『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』第二話 〜Scorpio Flowers〜 投稿者:T-star-reverse

 ……間もなく開幕から一時間が経過しようとする頃。
 彼女は、愛車に腰掛けつつカタログチェックなどをしていた。
 チェックされているのはバイク系のモデラーサークルがほとんどだ。
「えっと……あー、今回はあそこのモデル出ないのかぁ」
 深紅のボディに重厚感が溢れ、その筋の人なら目を見張る逸品。
 どこぞの骨董屋が「いい仕事してますねぇ」と言うことは間違いなし。
 そんな二輪車と一緒に彼女、風見鈴香はこの学園にいた。


『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』
 第二話 〜Scorpio Flowers〜


「……さて、そろそろ時間だね」
 本来なら学外の人間であるはずの鈴香。
 果たして彼女はどのような理由でこの酔狂な企画に巻き込まれたのか。


 そう、それはどよコン〆切当日。

「ちわーっ、真心運ぶペンギン便でーす! お届けものに上がりましたー!」
 いつもの表情、いつもの声で。
 セールスドライバーたるもの、いついかなる場所にでも真心を運ぶ。
 そんな彼女の今回の届け先こそ、今回のコンテストのエントリー受付に
相違なかったのである。
「あーはい、ハンコですね」
「ええ、お願いします」
 ごそごそとポーチを探るが、どうやら携帯してはいないようだ。
 お届け先の女性が、隣で休憩していた別の女性に声を掛ける。
「いづみごめん、あたしハンコ取ってくるから受付おねがい」
「うん、わかった。早く戻ってきてね?」
 ダッシュでその場を離れるお届け先の女性。
 代わりに其処に来たいづみと呼ばれた彼女が、鈴香に話しかけてくる。
「あの、お名前は?」
「え……風見鈴香ですけど」
「学年と所属部活動その他をお願いします」
「えーと……学年とかはないけど、一応運送会社勤務かな」
「はい、ありがとうございました」
 と、そこまで話し終わったところでお届け先の女性が戻ってくる。
「ただいま! さんきゅーいづみ。……んで、はい、ハンコ」
「……、……はい、確かに。それではこれどうぞー」


 今思えば、あの時にエントリー者と間違われたのだろう。
 先日突然学校から彼女の職場に大会要項が届けられたりした。
 彼女に覚えはなかったけど、社長は面白がって「参加しろ」と言った。
 まあ、彼女はこの学校の専任のようになってるから、問題ないのだろうが。
「さてと……いくよ、相棒」
 既に激戦開始の時は近い。
 相棒の心臓に火を入れて、じわじわ、そして一気に加熱させる。
 部外者の彼女に基本的に味方はいない。
 以前運送のアルバイトで知り合ったルミラは敵としてエントリーしている。
 弟か姉かと大騒ぎした風見ひなたも、味方に付いてくれるかは妖しい。
 だから。
「とりあえず、走り回ろっか」
 燃料は満タン、特注のマシンは何万キロだろうが平然と駆けてくれる。
 階段だろうが壁だろうが、とにかく走れる。
「やるからには、勝たなきゃね」
 緋色の機体が、ぶるる、と大きく震える。
 鼓動と震動が、たちまちシンクロする。
 そして。

 彼女は、飛び出した。

 愛車のハーレーと共に。

 何故か、学園指定の制服で。



「……始まった……みたいね」
「姉さん……」
 骨董屋『五月雨堂』。
 リーフ学園敷地内に店舗を構えるその屋根の上に、スフィー(Lv1)と
リアンが座りながら校舎の方の喧噪を眺めていた。
 とりあえず、彼女たち、もといスフィーを狙う影はまだ現れない。
 しかし、油断するわけにはいかなかった。
「いいリアン、最大の難敵はあの巨人よ!」
「はいっ!」
「あいつに見つかったらまず逃げる! それから矛先をなんとか逸らす!」
「はいっ!」
 ちなみに、彼女たちの言う巨人とは、ロリコン番長平坂蛮次である。
 屋根の上に陣取ったスフィーは、前日までのうちに敵を防ぐ結界を張り、
それによって身体を小さくすることで敵の総数を減らし、守りに入るという
手段を取ることにした。
 それによって、五月雨堂周辺を包む薄いピンクの霧で、しばらくは敵襲を
防ぐことができるだろう。
 ……しかし。
「この結界は、もうあんまり長く保たない上に、流れ弾でも飛んできたら、
一発で弾けちゃうもんね……その瞬間に、ここを離れられるようにしないと」
「うん」
 グエンディーナ第一王女スフィー。
 初等科・中等科・高等科全てに潜り込む女(今回は初等科だ)。

 そんな彼女の跳ねた髪が、きらりと赤く光ったように見えた。



「ふーっ……はぁーっ!」
 跳ね上げた一撃を、そのまま落下させて襲撃者を打ちのめす。
 隆雨ひづきは、早くも戦闘に巻き込まれた自分の運の悪さに舌打ちした。
「悠さんっ! 昌兄っ! 切り開いて!」
「任せろ!」
「たああっ!」
 散発的に押し寄せる襲撃者を、悠朔と佐藤昌斗の二人が蹴散らしていく。
 そして開いた道を、巫女服でテコンドーというシュールなひづきが抜ける。
 ようやっと敵を振り切ったところで、三人は一息ついた。
「はぁ、はぁ……はーっ、いきなり疲れちゃ不利じゃないのよぉ!」
「……やはり、数で押されると、守る方は、きつい……」
「二人、だけって、所が……絶望、だよな……」
 息切れする三人。
 だが今度は逆に少人数が幸いし、他の参加者から身を隠すことが出来る。
「一長一短か」
「だね」
 頷き交わす男二人を後目に、収まらないのは女王様ひづきである。
 計ったように自分が狙われたことで、ずいぶんと立腹しているようだ。
「あーもう、きっとあいつら貧乳年増の差し金よ、貧乳年増の!」
 普通の人間ではとてもじゃなくても言えないような台詞を平然と放つ。
 しかし、その推測はあながち間違いではなかったのである。
 先程の敵襲は一般生徒ばかりである。こちらにはSS使いが二人。
 数にまかせるにせよ、いささか無謀気味であったようにも見えた。
 実際、千鶴さんへの盲目愛と血の凍るような恐怖がそれを可能とさせて
いるのだが、そこまでは彼らには解らない。

「あーもう、むかつくっ!!」
 振り上げた足を、踵から思いきり振り下ろす。
 ネリチャギとかネリョチャギとか言われる、テコンドーの技である。
 巫女服の赤い軌跡が、まるで蠍の尾のように閃く。、

 ばきっ!!

 朔と昌斗との丁度中央に、踵大の穴が空く。
 ちなみに、床は金属板である。

「むかついた……体力が回復したら、貧乳年増をこっちから攻めるわよ!」

 絶望が、男二人を包み始めた。



 そしてその頃。
「……早い早い」
「……ありがと」
 鈴香のハーレーは、はるかのシルバーアローと校舎の壁を併走していた。