



Lファンタジア2・第5話「うつろう光の探索者」



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 ――がばっ。

 「叶」風に場面転換を表現したところで、僕は飛び起きた。
 冷たい石の床に寝かされていたようで、背中の節々が若干痛む。
 僕に掛けられていた毛布が、ぱさりと足下に落ちた。

 まず目に飛び込んできたのは、闇。
 眩しくないのは幸いだが、これでは状況もよく解らない。
 それから、若干の肌寒さを感じた。
 湿っぽい空気からして、あまり居心地のいい場所ではない。
 そして視界の端に飛び込んできた、わずかな光源。
 顔を向けると、篝火の光が見て取れた。
 ……金属製の格子越しに。
「って、牢屋ぁぁぁぁぁっ!?」
 思わず叫んだ声が、地下特有の反響を残して響いていく。
 幸いというか残念なことにと言うか、特に人が来る様子はない。
「……待てよ、落ち着け、落ち着くんだぞ風見ひなた」
 僕は自己暗示をかけるように独り言を呟く。
「まず僕はぶれーどの国に向かっていた……これは間違いない……そして、
気が付けば牢屋の中……一緒にいたはずの理奈ちゃんもbeakerたちもいない」
 そこまで一気に呟いてから、ぴたりと言葉を止める。
 ついでに、いつの間にか独房内を歩き回っていた足も停止させた。
 さして、叫ぶ。
「落ち着いて考えてもちっともわからねぇーっ!!」
 ……と、パニクった所でいつぞや聞いた覚えのある言葉を思い出す。


 ――隣国「ぶれーど」の王子で――


 この言葉は誰から聞いたんだっけ……そうだ、アレイだ。
 あの、ディアルトそっくりの男がいた山小屋跡で聞いた……はず。
 そーすると、何か?
 僕は、自分の国に帰ってきたわけか。

 そこまで考えて、僕はさらに合点が行かなくなった。
「……なんで自分の国に帰ってきて、いきなり牢屋なんだ?」
 さらなる疑問に思索を巡らせようと、僕が腰を下ろしかけた瞬間である。
「……そこにいるのは、勇者……風見ひなたさんではありませんか?」
 不意に声をかけられた。
 だが、目に入るのは暗闇ばかり。
 声はすれども姿は見えず。
 そもそも、何だってこんな所にまで自分の素性を知ってる奴がいるんだ。
 ……これはあれだ、幻聴、幻聴だな。
 最近、なにかと訳の分からないことばかりで疲れてるんだ。そうだ。決定。
 そーいうわけで、僕はその声を無視することに決めた。
 
「……ひなたさん?」

 まだ幻聴はしつこく続く。
 なかなかしぶとい幻聴だ。

「おーい、ひなたさんってば。聞こえてますかー?」

 うるさい幻聴だ。
 無視無視。とっとと寝てしまおう。

「…………」

 幻聴は、諦めたようにぴたりと止んだ。
 いや、むしろ何かを考えるかのような沈黙だろうか。
 ……幻聴がものを考えるか?
 僕がそんな感じで未だ半分ほどぼやけた頭を起動させようとした瞬間だ。
 その声が、聞こえた。
 しかも耳元で。



「エルクゥユウヤ♪」

 

 ……次の瞬間、僕は全身の力を限界まで覚醒させて跳ね起き、懐から無数の
暗器を取り出し、かすかに見えたおぼろな影に向け全力攻撃を仕掛けていた。
 ……さらに次の瞬間、僕は心に浮かんだ負の感情を力に変えて拳に乗せて、
対象を破壊するための純粋な力をそのままの形で身体に染み込んだ無数の技に
上乗せして繰り出していた。
 ……さらにさらに次の瞬間、僕はふと気がついた。
 僕の右手で、誰かがびくびくと痙攣している。
 その姿はまるでボロ雑巾のように痛々しい。
 少なくとも、先程僕が攻撃対象に想定していた名を呼ぶことすらおぞましい
化物と同一のものではないという事が理解できた。
 僕はとりあえず、心に浮かんだことを素直に言ってみた。

「……ひどいな。誰がこんな事を!?」
「お前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 僕のすなおなきもちに、その人物は思いっきりツッコんできた。



