『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第18話 〜Silent Sight Side〜 投稿者:T-star-reverse


 和風の室内、たたずむ人影。
 いつもの眼鏡に黒帽子、さらにその上に所定の鉢巻。
 ティーことT-star-reverseは、大量に流れ込んでくる情報を整理していた。
「柏木さんが脱落しましたか……来栖川さんは校舎際……と」

 ここは第一茶道部室。
 煎れたてのお茶など飲みつつ、ティーはコンテストの状況を整理していた。
 その目的の一つは、ルール違反者の早期発見並びに抑止力としての存在。
 そしてもう一つは……。
「松原さん、姫川さんは今、美術室の方にいます」
 コンテストの膠着状態を防ぐための、情報源としての役割である。


『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』
 第18話 〜Silent Sight Side〜


「姫川さんは今、美術室の方にいます」
「わかりました」
 耳に届いたその声に頷いて、松原葵は階段をのぼっていく。
 彼女は今回のエントリーヒロインではないが、それでもいち参加者として
このコンテストに積極的に参加するつもりでいた。
 ……とはいえ、格闘部でヒロイン参加の坂下好恵とは別行動。
 彼女は、大勢の有志の格闘部員たちが護衛している。
 当初はヒロインと思われていた来栖川綾香の方はヒロインを降りるという。
 何故かと聞いても、曖昧な笑みを浮かべるだけで答えてはくれなかった。

 ――芹香先輩と、争いたくなかったのかも。

 そう思いつつ、階段をまた一段登る。
 葵は、彼女を必要としてくれる友人のために、戦うつもりでいた。


「まずは、これでよし」
 あらかじめ頼まれていた情報を葵に伝え、ティーは再び意識を集中する。
 すでに戦端が開かれてから結構な時間が過ぎている。
 定番の構成を組むパーティーもあれば、思わぬ編成を組むチームもあった。
「さてと。もしもし長岡さん、現在の脱落者は…………交戦状況は……」
 情報を集めながら、ある程度まとめて連絡をする。
 その立場が戦況をどれだけ左右するか、彼はそれをよく理解していた。
 だからこそ彼は、第一回目の報道用情報をここでまとめて送付する。
 いつまでもここに留まっているなら、ティーが参加者である理由はない。
 状況を激変させ、その隙間を縫って移動するつもりなのだ。


「あー、あー、テステス、あー、愛という名の情熱よ〜♪ っと、よしよし」
 マイクは好調、ノドも良好。
 長岡志保は、戦艦冬月のブリッジ(しかも艦長席)でマイクを握っていた。
 その傍らにはシッポが立ち、その更に隣ではさめざめと涙する冬月俊範。
「うっうっう、まさか本気で制圧されるなんて……」
「まあ、泣くなよ。それでも15話分は耐えたんだから」
 そんな男達など視野にも入れず、志保は我が物顔で指令を下す。
「外部マイク、スイッチオン!! 丁度連絡も入ったし、状況報告よん!」
「了解しました」
 与えられた仕事を淡々とこなす綾波優喜。
 状況の変化には、女性の方が適応しやすいと言うのは確かかもしれない。

 そして、学校の敷地内に志保の声が朗々と響きわたった。


「は〜い☆ みんなのお耳のアイドル、報道のクイーン・オブ・クイーン、
放送部の長岡志保ちゃんから、みんなに最新の情報をお届けするわよ〜ん!
 まず、現在の脱落状況から報告するわね。

 2年・来栖川綾香選手、戦闘開始直後に棄権!
 今は姉の来栖川芹香選手の護衛に回って移動中らしいわね。

 3年・大馬鹿……もとい、大庭詠美選手! 猪名川由宇の奇襲で失格!
 なんか秘密兵器みたいのがあったらしいんだけど、使えなきゃ無駄よね。
 今は、憂さ晴らしだかなんだかで、アタッカーとして校内を回ってるわ。

 2年・宮内レミィ選手、柏木楓選手に襲撃をかけ西山英志に返り討ち!
 一緒になって襲撃を掛けたXY-MENが、さっき戦艦冬月に直撃したわ。
 そのまま落ちていったけど……おかげで、ここの制圧が出来たからOKね。

 教師・小出由美子選手、なんか自爆らしいわ。
 その場から立ち去った一台のスポーツカーが怪しいと志保ちゃんは思うわ。

 2年・柏木楓選手、食堂で風見鈴香選手の奇襲で失格!
 まさかまさかの優勝候補の脱落。どうもよっしーの“ひっかけ”があって
守護者西山が一時的に離れてたのが原因らしいわね。
 襲撃側の風見鈴香選手、怒りの西山から辛くも離脱、そのまま逃走中ね。
 一応言っておくけど、あくまで安全地帯はトイレとか事前に決めた場所よ。
 それを忘れて文句言われても困る……って、これは開催側からの連絡ね。

 最後にサラ・フリート選手、一般格闘部員に押し寄せられてリタイア!
 一度は坂下好恵選手と一騎打ちに持ち込んだものの、新城沙織選手の乱入が
勝負の行方を動かしたみたい。


 さあ次、現在進行形の戦闘を紹介するわ!

 まずはド迫力の一戦! 柏木耕一vs柳川祐也、リズエルの一角で激戦中!
 巻き込まれるのが怖くないなら、見に行っても損はないわよっ!

 来栖川芹香選手と悠綾芽選手を護衛中の一行を、生物部の蟲が襲撃中!
 主犯格は葛田玖逗夜と猪名川由宇! 役得見学に行くなら今がチャンス!

 マルチとセリオ、野球拳で延々と決戦中! 既にギャラリー超満員!
 こちらも美味しい目を見たい奴らはダッシュで急げぇ!

 更に、工作部では保科智子の脱衣をかけたクイズ大会が開かれてるわ。
 オツムに自信のある人は、チャレンジしてみてもいいんじゃないかしら?


 ……さて、今回の戦時放送はこんなところね。
 それじゃ、みんな頑張ってねー!」



 …………。

 志保の放送が終わる頃、美術室には葵を加えて護衛が詰めていた。
「……やはり、戦力があるから安心というわけにはいきませんね」
「とはいっても、いつまでもここに閉じこもってるわけにも行かないだろう」
 神凪遼刃とOLHが、喧々囂々と議論を戦わせる。
 そんな二人を見て、葵と琴音が顔を見合わせる。
「ひょっとして、ずっとこんな感じだったんですか?」
「はい……実はそうなんです」
 ため息をつく琴音。ぽかんとする葵。
 ……そして少し時間が過ぎる。

 とんとん。
 
 美術室のドアがノックされたのは、その時だ。
 一同に一瞬で緊張が走り、葵が油断無く構えつつ返事をする。
 当然、OLHと神凪遼刃は援護の用意だ。
「おにいちゃん、ここにいる?」

 その声がした瞬間、OLHが亜光速で美術室の扉を開けていた。
「笛音ーーーっ!!」
「うわ、当たってたよ。すごいすごいてぃーくん」
「えへへ」
 そこには、てぃーくんの手を取って驚き喜ぶ笛音の姿。
 一瞬で硬直し、そしてすぐに正気を取り戻し、てぃーくんに全力攻撃を
叩き込もうとするOLHの今必殺のダーク・ウィンドが……。
「やめろ、うつけが」
「ぐはぁっ!?」
 胸に衝撃を受けて吹き飛ぶOLH。
 ごろごろと転がり、遼刃に激突してようやく停止する。
「……な、なんだぁ?」
 ぼやくOLHの目の前に、そびえ立つ黒い岩山。
 そしてその影に、小さな影がたくさんいっぱい大勢、ちょろちょろと。
「妹を巻き込むような攻撃を、使わせるわけにはいかないのでな」
「おにいちゃん、怒っちゃめーよ?」「あー、なんかびっくりしたー」
「助けにきたぞー!」「がんばるもん!」「まかせなさーいっ!」
「負けないもんねっ!」「えっと……がんばろ……」「お手伝いします」
 笛音を筆頭に、来るわ来るわのお子様オールスターズ。
 そして最後に一人、お子様チームよりぴょこんと頭一つ分飛び出した姿。
「こんにちは、立川郁美です。姫川琴音さんの味方をしに来ました!」
 ピンクの髪のその少女が、お子様を率いて来た将なのであった。


「……!!」
 びくり、と身を震わせて、スフィーが突然立ち上がる。
 そして手をすっと前にかざし、大声で叫んだ。
「まじかるさんだーっ!!」

 ばりばりばりっ、バキーン!!

 手から迸った電光が、スフィー自身が張った結界を打ち砕く。
「姉さん!?」
「……しまった……」
 悔しそうに唇を噛み、拳を握るスフィー。
「この辺りのマナの濃度がどんどん上がってる……このままだと私の身体が
どんどん大きくなっちゃって、そのうち服が破けちゃうわ」
「そんな……身体が大きくなったら、水着の方だって!」
 慌てるリアン。
 スフィーはきっと遠くを睨み、リアンに伝える。
「なんとか、このマナの増加を防ぐのよ……どこかに原因の魔法陣とか、
そーゆーのがあるはずだから、急いで見つけないと!」
「は、はいっ!!」
 そうして、五月雨堂の屋根から同時に飛び立つ二人。
 魔力の満ちたこの場で、彼女らが自在に空を飛ぶことは難しくはなかった。


「――」
「――」
「――」
「……」
「……」
「ドヨコンデス、ドヨコンデス」
 半ば、沈黙。
 Dセリオ。
 Dマルチ。
 Dガーネット。
 へーのき=つかさ。
 森川由綺。
 戦闘力、作戦構築力共に最強クラスを誇る来栖川警備保障チーム。
 彼らは、ただぼうっと敵が来るのを待ち受けていた。
 いた……のだが。

 ……いまだに、誰一人として来ないのはどういうわけだろう。
 いや、解っている、解っているのだ。
 少なくともへーのきには、その理由が痛いほどよく理解できていた。
「……誰も……来ないなぁ……」
「――そうですねぇ」
 そうなのだ。
 何処の何方がどうまかり間違っても、Dボックスを攻めるような物好きは、
リーフ学園といえどほぼ壊滅的に存在しなかったと言うことである。
 しかも、その護衛は先程も言ったとおりに超強力。
 このまま行けば、ほぼ最後まで残ってしまうのではないかという状況だ。
「――人が、来ませんね」
「――デスネ」
 DマルチとDガーネットが首を傾げる。
 内心で溜息をついていたへーのきは、次の言葉で一瞬気を失いかけた。
「――Dボックスさんほどの美人に、どうして誰も挑まないのでしょう?」
「――不思議デス」

 ……がん。ごん。

 今の音は、へーのきと由綺が相次いで床に顔面を打ちつけた音である。
「――確かに、不可解ですね」
「――そうですよね?」
「――私モソウ思イマス」
「――クイーンデス、クイーンデス」

 ああ、そうか。
 メイドロボの美的感覚ってそうなのか。

 そんなコトを考えつつ。
 へーのきは夢の世界に離脱しようと、瞳を閉じるのであった。