 萩島千尋。
 職業、怪盗。
 彼女無し歴○○年。

 その牢獄の中、僕と差し向かいに座っている男。
 それが彼だ。
 彼が口を開く。
「……まあ」
 まだ身体の節々が痛むらしく、顔を歪ませながら喋る。
「確かに、私が悪かったですよ……」
「わかればよろしい」
 その後の舌戦の結果、結局僕の無罪は確定した。
 完全なる勝利である。
 ビバ僕、グレイト僕、アイアムパーフェクト僕っ!
 内心で、多少誇張(というか、目的語の重複)のかかった感嘆の声を上げ、
僕は大仰に頷いて見せた。
 それはともかく、彼は真剣な表情になって僕を見据えた。
「では改めて……勇者風見ひなたさんですね?」
「一応」
「ここが何処だかは、おわかりになりますか?」
「どっかの牢屋。たぶんぶれーど」
「その通り。ここはぶれーど国王城地下牢獄の一つです」
「……やっぱり」
「私はふぉうりっじで、あなたをくれいんぎやまで連れていく、という
依頼を受け、ようやくここまで辿り着きました」
「ふーん……それで、理奈ちゃんは何処にいるかわかるかな?」
「彼女は……緒方英二公爵が確保したようです」
「げ……」
 うぅ、なんてことだ。
 自分はこうして囚われの身。
 そして理奈ちゃんもまた変態兄貴の手に落ちてしまうとは。
 ……せめて、意識があれば逃げるくらいは出来たものを……。

「……ん?」

 待て。
 さっきここで目を覚ます前、僕はどこにいた?
 記憶が途切れてるのは……beakerの馬車。

 記憶を整理する。

 結論はすぐに出た。

「……beakerーっ!! 僕を売りましたねぇぇっ!!」

 やられた。
 迂闊だった。
 やはり、手配はあちこちに回っていたのだ。


「おのれちくしょうふざけやがってあーもうっ!!」
 僕は頭をひとしきりかきむしると、怪盗とやらの方を向いた。
「それで……迎えに来た、って言ってたね」
「ええ」
「それじゃ、まずはここから出してもらおうかな?」
「了解しました」
 そう言うと、萩島は懐から針金を取り出した。
 そのまま鉄格子へと近づいていく。

 ふむ、さすが怪盗。あれ一本で牢獄の鍵を開けるつもりか……。
 と、僕がそんなことを考えていると。

「ちぇすとっ!!」

 びゅんっ!! びゅんっ!!

 ガランガランガランガランガラン!!
 
 ……針金一本で鉄格子を切り裂きやがった。
「貴様それでも怪盗かっ!?」
 期待を裏切られた当然の権利として、僕は怪盗モドキの襟首をひっつかんで
前後左右にがくがくと振り回してみた。

 がくがくがくがく。

「やややめめめめててててててととととめめててててー」
 止める前にスピードを落とす。

 がく! がく! がく! がく!

「ひなたさんひなたさんやめてくださいもっとちゃんと」
 リクエストに応えてちゃんと振り回す。

 がくがくがくがく。

「やややややややめめめめめめてててててー」
 繰り返し、そしてエンドレス。飽きるまで続けよう。

 がく! がく! がく! がく!


「止めろといったら止めんかい」

 すてん。
 ……こけた。

 突然背後から足を引っかけられたような感触がし、僕の身体が地に伏せる。
「まったく……こんなアホがホンマに勇者やっちゅうんかい」
「アホとはなんですか……随分なご挨拶ですねぇ」
 僕はその体勢のまま、その声の主を見上げる。
 口調からして大体の予想はつく。
 暗がりながらもよく分かる栗色の髪、わずかな光が反射する丸眼鏡。
 そして美加香に負けぬ劣らぬ大平原の小さなむ……!?

 げしっ!!

「ほー、大平原の小さなむ……なんや? 言うてみい」
「もがー、もがもがもがっ!?」
 靴先を口の中にねじ込まれた。
 ……容赦なさすぎだ、あんた。

「げほ、げほ、まったく……この辺の性格はこっちでも変化なしですか」
「こっちで、っちゅうのはなんやねん」
 起きあがった僕に、怪訝な目を向けてくるのは言わずと知れた猪名川由宇。
 軽戦士の装備と見せかけて、腰にハリセンを下げているのがいかにもだ。
「だいたい、何処から湧き出てきたんですかっ!?」
「萩島くんが開けた格子のトコからに決まっとるやんか」
「ちなみに、この話の執筆開始はこみパ発売前で」
「「五月蝿い」」
 いらんことを言いかける怪盗モドキにダブルで正拳を叩き込み、僕たちは
勝手に話を進めてみる。
「それで……あなたも「くれいんぎや」の使者というわけですか」
「せや。なんだか急ぎの用らしいで、ちゃっちゃと来たってんか」
「嫌だと言ったら?」
「ぼてくりこかして簀巻きにして引きずってく」
 冗談で言った言葉に、唇の端をつり上げて答える由宇。
 ……この人に、ボケはともかくシャレは通じそうにない。

 仕方なく僕は、両手を上げてため息をついて、ついでに右足を振り上げた。


 どすっ!!


「☆□%●!$?#▽×!◆?★&○¥!」
 背後に忍び寄っていた『敵』に、蹴りがまともに入る。
「敵やね」
「ですね」
「……こっちです」
 僕らは悶絶して倒れているそいつを放っておいたまま、牢の外へ出る。
 そして萩島の先導で、そのまま迷宮のような地下牢獄を辿ってゆく。


「この地下迷宮は、全ての国の地下で網の目のように繋がっていましてね」
 萩島の解説が、暗闇の中に響く。
 もう、数時間ほど歩いているだろうか。
 正確な時間は解らないが、ともすれば何日も歩いているような錯覚に陥る。
「しかも、場所によっては時間とか時空とか、そういう歪みまであります」
 ……それは、危険じゃないのか?
 ただついて歩きながらも、そういうツッコミが頭の中を駆けめぐる。
「僕たちがここを通って来れたのは……第四王女の案内のおかげです、ほら」
 言われてずっと前を見れば、ほのかな光がゆらゆらと浮かんでいた。
 柔らかな黄色で、ともすれば消えてしまいそうな儚さがある。
「……初音ちゃん、か」
「ええ」
 ぽつりと呟く。すぐに肯定の意が返ってくる。
 若干拍子抜けしたが、まあそのくらいは一般常識なのだろう。

「そろそろやな」
 らしくなく黙りこくっていた由宇が、ぼそりと口を開く。
 僕たち三人が足を止めると同時に、先行する光も静止する。
「そろそろって?」
「しっ、黙っとき」
 ひっぱたかれるように(いや、実際ひっぱたかれて)言葉を制止されて、
僕は渋々口をつぐみ、そして自然と耳を澄ます。


「……ぁぁ……」


何か聞こえた。


「……ぁぁぁぁあああああ……」


どんどん大きくなっている。


「あああああああああああああああああああああああっ!!!」


 ちゅどむ。


 絶叫と共に、前方に浮かんでいた光に向けてダイビングする人影一つ。
 倒れる。伸びる。ぐてりとする。
 そのまましばらく動かない。

「触ってみていいかな?」
「やめとき、アホがうつるで」

 と、そんなやりとりを聞いたか聞かずか。
「……だぁ〜れがアホよ、温泉パンダっ!!」
 突然、目の前でぐてっていた存在が跳ね起きた。
 たった今の台詞からわかるように、大馬鹿、もとい大庭詠美だ。
 ああ、触らなくて良かった。

「……ちょっとあんた、今しつれーなこと考えたでしょ?」
「さて、なんのことやら」
 触らぬ馬鹿にさわりなし、言うわけでとぼける。
 そしてすぐ由宇とにらみ合う詠美を後目に、萩島がつ、と前に出る。
「こっちですこっちです……はい二人目のご到着」
 そして現れたのが、なんと変態兄貴に捕まったはずの理奈ちゃん。
 こっちを向いて、開口一番。
「あら、びっくり」
「それはこっちの台詞です」
 「くれいんぎや」の使者は、同時に数カ所から人を呼んでいるらしい。
 とりあえず僕と理奈ちゃんは、これからのことを短く打ち合わせた。
「人心地ついたら、beakerを滅殺しようか」
「その意見、とっても同意ね」
 あっさりと意見の一致を見る。提案成功率は100%だ。

「……それで、これからどうするんです?」
「ちょい待ちいな。もう一人来るから」
 ……え?
「ちょっと待って、私たちの他に誰がいるっていうの?」
「ええからええから……ほら、噂をすればなんとやらや」
 耳を澄ます。声が聞こえる。

「……おまたせしました〜」

 そう言って光の下に姿を見せたのは南さん。おそらく彼女も使者の一人。
 とすると、その頭上に存在するあの一人が、目的の人物。
「うきゅ♪」


「……まぢですか?」
「マジです」


 そう言いつつにこやかに南さん。
 その頭上で、ころころと喉を鳴らしている小型生命体。
 ……いやさ、一応人間ではあるが……。

「水野響ですー。はじめましてー♪」

 ……なんか、前途は多難っぽい。

 わずかな灯りだけの暗闇の中。

 どうしてもそう思ってしまう僕であった。


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二年の眠りを破り、再び降臨した勇者ひなたん!(……ごめんなさい:笑)

とゆーか、今までのストーリーを覚えている人はいるのだろうか?

「くれいんぎや」の国で待ち受ける運命とは?

前回の次回予告は気にしないでくれるとありがたいです(笑)

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ひなた
LV 10
HP 311/438
MP 41/94

理奈
LV 9
HP 141/147
MP 186/194

響
LV 1
HP 3/3
MP 1/1